38 第 3 章 東部における選挙 佐藤 創 本章では,東部主要 5 州(アッサム

第 3章
東部における選挙
佐藤
創
本 章 で は , 東 部 主 要 5 州 (ア ッ サ ム , 西 ベ ン ガ ル , ジ ャ ー ル カ ン ド , オ デ ィ シ ャ , チ ャ
ッ テ ィ ー ス ガ ル )と 北 東 諸 州 (ア ル ナ ー チ ャ ル ・ プ ラ デ ー シ ュ , ナ ガ ラ ン ド , メ ガ ラ ヤ , マ
ニ プ ル ,ミ ゾ ラ ム ,ト リ プ ラ ,シ ッ キ ム )の 選 挙 の 概 要 と 結 果 を 簡 単 に ま と め る 。本 章 の 対
象 と す る 州 の 連 邦 下 院 議 席 数 は , 西 ベ ン ガ ル の 42 議 席 が ひ と き わ 多 く , 次 い で オ デ ィ シ
ャ が 21 議 席 で あ り ,ア ッ サ ム と ジ ャ ー ル カ ン ド が そ れ ぞ れ 14 議 席 ,チ ャ ッ テ ィ ー ス ガ ル
が 11 議 席 , 北 東 諸 州 の 合 計 が 11 議 席 と な っ て お り , 合 計 で 113 議 席 で あ る 。
こ の う ち 今 回 の 選 挙 で は , イ ン ド 人 民 党 (BJP)が 前 回 2009 年 の 23 議 席 か ら 10 議 席 増
や し て 33 議 席 , 国 民 会 議 派 (会 議 派 )は 2009 年 の 27 議 席 か ら 14 議 席 減 ら し て 13 議 席 と
い う 結 果 と な っ た 。ま た ,BJP と 会 議 派 い ず れ と も 選 挙 協 力 を し な か っ た 地 域 政 党 が 躍 進
し た 州 も あ り , オ デ ィ シ ャ で は ビ ジ ュ ー ・ ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル が 20 議 席 (前 回 2009 年 選 挙
よ り 6 議 席 増 加 ), 西 ベ ン ガ ル で は 全 イ ン ド 草 の 根 会 議 派 (AITC)が 34 議 席 (15 議 席 増 加 )
を得ている。
表3.1 東部主要5州の基礎情報
一人当たり
一人当たり
SDP年平均成
指定カースト
指定部族
SDP(2013年
都市人口比率
識字率
人口(人)
長率(2004年
(SCs)比率
(STs)比率
度)
(%)
(%)
度から2013年
(%)
(%)
(ルピー)
度)(%)
男性(%) 女性(%)
77.8
66.3
アッサム
31,205,576
24,533
4.3
14.1
7.2
12.4
72.2
81.7
70.5
西ベンガル
91,276,115
37,511
5.8
31.9
23.5
5.8
76.3
76.8
55.4
ジャールカンド
32,988,134
30,091
5.5
24.0
12.1
26.2
66.4
81.6
64.0
オディシャ
41,974,218
25,891
4.3
16.7
17.1
22.8
72.9
80.3
60.2
チャッティースガル
25,545,198
28,708
5.0
23.2
12.8
30.6
70.3
80.9
64.6
全インド・全インド平均
1,210,569,573
39,961
5.8
31.2
16.6
8.6
73.0
(出所) GOI(Government of India) (2013) Census of India 2011, Primary Census Abstract Data Highlights, India Series 1:GOI,およびGOI,
MOSPI(Ministry of Statistics and Programme Implementation), CSO(Central Statistics Office)のSDPに関するデータ
(http://mospi.nic.in/Mospi_New/site/inner.aspx?status=3&menu_id=82)より作成。
(注) 一人当たりSDPは2004/05固定価格。
38
1.
オディシャ州:ビジュー・ジャナター・ダルの大勝
オ デ ィ シ ャ 州 は ベ ン ガ ル 湾 に 臨 む 東 部 の 沿 岸 地 域 と ,天 然 資 源 に 恵 ま れ た 西 部 の 丘 陵 地
帯 か ら な る 。 2011 年 の セ ン サ ス に よ る と 人 口 は 4197 万 人 で あ り , 識 字 率 は 72.9%, 都 市
人 口 比 率 は 16.7%,指 定 部 族 (STs)の 人 口 比 は 22.8%,指 定 カ ー ス ト (SCs)は 17.1%で あ る (表
3.1) ( 1) 。 全 イ ン ド 平 均 に 対 し て , 都 市 人 口 比 率 が 低 い こ と , STs の 人 口 比 が 高 い こ と が 特
徴 で あ り ,少 数 民 族 は お も に 西 部 の 丘 陵 地 域 に 居 住 し て い る 。な お ,2001 年 の セ ン サ ス で
は , 宗 教 別 の 人 口 構 成 は , ヒ ン ド ゥ ー 教 徒 が 94.4%と 大 多 数 を 占 め , そ の ほ か キ リ ス ト 教
徒 , イ ス ラ ー ム 教 徒 が そ れ ぞ れ 2.4%, 2.1%で あ り , オ リ ヤ ー 語 を 話 す 人 口 が 8 割 を 超 え
て い た 。経 済 的 な 側 面 に 注 目 す る と ,オ デ ィ シ ャ は い ま だ 貧 し い 州 で あ る 。2013 年 度 の 一
人 当 た り 純 州 内 生 産 (Net State Domestic Products : Net SDP)は 2 万 5891 ル ピ ー で あ り ,
全 国 平 均 の 3 万 9961 ル ピ ー の 6 割 強 し か な い 。ま た 2004 年 度 か ら 2013 年 度 ま で の 一 人
当 た り SDP の 年 平 均 成 長 率 は 4.3%で あ り ,こ の 値 も 全 イ ン ド 平 均 の 5.8%を 相 当 程 度 下 回
っている。
オ デ ィ シ ャ 州 の 連 邦 下 院 議 員 定 数 は 21 で あ り , そ の う ち STs, SCs の 留 保 議 席 は そ れ
ぞ れ 5 議 席 , 3 議 席 で あ る 。 1980 年 か ら 1990 年 ま で , 1995 年 か ら 1999 年 ま で 州 政 権 を
担 当 し た 会 議 派 J.B.パ ト ナ イ ク は 国 民 会 議 派 中 央 政 府 と の 強 い 関 係 を 基 礎 に 開 発 を 進 め る
手 法 を と り , 1990 年 か ら 1995 年 ま で 州 政 権 の 座 に あ っ た ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル の ビ ジ ュ ー ・
パ ト ナ イ ク は 州 の 自 立 を 訴 え 支 持 を 得 た 。 ま た , BJP は 1990 年 代 に 入 っ て 西 部 の STs に
徐 々 に 支 持 を 広 げ て い た 。オ デ ィ シ ャ 州 で は こ の 3 党 が 主 た る 政 党 で あ る 。1997 年 に ビ ジ
ュ ー が 死 去 し 危 機 に 陥 っ た ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル は ,BJP と 協 力 し 会 議 派 と 対 決 す る 方 針 を 採
用し,これに反対する中央のジャナター・ダルと手を切って地域政党ビジュー・ジャナタ
ー・ダ ル を 結 成 し た 。2000 年 の 州 選 挙 に ビ ジ ュ ー・ジ ャ ナ タ ー・ダ ル は 勝 利 し ,そ れ 以 来 ,
党首ナヴィーン・パトナイクが州首相を 3 期務めている状況にあった。
ビ ジ ュ ー ・ ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル と BJP の 選 挙 協 力 は 1998 年 か ら 2009 年 ま で 続 い て い た
が ,BJP 系 の ヒ ン ド ゥ ー 主 義 の 団 体 が 深 刻 な 宗 派 暴 動 を 引 き 起 こ し た こ と を 主 た る 要 因 と
し て 2009 年 の 選 挙 前 に 訣 別 し て お り ,2009 年 の 総 選 挙 時 と 同 様 に 今 回 も 主 要 3 党 は 三 つ
巴の選挙戦となった。なおオディシャでは連邦下院と州議会は同時に選挙が行われた。ビ
ジ ュ ー ・ ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル は ,2009 年 以 降 は 中 央 の 会 議 派 率 い る 統 一 進 歩 連 合 (UPA)政 権
に対する批判を強めており,また会議派をはじめとする他党の連邦下院議員および州議会
議員を何人か迎え入れ,勝利は手堅いものと考えていた。それに対して,会議派は州の党
39
組 織 弱 体 化 の 立 て 直 し に 失 敗 し て お り 積 極 的 な 選 挙 を 展 開 で き ず ,BJP は モ デ ィ 人 気 に 依
存した選挙戦であり,とくに投票日直前にはモディ・ウェーヴの広まりにビジュー・ジャ
ナター・ダルも警戒を強めていた。
表3.2 オディシャ州の連邦下院および州議会選挙結果
連邦下院選挙結果(定数21)
有権者数 (人)
投票率 (%)
ビジュー・ジャナター・ダル
BJP
会議派
その他
1999
24,187,490
55.6
議席数 得票率(%)
10
33.0
9
24.6
2
36.9
0
2004
25,651,989
66.1
議席数 得票率(%)
11
30.0
7
19.3
2
40.4
1
2009
27,194,864
65.3
議席数 得票率(%)
14
37.2
0
16.9
6
32.8
1
2014
29,196,041
73.8
議席数 得票率(%)
20
44.1
1
21.5
0
26.0
0
州議会選挙結果(定数147)
2000
2004
2009
2014
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
ビジュー・ジャナター・ダル
68
29.4
61
27.4
103
38.9
117
43.4
BJP
38
18.2
32
17.1
6
15.1
10
18.0
会議派
26
33.8
38
34.8
27
29.1
16
25.7
その他
5
8
5
4
(出所) Election Commission of India ウェブサイトのデータ,吉田(2001;2006a)および上田ほか(2011)を参照して作成。
連 邦 下 院 選 挙 で は 定 数 21 の う ち , ビ ジ ュ ー ・ ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル が 20 議 席 , 得 票 率 で
44.1% と 圧 勝 を お さ め た (表 3.2)。BJP は 得 票 率 を 5% ポ イ ン ト ほ ど 伸 ば し 21.5%,大 臣 経
験 を も つ な ど 経 験 豊 富 な 候 補 者 が 1 議 席 を 得 た 。会 議 派 は 得 票 率 こ そ BJP を 上 回 っ た も の
の (26.0%),1 議 席 も 得 ら れ ず 惨 敗 し た 。同 時 に 行 わ れ た 州 議 会 選 挙 で も ,定 数 147 の う ち ,
ビ ジ ュ ー・ジ ャ ナ タ ー ・ダ ル が 117 議 席 ,会 議 派 が 16 議 席 ,BJP が 10 議 席 を そ れ ぞ れ 獲
得 す る 結 果 と な り ,こ ち ら で も ビ ジ ュ ー ・ ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル が 圧 勝 し ,BJP が 議 席 を 4 つ
積 み 増 し , 会 議 派 が 11 議 席 減 ら し た 。
こ の よ う に オ デ ィ シ ャ で は BJP は 若 干 伸 長 し た も の の , ビ ジ ュ ー ・ ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル
が一党支配を強める結果となり ,ナヴィーンは州首相 4 期目を務めることとなった。州政
権 を 担 い 始 め た 2000 年 か ら 今 回 の 選 挙 に 至 る ま で 経 済 の 発 展 に は 功 績 を 挙 げ た と は 言 い
難 い 状 況 に あ り , 鉱 工 業 開 発 を め ぐ っ て は 対 象 地 域 の 住 民 (STs を 多 く 含 む )の 立 ち 退 き 問
題が社会問題化しているにもかかわらず,ビジュー・ジャナター・ダルが上位カースト層
を含む広い社会階層から支持を受けて勝利した理由としては以下のような要因が考えられ
る。ナヴィーンの清廉なイメージ,経済の後進性に関する不満を中央政府に振り向けてオ
ディシャの自立を訴えるなど会議派の中央政権との対立姿勢を次第に強めていたこと,女
性 お よ び STs, 貧 困 層 へ の 所 得 再 分 配 政 策 に 取 り 組 み , ま た 巧 み に ア ピ ー ル し て き た こ と
などである。ただし,大勝したとはいえビジュー・ジャナター・ダルの州政権は,中央で
40
成 立 し た BJP 政 権 と 今 後 ど の よ う な 関 係 を 築 く の か 苦 慮 す る 可 能 性 が あ る 。
2.
ジ ャ ー ル カ ン ド 州 : BJP が 議 席 を 積 み 増 す
ジ ャ ー ル カ ン ド は 2000 年 に ビ ハ ー ル か ら 分 離 し て 創 設 さ れ た 比 較 的 新 し い 州 で , 北 に
ビ ハ ー ル , 東 に 西 ベ ン ガ ル , 南 に オ デ ィ シ ャ に 接 し た 内 陸 州 で あ る ( 2) 。 鉄 鉱 石 な ど の 天 然
資源が豊富であり,タタ・スチールの本拠地ジャムシェドプルがある。また部族民が多く
暮 ら す 森 林 地 帯 で は ナ ク サ ラ イ ト と 呼 ば れ る 極 左 武 装 集 団 の 活 動 が 活 発 で あ る 。2011 年 の
セ ン サ ス で は ジ ャ ー ル カ ン ド の 人 口 は 3299 万 人 で あ り , そ の う ち SCs は 12.1%, STs は
26.2% ,都 市 人 口 比 率 は 24.0% ,識 字 率 は 66.4%で あ っ た (表 3.1)。STs の 人 口 比 が 高 い こ
と , 識 字 率 が 低 い こ と が 顕 著 で あ る 。 2001 年 の セ ン サ ス で は ム ス リ ム が 13.8% , 4.1%が
ク リ ス チ ャ ン で あ っ た 。 経 済 面 で は , 2013 年 度 の 一 人 当 た り SDP は 3 万 91 ル ピ ー で あ
り ,そ の 2004 年 度 か ら の 平 均 成 長 率 は 5.5%で あ っ た 。成 長 率 は 全 イ ン ド 平 均 と さ ほ ど 変
わ ら な か っ た が , 一 人 当 た り SDP は 全 イ ン ド 平 均 よ り ま だ 低 い 状 況 に あ る 。
ジ ャ ー ル カ ン ド 州 の 連 邦 下 院 議 員 定 数 は 14 で あ り ,そ の う ち SCs の 留 保 議 席 が 1,STs
の 留 保 議 席 が 5 で あ る 。ジ ャ ー ル カ ン ド の 創 設 を 最 終 的 に 推 進 し 実 現 す る こ と に 大 き な 役
割 を 果 た し た 政 党 は BJP で あ っ た 。も と も と は ビ ハ ー ル ,西 ベ ン ガ ル ,オ デ ィ シ ャ ,マ デ
ィヤ・プラデーシュに広がる高原地域をジャールカンド州として独自の州とするという要
求を少数民族が訴えていたが,ビハール州南部の天然資源があり鉱工業の展開している地
域を貧しいビハール北部から切り離す運動が活発となった。これを担ったジャールカンド
解 放 戦 線 (JMM)が 汚 職 問 題 で 1990 年 代 後 半 に 勢 力 を 失 い ,そ の 間 隙 を 埋 め て BJP が 州 議
席 を 徐 々 に 増 や し , さ ら に BJP 率 い る 国 民 民 主 連 合 (NDA)政 府 が 中 央 で 政 権 に つ く と ,
2000 年 に ジ ャ ー ル カ ン ド 州 が ビ ハ ー ル 州 か ら 分 離 し て 成 立 し た 。
し か し ,州 創 設 後 に 州 政 権 を 担 っ た NDA 内 で BJP と ジ ャ ナ タ ー・ダ ル (統 一 派 )(JD(U))
が 対 立 し 選 挙 協 力 が 行 わ れ な か っ た こ と も あ り ,BJP は 2004 年 連 邦 下 院 選 挙 で UPA に 大
敗 し , 以 降 , 2005 年 州 議 会 選 挙 , 2009 年 州 議 会 選 挙 と い ず れ の 政 党 も 安 定 多 数 を 獲 得 で
きなかった。それゆえ,州首相が頻繁に交替して大統領統治になるなどの事態もあった。
実 に , 州 創 設 か ら 13 年 の 間 に 政 権 交 代 が 9 回 , 大 統 領 統 治 が 3 年 あ り , 州 政 府 の 不 安 定
さ を 反 映 し て い る 。 連 邦 下 院 選 挙 に つ い て は 2009 年 時 に は , BJP は JD(U)と 選 挙 協 力 を
行 い 8 議 席 を 獲 得 , 選 挙 協 力 に 失 敗 し た UPA は , JMM が 2, 会 議 派 が 1 議 席 で あ っ た 。
今 回 の 連 邦 下 院 選 挙 時 に は JMM 党 首 シ ブ・ソ レ ン の 息 子 で あ る ヘ マ ン ト・ソ レ ン が JMM,
会 議 派 , 民 族 ジ ャ ナ タ ー ・ ダ ル (RJD)の 連 立 で 州 政 権 を 担 っ て い た 。
41
ジャールカンド州でも電力や鉱業部門で外国直接投資招致の試みが積極的に追及され
てきたものの,土地収奪と強制移住が政治的問題となり,政府や大企業により企画されて
いる開発プロジェクトへの反対運動が盛んである。また,ナクサライトの活動地域でもあ
る 。企 業 誘 致 活 動 の 維 持 促 進 を 視 野 に 入 れ て い る BJP と 会 議 派 は い ず れ も 土 地 収 奪 や 強 制
移 住 の 問 題 は 争 点 化 し な い よ う に 選 挙 戦 を 展 開 し た 。BJP は こ こ で は 開 発 は 必 ず し も ポ ジ
ティブな意味とならないため,グジャラート・モデルという言葉はあまり使わず,モディ
の カ リ ス マ 性 に 訴 え る 手 法 を 採 用 し た 。 会 議 派 は JMM と 選 挙 協 力 し , STs 出 身 で 元 州 首
相 の バ ブ ラ ル ・ マ ラ ン デ ィ が BJP か ら 分 か れ て 創 設 し た ジ ャ ー ル カ ン ド 開 発 戦 線 (民 主 主
義 )は 部 族 ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 訴 え て い た 。結 果 は モ デ ィ を 前 面 に 出 し た BJP が 14 議 席 の
う ち 12 議 席 を 獲 得 し , 投 票 率 も 40.1%に 伸 ば し て 圧 勝 し た (表 3.3)。 対 し て 会 議 派 は 得 票
率 こ そ 微 減 で あ り 13.3% で あ っ た も の の 議 席 は 獲 得 で き ず , 選 挙 協 力 し た JMM が 党 首 の
シブ・ソレンなど 2 議席を獲得した。得票傾向をみると,ジャールカンド州では,中央お
よ び 州 政 府 を 担 っ て い た 会 議 派 と そ の 友 党 へ の 不 満 , つ ま り 現 職 批 判 の 傾 向 が 強 く , BJP
は若年層,都市,上位カースト・ヒンドゥー,その他後進カースト,富裕層などの支持を
集 め ,BJP が 大 勝 し た 他 州 と 同 じ 傾 向 を 示 し て い る 。た だ し ,ム ス リ ム 票 の 60% は 会 議 派
お よ び そ の 友 党 が 獲 得 し , BJP へ 向 か っ た の は 9%の み で あ る 。 BJP が 中 央 レ ベ ル で 政 権
を担当することになり,州の創設以来頻繁に交替して安定さを欠く状況が続き,かつ現在
は 会 議 派 と JMM が 支 え て い る 州 政 権 に ど の よ う な 影 響 が あ る か , 州 議 会 選 挙 が 2014 年
末に予定されている。
表3.3 ジャールカンド州の連邦下院選挙結果
連邦下院選挙結果(定数14)
1999
2004
2009
2014
14,894,905
16,812,339
17,934,095
20,326,743
51.8
55.7
50.9
63.9
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
BJP
11
45.5
1
33.0
8
27.5
12
40.1
ジャールカンド解放戦線(JMM)
0
9.5
4
16.3
2
11.7
2
9.3
会議派
2
23.8
6
21.4
1
15.0
0
13.3
ジャールカンド開発戦線(民主主義)
1
10.5
0
12.1
その他
1
3
2
0
(出所) Election commission of Indiaウェブサイトのデータ,吉田(2006b)および上田ほか(2011)を参照して作成。
(注) 1999年は州創立前の同地域に関する概算。
有権者数 (人)
投票率 (%)
3.
チ ャ ッ テ ィ ー ス ガ ル 州 : BJP が 再 び 圧 勝
チ ャ ッ テ ィ ー ス ガ ル 州 は 2000 年 に マ デ ィ ヤ ・ プ ラ デ ー シ ュ 州 か ら 分 離 し て 誕 生 し た 州
で , 2011 年 に は , 人 口 は 2555 万 人 で あ り , そ の う ち SCs は 12.8% , STs は 30.6% , 都
42
市 人 口 比 率 は 23.2%,識 字 率 は 全 体 で 70.3%で あ っ た (表 3.1) ( 3) 。STs の 人 口 比 が 高 く ,と
く に 女 性 の 識 字 率 が 低 い と い う 特 徴 が あ る 。 2001 年 の セ ン サ ス で は , ヒ ン ド ゥ ー 教 徒 が
94.7% と そ の 比 率 が 高 く , ま た ヒ ン デ ィ ー 語 を 話 す 人 口 が 8 割 を 超 え て い た 。 連 邦 下 院 議
員 定 数 は 11 で あ り , そ の う ち SCs の 留 保 議 席 は 1, STs の 留 保 議 席 は 4 で あ る 。 2013 年
度 の 一 人 当 た り SDP は 2 万 8708 ル ピ ー で あ り ,そ の 2004 年 度 か ら の 年 平 均 成 長 率 は 5.0%
で あ っ た 。チ ャ ッ テ ィ ー ス ガ ル 州 も ま た 全 イ ン ド 平 均 に 比 べ て 3 割 ほ ど 平 均 所 得 が 低 い こ
とがわかる。
チ ャ ッ テ ィ ー ス ガ ル で は BJP と 会 議 派 の 2 党 が 強 く , 地 域 政 党 が あ ま り 強 く な い と い
う 特 徴 が あ る 。 独 立 の 州 と な っ て 初 め て 行 わ れ た 2003 年 の 州 議 会 選 挙 で は , 会 議 派 州 政
権 が 腐 敗 な ど の 理 由 で 敗 北 し , BJP の 政 権 が 誕 生 し た 。 2004 年 の 連 邦 下 院 選 挙 で も 同 様
に ,BJP が 11 議 席 の う ち 10 議 席 を 獲 得 し た 。そ れ 以 来 ,州 首 相 ラ ー マ ン ・ シ ン へ の 信 頼
が あ り , 州 議 会 選 挙 で は BJP と 会 議 派 の 得 票 率 に 大 き な 差 は な い も の の BJP が 議 席 の 過
半 数 を 2013 年 の 選 挙 ま で 獲 得 し 続 け て お り ,と く に 連 邦 下 院 選 挙 で は BJP が 圧 勝 し て き
た (表 3.4)。 な お , 同 州 で も ナ ク サ ラ イ ト の 活 動 は 活 発 で 治 安 問 題 は 深 刻 で あ る 。
表3.4 チャッティースガルの連邦下院および州議会選挙結果
連邦下院選挙結果(定数11)
有権者数 (人)
投票率 (%)
BJP
会議派
1999
12,230,305
55.3
議席数 得票率(%)
8
47.9
3
43.4
2004
13,719,442
52.1
議席数 得票率(%)
10
47.8
1
40.2
2009
15,466,821
55.3
議席数 得票率(%)
10
45.0
1
37.3
2014
17,623,049
69.5
議席数 得票率(%)
10
48.7
1
38.4
州議会選挙結果(定数90)
1998
2003
2008
2013
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
BJP
36
40.1
50
39.3
50
40.3
49
41.0
会議派
48
40.6
37
36.7
38
38.6
39
40.3
その他
3
2
2
(出所) Election Commission of Indiaウェブサイトのデータ,上田(2006)および 上田ほか(2011)より作成。
(注) 1999年は州創立前の同地域に関する概算。
今 回 の 選 挙 で は , 州 政 権 を 担 っ て い る BJP は , 中 央 政 府 も ま た BJP の 政 権 と な れ ば ,
さらなる発展を約束すると主張して選挙戦を戦った。チャッティースガル・開発モデルを
謳い,
「 1(モ デ ィ )+1(シ ン )= 11」を ス ロ ー ガ ン に 11 全 議 席 を と り に 行 く と い う も の で あ る 。
またナクサライト問題については会議派率いる中央政権が協力的でないと責任を かわすレ
ト リ ッ ク を 展 開 し た 。 会 議 派 は 2013 年 の 州 議 会 選 挙 で は 全 90 議 席 の う ち 39 を 得 て 善 戦
し た が , 今 回 の 連 邦 下 院 選 挙 で は 士 気 が 低 か っ た 。 結 果 は , 投 票 率 は 69.5%と 高 く , 今 回
も 前 回 と 同 じ く BJP が 10 議 席 , 会 議 派 が 1 議 席 を 獲 得 し た 。 前 回 の 連 邦 下 院 議 員 選 挙 と
43
比 べ る と ,BJP は 得 票 率 で お お よ そ 3.7% ポ イ ン ト 増 や し た の に 対 し ,会 議 派 も 1.1%ポ イ
ン ト 得 票 率 を 増 や し て い る 。興 味 深 い こ と に ,BJP が 獲 得 し た 票 の 特 徴 は 貧 困 層 ・ 社 会 的
弱 者 層 や 農 村 で 比 率 が 高 く , 他 方 で , 会 議 派 は 若 年 層 , 都 市 で BJP 以 上 に 得 票 し て お り ,
他州と異なる様相をみせている。会議派率いる中央政府が実施した全国農村雇用保証法な
どの貧困層向けの諸施策について,現場では州政府が実施するという事情もあり,州政府
お よ び BJP の ポ イ ン ト に す る こ と に 成 功 し て い た と 考 え ら れ る 。
4.
西 ベ ン ガ ル 州:全 イ ン ド 草 の 根 会 議 派 (AITC)の さ ら な る 躍 進 と 止 ま ら な い 左 翼 戦 線
の後退
西 ベ ン ガ ル 州 は コ ル カ タ を 擁 す る 東 部 イ ン ド の 中 心 で あ り , 人 口 は 2011 年 の セ ン サ ス
で は 9128 万 人 で あ っ た (表 3.1) ( 4) 。都 市 人 口 比 率 も 31.9%と ほ か の 東 部 諸 州 と 比 べ て 高 く ,
SCs の 比 率 は 23.5% ,STs は 5.8% ,識 字 率 は 76.3%で あ る 。2001 年 の セ ン サ ス で は ヒ ン
ド ゥ ー 教 徒 が 72.5%,ム ス リ ム が 25.2%で あ る 。ム ス リ ム と SCs の 比 率 が 相 対 的 に 高 い こ
と が 特 徴 で あ る 。 2013 年 度 の 一 人 当 た り SDP は 3 万 7511 ル ピ ー で あ り , 全 イ ン ド 平 均
に は 及 ば な い も の の 東 部 諸 州 の な か で は や や 高 く , そ の 2004 年 度 か ら の 平 均 年 成 長 率 も
5.8%で 全 イ ン ド 平 均 と 等 し い 。 連 邦 下 院 議 員 定 数 は 42 議 席 で あ り , そ の う ち SCs の 留 保
議 席 は 10, STs の 留 保 議 席 は 2 で あ る 。
よ く 知 ら れ て い る よ う に , 西 ベ ン ガ ル 州 で は , イ ン ド 共 産 党 (マ ル ク ス 主 義 )(CPI(M))が
主 導 す る 左 翼 戦 線 が 長 ら く 政 権 を 担 当 し て き た 。 左 翼 戦 線 は 2000 年 に 自 由 化 政 策 路 線 に
転 じ た 後 も , 2004 年 の 連 邦 下 院 選 挙 , 2006 年 の 州 議 会 選 挙 と 勝 利 し , お お む ね 支 持 さ れ
て い た が , 州 政 権 が 進 め よ う と し た タ タ 自 動 車 の 工 場 用 地 (シ ン グ ー ル )と イ ン ド ネ シ ア 系
財 閥 の 経 済 特 区 (ナ ン デ ィ グ ラ ム )の た め の 土 地 収 用 問 題 が 紛 糾 し て , マ マ タ ・ バ ナ ジ ー 率
い る AITC が 州 政 府 批 判 の 先 鋒 に 立 ち , 支 持 を 広 げ た 。AITC は 会 議 派 と 選 挙 協 力 し 2009
年 の 連 邦 下 院 選 挙 で 躍 進 し , さ ら に 2011 年 の 州 議 会 選 挙 で 294 議 席 の う ち 184 議 席 を 獲
得 し 圧 勝 し た 。 選 挙 前 に 176 議 席 を も っ て い た CPI(M)は 40 議 席 を 得 る の み と 大 敗 し て ,
左 翼 戦 線 に よ る 州 政 府 運 営 は 終 止 符 を 打 っ て い た 。ま た ,2012 年 に ,外 資 規 制 緩 和 を 進 め
よ う と す る UPA 政 権 の 政 策 に 反 対 す る AITC は , 会 議 派 率 い る UPA 政 権 か ら 離 脱 し て ,
会議派との選挙協力も解消していた。
そ れ ゆ え 今 回 の 連 邦 下 院 選 挙 で は , BJP, 会 議 派 , AITC, CPI(M)率 い る 左 翼 戦 線 の 4
陣 営 が 争 う 構 図 と な っ た 。 ま た 今 回 は AITC の 州 政 権 運 営 の 評 価 が 問 わ れ , 他 党 が こ れ に
挑 戦 す る と い う 形 に も な っ て い た 。こ れ ま で 西 ベ ン ガ ル 州 で は プ レ ゼ ン ス の 低 か っ た BJP
44
もモディ要因で支持を拡大するのか,選挙結果が注目されていた。
表3.5 西ベンガル州の連邦下院選挙結果
連邦下院選挙結果(定数42)
1999
2004
2009
2014
47,649,856
47,437,431
52,420,609
62,833,128
75.1
78.0
80.7
82.2
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
会議派
3
13.3
6
14.6
6
13.5
4
9.6
全インド草の根会議派(AITC)
8
26.0
1
21.0
19
31.2
34
39.3
BJP
2
11.1
0
8.1
1
6.1
2
16.8
インド共産党(マルクス主義)(CPI(M))
21
35.6
26
38.6
9
33.1
2
22.7
インド共産党(CPI)
3
3.5
3
4.0
2
3.6
0
2.3
革命社会党(RSP)
3
4.3
3
4.5
2
3.6
0
2.4
前衛党
2
3.5
3
3.7
2
3.0
0
2.1
(出所) Election Commission of Indiaウェブサイトのデータ,井上(2006)および上田ほか(2011)を参照して作成。
有権者数 (人)
投票率 (%)
結 果 は ,AITC が 34 議 席 を 獲 得 し ,前 回 と 比 較 し て 議 席 数 で 15,得 票 率 で お よ そ 8%ポ
イ ン ト 伸 ば し て 39.4% を 得 て 大 勝 し た 。ま た ,BJP は ,議 席 数 は 2 議 席 と 1 議 席 を 積 み 増
す に と ど ま っ た も の の ,投 票 率 を 前 回 の 6.1%か ら 16.8%に 大 幅 に 伸 ば し ,会 議 派 を 抜 き 第
3 位 の 票 を 得 て お り ,躍 進 と い え る 。こ れ に 対 し ,CPI(M)は 得 票 率 こ そ AITC に 次 ぐ 22.7%
を 得 た も の の , 前 回 か ら お よ そ 10.4%ポ イ ン ト 減 ら し , 獲 得 議 席 も 9 議 席 か ら 2 議 席 に 後
退 し て 大 敗 し た 。会 議 派 の 得 票 率 は 前 回 か ら 3.9% ポ イ ン ト 減 り 9.6% と な り ,議 席 も 6 か
ら 4 に後退した。得票傾向をみると,左翼戦線を支持してきた社会的弱者層や貧困層の票
が AITC に 向 か い , ま た 西 ベ ン ガ ル 州 で は 少 な く な い 比 率 を も つ モ ス リ ム 票 も モ デ ィ 批 判
を 展 開 し た バ ナ ジ ー 州 首 相 の AITC が 引 き つ け て い た 。得 票 率 を 伸 ば し た BJP は 上 位 カ ー
ストに加え若年層とくに初めて投票権を得た層の支持を得た。バナジーはおそらく中央で
は過半数をとる政党はなく連立政権となり,そこで自党の躍進を梃子にして中央政府への
影 響 力 を も つ 構 想 で あ っ た と 推 測 さ れ る 。AITC は 西 ベ ン ガ ル 州 で は 大 勝 し た も の の ,BJP
が連邦下院で単独過半数を得てそのような目算は崩れた。また,西ベンガル州という観点
か ら 重 要 な こ と は , 近 年 ま で 左 翼 戦 線 の 牙 城 で あ っ た 同 州 に お い て , 今 回 の 選 挙 で AITC
に 加 え て , BJP が 勢 力 を 増 す 結 果 と な り , 州 与 党 の AITC に 対 す る 野 党 と し て の 地 位 す ら
左 翼 戦 線 は 危 う い 状 況 に な っ た と い う 州 の 政 治 状 況 の 変 貌 ぶ り で あ る 。 AITC と BJP は ,
支 持 層 が 重 複 し て お り ,経 済 状 況 の 次 第 で は BJP が こ れ ま で 浸 透 し 得 な か っ た 西 ベ ン ガ ル
州で今後さらに支持を拡大する可能性もある。
5.
ア ッ サ ム 州 : BJP の 伸 長
紅 茶 の 生 産 で 有 名 な ア ッ サ ム 州 は ,2011 年 の セ ン サ ス で は 人 口 は 3121 万 人 で あ り ,都
45
市 人 口 比 率 は 14.1%と 低 く , SCs 比 率 は 7.2%, STs 比 率 は 12.4% , 識 字 率 は 72.2%で あ
る (表 3.1) ( 5) 。ア ッ サ ム 人 ヒ ン ド ゥ ー 教 徒 が 過 半 数 を 占 め る が ,歴 史 的 に プ ラ ン テ ー シ ョ ン
が重要な産業であったために州外からの移民や出稼ぎ労働者も多く,バングラデシュ,ネ
パールからの多くの外国人移民や不法滞在者を抱えていることもこの州の特徴である。同
州 の 連 邦 下 院 議 員 定 数 は 14 で あ り ,そ の う ち SCs の 留 保 議 席 は 1,STs へ の 留 保 議 席 は 2
で あ る 。2013 年 度 の 一 人 当 た り SDP は ,2 万 4533 と 東 部 諸 州 の な か で も っ と も 低 く ,ま
た そ の 2004 年 度 か ら の 年 平 均 成 長 率 も 4.3%と 全 イ ン ド 平 均 を 大 幅 に 下 回 っ て い る 。
現 在 , ア ッ サ ム の 州 政 権 は 2001 年 よ り タ ル ン ・ ゴ ゴ イ 州 首 相 率 い る 会 議 派 が 担 当 し
て お り , 歴 史 的 に も 会 議 派 が 与 党 で あ っ た 時 代 が 長 い 。 た だ し , 外 国 人 追 放 運 動 が 1980
年 代 に 盛 ん と な り ,こ の 運 動 か ら ア ッ サ ム 人 民 評 議 会 (AGP)が 結 党 さ れ 州 政 権 を 1985 年 か
ら 1991 年 ま で , 1996 年 か ら 2001 年 ま で 担 う な ど , 1990 年 代 は 会 議 派 と AGP が 主 要 な
政 党 で あ っ た 。 ま た , BJP は ,1990 年 代 後 半 か ら AGP 以 上 に 移 民 に 対 す る 強 硬 な 姿 勢 を
喧 伝 し て 支 持 を 次 第 に 広 げ て い た 。 そ れ で も , 州 政 権 を 担 う 会 議 派 は 2004 年 連 邦 下 院 選
挙 時 に は 全 14 議 席 の う ち 9 議 席 ,2009 年 時 に は 7 議 席 を 獲 得 し た 。た だ し ,バ ド ゥ ル デ
ィ ン ・ ア ジ マ ル が 率 い る 全 イ ン ド 統 一 民 主 戦 線 (以 前 の 名 称 は ア ッ サ ム 統 一 民 主 戦 線 )は 会
議派の票,とくにムスリム票を奪って伸びてきていた。同党は,移民の権利保護に厚いと
い わ れ る 不 法 移 民 (審 判 所 決 定 )法 (1983) ( 6) を 最 高 裁 が 2005 年 に 破 棄 し た と き に ,会 議 派 が
この破棄が起こることを阻止する努力をしなかったとして会議派と袂を分かって創設され
た 党 で あ り , 中 央 の UPA の 友 党 で あ っ た が , 会 議 派 が 与 党 で あ る 州 政 府 で は 主 要 な 野 党
で あ り , 2009 年 連 邦 下 院 選 挙 時 に 1 議 席 を 獲 得 し た 。 ま た 2009 年 選 挙 時 に は , BJP と
AGP は 選 挙 協 力 し て , AGP は 議 席 を 2 か ら 1 に 減 ら し た も の の , BJP は 2 か ら 4 議 席 に
伸ばしていた。
今 回 の 選 挙 で は ,ゴ ゴ イ 州 首 相 率 い る 会 議 派 州 政 権 は 楽 観 的 で あ り ,モ デ ィ ・ マ ジ ッ ク
は ア ッ サ ム で は 効 か な い と 述 べ て い た 。そ の 背 景 に は ,2011 年 の 州 議 会 選 挙 で ,会 議 派 は
全 126 議 席 の う ち ,2006 年 の 53 議 席 か ら 25 議 席 積 み 増 し て ,78 議 席 を 獲 得 し て い た こ
と が あ る 。BJP は グ ジ ャ ラ ー ト ・ モ デ ル や 反 腐 敗 と い っ た 主 張 が ア ッ サ ム 州 で は あ ま り 票
を 掘 り 出 さ な い と み な し ,若 者 の 職 が ム ス リ ム・バ ン グ ラ デ シ ュ 人 に 奪 わ れ て い る と 訴 え ,
1971 年 以 降 の 不 法 移 民 (た だ し ヒ ン ド ゥ ー・バ ン グ ラ デ シ ュ 人 は 別 )を 一 掃 す る と モ デ ィ が
演説するなど,ヒンドゥー主義と反不法移民を前面に押し出した選挙戦となった。なお ,
今 回 は BJP と AGP は 選 挙 協 力 に 失 敗 し た 。 そ の ほ か ボ ド 族 の 自 治 運 動 も 重 要 で あ る 。
選 挙 結 果 は ,BJP は 得 票 率 を お よ そ 20% ポ イ ン ト 伸 ば し ,協 力 党 な し に 全 14 議 席 の う
ち 7 議 席 を 獲 得 し た 。 投 票 率 が 79.9%と 高 か っ た こ と も 今 回 の 選 挙 の 特 徴 で あ る 。 会 議 派
46
は 得 票 率 を 5% ポ イ ン ト 減 ら し , 議 席 も 7 議 席 か ら 3 議 席 に 後 退 し た 。 そ の 友 党 で あ る ボ
ド 人 民 戦 線 も 議 席 を 失 っ た 。そ の ほ か ,AGP は 得 票 率 を 3.8%に ま で 10% ポ イ ン ト 以 上 減
らし 1 議席も獲得できず,反・反移民を掲げる全インド統一民主戦線は得票率を若干減ら
し な が ら も 議 席 を 3 に 伸 ば し た 。州 政 権 を 担 う 会 議 派 と し て は 惨 敗 と 考 え ら れ る 。BJP が
優 勢 と な っ た 要 因 と し て は , 反 移 民 を 掲 げ て き た AGP の 指 導 者 層 が BJP に 移 り , ま た モ
デ ィ が 複 数 回 ア ッ サ ム を 選 挙 期 間 中 訪 問 し て 反 移 民 を 訴 え る な ど ,AGP の 支 持 層 や 会 議 派
を支持してきたヒンドゥーのプランテーション労働者の支持層を取り込んだこと,ムスリ
ムの票が会議派と全インド統一民主戦線に割れたことなどが挙げられる。ただし,今回の
選挙がアッサムにおける宗派間対立の根を深くしてしまった可能性を視野に入れておく必
要があるだろう。
表3.6 アッサムの連邦下院選挙結果
連邦下院選挙結果(定数14)
1999
2004
2009
2014
14,290,673
15,014,874
17,470,329
18,885,274
71.2
69.1
69.5
79.9
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
会議派
10
38.4
9
35.1
7
34.5
3
29.9
BJP
2
29.8
2
22.9
4
16.2
7
36.5
アッサム人民評議会(AGP)
0
11.9
2
19.9
1
14.6
0
3.8
全インド統一民主戦線(旧アッサム統一民主戦線)
1
16.1
3
14.6
ボドランド人民戦線
1
5.4
0
2.2
その他
2
1
0
1
(出所) Election Commission of Indiaウェブサイトのデータ,木村ほか(2006)および上田ほか(2011)を参照して作成。
有権者数 (人)
投票率 (%)
6.
北東諸州
連 邦 下 院 の 議 席 は ,ア ッ サ ム 以 外 の 北 東 諸 州 で は ,メ ガ ラ ヤ ,ア ル ナ ー チ ャ ル・ プ ラ デ
ーシュ,トリプラ,マニプルはそれぞれ 2 議席,ナガランド,ミゾラム,シッキムはそれ
ぞ れ 1 議 席 で 合 計 11 議 席 あ る ( 7) 。 こ の 11 議 席 の う ち 2009 年 選 挙 で は 会 議 派 が 6 議 席 ,
CPI(M)が 2 議 席 ,民 族 主 義 会 議 派 が 1 議 席 ,ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 が 1 議 席 ,シ ッ キ ム 民 主
表3.7 北東諸州(アッサムを除く)の基礎情報
人口(人)
シッキム
アルナーチャル・プラデーシュ
ナガランド
マニプル
ミゾラム
トリプラ
メガラヤ
全インド・全インド平均
610,577
1,383,727
1,978,502
2,570,390
1,097,206
3,673,917
2,966,889
1,210,569,573
一人当たり
一人当たり
SDP年平均成
指定カースト
SDP(2012年
都市人口比率
長率(2004~
(SCs)比率
度)
(%)
2012年度)
(%)
(ルピー)
(%)
75,137
13.8
25.2
4.6
37,051
4.2
22.9
46,889
5.5
28.9
23,996
3.2
32.5
3.8
40,930
6.5
52.1
0.1
42,315
7.1
26.2
17.8
38,627
6.1
20.1
0.6
38,856
6.1
31.2
16.6
(出所) 表3.1と同じ。
(注) 表3.1と同じ。
47
指定部族
(STs)比率
(%)
33.8
68.8
86.5
35.1
94.4
31.8
86.1
8.6
識字率
(%)
81.4
65.4
79.6
79.2
91.3
87.2
74.4
73.0
男性(%) 女性(%)
86.6
75.6
72.6
57.7
82.8
76.1
86.1
72.4
93.3
89.3
91.5
82.7
76.0
72.9
80.9
64.6
戦 線 が 1 議 席 と い う 結 果 で あ り , BJP 自 体 は 1 議 席 も も っ て い な か っ た 。
今 回 の 選 挙 で は ,BJP は 上 述 し た よ う に ア ッ サ ム で 躍 進 し て お り ,隣 接 す る ア ル ナ ー チ
ャ ル・プ ラ デ ー シ ュ で も 1 議 席 を 獲 得 し た 。そ の ほ か BJP の 友 党 で あ る ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦
線 , 国 家 人 民 党 ( NPP) が そ れ ぞ れ 1 議 席 を 得 て , 残 り 8 議 席 は 会 議 派 5 議 席 , CPI(M)2
議席,シッキム民主戦線 1 議席という結果となった。
表3.8 北東諸州(アッサムを除く)の連邦下院選挙結果
2009
2014
2009
有権者数 (人)
投票率 (%)
BJP
会議派
2014
シッキム(定数1)
アルナーチャル・プラデーシュ(定数2)
734,541
759,387
65.3
78.6
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
0
37.2
1
46.1
2
51.1
1
41.2
ナガランド(定数1)
300,584
370,611
83.8
83.4
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
シッキム民主戦線
1
63.3
1
53.0
シッキム革命戦線
0
39.5
BJP
0
1.8
0
2.4
会議派
0
29.6
0
2.3
有権者数 (人)
投票率 (%)
1,321,878
1,182,948
90.0
87.8
メガラヤ(定数2)
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
有権者数 (人)
1,277,739
1,567,241
ナガランド人民戦線
1
70.0
1
68.7
投票率 (%)
64.4
68.8
会議派
0
29.4
0
30.1
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
会議派
1
44.8
1
37.9
マニプル(定数2)
有権者数 (人)
1,735,982
1,774,325
国家人民党(NPP)
1
22.2
投票率 (%)
77.2
79.6
統一民主党
0
15.1
0
9.9
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
BJP
0
8.9
会議派
2
43.0
2
41.7
民族主義会議派
1
18.8
ナガランド人民戦線
0
19.9 トリプラ(定数2)
インド共産党(CPI)
0
14.9
0
14.0
有権者数 (人)
2,082,206
2,388,819
BJP
0
9.5
0
11.9
投票率 (%)
84.5
84.7
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
ミゾラム定数1
有権者数 (人)
629,374
702,170
インド共産党(マルクス主義)(CPI(M))
2
61.7
2
64.0
投票率 (%)
51.8
61.7
会議派
0
30.8
0
15.2
議席数 得票率(%) 議席数 得票率(%)
全インド草の根会議派(AITC)
0
0.6
0
9.6
会議派
1
65.6
1
48.6
BJP
0
3.4
0
5.7
無所属
0
32.2
0
47.2
(出所) Election Commission of Indiaウェブサイトのデータより作成。
有権者数 (人)
投票率 (%)
ア ル ナ ー チ ャ ル ・ プ ラ デ ー シ ュ : 会 議 派 1 議 席 を 維 持 し た も の の BJP が 1 議 席 を 奪 取
中 国 と の 国 境 紛 争 地 区 を 抱 え る ア ル ナ ー チ ャ ル ・ プ ラ デ ー シ ュ 州 の 人 口 は , 2011 年 の
セ ン サ ス で は 138 万 人 で あ り , STs は 68.8% , 2012 年 度 の 一 人 当 た り SDP は 3 万 7051
ル ピ ー で あ っ た (表 3.7)。2 議 席 が 争 わ れ た ア ル ナ ー チ ャ ル・プ ラ デ ー シ ュ で は ,州 議 会 60
議 席 も 同 時 に 選 挙 と な っ た 。 事 故 死 し た ド ル ジ ェ ・ カ ン ド ゥ の 後 を 受 け て 2011 年 に 州 首
相となっていたナバム・ツキを首班とする会議派の州政権が州議会選挙を前倒しにして同
時に実施したためである。連邦下院選挙については会議派が 2 議席を独占していたが,今
回 BJP が そ の う ち ア ル ナ ー チ ャ ル 西 選 挙 区 の 1 議 席 を , 16.9 万 票 を 得 て 奪 取 し た 。 次 点
の 会 議 派 候 補 者 は 12.8 万 票 で あ っ た 。 会 議 派 候 補 が 11.8 万 票 を 得 て 勝 利 し た ア ル ナ ー チ
ャ ル 東 選 挙 区 に お い て も 次 点 の BJP 候 補 と は 1.2 万 票 あ ま り と 僅 差 で あ り ,BJP は 同 州 で
躍 進 し た と い え る 。 実 際 , 得 票 率 で み る と , BJP が 8.9%ポ イ ン ト 伸 ば し た の に 対 し , 会
48
議 派 は 9.9%ポ イ ン ト 減 ら し ,BJP の 得 票 率 46.1%は 会 議 派 の 41.2%を 上 回 っ て い る (表 3.8)。
アルナーチャル・プラデーシュではモディ・ウェーヴが到達していたと考えられる。州 議
会 選 挙 に つ い て は 議 席 60 の う ち , 与 党 会 議 派 は 前 回 2009 年 の 州 議 会 選 挙 と 同 じ く 42 議
席 を 獲 得 し て 安 定 多 数 を 得 た が , BJP も 3 議 席 か ら 11 議 席 に 躍 進 し た 。 そ れ で も 会 議 派
州 政 権 の 同 時 選 挙 戦 術 は ,州 議 会 選 挙 に つ い て は 準 備 不 足 で あ っ た BJP の こ れ 以 上 の 伸 長
を阻止したともいえる。
ナ ガ ラ ン ド : BJP に 近 い ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 が 1 議 席 を 維 持
ナ ガ ラ ン ド は 2011 年 に は 人 口 198 万 人 ,STs 比 率 は 86.5%で あ る (表 3.7)。一 人 当 た り
SDP は 2012 年 度 に は 4 万 6889 ル ピ ー で あ っ た 。 ナ ガ 系 民 族 の 人 々 は イ ン ド か ら の 独 立
運 動 を 展 開 し , 1990 年 代 ま で は 選 挙 の ボ イ コ ッ ト も た び た び 行 わ れ て き た 歴 史 が あ る 。
2003 年 に ,会 議 派 か ら 分 か れ て 結 成 さ れ た ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 が 主 導 す る ナ ガ ラ ン ド 民 主
連 合 が 会 議 派 か ら 政 権 を 奪 取 し て 以 来 ,中 央 の 会 議 派 率 い る UPA 政 権 が 2009 年 連 邦 下 院
選 挙 時 に は 大 統 領 統 治 を 敷 い た も の の ,同 州 の 連 邦 下 院 の 1 議 席 は ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 が
獲 得 し て き た 。 ま た , 2009 年 の 州 議 会 選 挙 で は ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 が 60 議 席 の う ち 38
議席を獲得しており,今回は,州首相を務めているニフィウ・リオ自身が首相職を辞して
ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 の 連 邦 下 院 議 員 候 補 と な っ た 。ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 は BJP が 主 導 す る
NDA に 参 加 し て お り , BJP と は 近 い 関 係 に あ る 。 今 回 も ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 が お よ そ 7
割 の 票 を 得 て 会 議 派 候 補 を 破 り , 議 席 を 獲 得 し た (表 3.8)。
メ ガ ラ ヤ : 会 議 派 が 1 議 席 , 国 家 人 民 党 (NPP)が 1 議 席
2011 年 セ ン サ ス に よ る と , メ ガ ラ ヤ の 人 口 は 297 万 人 , そ の う ち STs は 86.1% で あ る
(表 3.7)。歴 史 的 に 会 議 派 の 地 盤 で あ る が ,州 会 議 派 内 の 権 力 闘 争 が あ り ,不 安 定 な 状 況 が
続 い て い る 。D.D.ラ パ ン が 2010 年 に 辞 任 し た の ち ,ム ク ル・サ ン グ マ が 州 首 相 に 就 任 し ,
2013 年 の 州 議 会 選 挙 で は 60 議 席 の う ち 会 議 派 が 29 議 席 を 獲 得 し て 第 1 党 を 維 持 し て い
る。会議派の連邦下院議員を長らく務め州首相の経験もあったプルノ・サングマは会議派
か ら 独 立 し た 民 族 主 義 会 議 派 の 州 議 員 に 2008 年 に な り , そ の 娘 の ア ガ タ ・ サ ン グ マ が 民
族主義会議派から連邦下院議員となっていたが,今回プルノは国政選挙に復帰すべく,
2013 年 に 新 し く 結 党 し た NPP か ら 出 馬 し た 。 プ ル ノ は BJP 率 い る NPA と 同 盟 を 組 む と
明 言 し て い る 。選 挙 結 果 は ,シ ロ ン 選 挙 区 で は 無 所 属 の 候 補 者 や BJP の 候 補 者 の 挑 戦 を 受
49
け た 会 議 派 現 職 が 20.9 万 票 を 得 て 次 点 (無 所 属 候 補 )に 4 万 票 あ ま り 差 を つ け て 1 議 席 を 維
持 し , ト ゥ ラ 選 挙 区 で は プ ル ノ が 23.9 万 票 を 獲 得 し 20.0 万 票 を 得 た 会 議 派 候 補 を 退 け
NPP に 1 議 席 を も た ら し た (表 3.8)。 メ ガ ラ ヤ に お い て も , 政 党 と い う よ り も , サ ン グ マ
一族など個々の政治家の動向が依然として重要である。
シッキム:シッキム民主戦線が 1 議席を維持
人 口 61 万 人 の シ ッ キ ム は 観 光 業 や 中 国 チ ベ ッ ト 地 方 と の 国 境 貿 易 が 好 調 で , 一 人 当 た
り SDP は 7 万 5137 ル ピ ー と 全 イ ン ド 平 均 の 2 倍 あ ま り , そ の 2004 年 度 か ら 2012 年 度
ま で の 成 長 率 は 13.8% で あ っ た (表 3.7)。STs 比 率 は イ ン ド 平 均 よ り も 高 い も の の ,北 東 諸
州 の な か で は 少 な い 。 2001 年 の セ ン サ ス で は , ネ パ ー ル 系 が お よ そ 75% を 占 め , 宗 教 で
は ヒ ン ド ゥ ー が 61% , 仏 教 徒 が 28% な ど と な っ て い る 。 1979 年 か ら 1994 年 ま で 州 首 相
の 座 に あ っ た シ ッ キ ム 闘 争 会 議 の N.B.バ ン ダ ー リ ー , 1994 年 か ら 州 首 相 を 務 め る シ ッ キ
ム民主戦線のパワン・チャムリンが長らく有力な政治家であったが ,今回はシッキム民主
戦線に対する挑戦が新たに結党されたシッキム革命戦線により行わ れるという構図であっ
た 。同 党 を 結 成 し た 中 心 人 物 は ,チ ャ ム リ ン の ナ ン バ ー 2 で あ り ,2013 年 に シ ッ キ ム 民 主
戦 線 を 脱 退 し た P.S.ゴ レ イ で あ る 。 ま た , 今 回 の 連 邦 下 院 選 挙 は 州 議 会 選 挙 と 同 時 選 挙 で
あ っ た 。 2004 年 州 議 会 選 挙 で は 全 32 議 席 の う ち 31, 2009 年 の 選 挙 で は 32 議 席 す べ て ,
シ ッ キ ム 民 主 戦 線 が 獲 得 し て き た 。 シ ッ キ ム 革 命 戦 線 は 20 年 に 及 ぶ チ ャ ム リ ン の い わ ば
独 裁 を 非 難 し , 変 化 を ス ロ ー ガ ン に し た 。 州 議 会 選 挙 で は シ ッ キ ム 民 主 戦 線 が 32 議 席 の
う ち 22 議 席 を 獲 得 し て 5 期 連 続 で 勝 利 し ,ま た 連 邦 下 院 議 員 議 席 も 16.4 万 票 を 得 て シ ッ
キ ム 民 主 戦 線 が 維 持 し た (表 3.8)。シ ッ キ ム 革 命 戦 線 は 都 市 部 で 票 を 伸 ば し ,連 邦 下 院 選 挙
で も 議 席 は 得 ら れ な か っ た も の の 12.2 万 票 と 善 戦 し て お り ,ま た 州 議 会 で は 10 議 席 を 獲
得 し た 。他 方 で ,会 議 派 ,BJP い ず れ の 候 補 者 も 連 邦 下 院 選 挙 で は 得 票 数 は 1 万 票 に み た
なかった。経済的な成功があり,シッキム民主戦線への支持は今のところ揺るがず,チャ
ム リ ン は 州 首 相 に 再 任 し そ の 任 期 は 1994 年 か ら 20 年 あ ま り と な り ,西 ベ ン ガ ル 州 首 相 を
23 年 務 め た ジ ョ テ ィ ・ バ ス ー (CPI(M))の 記 録 に 迫 る こ と に な る 。
マニプル:会議派が 2 議席を維持
マ ニ プ ル の 人 口 は 257 万 人 ,STs 比 率 は 35.1%で あ る (2011 年 ,表 3.7)。一 人 当 た り SDP
は 2012 年 度 に は 2 万 3996 ル ピ ー , そ の 2004 年 度 か ら の 年 平 均 成 長 率 は 3.2% と 経 済 状
50
況 は イ ン ド 平 均 を 大 き く 下 回 り ,北 東 諸 州 の な か で も い ず れ も 最 も 低 い 。2012 年 の 州 議 会
選 挙 で は 全 60 議 席 の う ち , 2002 年 か ら 州 首 相 を 務 め る オ ク ラ ム ・ イ ボ ビ ・ シ ン 率 い る 会
議 派 が 42 議 席 を 獲 得 し て い る 。 イ ン パ ー ル 周 辺 の 平 野 部 と 山 岳 部 の ふ た つ の 選 挙 区 が あ
り ,後 者 は STs 選 挙 区 で あ る 。ナ ガ 系 民 族 の ナ ガ ラ ン ド 州 と の 統 合 要 求 も 依 然 と し て 争 点
の ひ と つ で あ る 。 会 議 派 が 2 議 席 と も に 現 職 を た て , 得 票 率 41.7%を 得 て 2 議 席 と も に 獲
得 し た (表 3.8)。 た だ し , イ ン ナ ー ・ マ ニ プ ル 選 挙 区 で は 会 議 派 が 次 点 の イ ン ド 共 産 党 に
10 万 票 近 く の 差 を つ け た が ,ア ウ タ ー・マ ニ プ ル 選 挙 区 で は 次 点 の ナ ガ ラ ン ド 人 民 戦 線 の
候 補 者 と の 差 は 1.5 万 票 と 僅 差 で あ っ た 。 BJP も 2 議 席 と も に 争 っ た が 伸 び ず , マ ニ プ ル
ではモディ・ウェーヴは広がらなかった。
ミゾラム:現職会議派が 1 議席を維持
ミ ゾ ラ ム は 人 口 110 万 人 , STs は 94.4% で あ る (表 3.7)。 一 人 当 た り SDP は 2012 年 度
に は 4 万 930 ル ピ ー ,そ の 2004 年 度 か ら の 年 平 均 成 長 率 は 6.1%と お お む ね 全 イ ン ド の 平
均と同じである。キリスト教徒が多いという特徴もある。独立をめざしたミゾ民族戦線が
1986 年 に 連 邦 政 府 と 和 平 協 定 の 合 意 に 達 し 1987 年 に 州 と な っ た と い う 経 緯 を も ち ,そ れ
以 来 会 議 派 と ミ ゾ 民 族 戦 線 の 2 党 が 同 州 の 有 力 政 党 で あ る 。2008 年 に 州 首 相 に 就 任 し た ラ
ル ・ タ ン ハ ウ ラ の 率 い る 会 議 派 が 2013 年 の 州 議 会 選 挙 で も 全 40 議 席 の う ち 34 議 席 を 得
て圧勝している状況であった。なお,その他 6 議席はミゾ民族戦線とその同盟党である。
今 回 の 選 挙 で は , 現 職 会 議 派 の ベ テ ラ ン 政 治 家 C.L. ル ア ラ , ミ ゾ 民 族 戦 線 な ど が 擁 立 し
た 候 補 者 R.R.ロ イ テ (無 所 属 と し て 出 馬 ), そ し て 庶 民 党 の 候 補 者 が 1 議 席 を 争 っ た 。 会 議
派 は 焼 畑 農 業 を や め さ せ ,雇 用 を 創 出 す る こ と を 謳 う 新 土 地 使 用 政 策 を 掲 げ て 戦 い 48.6%,
21.0 万 票 を 得 て 勝 利 し た が 次 点 (ロ イ テ )と の 差 は 1 万 票 未 満 で あ っ た (表 3.8)。
ト リ プ ラ : イ ン ド 共 産 党 (マ ル ク ス 主 義 )が 2 議 席 を 維 持
バ ン グ ラ デ シ ュ と 長 い 国 境 を 接 し て い る ト リ プ ラ は , 2011 年 セ ン サ ス で は 人 口 367 万
人 で あ り ,面 積 は 比 較 的 小 さ い も の の 人 口 は ア ッ サ ム を 除 く と 北 東 諸 州 の な か で 最 も 多 く ,
STs の 比 率 は 31.8%と 北 東 州 の な か で は 少 な い (表 3.7)。 2001 年 の セ ン サ ス で は 85.6% が
ヒ ン ド ゥ ー 教 徒 で あ り , 次 い で ム ス リ ム が 8.0% , キ リ ス ト 教 徒 , 仏 教 徒 が い ず れ も お よ
そ 3%で あ っ た 。 2012 年 度 の 一 人 当 た り SDP は 4 万 2315 ル ピ ー で あ り , そ の 2004 年 度
か ら の 年 平 均 成 長 率 は 7.1%で あ る 。 同 州 で は ベ ン ガ ル 人 の 流 入 と 定 住 が STs の 暮 ら す 土
51
地を侵食したため,ベンガル人難民の排斥運動がある。また,ベンガル人人口が多いこと
も あ り , 平 和 と 開 発 を め ざ す CPI(M)率 い る 左 翼 戦 線 が 強 く , 2013 年 の 州 議 会 選 挙 で も 全
60 議 席 の う ち 50 議 席 を 得 た (残 り 10 議 席 は 会 議 派 )。 州 首 相 は CPI(M)の マ ニ ク ・ サ ル カ
ル で あ り ,1998 年 よ り 州 首 相 を 連 続 し て 4 期 務 め て い る 。今 回 の 連 邦 議 会 選 挙 で も CPI(M)
が い ず れ の 選 挙 区 で も 次 点 の 会 議 派 候 補 に 50 万 票 あ ま り の 大 差 を つ け て 2 議 席 を 独 占 し
た (表 3.8)。 BJP も ほ と ん ど 票 を 伸 ば せ な か っ た 。
〔注〕
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
本 節 で は Election Commission of India の ウ ェ ブ サ イ ト 掲 載 デ ー タ , ア ジ ア 経 済 研 究 所
( 各 年 版 )お よ び 各 種 新 聞 報 道 の ほ か , オ デ ィ シ ャ 州 の 選 挙 分 析 を 行 っ た も の と し て お
も に 吉 田( 2001), 吉 田( 2006a), 上 田 ほ か( 2011), Das( 2014a; 2014b), Mohanty
and Ray( 2014) を 参 照 し て い る 。
本 節 で は Election Commission of India の ウ ェ ブ サ イ ト 掲 載 デ ー タ ,ア ジ ア 経 済 研 究 所( 各
年 版 )お よ び 各 種 新 聞 報 道 の ほ か ,ジ ャ ー ル カ ン ド 州 の 選 挙 分 析 を 行 っ た も の と し て お
も に 吉 田 ( 2006b) , 上 田 ほ か ( 2011) , Dayal( 2014) , Mahaprashasta( 2014) を 参 照
している。
本 節 で は Election Commission of India の ウ ェ ブ サ イ ト 掲 載 デ ー タ , ア ジ ア 経 済 研 究 所
( 各 年 版 )と 各 種 新 聞 報 道 の ほ か ,チ ャ ッ テ ィ ー ス ガ ル 州 の 選 挙 分 析 を 行 っ た も の と し
て お も に 上 田 ( 2006) , 上 田 ほ か ( 2011) , Saxena( 2014) , Tripathi( 2014) を 参 照
している。
本 節 で は Election Commission of India の ウ ェ ブ サ イ ト 掲 載 デ ー タ , ア ジ ア 経 済 研 究 所
( 各 年 版 )お よ び 各 種 新 聞 報 道 の ほ か , 西 ベ ン ガ ル 州 の 選 挙 分 析 を 行 っ た も の と し て お
も に 森 ( 2001a) , 井 上 ( 2006) , 上 田 ほ か ( 2011) , Chatterjee and Basu( 2014) ,
Chattopadhyay( 2014) を 参 照 し て い る 。
本 節 で は Election Commission of India の ウ ェ ブ サ イ ト 掲 載 デ ー タ ,ア ジ ア 経 済 研 究 所( 各
年版)と各種新聞報道のほか,アッサム州の選挙分析を行ったものとしておもに森
( 2001b),木 村・峯 島・詹( 2006),上 田 ほ か [2011],Sharma( 2014),Talukdar( 2014b)
を参照している
Illegal Migrants (Determination by Tribunals) Act (1983)。 不 法 移 民 の 認 定 と 送 還 に つ い て
ア ッ サ ム 州 の み に 適 用 さ れ て い た 法 律 で あ る 。 一 般 に は The Foreigners Act 1946 が 適 用
さ れ る 。な お ,同 法 が 憲 法 違 反 で あ る と 最 高 裁 に 訴 え た 人 物 は 全 ア ッ サ ム 学 生 組 合 委 員
長 か ら ア ッ サ ム 人 民 会 議 に 入 っ た S.ソ ノ ワ ル で あ り , 2011 年 に BJP に 移 っ て , 今 回 の
連邦下院選挙でも当選し,青年問題およびスポーツ大臣に任命されている。
本 節 で は Election Commission of India の ウ ェ ブ サ イ ト 掲 載 デ ー タ ,ア ジ ア 経 済 研 究 所( 各
年版)および各種新聞報道のほか,北東諸州の選挙分析を行ったものとしておもに森
( 2001b),井 上( 2001),木 村・峯 島・ 詹( 2006),峯 島( 2006),上 田 ほ か( 2011),
Talukdar( 2014a) を 参 照 し て い る 。
52
〔参考文献〕
<日本語文献>
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――― 2006a. 「オリッサ州:野党連合の「不戦敗」と中央の政治的動きを読み違えた選挙民」広瀬崇子・
南埜猛・井上恭子編『インド民主主義の変容』明石書店 231-238.
――― 2006b. 「ジャールカンド州:新州分離の意味を問われたインド人民党」広瀬崇子・南埜猛・井上
恭子編『インド民主主義の変容』明石書店 239-244.
広瀬崇子編 2001. 『10 億人の民主主義:インド全州,全政党の役割と第 13 回連邦下院選挙』御茶の
水書房。
広瀬崇子・南埜猛・井上恭子編 2006. 『インド民主主義の変容』明石書店。
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Tripathi, P. S. 2014. “Chhattisgarh: BJP Upbeat.” Frontline, April 18: 27-28.
<ウェブサイト>
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54