所 属 (ふりがな) くろき まさひで 医学部・生化学 黒木 政秀 氏 名 (学部・学科) 研究分野 URL 腫瘍免疫 http://www.med.fukuoka-u.ac.jp/biochem1/index-j.htm 研究概要 悪性腫瘍(癌)の診断法や治療法にはそれぞれ多くの方法があり,それらは単独であるい は組み合わせによって実施される.しかし,どの方法も絶対的ではなく,ある一つの方法で 目標とする癌の確定診断を下すことは一般的に難しく,また早期発見などの場合を除いて, 一つの手段で癌の完全治癒を達成することもできない場合が多い.我々は,これらの問題を 改善するために,腫瘍組織で比較的大量に発現・産生される腫瘍関連抗原( CEA,MK1,TSP-1 など)を標的とし,それに対する抗体および抗体遺伝子を利用して,癌に対する各 種の診断法や治療法の癌特異性を高める努力を続けている. キーワード 腫瘍関連抗原,免疫診断,免疫療法,遺伝子療法,CEA,MK-1,17-1A,TSP-1 現在の研究テーマ 1 腫瘍関連抗原を標的にした癌の免疫診断法の確立 【研究の目的】 癌(悪性腫瘍)に対する生化学的ないし画像診断法の精度の向上 【研究の詳細】 腫瘍関連抗原を癌の診断に利用する場合,腫瘍マーカーと呼ぶ.多くの場合,これらの腫 瘍マーカーに対するモノクローナル抗体で検出される.われわれは,とくに生化学的診断法 と画像診断法の精度の向上に取り組んでいる. 1)生化学的診断法 この場合,標的とする腫瘍関連抗原はしばしば腫瘍マーカーと呼ばれる.血液やその他の 体液の濃度測定を通じて,癌の確定診断における補助指標として,また各種治療後の経過観 察の指標として広く利用されている.われわれは新しい腫瘍マーカー MK-1 (=17-1A)の測定 キットの開発をすすめている.また,腫瘍マーカーは最近では癌の遺伝子診断にも利用され ており,とくに RT-PCR による CEA や MK-1 遺伝子の検出に基づく微小転移癌の検索などを進 めている. 2)画像診断法 CEA や MK-1 (17-1A) に対するヒトモノクローナル抗体を作製し,副作用の少ない免疫シ ンチグラフィーによる癌の早期診断法の開発も進めている. 【応用分野】 癌の免疫診断 現在の研究テーマ 2 腫瘍関連抗原を標的にした癌の免疫療法および遺伝子療法の確立 【研究の目的】 癌に対する免疫療法および遺伝子治療法の癌特異性の向上,すなわち癌だけに効果的で副 作用が少ない治療法の確立 【研究の詳細】 癌の免疫療法を考える場合,癌細胞上に標的となる抗原分子が存在することが大前提であ るその場合,標的分子の存在様式として2つの形態が考えられる.一つは,癌細胞自身が細 胞内で抗原ペプチドを処理して HLA 分子上に捕捉提示している分子であり,細胞傷害性 T 細 胞(CTL)によって認識される分子である.もう一つは,癌細胞がその膜表面上に直接発現 しているいわゆる腫瘍関連抗原で,HLA 分子の発現とは無関係であり,通常抗体によって認 識される分子である.これは前記した腫瘍マーカーとして,癌の診断にもしばしば利用され る.前者を標的とする免疫療法は,癌ワクチンをはじめとして活性化 CTL の誘導を目指して いる.しかし,癌症例ではしばしば HLA 分子の発現が抑制されており,いかに強力な CTL が 誘導できても,癌組織では多くの場合抗原ペプチドを提示できないという致命的な問題点が 残されている.このような観点から,我々はやはり抗体が認識する癌細胞表面上の腫瘍関連 抗原である CEA や 17-1A に注目し,それらに対する抗体や抗体遺伝子を利用した癌の免疫療 法および遺伝子療法の確立をめざしている. 1)免疫療法 抗体自身の応用:人体にとって副作用の少ないヒト抗 CEA あるいは抗 MK-1 抗体による免 疫療法を目指している.抗体を利用する場合,単独で投与する場合と薬剤を結合した複合体 を使う場合がある.複合体を使う方法としては,抗癌剤や毒素を結合する化学療法やラジオ アイソトープを利用する放射線療法が一般的であるが,我々は,光感受性製剤/超音波感受 性製剤と抗体を結合して癌組織に集積させたあと,光線や超音波をあてて癌細胞を殺す試み にも成功している. 抗体融合タンパクの応用:抗体と BRM との抗体融合タンパクも研究されている.我々は, 抗体/IL-2 融合タンパクを作製し,その抗腫瘍効果を証明している.また,スーパー抗原の 一つであるブドウ球菌腸管毒 (SEA) との融合である抗体/SEA 融合タンパクも開発し,大き なT細胞レパートリーを HLA 非拘束性に癌細胞に集積する方法として注目されている. 2)遺伝子療法 直接療法における抗体の応用:直接療法とは,その産物が一次的あるいは二次的に癌細胞 を傷害することができる遺伝子を,直接癌細胞に導入する方法である.使われる遺伝子には, 自殺遺伝子と呼ばれる遺伝子や癌抑制遺伝子などがある.癌細胞ないし癌組織への遺伝子導 入には,通常レトロベクターなどのウイルスベクターが用いられるが,その場合の大きな問 題点は,癌細胞だけに遺伝子を導入することができないということである.その癌特異性を 高める方法として,ウイルスベクターの本来の向性 tropism を修飾する方法がある.レトロ ベクターの場合,遺伝子工学的にエンベロープ・タンパクに腫瘍マーカーに対する抗体の scFv を組込み,癌細胞特異的に自殺遺伝子などを効率よく導入する方法である.我々は,抗 体の scFv をレトロベクターの表面に組込み,自殺遺伝子の一つである iNOS 遺伝子を癌細胞 に特異的に導入して傷害することを証明している. 間接療法における抗体の応用:間接療法とは,生体の免疫機能を賦活できる物質の遺伝子 を種々の細胞に導入し,抗腫瘍免疫能を亢進させて間接的に腫瘍を傷害する方法である.遺 伝子を導入する細胞は,大きく分けて免疫細胞と癌細胞に分けられる.免疫細胞では,CTL や樹状細胞などが主流である.使われる遺伝子は,サイトカインや腫瘍マーカー,あるいは 共刺激分子や組織適合性抗原などの遺伝子である.これら間接療法の一般的な問題点は,い くら免疫機能を高めても,前述したように最終的な標的である腫瘍細胞で HLA 分子の発現低 下があり癌ペプチドの提示ができない場合がしばしばあること, また遺伝子導入した CTL が目的の癌組織に期待したほどには戻らないことである.これらの問題を解決するために, やはり腫瘍関連抗原そのものを標的とし,抗体分子で CTL を確実に癌組織に集積させる方法 が考えられている.すなわち,抗体の scFv を膜結合型にして免疫細胞に発現させる方法で ある.我々も,抗体の scFv と CD3 分子の一部を遺伝子レベルで結合したキメラレセプター をT細胞に発現させ,癌細胞の周囲に効率よく集積することを証明しており,今後,有力な 遺伝子療法として期待される. 【応用分野】 癌の免疫療法,癌の遺伝子療法 技術相談・コンサルティングに応じられる分野 癌の免疫診断,癌の免疫療法,癌の遺伝子療法 共同研究可能なテーマ 癌の免疫診断,癌の免疫療法,癌の遺伝子療法 利用可能な研究装置・資料等 DNAシーケンサ,プロテインシーケンサ,高機能分離用超遠心機,DNA 自動分離装置, イメージプロセッサ,全自動細胞解析装置,フルオロ・イメージングアナライザー,生体分 子相互作用解析装置,UV サンプル撮影装置,分光光度計,マイクロプレート用自動蛍光測定 装置,PCR サーマルサイクラー,エレクトロポレーションシステム,密閉式超音波細胞破砕 装置,超音波遺伝子導入装置,タンパク質精製装置,液晶プロジェクターなど
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