HILIC-MS/MS を用いた 4 種の抗インフルエンザウイルス薬の同時分析

HILIC-MS/MS を用いた 4 種の抗インフルエンザウイルス薬の同時分析
大阪産業大学工学部
○高浪 龍平、谷口 省吾、林 新太郎、尾崎 博明
HILIC-tandem mass spectrometry for quantification of Influenza antivirus drugs, by Ryohei TAKANAMI, Shogo TANIGUCHI,
Shintarou HAYASHI, Hiroaki OZAKI (Dept. of Civil Eng. /Osaka Sangyo Univ.)
1. はじめに
身近な流行性の疾病であるインフルエンザは、耐性ウイル
スや新型ウイルスによる深刻な流行(パンデミック)が危惧
されており、耐性化の助長が懸念される抗インフルエンザウ
イルス薬の環境中挙動を把握することは重要である。また、
抗インフルエンザウイルス薬は両性化合物を含み、分析の際
は逆相カラムで保持されないか保持された場合でもシャープ
なピークが得られない問題がある。
本研究では、4 種の抗インフルエンザウイルス薬について
HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)-MS/MS を用
いた同時分析を試み、3 種の分析カラムについて検討した。
2. 対象物質および分析方法
対象物質はタミフル(OP:Oseltamivir Phosphate)、タミフ
ル代謝物(OC:Oseltamivir Carboxylate)、イナビル(LO:
Laninamivir Octanoate)、イナビル代謝物(LR:Laninamivir)、
リレンザ(ZH:Zanamivir Hydrate)およびラピアクタ(PH:
Peramivir Hydrate)とし、これらの標準物質は Toronto Research
Chemicals 製を用いた。
分析は LC/MS/MS で行った。LC は Waters 製 ACQUITY
UPLC を用い、分析カラムは A-HILIC カラム(Waters 製
ACQUITY UPLC BEH HILIC)、C-HILIC カラム(Waters 製
CORTECS UPLC HILIC)および A-Amide カラム(Waters 製
ACQUITY UPLC BEH Amide)の 3 種について検討した。移動
相は 10mM ギ酸アンモニウムバッファー(pH3)および 10mM
酢酸アンモニウムバッファー(pH5)を添加したアセトニトリ
ルおよび精製水を用い、移動相におけるアセトニトリルの割
合が 95%から 50%となるようにグラジエントさせた。試料の
注入量は 1μl とし、流量は 0.7ml/min、カラムオーブンの温
度は 30℃とした。MS/MS は Waters 製 ACQUITY TQD を用
い、ESI+モードでイオン化させ、MRM モードで測定を行っ
た。対象物質のモニターイオンはそれぞれ、OP:313.1>225.1、
OC:285.1>197.1、LO:473.2>60.0、LR:347.0>60.0、ZH:
333.0>60.0、PH:329.1>100.1 である。
図1
分析カラム別のクロマトグラム(pH3)
(①OP のピーク、②LO のピーク、③PH のピーク、
④OC のピーク、⑤LR のピーク、⑥ZH のピーク)
3. 分析結果および考察
標準物質混合溶液(200μg/l)を 1μl 注入した際の分析カ
ラム別のクロマトグラムを図 1、2 に示す。なお、非保持時間
(t0)は 0.45min であった。ギ酸アンモニウムバッファーを添
加した移動相(pH3)では、A-Amide カラムにおいて 6 対象
物質すべてが分離されたが、A-HILIC および C-HILIC におい
てはピークの重複がみられた。酢酸アンモニウムバッファー
を添加した移動相(pH5)では、すべてのカラムにおいてピー
ク重複がみられ、A-Amide カラムにおいては OP の保持が弱
く t0 の直後にピークが現れ、ピークが 2 つに分かれた。
分離カラムおよび移動相別の対象物質のピーク面積を表 1
に示す。酢酸アンモニウムバッファーを添加した移動相(pH5)
においてピーク面積が大きく、酢酸アンモニウムによりイオ
ン化効率が向上した。また、ピークの重複はあるものの MRM
測定により 6 対象物質すべての分析は可能であった。
これより、LC/MS/MS による抗インフルエンザウイルス薬
の同時分析には、移動相として酢酸アンモニウムバッファー
を用い、分析カラムとして C-HILIC カラムを用いることによ
り高感度分析が可能であるといえる。
図2
分析カラム別のクロマトグラム(pH5)
(①OP のピーク、②LO のピーク、③PH のピーク、
④OC のピーク、⑤LR のピーク、⑥ZH のピーク)
表1
対象物質のピーク面積(n=3)
pH3
A-HILIC
pH5
C-HILIC
A-Amide
A-HILIC
C-HILIC
A-Amide
①OP
565
438
1,410
10,473
22,418
10,890
②LO
1,324
1,363
1,942
5,881
7,098
5,947
③PH
795
1,184
1,160
24,204
16,520
7,629
④OC
259
203
288
4,397
8,482
1,240
⑤LR
990
1,052
980
18,591
48,103
14,789
⑥ZH
840
873
692
33,669
70,944
29,204
なお、本研究の一部は文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業
(平成 24 年度~平成 28 年度)の一環として行ったものである。