(様式) 論文内容の要旨 氏 名 大 前 洸 斗 本論文は、近年注目を集めて

(様式)
論文内容の要旨
氏
名
大
前
洸
斗
本論文は、近年注目を集めている半導体スピントロニクスの実現を目的とした InP 基板上
への室温強磁性材料 Mn-doped ZnSnAs2(ZnSnAs2:Mn)と閃亜鉛鉱型 MnAs(zb-MnAs)のヘテ
ロエピタキシャル成長に関する研究をまとめたものである。半導体スピントロニクスでは電
界効果トランジスタにおいて2次元チャネル中をスピン偏極したキャリアが走行するスピン
トランジスタの作製をゴールのひとつにおいている。この2次元チャネルは Datta と Das に
より提案されたものであるが InAlAs と InGaAs のヘテロ界面を想定している。InAlAs と InG
aAs は InP 基板と格子整合するためスピントランジスタは InP 基板上で実現するものと予想
される。スピン偏極キャリアは強磁性ソース電極から注入され、強磁性ドレイン電極でスピ
ンの向きを検出される。この電極として ZnSnAs2:Mn と閃亜鉛鉱型 MnAs は有望な材料である。
それ故に、InP 基板上に強磁性体を成長する意義は非常に大きい。
第1章では、序章として本研究の背景と目的を述べる。まず半導体スピントロニクスの研
究背景を述べ、その後、希薄磁性半導体 ZnSnAs2:Mn とハーフメタリック強磁性と予測されて
いる zb-MnAs について、これまで報告されている物性について紹介する。この2つの材料の
キュリー温度は室温以上であるため実用の面で有望な材料と考えられる。しかし ZnSnAs2:Mn
については基礎物性についての報告が十分ではなく応用についての報告も少ない。zb-MnAs
については GaAs 基板上では数件の作製報告があるものの InP 基板上では存在しない。本研究
では、InP(001)基板上に ZnSnAs2:Mn 薄膜を分子線エピタキシー(MBE)法により作製し、結
晶構造、磁気特性、電気的特性、応用としての巨大磁気抵抗効果について調べることを目的
とした。zb-MnAs については MBE 法を用いて InP(001)基板上に zb-MnAs 薄膜を作製すること
を目的とした。
第2章では、試料の結晶成長で用いた MBE 法の概要、X 線回折法による結晶構造評価、ホ
ール測定による磁気輸送測定について、基本的な原理と測定方法について記述した。
第3章では、ZnSnAs2:Mn 薄膜の結晶成長と構造特性について述べる。Mn 濃度の増加ととも
に結晶欠陥が導入されること、Mn 濃度が 10%を超えると強磁性金属である NiAs 型六方晶 MnA
s が析出することを明らかとした。
第4章では、ZnSnAs2:Mn 薄膜の磁気輸送特性について述べる。ZnSnAs2:Mn において初めて
異常ホール効果を観測した。また磁気抵抗効果について議論した。これにより ZnSnAs2:Mn の
磁性とキャリアの伝導が相互作用しており、伝導キャリアがスピン偏極していることが明ら
かとなった。
第5章では、MnAs/ZnSnAs2/ZnSnAs2:Mn の積層構造を InP(001)基板上に作製した。この試
料をウェットエッチングで加工して磁気抵抗効果を測定した。その結果、巨大磁気抵抗(GM
R)効果が ZnSnAs2:Mn 層を用いた構造で初めて観測された。これによりスピン偏極キャリア
を注入および検出するための電極としてデバイス応用できる可能性が明らかとなった。
第6章では、InP(001)基板上への zb-MnAs 薄膜の作製、構造特性、磁気特性について記述
する。成長温度、成長後の熱処理での結晶構造の変化を明らかとした。これにより InP 基板
上で zb-MnAs 薄膜を作製できることが明らかになった。
第7章では、本研究全体の総括を述べる。本研究により、MBE 法による InP(001)基板上で
の ZnSnAs2:Mn の半導体スピントロニクス応用の可能性が示された。特に異常ホール効果の観
測による磁性と伝導の相互作用が示したこと、巨大磁気抵抗効果が観測されたことは大きい。
ZnSnAs2:Mn のカチオンサイトに対する Mn 濃度を 100%にした zb-MnAs が InP 基板上で作製で
きる可能性を示したことは、ハーフメタリック材料を InP 基板上で作製できることを示して
いる。これは Datta-Das 型スピントランジスタを実現させるとき、高効率のスピン注入が実
現できることを示しており、InP 基板上でのスピントロニクスが期待できる。