1 第 15 章の補足資料 良い税の条件 一般的な条件として、①公平、②

第 15 章の補足資料
良い税の条件
一般的な条件として、①公平、②中立、③簡素、④景気の影響を受けにくい、の四
点があげられる。ただし政府は同時に複数の税を課すことができるので、個々の税が
すべての条件を満たしている必要はなく、税体系全体としてできる限りこれらの条件
に近づけてゆけばよい。
税制度と景気循環
図表 1
税
額
累進税と逆進税
累進税
比例的
逆進税
所得
課
税
後
所
得
逆進税
比例的
累進税
所得
1
図表 2
課税方式と消費関数
(b)逆進税の下での消費関数
(a)累進税の下での消費関数
消
費
45°線
消
費
45°線
a
a
b
b
Y1
Y0
GDP
Y1
Y0
GDP
所得に比例的な税制の下での GDP(課税前所得)と消費の関係が図表 2 の太い点線
のようだとしよう。GDP が Y0 のときの税収が同一になることを条件として、税制を
累進的なものに切り替えた場合、GDP と消費の関係はパネル(a)の太い実線のよう
になる。同じ条件の下で逆進的な税制を採用し場合、GDP と消費の関係はパネル(a)
の太い実線のようになる。
いま、何らかの理由で GDP(生産量)が Y0 から Y1 に下落したとしよう。パネル(a)
ではパネル(b)に比べて Y1 に対応する消費額が多く、消費と生産のギャップ(線分
ab の長さ)が大きい。したがって、パネル(a)の方が生産量の調整が迅速に進み、
その分だけ景気が安定しやすくなる。所得の増減と同じ方向に徴税額が増減する限り、
逆進的な税制であっても景気の自動安定化装置(ビルトイン・スタビライザー)の役
割を果たすが、累進型の税制の下ではその効果がとりわけ強くなる。
2
図表 2
日本の所得税と個人住民税のしくみ
(注)個人住民税には都道府県税と市町村税が含まれる。
(出所)財務省ホームページ(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/033.htm)
。
3
日本の主要税制
日本の基幹的な税制は、所得税、法人税、消費税の三つである。所得税と法人税は
消費税に比べて景気の安定化装置としての効果が大きいが、その分だけ税収が不安定
である。1990 年代以降にこれら二税の税収が伸び悩んでいるのは、日本経済が低迷し
たこと、そして景気対策としてくりかえし減税が行われてきたことによるものである。
図表 3
30
25
基幹三税の税収の推移
(兆円)
所得税
法人税
20
消費税
15
10
5
0
(出所)財務省統計をもとに作成。
減税は税率そのものの変更の形をとることもあるが、所得控除や税額控除の拡大を
通じて行われることもある。所得控除とは現実の所得からさまざまな名目で一定の金
額を差し引き(=控除し)、税額算定の基礎となる課税所得を減額するものである。
税額控除とは、そうして計算した課税所得をもとにいったん税額を算出した上で、さ
まざまな名目の下で一定の金額を差し引き、最終的な徴税額を減額するものである。
控除をむやみに増やすことは税制を複雑化させ、税の空洞化を引き起こす。
テキスト 442 ページに書かれているように、政府の財政収支が常に均衡している必
要はない。しかし政府支出の中には景気に関係なく支払わねばならないものが多く、
税収総額が景気に左右されすぎるのも好ましくない(先の良い税制の条件④)。消費
税は景気の影響を受けにくい消費額が課税ベースであるため、所得税や法人税に比べ
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て税収が安定している。また、消費税は経済活動への影響が比較的小さく(中立的)、
所得税や法人税に比べて簡素で徴税コストが小さいというメリットもある。過去四半
世紀余りの間に多くの先進諸国が所得税や法人税中心の税体系から付加価値税中心
の税体系に移行したのは、こうした事情を考慮したものである。
図表 4 は、中央政府の一般会計歳出の内訳を示したものである。かつては裁量の余
地が大きい公共事業等が比較的大きなシェアを占めていたが、近年、社会保障費と国
債費の拡大によって財政の硬直化が進んでいる。社会保障費(年金や医療費など)は
本来それぞれの基金によって賄われるべきものだが、今日の日本では一般会計を通じ
た巨額の補填が行われている。今後高齢化が進む中、一般会計歳出に占める社会保障
関係費の比率はいっそう上昇する可能性が高い。また、すでに国債発行残高が巨額に
上っていることを考えると、国債費(償還費用と利払い費)の比率も増加してゆくこ
とが確実である。
図表 4
一般会計歳出の内訳の推移
100%
90%
80%
70%
公共事業関係費
60%
その他
50%
社会保障関係費
40%
地方交付税等
30%
国債費
20%
10%
0%
1960
1970
1980
1990
2000
2013
(出所)財務省統計をもとに作成。
財政の維持可能性とプライマリー・バランス
テキスト 445 ページには、「プライマリー・バランスが均衡していれば、成長率が
金利よりも高い限りは、政府債務の対 GDP 比率は次第に縮小していきます。しかし、
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もし金利が経済成長率よりも高ければ、プライマリー・バランスを黒字にしない限り、
債務の対 GDP 比率を下げてゆくことはできません」と書かれている。以下でこの命
題を数式を用いて証明してみよう。
まず、政府の債務残高を B、毎年の税収を T、債務の利払い以外の歳出を G、金利
(国債の利回り)を r と書く。また、いずれの変数に関しても、前年の値には右下に
-1 をつけて区別することにする。
昨年末から今年末にかけての政府債務の増減額は、債務の利払いを含む歳出から税
収を引いた値に等しいから、
B  B1  rB1  G  T
(1)
である。
GDP を Y と書く。(1)式のすべての項を Y で割ると
B
B B1
G T

 r 1 
Y Y
Y
Y
(2)
となる。Y-1(昨年の GDP)を用いて左辺の二番目の項と右辺の最初の項を書き換え、
Y B
B Y1 B1
G T

 r 1 1 
Y Y Y1
Y Y1
Y
(3)
とする。さらに左辺の第二項を右辺に移項すると
Y B
B
G T
 1  r  1 1 
Y
Y Y1
Y
(4)
となる。最後に、(4)式の両辺から昨年の債務残高の対 GDP 比率を引くと、
Y B
B
Y
B B1
G T 
G T
B

 1  r  1 1  1 
 1  r  1  1 1 
Y Y1
Y Y1 Y1
Y
Y
Y

 Y1
(5)
となる。
この国の名目 GDP の成長率が g だとしよう。すなわち
Y
Y
1
 1  g  1 
Y1
Y 1 g
(6)
である。この式を(5)式の最右辺に代入すると、
6
B B1  1  r  B1 G  T r  g B1 G  T


 1



Y Y1  1  g  Y1
Y
1  g Y1
Y
(7)
となる。g の値があまり大きくない限り、最右辺の (r  g ) / (1  g ) はほぼ r  g と等しい
から1、この式を以下のように書き換えることができる。
B
B B1
G T

  r  g  1 
Y Y1
Y1
Y
(8)
これが先の命題を表す式である。
(8)式の左辺は、政府債務の対 GDP 比率の前年からの増減を表している。右辺を見
ると、それが二つの要因によって決まることが分かる。右辺の第一項は過去の借金の
利払いよる負債の増加分であり、金利が名目経済成長率より高いときに正の値をとる。
第二項はプライマリー・バランスの GDP に対する比率を表し、利払い以外の歳出が
税収を上回ってプライマリー・バランスが赤字になると正の値をとる。
テキストに書かれているように、プライマリー・バランスが均衡し、右辺の第二項
が 0 のとき、経済成長率が金利より高い限り、政府債務の対 GDP 比率は減少する。
これは経済成長による分母(Y)の増加が利払いによる分子(B)の増加より速いため
である。
一方、金利が経済成長率より高い場合、第一項は正の値をとる。この場合、第二項
のプライマリー・バランスが均衡するだけでは左辺の値を安定させるには不十分であ
り、それが十分に大きな黒字になる必要がある。この条件が満たされない限り、右辺
全体の値が 0 を上回り、政府債務の対 GDP 比率は上昇してゆく。
日本の政府財政の維持可能性
(8)式をもとに、日本政府が財政破綻を免れるための条件を考えてみよう。今日の日
本の B と Y の値はおおよそ 1,000 兆円と 500 兆円であり、B-1/Y-1 と B/Y は約 2 だと
考えてよい。金利を 10 年もの国債の利回りを用いて測ることにすると、過去 20 年間
の r  g の平均値は約 2%である(図表 5)。これらのことから、政府債務の対 GDP 比
率の上昇を食い止めるためには、プライマリー・バランスを対 GDP 比率で 2%×2=
4%以上の黒字にしなくてはならないことが分かる。
1
以下で見るように、過去 20 年間の日本の r の平均値はほぼ 0.02(2%)
、g の平均値はほぼ
ゼロだった。そのときの r  g と (r  g ) / (1  g ) はそれぞれ 0.02 と 0.0196 である。
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図表 5
10
日本の名目経済成長率と金利の推移
(%)
名目経済成長率
8
金利
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
(注)名目経済成長率は名目 GDP の対前年変化率。金利は 10 年物国債の総合利回り。
(出所)内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算」および財務省統計をもとに作成。
しかしここ数年、実際のプライマリー・バランスの対 GDP 比率は 6%強の赤字で推
移している。この状態から上記の条件を達成するためには、財政収支の対 GDP 比率
を 10%前後も改善させる必要がある。しかしそれに必要な金額はおよそ 500 兆円×
10%=50 兆円であり、これは近年の中央政府の一年間の税収総額を大幅に上回ってい
る。プライマリー・バランスを改善させる方法には税収増と支出削減があるが、これ
ほどの金額を増税によって手当てすることが難しいとすると、相当額の支出削減も必
要となる。しかし上述のように今日の一般会計歳出の中には放っておくとどんどん膨
れ上がるものが含まれており、削減どころか、膨張を食い止めることすら覚束ない状
況にある。一般会計とは独立して管理されている特別会計の中にも、潜在的な債務を
抱えているものや、将来の収支に不安が持たれているものが存在する。
より重要な点として、今後の日本では高齢化によって労働人口が減少してゆくから、
名目経済成長率 g はこれまで以上に伸び悩む(かマイナスになる)可能性が高い2。
これらのことを考慮すると、日本政府が財政破綻を免れることはきわめて難しいと考
えられる。
2
実質経済成長率がマイナスでも物価上昇率が十分に大きければ g は正値になる。しかしイ
ンフレ率の上昇は g だけでなく r の値も引き上げるため、問題の解決にはならない。インフ
レ率と金利の関係に関しては、テキストの 414 ページを参照。
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