2014.12.22(月) VOL.4 島根県立隠岐高等学校 進路指導部 T H E 進路 N E W S . 隠岐の島の未来と隠岐高校の役目 進路指導主事 1 青山 顕紹 近年の社会状況と大学等入試について 2008 年にアメリカ合衆国の投資銀行である「リーマン・ブラザーズ」が破綻したことに端を発 して、続発的に世界的金融危機が発生した事象、いわゆる『リーマンショック』により、世界あ るいは日本全体が不況に喘ぐ中、大学入試の傾向も大きく様変わりした。 近年の傾向は、以下の通りである: 安全志向(浪人を避け、安全な出願が増える) 資格志向(医療系、福祉系、教育系、理工系など資格取得や就職に 直結する学部志望者が増える) 地元志向(自宅から通える大学等への志望者が増える) 2012 年入試、つまりリーマンショック以後最初の入試では、私立大学等に比べて、比較的学費の 安い『国公立大志向』が鮮明に表れたが、定員割れが続く私立大学も「特待生制度」や「奨学金 制度」を充実させ、今年の傾向では、一部の私立大学で、その様な制度を前面に押し出して志望 者を集め始める傾向が見られ始めた。 2 隠岐の島町の現状について 現在の隠岐の島町が抱える問題は、主に以下の通りである: 高齢化 少子化 人口減少・流出 後継者不足 産業の衰退 上記問題は、それぞれがリンクし、加速度的に進行しつつある。 隠岐の島町の H26 年 12 月 1 日現在の人口は、15,017 人であり、これは、島根県内では、19 市町 村中、江津市に次いで第 9 位(町村中 1 位)と比較的大きい町である。しかし、わずか 50 年前ま では、人口が 2 万 5 千人を超えていたことを考えると、かなりの速さで人口減少が進んでいると 言える。さらに、島内の高齢化率(65 歳以上の人の割合)は約 36%、これは世界で最も高齢化が 進んでいる日本(高齢化率約 25%)の中でも、さらに「超高齢化」が進んだ地域である。加えて、 新生児の出生数は、2008 年以降は毎年 100 人前後で推移しており、この数は年々減る傾向にある。 「 (死亡数)-(出生数) 」は約「200」つまり、このままの状況では、1 年間に 200 人ずつ人口減 少が進むことになる。ある試算では、2040 年の隠岐の島町の人口は約 9000 人、高齢化率約 50%という 予測もされている。高齢化が進めば、今以上に医療や福祉への負担が増え、加えて少子化による人口減 少で後継者不足や産業の衰退がさらに進むことになる。果たして 50 年後、隠岐の島は人々が安心して 暮らせる島であり続けられるのだろうか? 3 島の未来と隠岐高校の役目について 隠岐の島町の抱える問題を解決するために欠かせないのが「若者人口の増加」である。しかし、若者 人口を増やすためには、そこに「雇用」がなければならない。近年、隠岐の島町内企業の高卒求人は堅 調を保っているが、大卒求人は極めて少ない。よって、大学等に進学した生徒たちが隠岐に帰りたいと 思っても、なかなか帰ることができない状況がある。そのような状況の中、大卒者でも比較的隠岐の島 に帰りやすく、また安定した収入も得ることができる職種がある。それが、医師・看護師・薬剤師など の「医療系」である。さらに、医療系の進学をする者に限り、隠岐広域連合や県の充実した「奨学金制 度」が利用できる。この奨学金は、隠岐病院などで一定期間働けば返還が免除されるという点で、日本 学生支援機構などの奨学金とは大きく異なる。それらをうまく活用すれば、学費を最小限に抑えること ができ、将来は隠岐に帰り、未来を支えることもできる。 もちろん、医療系進学者だけを地元に返せば良いという問題ではない。地域を支えるためには、医療 だけでなく、福祉(介護および保育) ・教育・行政・経済など様々な分野で「人財」 「若い力」が必要と なる。ただ、少子高齢化は、すごいスピードで進行しており、待ったなしの状況であることを考えると、 まず「できるところから、すぐにやる」必要がある。 近年「医療系」は、隠岐高生の進路希望の中で最も希望が多い系統となりつつある。これは、全国的 な流れでもある。その状況を受けて、現在、隠岐高校は、隠岐広域連合と連携して様々なキャリア学習 を行っている。また、医療系の大学等に進学する生徒を集めて、現役看護師や医師による面接指導など も行われている。更に、県内の看護師養成機関の 1 つである「島根県立大・看護学部」とも連携し、将 来の島根の地域医療を支える人材をいかにして育てるのか?という共通のテーマを共有しながら、本校 のキャリア学習(進路ガイダンス、CC 見聞録)に協力してもらったり、入試制度、特に「隠岐特別枠」 の定員見直しなどを申し入れたり、入学後の生徒たちの様子を定期的に連絡し合ったりしている。 隠岐高校は、「人財」育成で地域に貢献できると考えている。そのためには、保護者は元より、小中 学校および隠岐の島町や隠岐広域連合、地元企業など地域社会との連携が不可欠である。そういった協 力を得ながら、本校進路指導に関し、「隠岐あるいは島根の未来を担う人財をしっかりと育て、送り出 し、そして帰ってきてもらう」ことを大きな柱と位置付け、今後も医療系を含む様々な進学や就職に対 応したいと考えている。 「50 年後の未来」とは、今の高校生の子供たちの未来であるとも言える。その未来を変える土台作りは、 我々大人がやるべき事だが、それを担っていくのは、今の小中高生たちであり、やがては小中高生たち の子供たちがその未来を受け継ぐことになる。50 年後の未来が、安心して手渡せる未来であるよう願い、 今はその「担い手たち」を隠岐高校として全力でサポートするだけである。 (教育未来研究会そうぞう 村上 育朗 氏のことば) 我々の前にいるのは、生徒・子どもではなく、 『未来』である
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