化学技術③ 『繊維技術フォーラム』

3PM-D05
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
湿潤時の布帛のべたつき感の評価方法の検討
神奈川県産業技術センター 化学技術部 加藤 三貴
1 はじめに
3.2 保水量に対する滑り抵抗の変化
クールビズは社会にすっかり定着している。クー
それぞれの布帛に対し給水量を変化させながら,
ルビズの商品群は吸水速乾性を謳っている商品が多
滑り抵抗を測定してみたところ,以下のような結果
いが,布帛(ふはく)が濡れた時の不快感の中心は
が得られた(図 1)。また,それぞれの滑り抵抗の
べたつき感であって,乾燥速度ではない。そこで,
最大値を示す時の給水量は,以下の表のような結果
湿潤時の布帛のべたつき感の評価方法を検討するこ
となった(表3)。
とにより検討を行った。昔から言われている,夏は
麻素材がいいと言うのは,主に材料の持つ熱伝導特
性と通気性が寄与している。しかし,今のクールビ
ズ素材は麻素材ではなく,ポリエステルなどの合成
繊維がよく用いられている。これは,水分移動に伴
う熱移動特性が涼しさのポイントとなるためである。
ところが,化学繊維は水に濡れると,皮膚との間で
べたつくため不快な繊維素材となってしまう。そこ
で,快適性評価の一部として,クールビズ素材のべ
たつき感の評価方法を検討することにした。
図 1 給水量に対する滑り抵抗の変化(織物②)
2 べたつき感の評価に用いた試料
べたつき感の評価に用いた試料を以下の表1に示す。
なお,布帛の重さと同じ量の水を含ませて,前腕部
を滑らせた時の官能評価についても併せて表記した。
表 1 試験対象試料
品名
厚さ(mm)
目付(g/m2)
官能評価
織物①
0.08
55.1
べたつく
織物②
0.21
143
ややべたつく
ニット①
0.51
170
べたつかない
表 3 最大滑り抵抗を示す給水量
品名
織物①
織物②
ニット①
最大滑り抵抗
を示す時の給
0.15
0.94
6.2
水量(mL)
4 まとめ
本報告は,クールビズに関する商品群のべたつき
感を実際の感覚に近い滑り抵抗の大小および,最大
滑り抵抗を示す給水量により評価する方法の検討結
果である。
3 べたつき感の評価方法
一般的に乾燥が早ければさらっとした感覚が得ら
3.1 定量吸水による滑り抵抗
べたつき感を評価する方法として,アクリル板に
れるのではないかという考えに合わない例もあるこ
布帛を置き,それに蒸留水を滴下して水平方向の滑
とが明らかとなった。いわば,布帛に水が残ってい
り抵抗をデジタルフォースゲージ(IMADA 社製,ZP-
てもすなわち重量として観測したとしても,その厚
200N)により測定した。その滑り抵抗を測定する条
さによる布帛中の給水保持量や皮膚との接触表面の
件は,昨年度の結果より,重なり面積が 150 cm を
形状などにより,快適感が異なることを示している。
最適条件とした。この評価での順番は官能評価と同
これは,皮膚との間の滑り抵抗が低くなるような布
傾向であった。
表 2 滑り抵抗の結果
帛の設計が重要であり,それにふさわしい評価方法
2
品名
滑り抵
抗(N)
が必要であると考えられる。
織物①
織物②
ニット①
11.2
8.1
2.6
3PM-D06
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
洗浄性・防汚性評価のための画像解析システム
横浜国立大学大学院
環境情報学府
横浜国立大学大学院
環境情報研究院
1.はじめに
洗浄試験において汚れを測定する方法には汚れを
○小島
大矢
裕也
勝
る。
3.1.3
色分布計算
抽出し、その量を測定する方法があるが、抽出法は
色分布計算では汚れのムラや色の均一性を調べる
薬品を使用するなど複雑な操作が必要であり、手間
ために、画像を用いて全ピクセルごとの Y 値を算出
がかかる。また簡易的に行う方法として側色色差計
して、度数分布表を表示する。
を用いて汚れを測定する方法も存在するが均一に汚
3.1.2
洗浄性評価
れたもののみ測定することが可能である。よって、
スポット状汚れや均一汚れなどについて洗浄性を
これらの方法では不均一な汚れやムラのある汚れを
評価することが可能であり、それぞれ以下の 3 つの
簡易的に測定することが難しい。そこで筆者らは、
画像を用いて行う。基質に汚れが付着していない状
画像処理を行い画像データから汚れを定量し測定す
態の画像、汚れ付着後の画像、汚れが付着し洗浄後
るアプリケーションの開発をし、不均一汚れやムラ
の画像、の 3 つを用いる。これらの画像を同様の画
汚れを含む汚れ量測定を行ってきた。今回、画像解
像サイズに切り取り、全ピクセルの K/S 値の総和を
析システムを改良し、汎用的に扱えるようにするた
算出し、洗浄率を求めることが可能である。ここで
め基質と同色系汚れに適応できるようにした。また
は布や金属基質や白色汚れなど基質と汚れ付着物の
この汚れとともに白色汚れ、金属光沢に対する汚れ
色に応じて色の反転などを行い、基質や付着物が同
の測定を利用して洗浄性評価や防汚性評価を簡易的
色系の場合、それに応じた補正を行う。これらの一
に行えるようにし、汎用的画像解析システムに改良
連の操作をアプリケーションにて簡易的に行うこと
したので報告する。
が可能である。
2.方法
3.1.3
2.1
アプリケーションの原理
防汚性評価
基質に対してコーティング剤や防水剤などを「未
アプリケーションで汚れ量を測定する手順につい
使用時の汚れ付着画像」、
「使用時の汚れ付着画像」
て説明する。まず 24 色から成るマクベスカラーチ
から使用前後の汚れ付着量を算出し、防汚性評価を
ェッカーを撮影し、撮影した画像から 24 色の RGB
行うことが可能である。使用前後を同条件で比較す
値を取得し、既知である各色 XYZ 値との関係式を重
る必要があるために洗浄性評価と同様にして画像切
回帰式から算出する。次に重回帰式を用いて試料画
り取りや基質とその付着汚れの色に応じて処理を行
像 1 ピクセル毎の RGB 値から XYZ 値を算出する。
う。使用前後の K/S 値を比較して、客観的に評価
Kubelka-Munk 式を用いて XYZ 値を表面反射率と
を行う。
して K/S 値を算出し、全ピクセルの K/S 値の和を汚
4.まとめ
れ量として用いる。この方法では撮影環境に関係な
本研究では汎用的なアプリケーションの開発とと
く汚れ測定を行うことができ、かつ簡易的に操作を
もに撮影装置を用いて画像解析システムを構築した。
することが可能である。
画像解析システムを用いて洗浄性、防汚性の評価を
3.アプリケーション説明
簡易的に行うことが可能である。これらの評価には
3.1
アプリケーションの各構成説明
3.1.1
簡易測色
画像データから 1 ドット毎の RGB 値と XYZ 値を
算出、あるいは範囲を指定して XYZ 値の平均を算出
得られる RGB 値を XYZ 値に変換し、汚れ量を表す
K/S 値を算出して用いている。また、布に対する汚
れや金属汚れ、濃色汚れや白色汚れ、スポット状汚
する。
3.1.2
マクベスカラーチェッカーを用いて画像データから
距離測定
画像の任意の 2 点を指定して、その距離を測定す
れや均一汚れ、基質と同色系統の汚れなど様々な汚
れについて適応可能であることを確認した。
3PM-D07
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
確率密度関数による洗浄力評価指標の開発
横浜国立大学 大学院環境情報研究院
横浜国立大学 大学院環境情報学府
○大矢
小島
勝
裕也
1. はじめに
洗浄剤、洗浄機器、洗浄方法などの洗浄分野の開発に
おいて、洗浄力評価は非常に重要であるが、JIS の洗濯
試験等に関する評価法では、異なる条件で洗浄した有色
の汚れ試料の除去性を視覚評価する手法が主体になって
いる。これは、汚れの除去性に及ぼす因子がきわめて多
く、その関係性も複雑であり、絶対値としての洗浄力を
求めることが困難であることが原因となっている。
そこで筆者らは汚れの除去能力を表す絶対的指標の確
立を目指して研究を行ってきた。洗浄力を示す指標とし
ては、化学反応速度論の速度定数を用いるのが理論的に
は整合性があり、
古くから種々の研究が行われてきたが、
有効な手法は確立されていなかった。本研究では、汚れ
の付着力と洗浄作用(1次反応の速度定数に相当)の双
方が正規分布に従うと仮定し、確率密度関数を用いた解
析方法を開発してきたので発表する。
汚れには界面活性剤濃度を高める効果があまり見られな
いことが分かった。
2. 方 法
汚染布としては、固体粒子汚れとしてカーボンブラッ
クと酸化鉄(Ⅲ)
、油汚れとして各種油性染料、水溶性汚
れとして各種直接染料と酸性染料を用い、木綿カナキン
に付着させた。表面反射率を測定して、クベルカムンク
式の K/S 値を求めて、汚れの質量単位での洗浄率に相当
する洗浄率を求めた。
洗浄試験はターゴトメータを用い、撹拌速度、界面活
性剤の種類(SDS、AE、CTAB)
、界面活性剤濃度、温
度等を変化させて洗浄試験を行った。1単位の洗浄は5
分間とし、4回の繰り返し洗浄を行って、その間の洗浄
率の変化を求めた。
汚れの付着力の分布を基準として、洗浄作用の分布の
標準偏差をσRL、平均値μRL の正規分布と仮定し、その
洗浄作用の累積曲線×汚れの付着力分布を 1 単位の汚れ
の除去量と仮定し、シミュレーション計算で両パラメー
タを求めた。
Table2 Effect of Factors on Removal
3. 結果および考察
3.1 汚れの種類がσRL に及ぼす影響
汚れの種類によってσRL に差が生じ、固体粒子汚れ<
水溶性汚れ<油性汚れの順となった。これは、時間とと
もに洗浄率の上昇する度合いを示しており、油性汚れは
時間をかければそれだけ洗浄率が高まるが、カーボンブ
ラックのような固体汚れは時間をかけても洗浄率はあま
り増大しないことを示している。
3.2 各種洗浄条件の影響
撹拌力、温度、界面活性剤濃度の影響について検討し
た結果、固体汚れには撹拌力が、水溶性汚れには温度の
効果が大きいことが明らかになった(Table 2)。また固体
Table1 σRL and μRL obtained for different soils
(0.3% SDS solution, Terg-O-Tometer)
σRL (fix) 80 rpm 120 rpm 140 rpm 160 rpm
0.05
0.131
0.417
0.558
0.602
0.2
0.334
0.633
0.738
0.793
0.4
-0.801
-0.351
-0.266
-0.175
0.5
-0.677
-0.666
-0.631
-0.616
0.5
-0.950
-0.829
-0.845
-0.821
0.7
0.554
0.677
0.724
0.706
0.9
-1.110
-1.101
-0.889
-0.874
1.0
-0.870
-0.615
-0.553
-0.417
1.1
-1.110
-1.043
-0.958
-0.966
1.2
-0.388
-0.115
-0.031
0.090
1.5
-0.569
-0.103
0.086
0.202
carbon black
mixed soil
Iron(III) oxide
Direct Red 89
Direct Red 81
Fast Red A
Direct Red 79
Sudan IV
Oil Red O
Sudan III
Sudan R
factor
agitation
temperature
SDS
surfactant
AE
Conc.
CTAB
oily
(dye)
△
△
◎
○
◎
water
particulate
soluble
△
◎
◎
△
×
×
◎
×
○
×
Effective = Increase in μRL or σRL
3.3 加算則成立の可能性
界面活性剤の濃度の効果と撹拌効果の 2 つの条件によ
るμRL の変化量について検討した結果、Fig.1 のように
加算則が成立した。この結果より、基礎データの収集と
少数の洗浄試験結果を得ることによって、未知の条件で
の洗浄率を求めることができる可能性が示唆された。
80rpm・1.5g/L
+0.20
120rpm・1.5g/L
+0.53
80rpm・3.0g/L
80rpm・1.5g/L
+0.73
+0.31
120rpm・3.0g/L
140rpm・1.5g/L
+0.94
80rpm・6.0g/L
+1.24
140rpm・6.0g/L
Fig.1 Variation in μRL under the different agitation
and surfactant concentration