「係属」について 【問題提起】 「事件が特許庁に係属」している期間には,拒絶査定から審判請求までの間を 含むか。 (逐条解説 19 版 41 ページ) 【結論】 「事件が特許庁に係属」している期間では「特許庁が,当該事件の当事者に当該事 件について何らかのアクションを取ることができる」状態であることを要する,と解する から含まない。 【説明】 特許法 17 条には, 「事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることがで きる」と規定される。 ここで問題となるのは,係属の意味であるが,特許法の規定との関係上明確な定義は見 出せない。そこで考察するに,次の 2 点を明確にする必要がある。 (1) 事件とは何を意味するか。 (2) 特許庁に係属している場合とは,いつからいつまでか。 事件とは,対象としている手続であり,特許出願の場合や,審判請求の場合などがある。 特許出願の場合,特許出願が受理されると,その特許出願について,特許庁と出願人と の間で相互の手続が可能となる。厳密な意味では,出願の形態により異なるが,窓口提出 の場合は,受理と同時,電子出願はサーバへの格納完了,郵便であれば特許庁に到達した 時に係属と理解できる。なお,受理されないものは特許出願とはいえない。 特許庁に係属しなくなる時点は, ① 拒絶査定がなされ発送された時点 ② 特許査定がなされ発送された時点 ③ 審決がなされ発送された時点 ④ 手続の却下の決定が発送された時点 まだ発送されていない場合には,発送を止め,別の処分を行うことができるが,発送さ れると,その事件については特許庁から新たな処分をすることはできない。ここでの処分 は,補正命令や拒絶理由通知のような中間処分でなく,却下の決定や拒絶査定,特許査定 などの行政庁である特許庁が行う最終処分である。 中間処分であれば,例えば拒絶理由通知を発送した後に,出願人の手続の前後に関わり なく,更に拒絶理由通知を発送することも可能だからである。 以上を踏まえると,特許庁に係属とは, 「特許庁が,当該事件の当事者に当該事件につい て何らかのアクションを取ることができる間」といえる。 拒絶査定が発送されると,新たなアクションを取ることはできない。 往時は,特許庁からの最終処分の通知が相手方に送達された後でも「誤送取戻し」とい うアクションがあった。現在は,手続の公平性,透明性の観点から,この手続きは廃止さ れている。発送後,審査官が処分の誤りに気付いて,それが出願人に有利でも不利でも, 審査官としては何もできず,出願人が不服であれば上級審である審判を請求して拒絶査定 の取消しを求めることとなる。審判の場合も同様で,裁判を提起して審決の取消しを求め ることとなる。 この後,出願人が審判請求をすると,再度特許庁に係属することとなる。この場合は, 審判に係属ということもできる。 「特許庁に係属」には,拒絶査定謄本発送から審判請求書受理までの間は含まれない。 なぜなら,この間は,特許庁が,当該事件の当事者に何らかのアクションを取ることが できないからである。 審決書が発送されると,最早,審判官はいずれのアクションも取ることができないので 審判の係属が解除され,当然に特許庁に係属状態でもなくなる。 審判請求人が審決に不服の場合,知財高裁に訴えることができるが,この場合は,訴訟 に係属するので特許庁に係属ではない。知財高裁の判決又は決定で審決が取り消されると 再度特許庁に係属する再係属となる。 特許査定後に,出願人は登録料を納め,特許庁は登録原簿に登録するが,これは,別の 手続である登録料納付手続きが新たに特許庁に係属したものであり,登録処分の完了によ り係属は解除となる。 特許査定後の 30 日間は分割出願ができる(44 条)が,これは特許査定の事件が特許庁に 係属しているからではなく,別の事件である分割出願を制度として認めたものである。 審判請求後,審判請求時に補正書が提出されると前置審査に係る(162 条)が,この場合 は,審判請求を特別な規定により審査するのであるから,審査に係属ではなく,審判に係 属である。 以 上 260903
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