8-12 地質環境の長期変動を考慮して安全性を評価する

バックエンド対策及び再処理技術に係る研究開発
8 - 12 地質環境の長期変動を考慮して安全性を評価する
-地層処分の安全評価における隆起侵食の影響評価技術の検討-
処分場閉鎖時
閉鎖後の任意の時間
標高
■平均標高の変化
■起伏の変化
■処分深度の減少
起伏
(高度分散量)
隆起侵食速度
下流部:0.1 mm/年
中流部:0.5 mm/年
上流部:1.0 mm/年
平均標高
酸化帯の範囲
侵食
処分場の位置
1.0E+04
頻度
1.0E+03
*
300 µSv/年
隆起
処分場の位置
図 8-29 隆起侵食に伴う起伏の時間変化を考慮した処分
場の状態設定
隆起侵食とそれに伴う起伏の時間変化を既往の地形発達モ
デルを用いて定量化することにより、 処分場が地表付近に
到達する時期や地表に到達する廃棄体の数などのパラメー
タを時間の関数として評価することが可能になりました。
線量
健岩部
■影響を受ける廃棄体数
■地質環境条件とそれらの時間変化・深度
依存性(e.g.水理特性,地球化学特性など)
1.0E+02
1.0E+01
(µSv/年)
1.0E+00
1.0E-01
1.0E-02
-11.0
-10.5
-10.0
-9.5
-9.0
-8.5
-8.0
-7.5
-7.0
透水量係数分布の対数平均値
(log
(m2/s)
)
【中流部】
平均的な隆起侵食速度
不均一侵食
*
斜
我が国では地層処分に対する線量基準が決まっていないため,ここではICRP
Publication81で示されている放射線防護基準の目安値(300 µSv/年)
を参照した
退
面
後
後
退
侵食幅
50∼100 m
面
斜
下方侵食
側方侵食
側方侵食
【下流部】
比較的遅い隆起侵食速度
面的侵食
【上流部】
比較的速い隆起侵食速度
線的侵食
(V字型侵食)
斜面
斜面
侵食幅 § 2000 m
側方侵食
谷の深さ
100∼700 m
側方侵食
下方侵食
図 8-31 隆起侵食による処分場の地表到達を想定した影響
評価結果
様々な地質環境条件を考慮するために透水量係数を変化させ、
処分場に起因する人間への影響を評価しました。この結果、万
が一処分場が地表へ接近する場合でも、ICRP で示されている
放射線防護基準の目安値を下回ることが示されました。
谷の幅
200∼1200 m
図 8-30 河川の流域区分に応じた侵食形態の概念モデル
我が国は変動帯に位置しているため、高レベル放射性廃
棄物の地層処分では、長期にわたり安定な地質環境を選
定することが不可欠です。このため局所的かつ突発的な地
質環境の変動
(断層や火山活動)
が想定される地域は綿密
な調査により回避されますが、我が国の幅広い地域で確
認されている緩慢な現象
(気候変動や隆起侵食)
の影響に
ついては、サイト選定で回避することが難しいため、その
影響をあらかじめ評価しておくことが重要です。このうち、
隆起侵食については、数 10 万年を超える継続性を考慮
すると、地下 300 m 以深に建設される処分施設と人間
の生活圏との離間距離が徐々に短縮し、極端な想定の帰
結として処分場が地表に接近することが考えられます。こ
のため本研究では、隆起侵食の長期的な影響を考慮して
地層処分の安全性を評価するための技術を開発しました。
従来は、
隆起速度と侵食速度が等しいとの仮定のもと、
処分場が一定の速度で地表に接近し、地表に到達した時
点で処分場全体が平面的に一様に削剥されるという簡易
な仮定に基づく評価が行われていました。
しかしながら、
現実的には、隆起速度と侵食速度が異なるケースが多数
存在していることから、 これらを考慮したモデルを開
発し、評価に必要なパラメータを時間の関数として系統
的に設定できる手法を開発しました
(図 8-29)
。
さらに、
処分場が地表に接近した際の評価技術として、
我が国の主要な侵食プロセスである河川侵食に着目し、
地形学の研究等に基づいて河川侵食の形態や隆起侵食速
度との関係などを流域区分ごとに整理しモデル化しまし
た
(図 8-30)
。これにより、 従来のモデルに比べ、侵食
形態や処分場の地表到達までの時間を現象に則して評価
する事が可能となりました。本技術を用いて、遠い将来
に隆起侵食により処分場が地表に到達し、 侵食により処
分場が削剥され放射性核種が人間環境に放出されるとい
う想定のもと、廃棄物に起因する人間への影響を評価し
ました。この結果、隆起侵食速度の速い河川上流部では
侵食量(処分場を削剥する量)が少ないため、 人間環境
への放射性物質の放出量が少ないこと、一方幅広い領域
が一様に侵食される下流部では、 処分場の削剥量が多
くなるものの、隆起侵食速度が遅いため処分場の地表到
達までの時間が長く、その間に多くの核種が崩壊するこ
と、 更に中流部では地表到達の時期も削剥量も上述の 2
ケースの設定を超えないことから、いずれのケースにお
いても、国際放射線防護委員会
(ICRP)
で示されている
放射線防護基準の目安値を下回りました
(図 8-31)
。
●参考文献
Wakasugi, K. et al., Bounding Analysis of Uplift and Erosion Scenario for an HLW Repository, Proceedings of 21st International
Conference on Nuclear Engineering (ICONE 21), Chengdu, China, 2013, ICONE21-16724, 9p., in DVD-ROM.
原子力機構の研究開発成果 2014
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