マーケットの底 流 を読 む 株式会社ジャパンエコノミックパルス Japan Economic Pulse Co., Ltd. 好循環持続を支援する交易条件改善 輸出財/輸入財の物価採算、01 年以来の好環境 日本では 2015 年にかけての脱デフレ・好循環「持 続的軌道入り」を支援する要因として、交易条件の 改善が注目されよう。国内生産での採算性を示す交 易条件(産出物価・輸出財/投入物価・輸入財)は 1999 年からの長期悪化に歯止めが掛かってきたほ か、前年比ベースの変化率比較では、2001 年以来の 採算改善となってきた。購買力平価見合いでの円安 と米国回復が輸出を下支えする一方、原油下落と原 発再稼働、法人税減税などが企業負担を軽減させる ことで、余裕資金を国内での賃金や設備投資に向か わせる。 交易条件指数、99 年以降の悪化から底離れ機運 「日本の自動車部品メーカー・タカタが製造した エアバッグの欠陥を巡る米国でのリコール問題は、 日本企業による海外生産一辺倒を見直すアリの一穴 となり得る」――。 国内金融機関の中堅幹部はこのような見通しを示 す。タカタは 1980 年代から海外進出を開始し、 「現 在では、日本を含むアジア、ヨーロッパ、南北アメ リカ、アフリカの 20 カ国に 50 を超える開発・生産・ 販売拠点を有する」(同社の会社案内)。 しかし、問題のエアバックは、2000 年代の前半か ら海外拠点を急増させていた時期に発生したものだ。 急激な海外展開に対し、現地での品質管理やチェッ ク体制、人材の確保・育成が追い付かず、 「企業の信 頼やブランド・イメージの長期維持という点で、日 本の本社から遠く離れた海外拠点で品質管理を徹底 させることの難しさとリスクを再認識させる」(同) ものとなった。 あくまでタカタは個別ケースとはいえ、日本の海 外現地生産の拡大は、現地での技術漏えいや模倣品 の横行などにつながり、日本の競争力低下の一因と なってきた。ドイツ企業は中国進出を活発化させて きたが、重要な中核部分はあくまでドイツや欧州周 辺国で生産し、輸出するというシステムを大きく変 えていない。日本もタカタの例のみならず、為替円 安や原油などの資源急落、法人税減税の具体化、原 発再稼働の機運といった六重苦、七重苦の修正とあ いまって、2015 年にかけては海外移転の歯止めと漸 進的な国内回帰が注目されそうだ。 すでに足元では円安・原油安の加速により、国内 での生産環境は一段と改善されている。最新 11 月段 階での日銀による製造業部門別投入・産出物価指数 (2005 年平均=100)では、 「仕入コスト」を表す投 入物価・輸入財が前年比+1.1%にとどまり(10 月 は+1.3%) 、2013 年 7 月から 12 月にかけての+18% [email protected] 2015/1/5 から+20%という大幅上昇からの急低下が示された。 一方で「販売コスト」を表す産出物価・輸出財は+ 7.8%となり(10 月は+4.3%)となり、5 月の-0.5% をボトムに上昇傾向にある。 結果、交易条件を示す「産出物価・輸出財の前年 比-投入物価・輸入財の前年比」は+6.8%となり、 前月の+3.0%からプラス幅を拡大させてきた。直近 最低である 2013 年 8 月の-8.1%から採算性の改善 が進んでおり、過去に輸出財が前年比プラスとなっ た時期でいえば、2001 年 12 月以来の大幅プラスを 回復している。この採算状況を示す輸出財/輸入財の 物価比較は、過去に企業収益や日経平均株価の動向 に 1 年程度の先行性を有してきた。1 年後となる 2015 年の年末にかけて、企業収益改善と株高のトレンド 持続を支援するものだ。 ちなみに 11 月段階で「産出物価の前年比-投入物 価の前年比」という採算性でプラス幅が大きい業種 は、鉄鋼の+4.2%、輸送機械の+2.4%、精密機械 の+1.3%、情報・通信機器の+1.1%、化学の+0.6%、 一般機械の+0.5%などとなっている。 また、輸出財指数を輸入財指数で割り、100 を掛 けた「交易条件指数」は 66.0(10 月は 63.7)とな って、昨年以降の 60 から 61 という過去最低レベル から底入れ機運が見られ始めた。同指数は 1999 年の 170 を直近ピークとして、長期崩落が定着。交易条 件の悪化は個別の企業努力を超えた競争力の低下や 海外移転の加速、円高・空洞化・賃金低迷という負 のデフレ連鎖を深刻化させてきた経緯がある。まだ 本格的な反転改善は尚早ながら、アベノミクスから 2 年の期間を経て、ようやく底入れから底離れの兆 候サインが点滅してきた。 物価 2%なら内外価格差による円高遮断 日本国内での生産コスト低減でいえば、資源エネ ルギー庁によると、原発停止と火力発電の増強に伴 う国内での燃料コスト増加分は、2012 年度が約 3.1 兆円、2013 年度が約 3.8 兆円の増加と試算されてき た。2015 年は 4 月の統一地方選が終了すると、芋づ る式に原発の再稼働が見込まれる。 また、夏場に 1 バレル=100 ドル近辺だった原油 相場が 50 ドル台へとほぼ半値近くに急落してきた ことで、政府試算によれば、原油 3 割安で輸入代金 が約 4.5 兆円、LNG(液化天然ガス)と合わせ約 6.7 兆円、消費税 3%減税分のリフレ効果があるとされ ている。 一方で自民党と公明党の与党は 30 日、2015 年度 の税制改正大綱を決定し、法人税の先行減税は「2 年間で 4200 億円規模」という方向となった。こうし た国内での各種負担軽減は企業に国内回帰を促し、 余裕資金を国内での設備投資や賃金に振り向けると いう「好連鎖の原資」を付与させている。 日本では円安でも輸出の低迷が続いているが、 2015 年は「円安 2 年のタイムラグ効果」や「米国経 済の回復」などを受けて、緩やかな持ち直しが期待 される。 為替相場のドル/円でも、12 月 23 日に 120.80 円前後までドルが反発(円が反落)してからは、 「国 内輸出企業によるドル戻り売り注文」がドルの上値 を抑え始めた。 ドル/円の物価格差面から算出される参考均衡レ ートである購買力平価は、1973 年基準の企業物価ベ ースで 10 月に 1 ドル=99.04 円となった(国際通貨 研究所の算出) 。2012 年 10 月の 95.64 円をボトムに ドル高・円安方向へと修正されており、底流トレン ドとしてのドル高・円安への基調転換が示されてい る。しかも足元で実勢のドル/円は 120 円前後で推移 しており、20 円近い円の過小評価へと移行してきた。 最近ではプラザ合意以前の 1984 年以来という、円 安・ドル高方向への乖離幅となっている。 日本では 1985 年のプラザ合意以降、購買力平価を 下回る実勢レートでのドル安・円高が常態化。実力 以上の円の過大評価が輸出競争力を蝕むとともに、 海外移転の拡大や負のデフレ・スパイラルを招いて いる。しかし、ここに来ての円の過大評価是正は、 これまでの円高・デフレの逆流反転による好循環の 軌道モメンタムを後押しさせていく。この点につい て日銀の黒田東彦総裁は、12 月 25 日の経団連講演 で「物価 2%目標を目指す意味」との関連から、以 下のような説明を行っている。 「為替相場の面で、他の主要国がグローバル・ス タンダードに基づいて毎年 2%程度の物価上昇を実 現する一方、わが国でデフレ状況が継続していたた め、趨勢的に円高が進行してきた。この点、米国と 同程度の緩やかな物価上昇が続く英国やカナダにお いては、物価上昇率の差を反映する購買力平価はほ ぼ一定であり、対ドルの為替相場もその周辺で推移 しているのと、極めて対照的であった」。 「もちろん、理論的には、企業の競争力には物価 上昇率の違いも加味した実質の為替相場が影響する ので、物価上昇率の差に見合った趨勢的な円高は問 題ではないという見方もある。しかし、企業にとっ ての内外コスト差は必ずしも物価全般の差ではない ので、そうした円高であっても、計画が立てづらく なるというのが現実感覚に合っているのではないか と思う。今後、2%の物価上昇率が実現すれば、少な くとも、内外価格差に起因する円高進行リスクは小 さくなる。つまり、為替レートがある程度安定して いることを前提に、経営資源の最適な配分という観 点から、グローバルな投資計画を立てられるように なると考えられる」――。 交易条件(左軸) 営業利益(右軸) 交易条件;産出物価の輸出財・前年比-投入物価の輸入財・前年比(1年先行) 全産業・営業利益の前年比(内閣府、1年遅行) 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 Jan-15 Jan-14 Jan-13 % 交易条件(左軸) 日経平均(右軸) 6,000 4,000 2,000 0 -2,000 -4,000 -6,000 ↑ 交易条件 改善 Jan-15 Jan-14 Jan-13 Jan-12 Jan-11 Jan-10 Jan-09 Jan-08 Jan-07 Jan-06 Jan-05 Jan-04 Jan-03 Jan-02 Jan-01 Jan-00 Jan-99 Jan-98 Jan-97 Jan-96 Jan-95 Jan-94 Jan-93 % Jan-12 交易条件;産出物価の輸出財・前年比-投入物価の輸入財・前年比(1年先行) 日経平均の前年比変化幅(月中高値ベース、1年遅行) 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 交易条件 改善 Jan-11 Jan-10 Jan-09 Jan-08 Jan-07 Jan-06 Jan-05 Jan-04 Jan-03 Jan-02 Jan-01 Jan-00 Jan-99 Jan-98 Jan-97 Jan-96 Jan-95 Jan-94 Jan-93 % 30 20 10 0 -10 -20 -30 ↑ 円 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提 供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させる ことは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありませ ん。また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を 負いません。本レポートの内容は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的とし たものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。
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