2014年度受賞作(YD petit NO.27

YA大賞
2014
短編小説部門・詩部門
YD
petit
vol.27
橋本図書館YA機関紙
『Youthful
Days』号外
H26.10.1
発行
目次
○ YA 大賞2014
受賞作品・・・3P
○ 受賞作品へのコメント・・・・・4∼5P
◆
◆
◆
<小説部門>
○大賞
受賞作品
かくれんぼ
『隠恋慕』龍華・・・・・・・・・・・・・・6∼9P
○ YA担当者賞
受賞作品
イコール
『コーヒー = 大人?』アキ@・・・・・10∼12P
<詩部門>
○ 大賞
受賞作品
『すなおになれない二人がいる』龍華・・・・・13P
○ YA 担当者賞
受賞作品
あ じ さ い
『まっしろな紙』紫陽花・・・・・・・・・・・14P
◆
◆
◆
受賞作品発表!!
YA大賞は今年、記念すべき10回目を迎えました!
今回は小説4作品、詩4作品のご応募をいただきました。
その中から受賞作品は次のように決定いたしましたのでご報告いたします。
<小説部門>
大賞
副賞/図書券
かくれんぼ
『隠恋慕』
YA担当者賞
龍華/著
副賞/図書券
イコール
『コーヒー = 大人?』
<詩部門>
アキ@/著
投票総数74票
(スタッフ投票/48票・一般投票/26票)
大賞
副賞/図書券
『すなおになれない二人がいる』
YA担当者賞
『まっしろな紙』
龍華/著
副賞/図書券
紫陽花/著
17票
25票
作品を読み終えて・・・
今年の小説の応募作品数は4作品と、年々数が減ってきました。投稿者の学年が上が
り、卒業や受験などで創作活動の時間がとれない状態にある人が増えたからでしょうか。
もちろんリピート率は高く、おなじみの人もいます。内容としては女子の投稿者が多い
ため、恋愛物が多く、主人公は多種多様な立場ではありますが、どれも過去を懐かしみ、
切ない様子や描写がマンネリ化してきたように感じます。それでも変わらず私たちが胸
をときめかせるのは、文章力もさることながら、それが永遠のテーマだからだとも思い
ます。実力とともに共感できる作品が受賞しました。
また詩部門も4作品の応募がありました。短い言葉の中で自分の考えや思いを込める
という、小説とは違う言葉の巧みさや技術が必要でもあります。こちらはテーマがそれ
ぞれで、この部門の幅の広さが見えたような気がします。自分の身の回りのことを題材
にした詩はYA世代の日常を垣間見ているようで、とても楽しめました。
YA世代という短い間で感じることや経験することはどれも貴重だと思います。その
みずみずしい感性で書かれた作品をあなたもぜひ読んでみてください。
◆◆◆投票した橋本図書館スタッフのコメントをご紹介します。◆◆◆
【小説部門】
大賞受賞作品
『隠恋慕』
●夏の日の午後、主人公は公園の遊具『かいじゅうくん』の中で、かくれんぼをしてい
る少女と鉢合わせる。負けたら好きな人を教えなきゃいけない、という少女の言葉に懐
かしさを覚える主人公。鬼に気付かれないために、かくれんぼに付き合う事に。
・・・タイトルが絶妙である。なんだよ『隠れん坊』が正解じゃないのかと読み手に疑
問を抱かせた作者は得意満面だろう(笑)
・・・タイトルの、子どもたちの、主人公の回想の、主人公と幼馴染の関係性の暗喩と
しての、複数のかくれんぼが意味するものをうまく接続させた全体の構成がすばらしい
と思いました。
・・・YAらしい爽やかな作品だと思います。「もういいよ」というかくれんぼで使う
言葉が2人だけに伝わる告白の言葉のようで読んでいて心地良かったです。
・・・夏の公園の情景がよく浮かぶ。公園での暑さや体感が伝わってくる。
・・・設定、ストーリー、起承転結がしっかりできていて読みやすかったです。
4
YA担当者賞受賞作品
『コーヒー=大人?』
●お隣りに住んでいた初恋のお兄さん「和くん」と6年ぶりに再会したアズサは、すっ
かり大人になり結婚も決まったという彼に、大人と子供の差を感じてしまう。昔飲めな
かったコーヒーの味は、今も苦いまま。
・・・甘酸っぱいってこういうこと、と思いました。主人公の「胸のもやもや」が募る
様子が良く描けていると思いました。
・・・「大人になりたくて、でも反面大人になるのもちょっと恐い」そんな十代の少女
の揺れ動く気持ちを等身大に表現していて好感が持てる。
・・・全体的に無理のない分かりやすいことばで書かれています。初めのコーヒーは大
人の味……を受け、最後がうまくまとまっていました。
【詩部門】
大賞受賞作品
『すなおになれない二人がいる』
●お互いに「好き」という気持ちを抱えながら、素直にそれを言葉にできない少年と少
女の繊細な心の内。
・・・おたがいの気持ちは同じなのにすれちがってしまうせつない思いがよく描かれて
います。
・・・登場人物にあわせて、1マス上げたり下げたりしているところがよく考えられて
いるなぁと思いました。
・・・韻を踏んだり、段落を変えたり、工夫が光っています。
・・・2人の人間の視点から書かれているのが新鮮で良かったです。
YA担当者賞受賞作品
『まっしろな紙』
●学生の重大関心事・筆記テスト。努力はいまいち報われないが、失敗にもめげず「今
度こそ!」と果敢に挑み続ける。
・・・反復により、リズムのあるものになっている。今までこういう題材はなかったの
で良かった。
・・・まっすぐで純粋な気持ちがとてもよく描けていました。表現方法に「紙」を使っ
たのは良かったと思います。
・・・リズムが良く、連ごとの言葉の並びもキレイだったので詩らしかったです。学生
らしい題材を暗喩的にすることでとても深い詩になっていました。
5
『隠恋慕』
龍華
「もういいかーい。
」
「まーだだよー。」
遠くで子供のはしゃぐ声がする。蝉の大合唱も聞こえる。身体にまとわりつくような熱
気。だらだらと流れ続ける汗。ぐっしょりと濡れたYシャツが不快度指数を上昇させる。
夏だな、なんて思いながら目を開けると、薄暗い闇の中にいた。はて、ここはどこだろう
かと寝ぼけた頭で考える。すると、子供の声が近くに聞こえた。
「もういいかーい。
」
「まーだだよー。」
かくれんぼでもしているのだろうか。そう思った直後、後ろで生ぬるい風が動くのを感じ
た。同時に、薄暗かった闇が深くなる。
「わっ。」
驚いたような幼い声に振り向くと、子供のシルエットが目に映る。それが鍵となって、俺
は気がついた。
「…そうだ。ここ、かいじゅうくんの中か…。」
も
近所の公園にある、かいじゅうを模した大型遊具、通称『かいじゅうくん』
。緑のペンキ
は昔に比べてすっかりはげ落ちてしまったけれど、今でも子供たちに愛され続けている遊
具だ。尾の部分から続く階段や、側面からぶら下がるロープを伝ってその背に登ると、頭
の部分の滑り台を滑ることができる。体の内部は、狭い通路で繋がった二、三の部屋に分
かれている。俺はいま、そのうちの一つの部屋で座り込んでいた。
「ごめんな。いま出るから。」
立ち尽くしている子供に謝って、俺は腰を上げた。狭い穴から出ようとした時、服の裾
をぐいっと引っ張られる。
「だめ!」
「え?」
顔はよく見えない。でも、声からして女の子だろう。小学校低学年ぐらいだろうか。
「いまお兄さんが出て行ったら見つかっちゃうかもしれない!だからだめ!」
「え。でも…。
」
「もういいかーい!」
かぶ
さいそく
俺の言葉に被せてくるように、外から催促の声が聞こえてくる。
「もういいよー!」
少女が大きな声で返事をする。外からも他の子供たちの声が聞こえてきた。
「ほら、早く。見つかっちゃう!」
腕をぐいぐいと引っ張られる。有無を言わせぬ視線を感じ、俺は抵抗できなかった。
6
少女に引きずられるまま、入口から少し離れた場所で息を殺す。他の子供たちも別の場
所で同じように身を潜めているのだろう。先ほどまで聞こえていた騒ぎ声がしない。蝉の
鳴き声だけがかいじゅうくんの中でこだましていた。
「…友達と、かくれんぼしてるのか?」
い
たま
沈黙が居た堪れなくて、少女に問いかけた。
「うん。負けたら罰ゲームなの。」
あぁ、それであんなに必死だったのか、と一人納得する。罰ゲーム付きの遊び、俺らもよ
くやったものだ。懐かしいなぁ、と子供のころを振り返っていると、今度は少女が問いか
けてきた。
「お兄さんもかくれんぼ?」
「…違う。
」
この年でかくれんぼはないだろう、お嬢さん。
こ わば
理由を話そうとした瞬間、
「みーつけた。」という声が聞こえた。二人で身を強張らせる。
しかし、どうやら見つかったのは他の子らしい。遠くから聞こえる笑い声にほっと胸を撫
で下ろした。
「…補習の帰りに、突然雨に降られたんだよ。」
「?でも、雨ってずっと前にやんだよ?」
「…そのまま寝てたんだよ。」
くすっと少女が噴き出した。仕方ないだろ!疲れてたんだよ!と心の中で言い訳する。少
女がくすくすと笑い続けていて恥ずかしいので話題を変えることにした。
「で、罰ゲームってなんなの?」
「………。
」
少女はふいに目をそらした。聞いてはいけないようなことだったのだろうか。蝉の鳴き声
だけが響く。別の話を振ろうとすれば、小さな声が沈黙を破った。
「好きな人、教えなきゃなの…。」
真っ赤に染まった顔。おぉ、ベタだ。俺らもやった。こういうのは今も昔も変わらないん
だと思うと、なんだかしみじみとしてしまう。
「勝負している子がね、私の好きな人なの。だから、絶対負けられない…!」
「なるほど…。
」
「三時まで見つからなかったら私の勝ち。だからお兄さん、三時まで一緒にがんばって!」
「…仕方ねぇなぁ。
」
こ
三時、か。あとどれくらいだろう、と腕時計を見る。暗闇で目を凝らすと、あることに気
がついた。止まってる。雨で濡れて壊れてしまったのだろうか。
「気に入ってたのに…。
」
直りやしないかと、腕を振ってみる。
「お兄さんは?」
7
「ん?」
「お兄さんは好きな人いないの?」
握っていた手が、中途半端な位置で止まってしまった。目ざとい少女は俺の異変にすぐに
気がつく。
「好きな人いるの?彼女いるの?」
「お、俺は…。
」
「いるの?ねぇ、いるの?」
ぐいぐいと腕を引っ張られる。あれ、なんだろう、この既視感。フラッシュバックする記
憶。それは、あの夏の思い出。
『好きな人いるの?ねぇ、いるの?』
『うるさいなぁ!おまえはどうなんだよ。』
『え
わ、私は…。
』
『教えろよー!』
『やだよ!君が教えてよ!』
『じゃあ、かくれんぼで負けたほうが教えるって罰ゲームにしようよ!いいだろ?』
そうだ、あれはこの公園だった。夏休み、今日みたいに暑い日だった。
「あの時…。」
そんな時、かいじゅうくんの中に足音が響いた。俺らは息を飲む。
「………。
」
近づく足音。少女が、俺の腕をぎゅっと握る。近い、どんどんと近づいてきてる。蝉の合
こ おう
とうとつ
唱に呼応するかのように心臓が、ばくばくとうるさく響く。薄ぼんやりとした光が、唐突に
消えた瞬間、
「みーつけたっ!」
二重に重なったように声が響いた。この声は、男の子?いや…。
「こんなところにいたの?探したんだから!」
おさななじみ
さきほど
とっさに閉じてしまった目を開く。目の前には頬を膨らませた幼馴染がいた。先程より、
周りが明るく見える気がする。
「補習が終わったらうちで一緒に宿題するって約束したでしょ!」
すぐ忘れるんだからー、と彼女は怒っていた。横を見る。しかし、そこに少女はいなかっ
た。腕時計は三時ぴったりを示し、いつも通り規則正しく針を進めていた。
水色の絵の具をぶちまけたような青い空。空気を震わすのは蝉の大合唱。まとわりつく
8
熱気に加えて、刺すように痛い日差し。
「あの公園、昔よく遊んだよねぇ。
」
「あぁ…。
」
口の中に広がる爽やかなソーダの味は、幼馴染がくれたアイスの味。隣を歩く彼女を見る。
「ん?どうかした?」
「いや…。
」
最後の一口を口に放り込む。そうして、恐る恐る彼女に問いかけた。
「かくれんぼの罰ゲーム、どうなったっけ。
」
「えっ。」
彼女は足を止めた。驚いた様子が、あの少女と重なる。
「やだ、懐かしい…。」
「どっちが勝ったか、覚えてるか?」
ぬぐ
彼女は汗を拭って空を仰いだ。
「ひきわけだよ。」
「え。
」
呆けた俺の顔を見て彼女は笑う。
「君が私を見つけたのは、約束の三時ちょうど。それで結局、君は好きな人を教えてくれ
なかったんだよねぇ。」
私も教えなかったけど、と彼女は笑った。
あのかくれんぼをした日から数年が経った。俺たちは今も変わらず仲のいい幼馴染でい
る。それ以上でも、それ以下でもなく。二人の関係は何も変わっていない。素直になれな
い子供だったあの日から。あの時からずっと、俺たちの恋心はかくれんぼを続けている。
互いの想いを探している。見つけて、見つけないで、と隠れている。
「あの、さ…。
」
あ ぜん
俺が口を開くより先に、彼女が走り出した。唖然とした俺を置いてきぼりにして走って
行って、急停止する。そして、大きな声で叫んだ。
「もういいかーいっ!」
「え?」
彼女は振り返った。
「もういいかーい?」
にっと笑った笑顔が、さんさんと輝く太陽に反射した。
「…もういいよ!」
俺は駆け出し、彼女の手を取った。
9
『コーヒー=大人?』
アキ@
「ねえ和くん。何飲んでるの?」
「コーヒーだよ。コーヒー」
「こーひー?
私も飲む!
飲みたい!」
「あ、こら。勝手に飲むな」
お前にはまだ早いぞ。これは大人の味だからな!
「ただいまー」
バイトが終わり、速やかに帰宅するとリビングの方からお父さんとお母さん、それに加
な
じ
え馴染みのない低い声が聞こえた。
誰かお客さんだろうか。
玄関をよく見てみれば、お父さんの使い古されたものとは違う、傷ひとつない靴が存在を
主張していた。
そっとリビングを覗いてみると、4人用のダイニングテーブルを囲んでいる。
お母さん、お父さんはいつもと一緒の定位置に。
そして、わたしの席にその男の人は座っている。
ど
こ
・・・誰だろう。けど、何処かで会ったことあるような気も・・・。
男の人の視線がわたしの方を一瞬見たような気がして、慌てて自分の部屋に帰った。
古典の宿題を思い出して、古典辞書を借りるために姉の部屋のドアをノックする。
大学生である姉が、綺麗に並べられた棚を指さした。
割と低めのその棚にしゃがみ込んで辞書を探している時に、ふと考える。
「誰が来てるの?」
「あれ?
気付かなかった?」
ほら、昔隣りに住んでたじゃない。アズサが近所の誰よりも懐いてた和兄さんだよ。
そう続けられた言葉に、間抜けな声をあげてしまった。
和兄さん。わたしの姉がそう呼んでいた人物はただひとり。
あの幼い頃、わたしが和くんと呼んだ大好きな初恋の人だ。
「アズサは会いに行かないの?」
・・・宿題あるから、行かない。
わたしが小学6年生のとき、和くんは都内に引っ越してしまった。
その時はとっても悲しくて、わんわんと泣いて和くんに抱きついて、困らせてしまった覚
えがある。
10
手紙出すから、って約束してくれた和くんから数日後に送られてきた。
すぐに返事も出したし、幸せだったあの時。でも、頻繁にやりとりをしていたのは最初の
うちで、そのうちわたしも和くんも自分の生活で忙しくなる。
・・・手紙のやりとりという繋がりも、とうとう消えてしまった。
「和樹くん、結婚するんだってよ」
おもむろ
お母さんが 徐 に話題を出したせいで、ぴたりと夕飯の焼きそばに伸ばしていた箸が止まる。
そっか、結婚しちゃうんだ。
「やっぱりそうなんだー。相手の女の人の写真とか見た?」
「可愛らしそうな人だったわあ。ね、お父さん」
「ああ」
「へえー、会ってみたいね!」
基本的に無口なお父さんまで、頷いた。姉も嬉しそうに笑った。
なんだか、胸のもやもやが消えない。
次の日、学校からの帰り道。
商店街を歩いていると、和くんが文房具屋のおじさんと話している姿が目に入る。
そういえば、まだ数日こっちにいるらしいってお母さんが言っていたっけ。
・・・早く家に帰ろう。早歩きでその隣を通り過ぎようとした。
「アズサ!」
後ろからわたしを呼ぶ声に思わず歩みを止める。
「コーヒー、飲めるようになったか?」
「和、樹さん」
「なんだよ。随分とよそよそしくなったな」
いたずら
寂しいなー、なんて悪戯に成功した子供みたいに笑ったその姿は、確かに和くんだった。
「アズサ、見ないうちにこんなに大きくなったんだなー。今、何年生?」
「・・・高3だよ」
「もう3年生か!
へえー・・・俺の中のお前はずっと小学生だったから、知らない人と
話してるみたいだよ」
「!
そんなことないよ」
わたしは何も変わってなんかない。
髪だって染めてないし、長さもあの頃と同じくらいに揃えてる。
身長は・・・少し伸びたけど、わたしは変わってない!
それに、
「コーヒーだって、まだ飲めないもん・・・」
11
呟いた言葉に、和くんは吹き出したように笑って、わたしの頭を優しい手で撫でつけた。
昔のあの時も、こんな風に撫でられた気がする。
「和くんの方が変わっちゃったよ」
成人したその姿は、わたしの知ってる和くんとは違う。
昔見た和くんのブレザー姿は不恰好だったのに、今のスーツ姿はむかつくほど似合ってる。
でも、やっぱりわたしの好きな和くんに変わりはなかった。
ああもう、泣きそう。
「俺、結婚するんだ」
「・・・うん」
「お前は昔から妹みたいで、そんな大事な妹にも伝えようと思ったんだ」
妹みたい、胸のもやもやはずきずきに変わる。
「本当に幸せに、なるの?」
酷い質問だったと思う。まるで、結婚を祝福していないみたい。
・・・妹が兄の心配するのは当然でしょ?
もちろん
「勿論なるよ。きっとアズサにもそんな人が出来る」
「・・・だといいなあ。和くん、」
「ん?」
きょとんとした目がわたしの姿を捉える。
「だいすきだよ」
「俺も、アズサが大好きだよ」
わたしの幼い頃からのだいすきには、和くんの恋愛感情じゃない大好きが返ってきた。
「・・・苦い」
わたしの手に握られたマグカップに入っているそれは、わたしに充分な暖かさとほろ苦
さを残して、憎たらしく白い湯気を立たせていた。
わたしはまだ大人には、なれそうにない。
12
『すなおになれない二人がいる』
龍華
君に貸した教科書に書かれた
「ありがとう」の文字
消せずにいる私がいる
「教科書、ありがとう」
面と向かって言えない僕がいる
いらないからってくれたストラップ
かばん
ずっと 鞄 につけてる私がいる
きみに似合うと思って買ったストラップ
素直に渡せない僕がいる
「好きです」
「あなたが好きです」
伝えられない私がいる
「好きです」
「きみが好きです」
伝えられない僕がいる
13
『まっしろな紙』
紫陽花
まっしろ紙はいつもうまらない
まっくろにするためにがんばっても
いつも
いつも
うまくいかない
はんせいしても
はんせいしても
いつも
いつも
うまくいかない
まっかな紙をこころのすみにおしこんで
つぎこそって
つぶやきながら
わたしは
また
がんばる
14
今年で節目の第10回目となりましたYA大賞は、ユースフルデイズ(YD)の編集委員たちが小説を
書いてYD誌面で発表していたのをきっかけに始まりました。初めは、原稿用紙5枚までの「短編小説・
ショートショート編」でスタートしましたが、昨年は詩部門も設け、小説では応募しかねている人たちに
も表現の機会をつくってみました。定着にはもう少し時間がかかりそうですが、次の節目までにはさらな
る発展を遂げたいと思う次第です。
忙しい中、応募してくださった皆様、ありがとうございました。そして、途中まで書いたのに断念して
しまった人、書きたいと思いつつまだ一度も応募していない人、ぜひ来年は挑戦してみてください。お待
ちしています。
ラプンツェル
記念すべき10回目のYA大賞作品をお届けいたします。今年の作品傾向はとっても分かりやすく、小
説がすべて恋愛を題材にしたものとなりました。それぞれの恋愛観が浮き彫りになっていて、ニヤニヤし
つつ読み進めておりました。それとは趣を異にしたのが詩部門の題材の多様さ。正に“みんな違ってみん
ないい”…金子みすず氏ではないですが。この引き出しの多様さを小説部門でも発揮していただけると、
さらにバラエティ豊かな作品が生まれるのでは?と更なる期待を寄せております。YA担当としても広報
面などさらに強化していこう!ということでぐるぐる思案中。みなさんと創作の世界との間の橋を、丈夫
に幅広に強化していきますよ∼!
はにわ
ついに、YA大賞10周年目だー!!と喜んでいるのは私だけでしょうか(笑)?ついに2桁ですね!
といっても私が関わったのは今年で2回目ですが……。
今年も残すところあと3か月です。まだ3か月ですか?それとももう3か月ですか?私はどうだろう。
時間の流れって不思議だなと思うことってありませんか?テスト期間の1日はすごく長いのに学祭の準
備をする1か月はすごく短いと感じたり、空腹時のカップラーメンを待つ3分はとても長いのに、友達と
話す1時間はとても短く感じたりする。それってその時間が楽しいか楽しくないかで感じる時間の長さが
違うと何かで聞いたことがあります。同じ1分、同じ1日、同じ1か月、同じ1年。同じ重さの時間。Y
A世代という限られた時間。みんなに平等なその時間をどう楽しく、どう大切に過ごすか。それはあなた
次第。その中でYA大賞に挑戦してみるということも後の人生の中で良い思い出になるのかも(笑)まだ
まだこれから!挑戦して!YA世代!!
笹やん
※「YD petit vol.27」の編集に際し、作者の方々にご了承を頂いて、
一部訂正・ルビの表示・レイアウトの変更を行っております。
発行
相模原市立橋本図書館
15
TEL 042-770-6600
FAX 042-770-6601