卒業論文 分解した近傍銀河における星形成則の研究 照屋なぎさ 名古屋大学理学部物理学科 宇宙論研究室 2014/03/24 1 目次 第1章 1.1 1.2 Introduction Galaxy . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Galaxy Morphological Classification . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 第2章 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 Observational Data and Facilities GALEX . . . . . . . . . . . . . . . Herschel . . . . . . . . . . . . . . . SDSS . . . . . . . . . . . . . . . . 2MASS . . . . . . . . . . . . . . . Sample . . . . . . . . . . . . . . . Data Processing . . . . . . . . . . . 2.6.1 Gaussian Convolution . . . 2.6.2 Regrid . . . . . . . . . . . . 第3章 3.1 3.2 Application to Sample Stellar Mass . . . . . . . . . Star Formation Rate . . . . . 3.2.1 Luminosity . . . . . 3.2.2 Luminosity Distance 第4章 4.1 4.2 2 2 3 . . . . . . . . 4 4 5 6 7 9 9 10 11 . . . . 14 14 14 15 17 Results and Discussions Correlation between LTIR and LSPIRE . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Relation between Σ M∗ and ΣSFR . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 20 22 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Acknowledgement 29 Reference 30 2 第 1 章 Introduction 1.1 Galaxy 銀河の進化を探る上で,星形成に関わる量を正確に評価することは非常に重要である. 単位時間あたりに作られた星の総質量を星形成率 (star formation rate; SFR) という.通常 は,単位時間を1年とし,星の質量の単位として太陽質量を採用する.したがって,SFR の単位は M⊙ yr−1 である. 銀河の星形成を知るためには,寿命の短い大質量星 (寿命 106−8 yr) が良い指標となる1 . この大質量星は,紫外線領域にピークを持つ光を放射する.そのため,初期質量関数 (IMF) を仮定することにより,観測された紫外線量からその領域の大質量星の数を推測すること ができる.よって,紫外線量から銀河の星形成がどのぐらい活発に行われているのかを調 べる事ができるのである. では,紫外線のみで星形成率を正しく推定できるのかというと,そう簡単にはいかな い.星形成を活発に行っている領域ではダストと呼ばれる 1 µm 以下の固体微粒子が形成 されており,そのダストが紫外線を吸収し遠赤外線で再放射してしまう.そのため,紫外 線の観測のみから見積もってしまうと,星形成を過小評価してしまう可能性がある.それ を避けるため,本研究では紫外線と遠赤外線の両方から見積もった星形成を探っていく. さらに本研究では,銀河を空間分解して解析を行っている.これにより,銀河の構成要 素 (核,バルジ,渦状腕,ディスク等) ごとの星形成の様子を見る事ができるようになる と期待できる. 図 1.1: Dust に吸収された紫外線が遠赤外線を放射する様子. (現在見えている寿命の短い大質量星の数)=(106−8 年前から現在までに出来た大質量星の数).こ れに初期質量関数などを仮定することにより,星形成率を推測することができる. 1 1.2. Galaxy Morphological Classification 3 1.2 Galaxy Morphological Classification 銀河の形態分類は,主として可視光での見た目に基づいて銀河をいくつかのグループに 分類するシステムである. 本研究では,ド・ボークルール分類を採用した.ド・ボークルールの分類法では,銀河 を楕円,レンズ状,渦巻き,不規則に分類するハッブル分類に加え,さらに複雑な分類法 を追加している. 例えば,弱い棒をもつ渦巻き銀河2 のことを ‘SAB’ として分類したのが大きな特徴の一 つである. 図 1.2: ド・ボークルールの分類法 (http://www.ipac.caltech.edu/2mass/gallery/ galmorph/). 2 心の目で見れば分かるらしい. 4 第 2 章 Observational Data and Facilities 本研究では,紫外線,赤外線,紫外線の撮像観測のデータを用いて解析を行った.使用 した観測プロジェクトは,GALEX,Herschel,SDSS,2MASS の四つである.この章で は,それぞれの特徴と性能を紹介する. 2.1 GALEX Galaxy Evolution Explorer (GALEX) は,2003 年 4 月 28 日に打ち上げられた the National Aeronautics and Space Administration (NASA) の紫外線宇宙望遠鏡である.GALEX は FUV (λeff = 1539 Å,∆λ = 442 Å) と NUV (λeff = 2316 Å,∆λ = 1069 Å) の 2 つのバンドで全天 観測を行っている. 図 2.1: GALEX のイメージ (http://www.galex.caltech.edu/). 2.2. Herschel 5 図 2.2: GALEX のフィルターレスポンス関数 (Morrissey et al.,2004) . 2.2 Herschel Herschel Space Observatory とは,欧州宇宙機関 (European Space Agency) により 2009 年 5 月 14 日に打ち上げられた赤外線宇宙望遠鏡である (Pilbratt et al. 2010).Herschel の主な 観測機器は PACS,SPIRE,HIFI の3つであり,我々は SPIRE のデータを使用する. SPIRE (Spectral and Photometric Imaging Receiver) は,1 カメラと低分解能の分光器で 94– 672 µm の波長に対応する.分光器の分解能は 250 µm の波長において 40 から 1000 でおよ そ 100–500 mJy の輝度の点光源を撮影できる.点光源の検出器度は 2 mJy を下限とし,4 から 9 mJy までである. 図 2.3: Herschel のイメージ (http://herschel.jpl.nasa.gov). 第 2 章 Observational Data and Facilities 6 図 2.4: Herschel のフィルターレスポンス関数 (http://herschel.esac.esa.int). 2.3 SDSS Sloan Digital Sky Survey (SDSS) は,アメリカのニューメキシコ州にあるアパッチポイ ント天文台の可視光望遠鏡を使用して行われたプロジェクトである.口径 2.5m の反射望 遠鏡 (Gunn et al. 2006) を用いて,地上観測サーベイが展開された. SDSS は 24 個の 2048 × 2048pixel の CCD を持った撮像装置を搭載しており (Gunn et al. 1998) ,u,g,r,i,z の 5 つのバンドをカバーしている.中心波長はそれぞれ 3551 Å, 4686 Å,6165 Å,7481 Å,8931 Å である.今回は SDSS-III プログラムの最新のリリース, DR10 (Data Release 10) を使用した. 図 2.5: SDSS のイメージ (http://www.sdss3.org). 2.4. 2MASS 7 図 2.6: SDSS のフィルターレスポンス関数 (http://www.sdss3.org). 2.4 2MASS The Two Micron All Sky Survey (2MASS) は,赤外線で全天を高解像度撮像するとい う Massachusetts 大学と赤外線処理分析センター (Infrared Processing and Analysis Center; IPAC) による共同プロジェクトである (Strurskie et al. 2006) .近赤外領域である J バンド (1.25 µm) ,H バンド (1.65 µm) ,Ks バンド (2.17 µm) の3つのバンドでの観測が行われた. 全天をカバーするため,望遠鏡は北半球と南半球に設置された.場所はそれぞれ,アメリカ のアリゾナ州の Fred Lawrence Whipple Observatory とチリの Cerro Tololo Inter-American Observatory である. 8 第 2 章 Observational Data and Facilities 図 2.7: Fred Lawrence Whipple Observatory (http://www.sao.arizona.edu). 図 2.8: Cerro Tololo Inter-American Observatory (http://www.astro.virginia.edu). 2.5. Sample 9 図 2.9: 2MASS のフィルターレスポンス関数 (http://www.ipac.caltech.edu/2mass/). 2.5 Sample サンプルは,Herschel Reference Survey のカタログに準じた.このサーベイは,局所銀 河1 における dust の性質を明らかにするため,323 個の銀河を対象に 250,350,500 µm の 波長で観測を行ったものである. また,このカタログは K バンドで十分な SN を持つものであり,15 Mpc∼25 Mpc の距 離にある銀河を対象にしたものである.K バンドを使用することにより,銀河全体に対し て質量の寄与が大きい古い星をセレクトすることが出来る. 2.6 Data Processing 表 (2.1) が示すように,4つの望遠鏡ではデータの質がさまざまである. FWHM とは,ビームの半値全幅 (Full Width at Half Maximum) のことであり,点光源に 対する広がりを表す.解析のために,これらの値を揃えなくてはならない.それらを一番 ‘目の悪い’SPIRE の 500µ m に合わせることにする.以下の節では,合わせるのに必要な Gaussian convolution と regirid について説明していく. 局所銀河に注目した理由はいくつかある.局所銀河というのは銀河進化の端点であり,この端点はモデ ルやシミュレーションに重要な境界条件を与えてくれる.さらに,SPIRE の角度分解能により,30 Mpc よ り近い銀河だと核やバルジやディスクといった銀河の構成をみることができる.また,宇宙で最も一般的な 銀河は矮小銀河であるが,光度の低さなどからそれは局所宇宙でしか観測する事ができない.よって,局所 銀河の研究は重要なテーマだといえる. 1 第 2 章 Observational Data and Facilities 10 SPIRE 250 1pixel 当たり 6" の大きさ FWHM 18.1" SPIRE 350 8" SPIRE 500 12" GALEX (FUV) 1.5" SDSS 0.38" 2MASS (Ks ) 1" 25.2" 36.9" 5.3" 1.3" 2.9" 表 2.1: 使用するデータの違い. 2.6.1 Gaussian Convolution 畳み込み (convolution) とは,関数 f を平行移動しながら関数 g を重ね足し合わせる二項 演算である.関数 f (x, y),g(x, y) の畳み込みは f (x, y) ∗ g(x, y) と書き,以下のように定義 される. ∫ ∫ f (x, y) ∗ g(x, y) = f (α, β) g(x − α, y − β) dα dβ (2.1) 積分範囲は関数の定義域に依存する. 今回,FWHM の異なるデータを一つに揃えるにあたって,元のデータと 2-D Gaussian distribution について畳み込みを行う. Gaussian distribution とは,平均値の付近に集積するようなデータの分布を表した連続 的な変数に関する確率分布である.2-D Gaussian distribution は,その平均を µ,分散を σ2 (単純化のため σ = σ x = σy ) とするとき,次の形の確率密度関数をもつ. ( (x − µ)2 − (y − µ)2 exp − f (x, y) = 2σ2 σ 2π 1 √ 本研究における x,y は,イメージの座標である. ) (2.2) 2.6. Data Processing 11 図 2.10: 2-D Gaussian distribution の図. 2.6.2 Regrid Gaussian convolution により目の悪さ (FWHM) を揃えたが,解析をするには1ピクセル の大きさも揃えなくてはならない.この作業は使用している画像解析ソフト,IDL (Interactive Data Language) の ‘congrid’ というコマンドを使った.このコマンドでは,最近傍補 間 (nearest-neighbor interpolation) という方法を用いている.再近傍補間とは,新しい大き さのピクセルを作ったときに,そのピクセルの中心から最も近い位置にある画素の輝度値 を参照することである, 12 第 2 章 Observational Data and Facilities 図 2.11: 最近傍補間 (http://imagingsolution.blog107.fc2.com/blog-entry-142. html). 求める画素間の座標が (x, y) の位置の輝度値を D(x, y) とし,もともとの画像の輝度値を S (i, j) とすると, D(x, y) = S ([x + 0.5], [y + 0.5]) (2.3) で表される.ただし,[ ] 内は小数点の切り捨てを表している. この方法を使い,ピクセルの大きさを合わせた. ここまでで,画像の処理についての準備が整った.画像処理の方法は,次の手順の通り である. 1. Gaussian convolution により,FWHM を揃える 2. Regrid により,ピクセルの大きさを合わせる ある銀河についてこの処理を行うと,次の図のようになる. 2.6. Data Processing 13 図 2.12: 画像処理の手順. 14 第 3 章 Application to Sample 3.1 Stellar Mass 銀河の星質量は,model により推定される.最近は,fitting を使って銀河の星質量を推定 するのが主流だ.この方法は,観測されたフラックスと特定の model (starformation history (SFH) や,年齢,減光などの仮定) から得られた SED のテンプレートをフィッティングす ることにより,星質量を推定する.Bell et al. (2003) はカラーと M∗ /L の関係を,PEGASE (Fioc & Rocca-Volmerange 1997) model を用いて log M∗ /LK = aug + bug (u − g) M⊙ /L⊙,K (3.1) と表した. M∗ は星質量,LK は K バンド (2.2 µm) における光度, M⊙ は太陽質量,L⊙,K は K バンドにおける太陽光度,u,g は SDSS の u バンド,g バンドにおける AB 等級1 で 定義されている.係数 aug と bug は,Zibetti et al.(2009) において Chabrier IMF を仮定し (aug , bug ) = (−1.578, 0.739) と求められている. 3.2 Star Formation Rate 星形成率とは,一定期間にどれぐらいの質量の星が出来るかを表す量である.大質量星 から放射されたエネルギーを星形成率に変換するには,新しく生まれた星が単位質量あた りにどれぐらいあるのかを表す初期質量関数 (IMF) を用いる.星質量を m とすると初期 質量関数 ϕ(m) は,次のべき関数で表される. ϕ(m) ∝ m−(1+x) (3.2) 本研究では x = 1.35 の Salpeter IMF (Salpeter (1955)) を仮定した.太陽金属量,Salpeter IMF (mass range:0.1 − 100M⊙ ) ,108 yr 以上で SFR 一定を仮定し,スペクトル進化 Starburst 99 (Leitherer et al. 1999) を用いて,SFR を求める (Takeuchi et al., 2010a). LFUV (遠紫外線 1530 Å における光度) と LTIR (遠赤外線 8 − 1000µm の光度) を用いると, AB 等級:天体から観測される放射のエネルギーを fν [erg s−1 cm−2 Hz−1 ] とすると,AB 等級は −2.5 log fν − 48.60 と表される 1 3.2. Star Formation Rate 15 log SFRFUV = log LFUV − 9.51 (3.3) log SFRTIR = log LTIR − 9.75 + log(1 − η) (3.4) SFR = SFRFUV + SFRTIR (3.5) ∫ ただし,LFUV = νLν (ν:振動数,Lν :光度密度),LTIR = Lλ dλ (@8 − 1000 µm) と定義され ている.LTIR をどのようにして計算したかは後述する. 3.2.1 Luminosity この節では,我々が持っているデータから星形成率を推測するのに必要な準備をして いく.GALEX や Herschel のデータから得られるのはフラックス密度であり,星形成率 を出すためにはフラックス密度を光度密度へと変換する必要がある.フラックス密度を S ν [erg s−1 cm−2 Hz−1 ],光度密度を Lν [erg s−1 Hz−1 ] とする.フラックス密度は,単位振動 数あたり単位面積あたり単位時間あたりに,天体から観測者がどれほどのエネルギーを受 け取ったかを表す.また光度密度は,単位振動数あたり単位時間あたりに天体がどのぐら いのエネルギーを放射したかを表す. ここで,フラックス密度と光度密度の関係を考えていこう.赤方偏移を z,光度を L,フ ラックスを F とする.まず,赤方偏移天体から幅 ∆νem ,光度密度 Lνem で放射された光を 考える.この光の光度 L は L = Lνem ∆νem (3.6) である. 次に,その光が幅 ∆νobs ,フラックス密度 S νobs で観測者に届いたとしよう.そのときの フラックス F は,周波数が 1/(1 + z) 倍になる事を考慮すると, F = S νobs ∆νobs ∆νem = S νobs 1+z (3.7) となる. フラックスと光度は,天体と観測者の間の光度距離を dL とすると F= L 4πdL 2 (3.8) の関係がある. よって,式 (3.8) に式 (3.6) と式 (3.7) を代入することにより,フラックス密度と光度密 度の関係 16 第3章 図 3.1: 光度密度とフラックス密度. Application to Sample 3.2. Star Formation Rate 17 S νobs = Lνem 4πdL 2 (1 + z) (3.9) が求められる. 3.2.2 Luminosity Distance ここで,光度距離 dL について考える. 光度距離とは,宇宙論的距離にある天体から受け取るフラックス f を用いて次のように 定義される距離である. √ L 4π f dL = (3.10) dL を観測量から計算できるようにしよう. 共動距離 r = rem の距離にある天体から時刻 t = tem のときに放射された光を考える. r = 0 にいる観測者が t = t0 でその光を受け取るとしよう. 一様等方を示す線素, ds2 = c2 dt2 − a(t)2 [dχ2 + σ(χ)2 (dθ2 + sin2 θdϕ2 )] (3.11) をロバートソンウォーカー計量という.ここで,a(t) は宇宙のスケールファクターと呼ば れる量で,時刻 t での宇宙の大きさを相対的に示す量である.光は宇宙空間のゼロの測地 線 (ds = 0) を通ること,そして dθ = dϕ = 0 から来る光を考えたとき, cdt = a(t)drem (3.12) が成り立つ.ここで,a(t) = a0 /(1 + z) (a0 は現在のスケールファクターであり,a0 = 1) と H = a˙ /a より,次の関係が成り立つ. ∫ t0 cdt a(t) ∫temz c = dz 0 H(z) rem = (3.13) 赤方偏移 z の天体から受け取ったフラックス F は,現在における固有面積を A とすると, ( ) 1 dEobs F = A dtobs ( ) 1 dEem 1 = A (1 + z)2 dtem (3.14) 第3章 18 Application to Sample となる.なお,赤方偏移している天体が放射する光は,観測者に届くまでにエネルギーが 1/(1 + z) 倍,時間間隔が 1 + z 倍になることを用いた. 共動半径 rem (z) の球の現在における固有面積 A = 4πrem 2 とすると,フラックス F は ( ) 1 1 dEem F = 4πrem 2 (1 + z)2 dtem 1 1 = L 4πrem 2 (1 + z)2 (3.15) となる.これを式 (3.8) に代入すると, dL ( L )1/2 ≡ 4πF = rem (z)(1 + z) ∫ z c = (1 + z) dz′ ′) H(z 0 (3.16) となる. 次に,H(z) を考える.フリードマン方程式から, 8πG kc2 Λ ρ − 2 + c2 3 a 3 8πG Λ kc2 ρ+ − =1 3H 2 3H 2 a2 H 2 ρ kc2 + ΩΛ = 1 + 2 2 ρc a H H2 = (3.17) ⇒ (3.18) ⇒ (3.19) がなりたつ.ここで,H はハッブルパラメーター,G は万有引力定数,ρ は宇宙の密度, k は宇宙の曲率,a はスケールファクター,Λ は宇宙項の定数を表す.また,宇宙項がな く宇宙の曲率をゼロとしたときの物質密度を臨界密度 ρc ≡ 3H 2 /(8πG) といい,密度パラ メータ Ω は Ω = ρ/ρc で定義される量である.ΩΛ = c2 Λ/3H 2 である. また,物質の密度を ρm ,放射の密度を ργ として ρ = ρm + ργ となるため,物質の密度 パラメータと放射の密度パラメータをそれぞれ Ωm = ρm /ρc ,Ωγ = ργ /ρc とすると,式 (3.19) は Ωm + Ωγ + ΩΛ = 1 + ΩK と変形できる.この変形において,ΩK = kc2 /a2 H 2 を用いた. ここで,ρm ∝ a−3 ,ργ ∝ a−4 であることを用いると,式 (3.20) は (3.20) 3.2. Star Formation Rate 19 a0 3 H0 2 a0 4 H0 2 H0 2 a0 2 H0 2 Ω + Ω + Ω = 1 + ΩK0 M0 γ0 Λ0 a3 H 2 a4 H 2 H2 a2 H 2 となる.ここで,添字"0"は現在における量であることを意味する. a0 /a = 1 + z であることから,式 (3.21) は ( ) H 2 = H0 2 ΩM0 (1 + z)3 + Ωγ0 (1 + z)4 + ΩK0 (1 + z)2 + ΩΛ0 (3.21) (3.22) となる. 現在物質優勢であることから Ωγ0 ∼ 0 とし,平坦な宇宙を仮定 (k = 0,ΩK0 = 0) し, ΩΛ0 = 1 − Ωm − Ωγ + ΩK であることを考えると,H(z) は √ H(z) = H0 ΩM0 (1 + z)3 + (1 − ΩM0 ) (3.23) となる. 今回のサンプルは z ∼ 10−3 ≪ 1 なので,1 + z ∼ 1 と近似することができ,H(z) ∼ H0 と なる. よって,z ≪ 1 において光度距離 dL は式 (3.16) と式 (3.23) から dL ∼ cz v ∼ H0 H0 となる.なお,z ≪ 1 において後退速度 v とすると cz ∼ v となることを用いた. (3.24) 20 第 4 章 Results and Discussions これまでで,星質量と星形成率の関係を求める準備はほぼ終わった.あとは,LTIR を出 す方法と,それを用いて結果を出すのみである. この章では,その二つについて考えていこう. 4.1 Correlation between LTIR and LSPIRE SFRTIR を計算するためには,8 − 1000µm にわたる光度 LTIR が必要である.本研究では SPIRE の 3 つのバンドのデータを用いて SFR を推測するため,SPIRE のデータと LTIR の 関係を求めたい.そこで,SPIRE のデータに関して LSPIRE = Lν (250)∆ν250 + Lν (350)∆ν350 + Lν (500)∆ν500 (4.1) という LSPIRE を設定し,LTIR との関係を求めていく. Galametz et al.(2012) において,11 個の銀河について MIPS,IRAS,PACS,SPIRE の 4 つの遠赤外線観測でフラックス密度を求めている. LTIR を出す手順は以下のようになる. 1. ある銀河について,Galametz et al.(2012) の遠赤外線のデータを two modified blackbody model でフィットする 2. フィットした結果を 8 ∼ 1000µm の範囲で積分し,LTIR を出す. 3. この銀河について観測量 LSPIRE を出す. 4. これを 11 個の銀河について行い,LSPIRE と LTIR の関係をみる. ここで,two modified blackbody model (Two-MBB model) について説明する.Two-MBB model とはダストを二つの一定の温度だと仮定し,フラックス密度を二成分ダスト (cold dust & warm dust) の黒体放射の足し合わせで表す方法である. ダストの温度を二つに分けることは,DBP90 model (Desert et al.(1990)) に基づいている. DBP90 model とは,ダストを大きく Big Grain (BG) ,Very Small Grain (VSG) ,Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAH) の3つに分けるモデルである.遠赤外線領域では BG (cold dust) と VSG (warm) の二つによる放射が支配的であるため,ダストの温度を2成分と考 えられる. 4.1. Correlation between LTIR and LSPIRE 21 Two-MBB model の式は次のようになる. S λ = aw λ−βw Bλ (T w ) + ac λ−βc Bλ (T c ) (4.2) a はスケーリングの大きさ,T はダストの温度,添字の c や w はそれぞれ cold,warm を意味する.ここで, Bλ は次の通りである. 2hc2 1 Bλ = 5 hc λ e λkT − 1 (4.3) NGC337 を例にあげて,どのように LTIR を計算したかについて説明しよう.この銀河 についてのデータをプロットし,Two-MBB model でフィットしたのが次の図である. 図 4.1: NGC337 における遠赤外線の領域の SED. 図 (4.1) において,縦軸が ergs−1 cm−2 µm−1 という一見変わった単位になっている.普通フ ラックス密度 S ν は ergs−1 cm−2 Hz−1 で表され周波数あたりのフラックスを意味しているが, これを S λ という波長あたりのフラックスに変換してやることでこのような単位となった. さて,図 (4.1) のフィッティングの結果を 8 − 1000µm で積分することにより LTIR を,生 のデータから LSPIRE を出す事が出来た.サンプルの銀河全てについて同じ作業を行い,横 軸に LSPIRE ,縦軸に LTIR を取ると次の図のようになる. 第 4 章 Results and Discussions 22 図 4.2: LSPIRE と LTIR の関係. これより,ベストフィットは log LTIR = 1.15590 log LSPIRE − 0.800479 と求められた.点線は,95% の予測区間である. 4.2 Relation between Σ M∗ and ΣSFR 結果は次のようになる. まず,SFR と M∗ の関係は次のようになる. (4.4) 4.2. Relation between Σ M∗ and ΣSFR 23 図 4.3: SFR と M∗ の関係. この図から,星形成をしている銀河(渦巻銀河,不規則銀河)と星形成をしていない銀 河(楕円銀河)に大きな差があることが分かる.一つだけ E2 型で星形成銀河に入ってい るものがあるが,それは楕円銀河に分類されてしまった BCD 銀河1 である. 次に,20 個の銀河について解析を行って求めた Σ M∗ と ΣSFR の関係は次のようになった. BCD 銀河:青色コンパクト矮小銀河 (blue compact dwarf galaxy) といい,高い星形成活動によって表面 輝度が非常に高くなった矮小不規則銀河のこと. 1 24 第 4 章 Results and Discussions 図 4.4: Σ M∗ と ΣSFR の関係. この図から,星形成銀河については,星質量の面密度が大きくなるほど星形成率の面密 度が大きくなる傾向があることが分かる. 逆に,非星形成銀河については,星質量の面密度の大きさのわりに星形成率は小さいと いうことがわかる.E2 銀河で一つだけ星形成率が大きいものがあるが,それは先ほどの BCD 銀河と同じである. 以降では,この図 (4.4) を各形態ごとに分けて見ていく. 4.2. Relation between Σ M∗ and ΣSFR 図 4.5: Σ M∗ と ΣSFR の関係 (SA 型). 図 4.6: Σ M∗ と ΣSFR の関係 (SB 型). 25 26 第 4 章 Results and Discussions 図 4.7: Σ M∗ と ΣSFR の関係 (SAB 型). 4.2. Relation between Σ M∗ and ΣSFR 図 4.8: Σ M∗ と ΣSFR の関係 (Im 型). 図 4.9: Σ M∗ と ΣSFR の関係 (E2 型). 27 第 4 章 Results and Discussions 28 図 4.10: Σ M∗ と ΣSFR の関係 (E3 型). これらの結果から, • 星形成銀河については,星質量の面密度が大きくなるほど星形成率の面密度が大き くなる傾向がある • 非星形成銀河については,星質量の面密度の大きさのわりに星形成率は小さい ことが分かった. 今後は, • 解析する銀河の数を増やす • CO ガス等の面密度と比較し,ガスと星形成の関係を探る • SPIRE の 250 µm など目の良い観測のデータを使い,銀河の構成要素 (バルジや渦状 腕など) ごとに分けて解析を行う のような方針を考えており,そのように研究を進めていく. 29 Acknowledgement 卒業研究と本論文を作成するにあたり,多くの方々のご指導を頂きました.その中で も,特に銀河進化学研究室の竹内努准教授は,お忙しい中私の質問や指導に丁寧に対応し て頂きました.宇宙論研究室の杉山直教授には一年生の基礎セミナーからお世話になり, 多くの指摘や助言を頂きました.また,他のスタッフの方々にも毎月の進捗報告会で指摘 やご意見をいただき,感謝しております. 銀河進化学研究室の先輩方や宇宙論研究室の先輩方のお陰で,研究の内容だけではなく 研究室での生活も充実した1年になりました. また,同期の皆さん,とくに森友紀さんの頑張っている姿は私にとって良い刺激になり ました. 最後に,使用した望遠鏡のデータは全て無料で公開されているものを利用しました.ア メリカ航空宇宙局 (NASA) など,研究者のためにデータを無料公開している全ての機関に 感謝いたします. 本当にお世話になりました.ありがとうございました. 30 Reference [1] Bell, E. F., et al. 2003, ApJS, 149,289 [2] Ciesla,L., et al. 2012, A%A, 543, 161 [3] Cortese, L., et al. 2012, A&A 544, 101 [4] Desert, F. X., et al. 1990, A&A, 237,215 [5] Fioc, M., Rocca-Volmerange, B. 1997, A&A, 326, 950 [6] Galametz, M., et al. 2012, MNRAS, 425, 763 [7] Gunn, J. E., et al. 2006, AJ, 131,2332 [8] Gunn, J. E., et al. 1998, AJ, 116,3040 [9] Hirashita, H., et al. 2003, A&A 410, 83 [10] Leitherer, C., et al. 1999, ApJS, 123, 3 [11] Morrissey, P., et al. 2007, ApJS, 173,682 [12] Pilbratt, G. etal. 2010, A&A 518, L1 [13] Salpeter, E. E. 1955, ApJ, 121,161 [14] Strurskie, M. F., et al. 2006, AJ 131, 1163 [15] Takeuchi, T. T., et al. 2010, A&A, 514, A4 [16] Zibetti, S., Charlot, S., Rix, H. 2009, MNRAS,400,1181 [17] 櫻井茜 卒業論文 2011 ‘近傍銀河の星形成率に関する研究’ [18] 松永和成 卒業論文 2012 ‘多波長アーカイブデータを用いた形態-スペクトル (SED) の評価’ [19] 藤原麻衣 修士論文 2010 ‘近傍星形成銀河の構造と星形成,ダスト減光に関す る研究’ [20] 櫻井茜 修士論文 2013 ‘紫外線,赤外線でみた近傍銀河の星形成とダスト減光 についての研究’ [21] 村田勝寛 修士論文 2010 ‘The Study on the Evolution of Stellar Mass and Star Formation Rate of Galaxies in Later Stages of the Universe’ [22] 富田晃彦 2010 年発行 ‘活きている銀河たち-銀河天文学入門-’ 恒星社厚生閣 [23] S. フィリップス 2013 年発行 ‘銀河-その構造と進化-’ 日本評論社 [24] 塩谷泰広,谷口義明 2009 年発行 ’ 銀河進化論’ プレアデス出版
© Copyright 2024 ExpyDoc