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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
p-ヂメチルアミノベンズアルデヒドによるインドール定量法の変法
―1 : トリクロル酢酸及び塩酸の影響
Author(s)
保田, 正人; 上田, 泰司; 山添, 義隆
Citation
長崎大学水産学部研究報告, v.7, pp.95-100; 1959
Issue Date
1958-10-31
URL
http://hdl.handle.net/10069/31898
Right
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P-ヂ メ チ ル ア ミ ノ ベ ン ズア ル デ ヒ ドに よ る
イ ン ドー ル 定 量 法 の 変 法ーI
トリ ク ロル 酢 酸 及 び 塩 酸 の 影 響
保 田 正人,上
Modified
with
The
Effect
Masato
Method
p-Dimethyl
of Trichloroacetic
YASUDA,
Taisi
田 泰 司,山
of
Indole
amino
添 義 隆
Determination
benzaldehyde—I
acid
UEDA and
and
Hydrochloric
Yoshitaka
acid
YAMAZOE
96
第1図 トリクロル酢酸添加による呈色の増強
(溶媒:水)
第2図 トリクロル酢酸添加による呈色の増強
(溶媒:メタノール)
α3 星gy曽5蚤同率線
O.3
呈㈱張同宰線
+50% +60落 †90% +770π
⋮ i ︷
+30Z +6’ O y. t90% +110%
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に達すると安定する.無添加の場合を基準とする添加による呈
色増強率は,・インドールとトリクロル酢酸の含量に密接な関係
があり,図の如く規則的な呈色増強同率線が得られ,最高は
4
1︵◎
0
g O・6 ib
α
4
一6
14
㈲増
σ
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開脚
醐欝
ム。・G lb
第3図 トリクロル酢酸添加時イン
ドール含量による呈色の変動
O,3
α6
ゥ0302
p5
llO%であった.一定の呈色強度を得る為に必要とするトリク
ロル酢酸の最低量はインドール含:量に支配され,10γ以下にお
いては1γ当り約50mgのトリクロル酢酸を必要とずる.インド
ール含量に対しトリクロル酢酸の必要量が満されている場合は
O.2
Ql
インドール含量と吸光度との間には良くBEERの法則が成立ナ
O
度増加率は徐々に低下するが,再びトリクロル酢酸含量:に従っ
て一定の直線関係が成立する.この場合トリクロル酢酸含量が
O.1
多い程吸光度線の低下は少く,0.7gを含有する場合にはインド
→ロ﹂
糾ワ量にかかわらず最高吸光度線に近接した吸光度線が得ら
・一一一
れた.これ等の関係は第3図に示した。
第4図 モノクロル酢酸及び酢酸添加
による呈色の変動
(2)モノクロル
酢酸及び酢酸に
o
をートリクロル酢酸添加量盆
る.必要量に不足する場合は,インドール含量増加による吸光
4 ’
W 12 t6
インドLル(t)一一}
よる影響
。.?
トリクロル酢酸による呈色増強と同様の現象がその近縁物
αて
/15r
質にも認められるか否かをみる為モノクロル酢酸及び酢酸
sr
後に示す最適発色条件をもつてトリクPル酢酸及びモノク
lo )t
L;.一一....r.====rrr:=’:/.一一.一一一. H一一一
についてメタノールを溶媒として検討した.その結果は第4
図の如くモノクロル酢酸では約15%の呈色増強を認めたが,
酢酸は無効であった.
ムー・IPレ
Pル酢酸を添加した場合の,呈色液の吸収曲線を求めると第
o
Y1.一H“一”“.L一一LM”” 8 dO
5図の如く,560mμに極大吸収を示し,無添加の場合の呈色
廊b濠中濃度〔%)一’
液と比較して両者とも差は殆んど認められなかった.この結
一:.モ」ワ1〕ル鰍渤u
一一一一 $│酸溢茄
果よりみると,この様な酸性物質の添加によって,呈色度の
97
無5図 呈色液の吸収曲線
強い別個の有色縮合物の形成される可能性は無い
と思われる。尚p−DMBA溶液自体の560mμにお
ける吸収は極めて僅少なものであった.
O.6
(3)塩酸による影響
p−DMB\は強酸性状態において発色するもので
あり,酸性化セこは一般に塩酸が使用されている。
然し塩酸使用量は定量法によってかなりの差が認
O.4
められるので,量的変動による影響を検討した。
一定濃度のインドールの50%メタノール溶液1
mlに,トリクロル酢酸のメタノール溶液4ml(含
量0.1∼O.6g)或はメタノール4mlを加え,更に濃
O.2
度を異にする塩酸と2%p−DMI3Aのメタノール溶
−戸し
s
液各1m1を加えて780。Cで3分加熱した場合には
N
N
N
N
第6図に示す結果を得た。即ち,塩酸濃度によっ
N
N
て呈色強度に著しい差を生ずるが,塩酸:量と呈色
0
強度の問には比例的関係は認められなかった.又
400 ・ 500 560 600
叛長伽芦)一→
1:トリクロル酢酸添加 2=モノクロル酢酸添加
33無添加4= 1’ 一ヂメチルァミノベンズァルデヒド
トリクロル酢酸添加量と呈色の強さとの関係1ま,
塩酸濃度が6N(12N−HCI O.5mlに相当)3N(ク
0.25ml)では前に示した9N(ク0.75m】)の場合とは一致しなかったe
塩酸添加:量による影響を系統的に検討する為,トリクロル酢酸0,8gを添加した場合と無添加の場合に
ついてインドール含量を異にする3種の試料を用い実験を行い第7図の結果を得た。この結果よりみると
トリクロル酢酸を添加した場合には6∼7Nの塩酸lml(12:N−HCI O、5∼0.6mlに相当)の添加によって最
強呈色が得られ,塩酸:量がこれを中心として増減するに従って呈色は急激に低下する.無添加の場合にも
第6図
トリクロル酢酸による呈色増強に
及ぼす塩酸の影響
第7図塩酸量による呈色の変動
O.4
O.4
O.5
(15ガ)
O.5
o.ろ
O.25
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一一一一:多 騙
98
同傾向をもつて呈色は増減するも,最強呈色を得る為に必要とする塩酸濃度は約5:N(12:N−HCI O.4ml)
に相当と低くなっている。トリクロル酢酸の呈色増強効果は第8図の如く,塩酸:量によって変動するが,
増強率の増減は呈色強度とは逆の関係となっており,約4
ty 5 N(クO.3一一〇,4un 1)で最低増強率を示している。
/
即ち増強率は塩酸量の増加と共に1:N以下(〃0.1m1)に
第8図 塩酸量によるトリクロル
酢酸増強率の変動
”o
おいて極大値を4∼5N(ク0.3∼0・,4ml)の問に極小値を
示し,更に増量によって増強率も上昇する。9N(i/・O.75
in1)以上ではインドール含量に関係なく増強率は塩酸量に
従って一定となるが,それ以下の濃度ではインドール含量
100
によって差を生じ,高含量:試料程増強率も高くなっている。
45r
以上の様な塩酸による影響は反応液中の塩酸濃度には関
係せず,絶対量に支配されるものである.即ち一定濃度の
sor
60
インドール溶液1皿1に12Nの塩酸0,5mlを添加し,メタノ
を変え(従って液量は7∼3mlの問で差を生ずる),これに
2%P−DMBA溶液1mlを加えて発色させた後,メタノー
ルにて8mlに容量を補正の上比色測定を行うと,第9図の
如くインドールの各濃度共反応液の塩酸濃度には関係なく
20 0
→i星色増強率2
ール及びトリクロル酢酸溶液を加えて反応寒中の塩酸濃度
5ガ
o.g
d ’ o.4 O.G
HC t ’bilsunS([1 2N] rnO r一:.:一“
(トリ7[1処画乍鹸0.82添加・)
比較的一致した吸光度が得られ是。
(4)P−DMBA量と加熱条件
トリクロル酢酸及び塩酸の添加量によって呈色の強さに著しい
第9図 反応液中の塩酸濃度に
よる呈色の変動
O,3
影響が現れるが,最強
15r
呈色の得られる量的条
件下でP−DMBAの最低
第10図p一ヂメチルアミノベンスア
ルデヒドによる呈色の変動
O.4
必要濃度を検討した。
P−DMBAが低濃:度の
O,2
lor
15V
行は比較的緩慢らしく,
安定した最強呈色を得
”一.一一一一一一一一一一一一一一一一 @10X
〆;二 蹟
場合には発色反応の進
ノ
’一一一一一一’一’一一一一一一一一一
@15V
O.」
る為には数分間の加熱
を必要とした。然し高
.O,1
5 if
_________一____一一一一一一一
Tガ
!ノ
濃度になると反応時間
ートじ
が短縮される傾向にあ
/1
I”
1or
O.2
る事を見出したので,
濃度と加熱時間を変え
。
2一一一
耳tN・}夜中日。{濃度(%)一一’→’
(12NHCl O」5mし澱カロ)
一 : トリワB)L酢酸誘}力□CO.B2〕
____:f 無添加
sx
て検討を行った.
一
トリクロル酢酸は
一
O.1
0,8g,塩酸は12Nで0.5
反応液全量を7m1加熱温度を80。Cとして測定を行い,第10図の
→一rL
m1に相当する量を加え
結果が得られた。即ち,加熱時間1分では安定な最強呈色を得
る為に必要とする濃度はかなり高くインドール含量によっても
差を生ずる。加熱2分では4%.3分差は2%の濃度で充分で
o
欝1瑚2ボd’ 811・
加㈱{≡i馨
P一ヂi劣t7ミパンX7Jげヒド量一→
あった。
加熱温度を変えた場合は,第ll図の如く低温程反応所要時間は長くなるが,4%濃度のものを用い80へ
翻
第11図 加熱条件差による呈色の変動【
99
躍900Cで反応させると, 2分間で安定した最強呈色が得ら
O.4
れた.
プ コ ロつくロロリ
!! ノ !”
! / !!
ノ ノ
, ! !
tsr
反応液の沸点は72∼730Cであるが,加熱に用いる湯浴
の温度は更に高温に保った場合反応が促進される.これは
ノ ! !
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’ ! !
’ ノ
’ ! ,
反応液を入れた試験管内温度の上昇に時間を要する為と考
’ ! ,
}! ,
O,3
5‘90k ’
ゴ ノ
え,加熱時管内温度の時間的変化を測定した.その結果は
ノ
75∼8Q℃!
第12図に示す.管内温度が60。C近辺となると小気泡の発
/,/
生が認められ,
toガ
/4働
一α
ーロレ
/蛾
一
O,2
’/㏄
/繭
4
60℃
反応液温の変動
進されるが,温
浴の温度が600C
80
遍浴一皮マ
75−80“C
ではこの状態に
es−90℃
達しない.75。C
Sr
ではこの状態ま
60
でに1分を要し
Go“c
た.更に沸騰点
に達するには,
75∼80。Cでは3
o
第12図 加熱条件差による
反応は著しく促
rt 3 4 5
分,85∼90JCで
P一,’・」5J・ア・脈ア・浴剛=揚舞
は2分を要した,
力日報}日吉間(mi11) 一一一←
が比較的良く一致する.低下率は10∼20%の範囲にあって,イ
ンドール
第13図 加熱後の放置による呈色の変動
濃度には
O,4
20
@ 0
放置してから測定すると,第Z3図の如く吸光度はやや低下する
→1区蒙温度ε
加熱発色直後
に比色を行うと一定の吸光度の得られない場合が多いが,暫時
40
1 2 5 4
5
カB第蟹}跨澗〔隅「曜)一一一ゆ
かならずしも比例しないが,一般に低濃程低下率が
tsr
大きくなる傾向を認めた.この結果よりみると加熱
第14図 常温発色による呈色の変動
O.3
O.5r
15ず
Ior
O,2
O,2
,ノ’一一鞘一一嚇一”t5 r(AO.A.C.ifiの謂藁使用)
t
Jr r
O,1
o.4 e
fl一︹仁
→P﹂
o
5r
1 2 3 4 5
放置勝闇(mjn)一→
6
o
1 5 5 7 10
灘用1随)一一→
30 5Q 70 100
100
回目発色はやや不安定なものの様に思われる。
p−DM:BAによる呈色はかならずしも加熱を必要とするものではなく,八. n. A. C.法,後藤法等では室
温において発色させている.本実験の条件下でも試薬添加後20秒ですでに呈色を認める事が出来るので,
室:温による呈色増強の時間的変動を追究し,第14図の結果を得た.反応初期3∼5分以内の呈色増強は比
較的急激であるが,以後緩慢となり,加熱時と比較すると50分では約75%の呈色強度を示した.然し150
分においても50分の場合よりは殆んど増強していない.叉常温発色によると呈色強度が一致しにくい欠点
をもつている.
比較の為A.O. A. C.法試薬によって常温で発色させた場合は, IO分以上の放置によって呈色は一定と
なるも,強度は加熱時の約70%にしか達しなかった。
考 察及び結論
p−DM:BAを呈色試薬とするインドP・一一一ルの発色は♪多くの因子に支配されるものである.発色に関与する
因子としてインドール含量,呈色試薬及び塩酸の量,加熱の時間及び温度が考えられる.これ等の条件の
個々の変動が呈色に影響を与えると共に,各因子相互間の関係も又呈色強度変動原因となっている.又ト
リクロル酢酸に呈色増強効果のある事を知ったが,これも又他の因子と密接な関聯性をもつものである.
呈色試薬の量は反応速度に関係し,加熱温度及び時間に影響を与える.
塩酸は絶対量が影響を与えるもので,反応忌中の濃度には関係しない.然し塩酸の絶対:量と呈色強度と
の問には比例的な関係が存在しない事よりみて,呈色強度の変化は単なる酸度の影響とは考えられない。
又トリクロル酢酸の呈色増強効果とも比例的関係はもたないが,塩酸の多:量添加によってインドールの含
量にかかわらず同率の増強効果を示す事は興味がもたれる。この条件下ではインドール含量とトリクロル
酢酸添加:量とゐ間には,かなり規則的な関係が認められ,叉呈色:増強効果はトリクロル酢酸0,79以上の
添加によって近似的に一致した.
トリクロル酢酸の呈色増強率は塩酸量に著しい影響をうけ, 140∼10%の広範囲にわたるが,最高七色
強度と最高呈色増強率とを得る為の条件は一致せず,心血を満足させる条件ではインドール含量によって
異るが5∼15γの範囲では30∼50%の:増強率となった。
モノクロル酢酸にも僅かながら増強効果を認めたが,酢酸は無効であった.従ってトリクロル酢酸のこ
の様な効果はかなり特異的なものらしいが,吸収曲線の比較からは特異な縮合物の形成も考えられず,そ
の反応面作については推測する事が出来なかった。
反応は常温でも進行するが,一定した呈色が得られにくく,呈色強度も比較的弱い.反応は沸点におい
て最も速に進行するが,その為には温浴の温度を85∼90。Cに保つ必要があり,この状態では2分以内に
最強の呈色が得られる.加熱発色直後の呈色はやや不安定であるが,常温に5分以上放置ずると呈色強度
はやや低下するも一定した価が得られた.
溶媒としてのメタノールは水と比較して呈色に関しては優れているが,一方水を溶媒として発色させた
場合の如く,クロロホルムによる色素の転溶濃縮は不可能である.
以上の結果を綜合して考えられる呈色の為の最適条件は,メタノールを溶媒とし試料液1m1にトリクロ
ル酢酸0.89,12Nの塩酸0,5mlと4%P−DMBA lmlを加えて全液量を7mlとし,80∼90。Cで2分以上加
熱ずる方法である.加熱後蒸発液量をメタノールによって補正し,5分以上室温に放置する事によって安
定した一定の値が得られるが,これらの条件中最も顕著な影響を与えるものは,トリクロル酢酸及び塩酸
の量:である事を知った。
終りに臨み御指導御校閲をいただいた本学部土屋出教授に深謝する.
文
献
1) Official mehods of analysis of A.O.A.C., 7th.・ Ed. 302 (1950)
2)厚生省:衛生検査指針,L94(1950)共同医書
3)後藤貞光=大阪医学会誌,37,2413(1938)