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日本脳循環代謝学会
日本における脳循環研究の夜明け
日本脳循環代謝学会理事長
慶雁義塾大学医学部神経内科後藤文
男
いよいよ脳循環代謝学会が発足し脳循環代謝第一巻第一号が発刊される運びとなった。
日本における脳循環代謝研究の始まりから今日までの長い道のりを振り返ってみると感無
9
4
5
年K
e
t
y&S
c
h
m
i
d
tによって N20法
量である。人の脳循環の測定が可能になったのは 1
e
t
yの方法は脳 100グラムあたりの全脳平均血流量を定量
が開発されたのが最初である。 K
的に測定できる点、で当時としてはまさに画期的なものであった。
, 1
9
5
3年に当時東邦
日本において最初に脳循環が測定されたのはこれに遅れること 8年
6
歳の田崎義昭助手(現北
大学におられた相沢豊三教授(現慶臆大学名誉教授)及び弱冠2
里大学教授),青木龍夫,真島恵吉,横松文平,吉野良平助手等のグループに依ってであっ
た。当時は終戦後の復興もやっと緒についたばかりで,文献や研究用の器材の入手も思う
にまかせず,今では想像もつかないような苦労をされたと聞いている。外国文献はすべて
田崎助手が日比谷にあった米軍図書館に通って翻訳し,それを手書きで皆に配り勉強した
との事である。 N20ガスの入手も大変で,ダグラスバッグで混合ガスをつくり,その大き
なバッグをベットサイドに持ち込んで脳血流量の測定を行っていた。測定方法にも工夫を
c
h
e
i
n
b
e
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g法と K
e
t
yの原法の両者の長所を生かした新しい
凝らし,その後に発表された S
方法を開発し,たてつずけに業績が内科学会を中心に発表され,内外の注目を浴びるよう
9
5
5年母校の慶雁大学の教授として迎えられ,脳
になった。この業績により,相沢教授は 1
循環代謝研究グループは全員慶臆義塾大学の内科学教室に移籍し,私共もこれに参画し新
しい研究室が発足した。
時を同じくして東京大学の新城之助講師のグループも脳循環の研究を始めて次々と新知
見を発表され,いろいろな学会で両研究室は良い意味でのライバルとしてお互いに活発な
討論が行われ脳循環代謝研究分野に対する関心が一般に広がって行った。ついで岩手医大,
東北大学,秋田脳研,日本医大,日本大学,慈恵大学,名古屋市立大学,大阪大学,京都
大学,岡山大学,山口大学のグループもこの分野に参入し,またたくうちに日本国中に脳
循環研究のセンターが形成された。
いまや世界で最も多数の脳循環代謝研究者を持つわが国が独自の学会と学会誌を持つの
は当然の帰結であるが,今後この雑誌が一日も早く月刊誌となることを祈ってやまない。
日本脳循環代謝学会
機関誌の発刊に寄せて
第 1回日本脳循環代謝学会総会会長
北里大学内科田崎義昭
脳循環代謝研究会は昭和6
3年 1
1月 ム 5日に開催された第 3
1回をもって終了し,新しく
日本脳循環代謝学会が発足した。その第 1回総会の会長に任ぜられたことは,私にとって
まことに光栄であり,学会関係の諸先生に深謝するしだいである。ここに学会誌第一号を
創刊するにあたり,今までの経緯を簡単に記しておきたいと思う。本学会の前身である脳
循環代謝研究会が発足したのは昭和 4
2年であった。慶臆大学内科相沢豊三教授が会長とな
り同年 1月2
6日,神田の学士会館に 3
5名が参集した。本会は相沢教授のご提唱で,九大勝
木教授,東北大中村教授,名大星川教授らのご協力をえてスタートしたものである。当時
エーザイ株式会社は脳循環改善薬としてシンナリジンを開発中でおり,本研究会を後援す
ることになった。したがって,第 1回の主題はシンナリジンの脳循環に及ぼす影響に関す
るものであった。当初は年 2回開催され,別表 (
1
1
3頁)の如く,昭和 5
0年の第四固まで,
一般演題,主題による指定講演,シンポジウム,特別講演,紹介または招待講演などが行
7
0年)に慶大後藤文男教授が世話人となった第 8回脳循環代謝
われた。殊に昭和4
5年(19
研究会では,海外の著名な研究者(デンマークの L
a
s
s
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.N.,S
k
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φ
j
.E
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スエーデンの I
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.D
.米国の M
e
y
e
r
.J
.S
.西独の Broc
k
.M.ら)が招待され,わが国で
このような研究会が活発に行われていることが国際的にも高く評価されるようになった。
これがきっかけとなり,昭和5
4年(19
7
9年)に東京で第 9回国際脳循環代謝シンポジウム(会
長後藤)が開催され盛会であったことは未だに懐かしく思い出される。
1年の第四回より年 1回秋に開催されるようになり,更に
さて脳循環代謝研究会は昭和 5
演題数の増加,内容の充実を来すようになった。殊に第2
1回研究会は武下教授が世話人と
なり,山口県宇部市で行われたが,この際に脳循環代謝研究会規則が定められ,後藤教授
を代表とする 2
4名の運営委員会が構成され,事務局を北里大学内科に置くことになった。
0
0
0名を超え,昭和6
2年度の第3
0回では演題数も 8
7
その後,脳循環代謝研究会は会員数も 1,
に達し,参加者も 5
0
0
名を超すようになり,会場として使用させていただいていたエーザイ
本社ホールでの開催が困難になってきた。このため,第3
0回の本会の運営委員会に砂いて
2年後の昭和 6
4年より本研究会は学会に移行することが決定され,日本脳循環代謝学会設
qL
立準備委員会が発足した。昭和6
3年度の第3
1回は下地教授が世話人となり,日経ホーノレを
会場として開催されたが,この折,日本脳循環代謝学会の第 1回理事,監事,幹事会が開
催され,日本脳循環代謝学会会則も決まり,同年1
1月 4日より実施されることになった。
理事長には,後藤教授が決定され,事務局は慶応義塾大学病院神経内科内に置かれた。
第 1田本学会総会は会期を平成元年1
1月1
6,1
7日,会場を東京(日本海運倶楽部)とし
て準備がすすめられ,同年 6月2
6日に一般演題の応募が閉め切られ, 1
9
名のプログラム委
員が審査し,
8月 5日の委員会で口演発表 7分 1
2題,口演発表 5分 7
6
題,ポスター展示発
8
題が決定された。第 1回総会は,本学会の前身である脳循環代謝研究会の良き特徴で
表8
あった 1会場制とし,口演とポスター発表との時間帯も重ならないようにした。このため
特別講演は一つのみとして,長年本研究会の指導者として活躍してこられた慶臆大学神経
内科富田稔先生にお願いした。また,本年は第 1
4回の国際脳循環代謝シンポジウム B
r
a
i
n
8
9
がイタリアの B
olognaで開催されたので,北里大学内科坂井文彦助教授にその報告をして
いただいた。今後本学会は,脳循環代謝研究で世界をリードするものとなり,益々発展し
ていくと期待している。本昔、第 1号は第 1回本学会における発表を掲載したものであるが,
本学会の一里塚としてお役に立つことを念じている。
最後に,本学会の発足,本誌の創刊に至るまでには多くの先生方のご指導,ご協力を得
たし,エーザイ株式会社をはじめたくさんの企業のご賛助を得た。ここに記して,改めて
会長としての謝意を表する。
平成元年1
1月
3-
脳循環の測定法
一一ーその p
i廿a
l
lを中 '
L
'にして一一一
慶応義塾大学医学部神経内科助教授
富 田 稔
I はじめに
本日はこの第一回脳循環代謝学会の特別講演の演者にお招き頂きまして有難うございま
2年程前の私がこの学会の前身である脳循環代謝
した。大変光栄に思うと同時に,今から 2
研究会の第一回(昭和4
2年 1
月,学士会館)第一席に発表をさせて頂いたことを考え合わせ
ますと,何かの因縁のようなものが感じられます。
脳循環の測定は私の思師相沢豊三慶
大名誉教授,後藤文男慶大教授の一貫した研究テーマであり,この学会の大きな柱の一つ
i
f
e
w
o
r
kとして続けてき?とテーマであり,いまだ
でもあります。また脳循環の研究は私の l
に光電法 (
Tomitae
ta
,
.
11
9
7
8,1
9
8
3
) を用いてその正確な測定に情熱を燃やしていると
ころでもあります。
脳循環測定の臨床的な意義を考えてみますと,その一番重要なのは脳の病変部,とくに
脳虚血部の血流値を知ることであり,その値から患者の病態の把握,予後の予測,治療法
の選択,あるいは治療の効果判定にあるはずです。日進月歩の科学は脳循環測定機器とか
トレーサーにすばらしい進歩をもたらし,患者に苦痛を与えることなく脳血流の三次元画
o
n
i
n
v
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s
i
v
eになればなるほ
像化を可能にしました。しかし進歩すればするほど,方法が n
ど,測定値のみが立派な衣 (m
Q
!
g
.
m
i
n
) を着て一人歩きを始め,現状ではなにか患者の真
の病態のみが置いてきぼりにされてしまっているような感があります。脳血流を測る人々
の興味が機械的なデータ処理,芸術的な描写技術に向けられているためかも知れません。
残念ながら現在の病巣部での脳血流値は臨床家が期待しているようなものではないように
思われます。ことに虚血部の血流値は問題です。そこの正確な血流値が分からないとした
ら"脳組織が虚血に陥る域値"だとか“虚血部での流血と代謝のカップリング"だとかの
enumbra"などの概念が砂上の桜閣になってしまいます。ここに脳血流測
論議が空しく,“p
定法が CTとか MRIに比べて「臨床的な価値」という点で遅れをとっており,臨床検査法
としての市民権を得るまでに至っていない原因があるように思われます。この講演ではそ
i
t
f
a
l
lを中心にして,脳循環測定者の聞でお互いに暗黙裡に触れ合わないよう
の問題点, p
にしているタブーみたいなところを中心にしてお話申し上げてみたいと存じます。
- 4-
特別講演
I
I トレーサー
脳血流を測るには血液の挙動を表現するトレーサーが必要です。このトレーサーは脳に
おいて消費されない,産生されない,薬理作用のない物質であるという条件が必要です。
d
i
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f
u
s
i
b
l
et
r
a
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),非
現在使われているトレーサーは,大きく分砂て拡散性トレーサー (
n
o
n
d
i
f
f
u
s
i
b
l
et
r
a
c
e
r
),マイクロスフェアーの 3種類があります。非拡
拡散性トレーサー (
,Kr,Xe,H
2
'CS,N2
0,18F-methane,3H一
水
, 1
4
C
e
t
h
a
n
o
l,
散性トレーサーとしては Ar
1
50などが挙げられま
1
4
F
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l, 1
4
C
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l,H2
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rt
r
a
c
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r
) とか直接的トレ
す。非拡散性トレーサーは別名血管内トレーサー(in
2
p,5
1
C
r,9
9
m
T
cなどをラベルにした赤血球, 1
3
1
1
R
I
S
A,99mTc-HSA
ーサーとかいわれ, 3
l
a
c
k,ヨード剤などがあ
(humanseruma
l
b
u
m
i
n
) などのプラスマトレーサー, carbonb
4
6
5
Sr
,1
4
1
C
e,1
2
5
1,
95Nb,5
1
C
rなど)
ります。マイクロスフェアーとしては放射性物質( SC,8
がラベルされた 15μm位の微小球が使われていますが,近年 c
h
e
m
i
c
a
lm
i
c
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s
p
h
e
r
eあるい
2
31
31
IMP(Ni
s
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r
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y
l
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-(
)iodoamphetamine) と
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u
i
dm
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c
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s
p
h
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eと称される 1
12
はl
9
m
T
c
-H MPAO(99mTchexamethyl-propyleneamine-oxime),9
9
m
T
c
-ECD(
9
9
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L,
L,
か9
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lc
y
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e
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n
a
t
ed
i
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e
r
) などが登場して参りました。以上のトレーサーの中には脳で代
謝されたり,産生されたりする物質も含まれているようです。
皿 拡散性卜レーサーによる問題点
a) 全脳血流測定 (
K
e
t
yの N2
0法)の問題点
chmidt (
1
9
4
5
) によって初めてなされました。
ヒト全脳血流の定量的な測定は Kety&S
トレーサーとしては N20が用いられたのですが,これはよく知られるように麻酔作用があ
chmidtがあえてこのトレーサーを使用したのは N2
0
り,脳血流に影響を与えます。 Kety&S
の血液への溶解度が高く,ガスの量が多いための血液濃度を VanS
lykeの装置で測定する
のが容易であったためでしょう。全脳血流(全脳血流, mlp
e
rgb
r
a
i
np
e
rm
i
n
) は N2
0
を被検者に 1
0
分間吸入,あるいは脱飽和させて,動脈血およびー側内頚静脈血を一定時間
および Cvを描き,血流を F
ickの式から計算す
ごとに分画採取し,それぞれの濃度曲線 Ca
るものであります。その式の誘導の詳細については別紙(富田:脳循環測定法。脳血管障害
実験法,田村晃,早川徹,桐野高明編,印刷中)をご参照下さい。
f=
寸λC
引
ι
v
川(
T
何
T
町
ここに fは脳組織単位重量単位時間当りの血流量であり,通常 fを1
0
0
倍して (m
I
!1
0
0
g
.
minJの単位が用いられています。
u
(
Ca(t)-Cu(t))ω動 脈 融 曲 線 静 脈 融 曲 線 の
聞の面積(
A
)であり, λは後で詳細に述べる血液脳分配係数(
b
l
o
o
d
b
r
a
i
np
a
r
t
i
t
i
o
nc
o
e
f
f
i
.
, N2
0の場合は 1とみなされています。なお C
a
(
t
)の(
t
)は Ca
c
i
e
n
t
)で
が時間の関数で時間
tにおける濃度であることを示しますが,煩わしいので以下 (
t
)を省略することにいたしま
す。この N20法は脳血流ばかりでなく,動脈,内頚静脈血の酸素含量,グルコース含量か
5-
特別講演
ら脳酸素代謝,糖代謝をも同時に測定することを可能にしました。これはまさに画期的な
1
/1
0
0
.
m
i
n
)は現在でも標準値とみ
ことであり,彼らの報告した脳血流量の値(ヒト;平均 54m
0
0
0例
なされております。この方法は日本へ相沢によりいち早く導入され,慶大医学部で 2
9
6
6
)。この NzO法は Ketyにより理論的なつめが
以上のヒト脳血流が測られました(相沢, 1
なされ,またそれを裏付げる実験的な証明もきちんと揃えられていて,精度の点では現在
使われている幾つかの脳血流測定法を遥かに上回るものとされていますがそれでもいまだ
)
脳循環と頭蓋外循環との交流の
に解決されていない問題があります。列挙いたしますと, 1
)片側内頚静脈血が大脳両半球を代表していない, 3
)
1
0分間の吸入時間は脳が
影響がある, 2
NzOガスに飽和されるのに充分でない(これは脱飽和曲線の t
r
u
n
c
a
t
i
o
nの問題を派生しま
す
)
, 4)NzOガスの髄液相への逃げの影響がある, 5)NzOガスの麻酔効果があるなどです。
更によく成書などに「吸入法は吸入中,あるいは脱飽和中の平均血流を測る」と記載され
ていますがこれは誤りです。どの吸入法でも(血流の計算が面積で計算される場合)には測定
-V濃度曲線(
A
)は脱飽
中に脳血流が変化しますと厳密には脳血流は測れません。例えば A
和中に脳血流が 5
0→ 3
0→ 40m
1
/1
0
0
g
.
m
i
nと変化した場合と, 3
0→ 5
0→ 4
0m
s
/
1
0
0
g
.
m
i
n
と変化した場合では大きく異なります。いずれも平均血流としては 40m
1
/1
0
0
g
.
m
i
nです
が,面積(
A
)から計算される血流には 30%も誤差が生じてきます。したがってガス飽和,あ
るいは脱飽和中に脳血流が変化する様な操作を加えることは好ましくありません。急激な
n
e
r
t
i
aがあるからです。
血流変化に対応する拡散物質の組織での飽和,脱飽和の過程に i
b) 拡散性トレーサーによる局所脳血流測定の問題点(“f
a
c
t
o
r
m
"とHλ"について)
Ketyの脳循環測定の理論とその背後にある仮説 (
K
e
t
y,1
9
5
1
) は,いまだに拡散物質を
用いた局所脳血流測定法の基本となっています。トレーサーガスを患者に吸入させますと,
ガスは動脈血から脳に運ばれて,それぞれ局所に胎て毛細血管から脳組織に移行して行き
r
i
v
i
n
gf
o
r
c
eはガスの t
e
n
s
i
o
n
,あるいは拡散性物質の f
u
g
a
c
i
t
yとよば
ます。この拡散の d
Bunsen
れるものの大きさであり,血液と脳組織の聞の量的分配はガスの血液と脳の溶解度 (
a
b
s
o
r
p
t
i
o
nc
o
e
f
f
i
c
i
e
n
t:の血液あるいは脳組織に溶け込むガスの量 (
m
l,
O
O
C
)の比によっ
て決まります。この比すなわち λ はガスが血液と脳組織との間で量的に平衡に達したとき
a
c
t
o
rm"(
t
h
ee
f
f
e
c
i
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i
v
e
n
e
s
s
の値です。過渡期には濃度勾配があって,その平衝の効率は“f
o
ft
h
et
i
s
s
u
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i
l
l
a
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i
f
f
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s
i
o
ne
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u
i
l
i
b
r
i
u
m
) により表されます。この非平衡時の分配比
Tomita& Gotoh
,1
9
8
1
)。
がしばしば λ とみなされているようですが正しくありません (
1
9
5
1
)の中に, Xeガスの o
il
/
waterの
これを水と油の例で説明いたします。 Ketyの論文 (
0という高い数値がのっています。これは例えば密封容器に油 (
0
)と水 (w)を半々
分配比2
0
:1に分配され
いれ,残りの空間に Xeを充満させてよく振ったとします。 Xeが油と水に 2
0
:1
の不完全平衡時を考えてみましょう。この
るということです (λ=20)。その比がまだ 1
0
倍の濃度勾配に
時の値が λでないことはあきらかです。 Xeはまだ水側から油側へとその 1
逆らって少しづっ移行していくはずです。これは直感的には p
a
r
a
d
o
x
i
c
a
lな現象ですが Xe
.
z
ガスの t
e
n
s
i
o
n勾配 (Cw> s/λ)を考えますと理解は容易です。これと同様の現象を脳
に押し進めてみます。いま何等かの理由で脳の一部にある薬剤の溶解度の高い,あるいは
- 6-
特別講演
親和'性の強い部分があったとします。当然その部位にその薬剤は集積します。その画像を
みるとそこに薬剤が濃度勾配に逆ってどんどん取り込まれていくかのように見えるため,
何か b
i
o
l
o
g
i
c
a
lp
r
o
c
e
s
s,例えば a
c
t
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v
et
r
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p
o
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tとか c
a
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r
i
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rm
e
d
i
a
t
e
dの t
r
a
n
s
p
o
r
t機 構
が働いているように解釈されてしまう可能性があります。 λのあるいは血流の問題に関連
してこれは非常に注意を要する点だと思われます。物質の「溶解度」が「妖怪度」といわ
れる由縁です。
さていま図 1の様に毛細血管動脈端から静脈端迄の長さを L,毛細血管のなかの任意の点
,毛細血管内血液の平均速度を v,毛細血管壁の単位面積
の位置をお毛細血管の半径を r
あたりの透過係数を P とします。一方組織側では時間 t毎にトレーサー濃度は均一濃度 Cc
で変化していくと仮定します。 xから dx区間にある血液が毛細血管壁(表面積 2
π
r
d
x
)から
放つ拡散物質の量 dqは
dq=-2πrPdx(Cb一C
c
/
A
)…
.
.
.
・ ・..……………………...・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.2
H
H
H
です。一方血液が失うトレーサーの量は dC
b
πr2dxであり,血液が単位時間に流れる距離
d
tであることから質量保存の法則より
は dx~ v
dCbπr2vdt=-2πrPdx(Cb一C
c
/
A
)…
.
.
.
・ ・・・
.
.
…
.
.
.
・ ・..………… 3
H
H
H
H
となります。ここに n
r2Vは単位時間の血流量 Fであります。したがって
dCb/dx=二 (2πrP/F)(Cb一C
c/A)'"・・・・...……………...・ ・
.
.
…
・4
H
H
H
H
となり,この微分方程式を解き,適当な境界条件をいれて並び直すと
(Ca-Cv)/(Ca-Cc/λ)=1-e-Ps/F
二
m
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・..…………..5
…… .
H
H
となります。これが“f
a
c
t
o
rm"といわれるものの定義です。 P とか Sが大きければ, m は
L
venule
図 1:K
r
o
g
hの円筒モデル:毛細血管とそれが栄養する組織。 A=動脈, V二静脈, L=毛細血管
x=単位時間に血液が流れる距離, Ca
=トレ
長さ, r==毛細血管半径, v==血液速度, F二血流, d
ーサー動脈血濃度, C
b二トレーサーの毛細血管内血液濃度, C,=トレーサーの組織内濃度、 C,=
2
q=毛細血管内血液濃度変化。なお 21TrL=S(毛細血管表面積), 1Tr
トレーサーの静脈血濃度, d
Vニ
F,Cb.x~O 二 C a.
Cb.x~L=C ,の関係があります。
7
特別講演
大きくなり,
トレーサーは短時間に組織に広がります。実はこの式は血中の物質が毛細血
管を通過するときにどの位の量が抽出されるかを表す“一回通過摂取率"E (
s
i
n
g
l
et
r
a
n
s
i
t
9
8
1
)。
e
x
t
r
a
c
t
i
o
nr
a
t
e
) と同じ式であります (Tomita& Gotoh,1
E=1-e-Ps/F .
.
・ ・
.
.
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・..………………………'"・ ・
.
.
.
6
H
H
H
H
m および E は無次元の量で, 0から 1までの値をとり, E=0はトレーサーが全く組織へ
移行しない, E=1はトレーサーが瞬時に組織へとすべて抽出されることを意味します。
次に, Fickの原理から
dCc/dt=F/W(Ca-Cvト
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・7
の関係が成立いたします。ここに W は組織の単位重量です。 Cv=C
/
λ の関係,および式
c
5と 7を組み合わせると
dCc/dt=(mF/i
tW
)
(
i
tCa
c
)… ・・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
.
・ ・
"
'
8
一C
H
H
H
H
H
H
について解きます
という微分方程式が得られます。ここで mF/λW=m
f
/λ=kと置き, Cc
と(記号解法変移定理を用いると積分が容易)
tfCaektdt ………...・ ・
Cc=itke-k
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.9
H
H
H
H
H
が得られます。この式は動脈の濃度変化 Caと組織でのトレーサーの濃度変化 Ccを関係づけ
るものであります。もし動脈血のトレーサーの飽和,あるいは脱飽和が時間 T まで行われ
たとしますと,式 9を定積分して
Cc
二 i
tkf
O
TCae
k
(
T
t
ldt十 B.
.
.
.
・ ・・
… …
・
・
・ -… ・ ・
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
…1
0
H
H
H
H
H
となります。 B は積分定数で濃度変化開始時,あるいは終了時の境界条件であります。こ
0はいろいろな拡散性トレーサーを使う場合の基本的式ともいえます。例えば Caが s
t
e
p
の式 1
変化で一定値になると見なせば,ガス吸入法の一般式となります。また動脈濃度が時間と
ともに増加すれば1
4
C
i
o
d
o
a
n
t
i
p
y
r
i
n
eなどのオートラヂオグラフ法における脳血流測定に用
t
いられる式となります。この組織濃度 C は動脈濃度変化 C に組織の t
r
a
n
s
f
e
rf
u
n
c
t
i
o
n,e
-k
c
a
を重畳 (
c
o
n
v
o
l
u
t
e
) して形成される量です。時間 T にトレーサーが示す脳組織の濃度は,
tをか砂あわせたも
T より前に存在した動脈濃度 C に各時間,各時間それぞれの減衰率 e
-k
a
のの総和であるということです。すなわちある時間 Tにおいて脳にトレーサーがあるとい
うことはJ過去のいろいろな動脈濃度変化に時間的な重み付けをしたものの総和として存
在する J, I現在があるのは過去があるからだ」という些か哲学的な式でもあります。
問題点は幾つかあります。まず無次元のはずの λに次元があるということです。 mf/λ=
kの次元を考えてみますと, m は無次元, fは (cm3・
g
l・
T-1),kは (
T
l
)であるところ
m3.
g
-1) の次元をとらざる得ないことになっています(富
から元来無次元のはずの λが(c
田,後藤, 1
9
7
2
)0 Lassenはこれを h
i
d
d
e
ndi
m
e
n
s
i
o
nと呼びましたが,些か龍弁のきらい
- 8-
特別講演
があります。しかし実際には脳の比重はほぼ1
ですから血流値の計算には大きな誤差が生じ
a
c
t
o
rm"は従来殆ど注目されず,それから生じる理論的なずれがすべ
てきません。一方“f
て λの中に入れられてきました。 λ はいわば“ごみ箱"的存在であると言えます。たとえ
ば脳が虚血に陥ると「 λは低下する」といわれています。 D
rayer(
19
8
0
)などは Xeenhanced
CTにより脳虚血部における著しい λの低下(最低値0
.
1
5
) を報告しています。本当に λ
はこんなに下がるものなのでしょうか?すでに延べたように, λ は脳組織と血液のガスの
溶解度の比です。脳卒中患者血液の Xeにたいする溶解度は正常人とあまり変わらないはず
ですからもし λが虚血部で低下するとすれば,脳組織の Xe溶解度が虚血とともに減少し
なくてはなりません。 YehandP
e
t
e
r
s
o
n(
1
9
6
5
)は脳ホモジネートの実験から, Xeの溶解
度は l
i
p
i
d量,蛋白量,電解質の量の関数として表現しました。脳皮質虚血では水分が増加
し,蛋白量の低下と l
i
p
i
dの増加を考えるとき, Xeの溶解度はあまり変化がないかむしろ
増加するように予想されます。 Ketyら (
1
9
4
8
) は N20の脳組織での溶解度を報告しまし
4時間経た脳(絶対性虚血2
4時間の脳)
たが,そのデータをみますと,死後直後の脳と死後2
とでは溶解度に差がなく。これらのデータから脳が虚血に陥ったとしても λ は殆ど変わら
nhancedCTの λmapで虚血部 λの減少が見られたとし
ないと考えられます。もし Xee
たら,それは Xeの不十分な吸入時間と脳内での運搬力(血流)低下のために, Xeが虚血
部で充分に飽和に達していないためと想像されます。さらに虚血部の“f
a
c
t
o
rm"について
考えてみます。式6より血流が低下すると血液が毛細血管をゆっくり流れるため,トレーサ
9
8
1
)。し
ーはその聞に充分に組織に摂取され, Eは1に近付きます (Tomita&Gotoh,1
かし一方では虚血部では浮腫のため毛細血管距離が広くなって,組織に移行したトレーサ
ーが平衡に達するまでに時間がかかります (m<l)。すなわち式 5と式 6に示した E とm の
聞に解離が起こると考えられます。以上のようにこの“f
a
c
t
o
rm" と λの問題はまだ分か
らないことばかりですが,脳血流算出の過程では非常に重要です。例えばある脳の局所に
おいてトレーサーの r
a
t
ec
o
n
s
t
a
n
tkが得られたとします。この kから血流値に変換する
ときに, k=mf/λ の関係から m も λ も血流値 fに直接的にしかもお互いに逆方向に効いて
くるからです。この不安定さの上に計算された値で脳血流が現在論じられているわげです。
さらに重要な問題があります。上記理論式誘導の際に,局所のトレーサー濃度が一つの
値C
cで表されていることです。局所組織である時間,空間的に同じ濃度を保ちつつ変化す
るということはトレーサーが組織に運ばれてくると,直ちに毛細血管の a
x
i
a
lの方向だけで
なく l
o
n
g
i
t
u
d
i
n
a
lの方向にも完全 mixingが起こっていなければなりません。すなわち瞬間
i
n
s
t
a
n
t
a
n
e
o
u
se
q
u
i
l
i
b
r
i
u
m)の仮説です。 Ketyは上記理論式を肺胞モデルで誘導し
平衡 (
ました。肺胞ならば組織部分が気相のため瞬間平衡が可能かもしれません。 Ketyはその仮
説をそのまま水と細胞の詰まった脳組織に当てはめました。ここに Ketyの「苦渋に満ちた
決断」があったように思われます。しかしそのおかげで現在の 2次元,3次元の flowmapの
画素が一つの濃度で表され,しかもその意味付が明快になされるようになったといえます。
Gotoh,Tazaki,Meyer (
1
9
6
1
) は動物実験で露出脳表からガスを吹き付仇脳深部に到達
するガスの速さを測定し,ガスの拡散速度は生きている脳組織では死んだ脳組織よりも数
- 9
特別講演
倍速いことを報告いたしました。これは生きている脳組織では血管系の v
asomotionがガス
の拡散を f
a
c
i
l
i
t
a
t
eしているためと解釈されました。それでは血管系がない生きた細胞だけ
の系では拡散はどのようなものでしょうか。私達は培養 g
l
i
o
m
a細胞の s
u
s
p
e
n
s
i
o
nにおい
てm
ediaだけの場合よりも約 50%ほどガスの拡散速度が速いことをみいだしました (Tomita
e
ta
,
.
l1
9
8
9
)。生きた細胞が存在するだけでも mixing作用があるようです。この f
a
c
i
l
i
t
a
t
i
o
n
には細胞の c
y
t
o
s
k
e
l
e
t
o
nの動き, p
r
o
t
o
p
l
a
s
m
i
cf
l
o
w,細胞膜を絶えず、出入りする水の動
き(小イオンに伴う)などによる撹枠効果が幾つか重なって関与していると思われます。
これは毛細血管からの組織へのガス拡散が単純な水における拡散係数のみでは計算できな
いことを意味します。要するにここで申し上げたいのは“Ketyの瞬間平衡の仮説"は脳組
織でもあまり大きな誤りでなかったということです。しかし虚血になって細胞活性が落ち
てくると組織は撹持効果を失い,瞬間平衡の仮説がは怪しくなってまいります。
局所血流を測ろうとする時,二つの相反する要求があります。一つは脳の中の局所脳血
流変化 h
e
t
e
r
o
g
e
n
e
i
t
yを表現したいということ,他の一つは測られている局所領域だけは均
一血流で表現したいということです。「周りは相違だらけだけれど自分のところだけは同じ
だ」というこの矛盾,しかしどこかで線を司│かなくてはなりません。同一データから画素
の大きさの選び方によって異なる結論が生まれる可能性があります。
I
I
I 非拡散性トレーサーを用いる問題点
a
c
t
o
rm"とか“ λ"とかの煩わしい問題は
脳血流の測定に非拡散性物質を用いますと,“f
避けられます。これは血流を血管の中だけで測定しようとするものです。すでに述べたよ
うにラベルした赤血球,ラベルした血祭蛋白,カーボンブラックとか血管造影剤(ヨード
剤)などがトレーサーとして使われています。その測定理論は Z
i
e
r
l
e
r(
1
9
6
2,1
9
6
5
) に負
9
7
2
)。説明を容易にするために,ここに入口と出口の
うところが大きいようです(富田, 1
はっきりした液体の流れているブラックボックスがあると仮定します。この流れを測定す
るためには,入口からトレーサを入れて出口から出てくる量の時間分布 (
h(
t
))を測りま
す。この場合ブラックボックスのなかの流れが定常流であること,入口と出口が一つずつ
であること,
トレーサーの出現様式に再現性があること, p
r
i
n
c
i
p
l
eo
fs
u
p
e
r
p
o
s
i
t
i
o
nが成
立することなどの条件が必要であります。トレーサーの通過時間の表現には次の 3通りの
方法があります。統計的な平均 meant
r
a
n
s
i
tt
i
m
e,曲線の peakt
opeakから測られる mode
t
r
a
n
s
i
ttime,曲線の面積の中央をとるを m
e
d
i
a
lt
r
a
n
s
i
tt
i
m
eです。図 2に示すように同
r
a
n
s
i
tt
i
m
eにl.5
倍以上の差が生じ,それらを明確にしないと議論が
じデータから時には t
かみあわないことがあります。しかし血流測定の場合には meant
r
a
n
s
i
tt
i
m
e (MTT) が
用いられるべきであることは言うまでもありません。流量 (
F
)の定量化のためにはブラッ
V
)を別の方法で測る必要があります。かくて得られた MTT(血流の
クボックスの容積 (
i
n
t
e
n
s
i
v
ep
a
r
a
m
e
t
e
r
)および v(血流の e
x
t
e
n
s
i
v
ep
a
r
a
m
e
t
e
r
)から, S
t
e
w
a
r
t
-Hamilton
の式 F~V/ (MTT) より血流が計算されます。しかし V が一定とすれば1
/(MTT)の変
化がそのまま血流変化と見なすことができます。
n
u
t
特別講演
脳循環の測定に非拡散性トレーサー,すなわち i
n
t
r
a
v
a
s
c
u
l
a
rt
r
a
c
e
rが用いられるとき
大きな問題が二つあります。その一つは o
v
e
r
l
a
p
p
i
n
g効果です (Tomitae
ta
,
.
l1
9
8
3
)。こ
れは MTTを脳組織希釈曲線 (H(
t
)
) の面積/高さ法から求めようとするときに特に注意
が必要です。おそらく dynamicCTなどで脳血流の測定を試みられた方はお気付きだと思
いますが,静脈に注入したトレーサーで測られた脳血流は著しく低く評価されます。これ
は図 2の動脈曲線が脳の入口ですでに大きく分散してしまっているためです。 H(t)曲線を
分析する際に,
トレーサーの最高濃度(高さ)が低くみつもられ,面積/高さ法で求めた
MTTが大きくなって,血流が過小評価されてしまうためです。理論的には動脈血により脳
に運び込まれるトレーサーは-E!_組織微小循環系にすべて入りきってから(最高濃度にな
ってから) トレーサーの流出が静脈から始らなげればなりません。この条件は入口にトレ
a
cの D
e
l
t
af
u
n
c
t
i
o
n (高さだけがあって底辺が点という曲線)の形て 入った
ーサーがDir
e
時だけ満足させることができるのですが現実にはこのような様式は存在し得ません。私達
のネコの実験では頚動脈に s
p
i
k
e状に注文したトレーサーですらもが約 7.6%の o
v
e
r
l
a
p
p
i
n
g
効果を示しました。静脈に注入しますと動脈注入に比べて MTTは 1
.
5倍以上延長して計算
e
c
i
r
c
u
l
a
t
i
o
nの問題もこれと同様に論じることができます。もし動脈曲線と脳
されました。 r
e
c
o
n
v
o
l
u
t
i
o
nの手法(富田, 1
9
3
7
)で
曲線,あるいは動脈曲線と静脈曲線の記録があれば d
組織の通過関数 (h(
t
)
)が求められ,更に幾つかの微小循環パラメーター (Tomitae
ta
,
.
l
1
9
8
3
) が計算できるはずですが,これは決して容易なことではありません。
非拡散性トレーせーを用いる場合の他の問題点としては,組織へマトクリットがありま
す。脳の平均通過時聞を測るとき,赤血球トレーサーを用いた場合とプラスマトレーサー
とでは MTTに相違が生じることです (
Tomita&G
o
t
o
h
.1
9
8
2
)。学生に「赤血球とプラ
0
人中 9人までが「プラスマだ」
スマとどちらが速く組織を通過するか」と質問しますと 1
0
と応えます。実は赤血球です。私達の測定では赤血球の MTTはプラスマの MTTの約6
%ほど短く,それだけ赤血球が速いわげです。これは主として F訂l
r
a
e
u
s
-L
i
n
d
q
v
i
s
t効 果
で説明されておりますが,まだ本体はよく分かつておりません。見かけ上脳組織ではプラ
スマの容積が赤血球容積よりも大きく,へマトクリットの定義から赤血球容積/プラスマ
Tomitae
ta
,
.
l1
9
8
8参照)
が採血血液へマトクリットより小さくなります。報告された値 (
ATIE--
E口一日間﹄富田UEOU
ーーー---M
o
d
e
(
M
o
)
一 一 -M
e
d
i
a
n
(
M
e
)
一一一-M
e
a
n
(問)
図 2 :発光ダイオードと光センサー (SpD)をネコ軟膜動脈および上矢状静脈洞にそれぞれ装着、
頚動脈から希釈カーボンブラックを注入,得られた希釈曲線 Caおよび C,を示します。カーボンブ
ラック通過時間 (
t
r
a
n
s
i
tt
i
m
e
)にはモード通過時間 (
m
o
d
e,
Mo),中央通過時間 (
m
e
d
i
a
n
,M
e
),平均
通過時間 (
m
e
a
n
,M=MTTlの 3通りの表現方法があります。
唱Eよ
ti
特別講演
をみてみますと, 0
.
9
2(
L
a
r
s
e
n&L
a
s
s
e
n
),0
.
8
5(
O
l
d
e
n
d
o
r
f
),0
.
3
0(Yamakawa&Niim
i
),
0
.
2
0(
K
l
i
t
z
m
a
n& D
u
l
i
n
g
),0
.
6
2(Tomitae
ta1
.
),0
.
7
3(
S
a
k
a
ie
ta1
.
),
0
.
6
9(Lammertsma)
などがあります。毛細血管では実に大血管血液へマトクリットの 20%,すなわち 1
/
5にも低
下しているわけです。上記のばらついた結果はそれぞれの値の中にどの位の割合でもって
この低い毛細血管へマトクリットが含まれているかにかかっているのでしょう。組織へマ
トクリットの問題を突き詰めて行くと一体手掛哉の血流とは何だろう?という難しい疑問に
ぶつかります。
V マイクロスフェアー,その他の脳循環測定法の問題点
a) マイクロスフェアー
放射性物質をラベルしたマイクロスフェアー(直径 15μm)を実験動物の心臓に注入した
とします。マイクロスフェアーは血液と混合し全身に散らばります。その散らばり方は,
各臓器,各局所それぞれ血流に比例した量で分配され,毛細血管(直径約 5μm)に物理的
に捕捉されます。もちろん脳にも運ばれ,局所組織での放射活性の多寡を測定すれば心拍
a
c
t
o
rm"とか“ λ"とか,“ o
v
e
r
l
a
p
p
i
n
g効
出量にたいする血流量が得られます。この場合“f
果"とか“組織へマトクリット"などの煩しい問題はすべて消滅するはずです。したがって
この方法を虚血部の血流測定に愛用している方もあります。しかしマイクロスフェアーの
様なごろごろしたものを繊細な微小血管系に入れた場合,瞬間的な血流反応がどうなるの
かよくわかりません。また脳組織を摘出する際にマイクロスフェアーが脱落することも問
題になります。
不思議なことですが,脳動脈に 50μm位の大きなマイクロスフェアーを注入しますと,組
織のどこをどう通ってきたか静脈側に一部出て参ります。マイクロスフェアーが脳血流測
定に用いられる場合には組織毛細血管に 100%捕捉されることが必須の条件です。この方法
では非捕捉率が一番大きな問題でしょう。
近年このマイクロスフェアーと同じ原理で,脳に捕捉される化学物質が開発されてきま
,ECDなどがそれで,これらは c
h
e
m
i
c
a
lm
i
c
r
o
s
p
h
e
r
e
した。すでに述べた IMP,HM-PAO
とか l
i
q
u
i
dm
i
c
r
o
s
p
h
e
r
eとかよばれます oHM-PAOを例にとります。(これについては L
a
s
s
e
n
とB
l
a
s
b
e
r
g編集の特集があります(JC
e
r
e
bBloodFlowMetab8:S
l
S
1
2
6,
1
9
8
8
)0 H M
PAO(
li
p
o
p
h
i
l
i
cf
o
r
m
)を静脈に注入しますと,この化学物質は脳にも運ばれ,組織で捕
捉されます。脳一血液関門は脂溶性の物質を特に良く通過させる特性があるところから,
l
i
p
o
p
h
i
l
i
cformの HM-PAOは容易に脳組織に入りこみます。この HM-PAOは直ちに細
l
u
t
a
t
h
i
o
n
eで h
y
d
r
o
p
h
i
l
i
cの形にされ,脳内に保持されるところからマイクロスフ
胞内の g
ェアーとしての特性を示すことになるとされています。しかし問題はやはり一回の毛細血
i
p
o
p
h
i
1
i
cformのまます
管通過でどのくらい捕捉されるかにあります。組織内に入っても l
)は正常でも
ぐ血液内に出ていってしまうものもあります。 HM-PAOの捕捉率(抽出率 E
0
.
7
1と低く,しかもこれが血流依存性に変化する (
E~-0.29 F
+
0
.
9
0
)と報告されています
(
A
n
d
e
r
s
o
ne
ta
,
.
11
9
8
8)。したがって当然 h
i
g
hf
l
o
wの領域では血流が過小評価されるこ
-1
2-
特別講演
とになります。 Terayama (
1
9
8
9
) は HM-PAOにより脳虚血部の血流が著しく過小評価
されることをみており,病的組織では細胞活性の低下からその保持力すらも変化している
可能性があります。同様の問題は IMPにもあり,その捕捉率 (
E
)は血流 33m
l
1/
1
0
0
g
.min
で0
.
9
2,血流 6
6
m
1
/
1
0
0
g
.minで0
.
7
4と報告されています (
K
u
h
le
ta
,
.
l1
9
8
2
)。最近9
9
m
T
c
-ECDなどのトレーサーも市販される予定ですので, SPECTの機器さえあればどこでも簡
便に脳血流が測れるようになりますが,実際のところまだ定性的な測定がやっとというと
ころでしょう。
b) レーザー組織血流計
最近レーザードップラーを応用した脳組織血流計が市販されています。これは脳表に小
さな p
r
o
b
eを乗せて組織血流を測る装置です。 c
o
h
e
r
e
n
t (単一周波数)のレーザー光を脳
織に照射して,組織から反射してくる光を分析して組織血流を測ろうとするものです。
組j
その反射光の中には動いている物質に当たり,ドツプラー効果すなわちその速度に比例し
た周波数変調を受けてた光が含まれています。これを分析して血流速度を測るわけです。
一方静止組織から反射して帰ってきた光は c
o
h
e
r
e
n
tのままであり,その量比から血液含量
を計り,血流を推定しようとするものです。しかし組織内で動くものはすべて赤血球かと
いうとそうでもない,先ほどの脳細胞の動きとかミトコンドリアの動きなども含まれてし
まいます。また血流とはもともと“f
l
u
x
"ですが,微小血管 v
a
s
o
m
o
t
i
o
nによる赤血球の往
復の動きが血流として表されてしまう可能性もあります。したがってこの方法で得られた
値を直ちに“血流"とすると混乱が生じるかも知れません。しかしその方法の限界を良く
知った上で使うならば,微小循環系の情報を得るためにいろいろと面白い使い方があると
思われます。
V
I 組織濯流不均一性による問題点、
脳血流を測るとき,あるいはその測られた値の解釈をするとき,微小循環床の構造を考
慮に入れなくてはならないことがあります。すでに述べた 50μmのマイクロスフェアーの通
過チャンネルもその例です。 C
hambersandZ
w
e
i
f
a
c
h(
1
9
4
4
) の微小循環床の模式図の中
でp
r
e
c
a
p
i
l
l
a
r
ya
r
t
e
r
i
o
v
e
n
o
u
sa
n
a
s
t
o
m
o
s
i
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私はヒト内頚静脈の水素クリアランス曲線が90%
位から始まるということ (
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-1
3-
特別講演
説明できると思います。更に脳組織では虚血状態が永く続くと毛細血管網が秩序を失い,
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血流が増えても,血液が組織の真性毛細血管を濯流しないためにあまり脳組織には益がな
いでしょう。これはしばしば問題となりますが,脳外科で“EC-ICのバイパス手術をして
血流は確かに増加したが,患者の症状が一向に良くならない状態"などを説明するかもしれ
ません。これらの点はまだ憶測の域を出ておらず今後の研究が待たれます。
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I おわりに
本日の話についてを大まかに纏めてみます。まず拡散性トレーサーを用いますと,“ f
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学の相克があり,その他の方法でも多かれ少なかれ幾つかの問題を内臓しております。こ
れらの問題はどちらかと言えば敬遠され,研究者同志も紳士的にお互いに触れ合わないで
今日まで来ているように思われます。また一部には“最新の機械が測ったのだから脳血流
値には間違いがないのだ"という確信をもっていらっしゃる方があるようにおみうけしま
す。この盲信をまず取り除いて頂きたい。機械ほどあてにならないものはないのですから。
しかしそれぞれの装置を使って得られた脳循環のデータは貴重です。特に申し上げたいの
は脳血流として途方もない値が得られたとします。そういった値はとかく棄却検定などに
かけて捨ててしまったり,いろいろの理屈を付けて結果をもっともらしい数値に修正され
がちです。その様にして作られたデータは確かに他人には耳ざわりが良心学会で質問も
少ないかも知れません。しかし過去の多くの新しい発見がそうであったように,そういっ
たとんでもない値から新しい知見が見いだされることもあります。技術上の誤りがないと
したらその様な値を胸をはって発表して頂きたいと思います。また患者の条件(少くとも
血圧,へマトクリット,病期)を詳細に残さないとその脳血流値は意味を失います。うわ
べの数値だけの議論でなく,もっともっと本質に踏み込んだ“病巣の叫ぴ"ような数値自
体が意味するものの議論があればと期待します。
講演の終わりにあたり私をお招き頂き,また本日の司会の労をおとり下さった北里大学
内科目崎義昭教授,終始ご指導頂いた慶応義塾大学医学部神経内科後藤文男教授,またい
ろいろのご実験にご協力頂いた慶応義塾大学医学部神経内科教室員一同に感謝いたします。
長時間ご静聴ありがとうございました。
文献
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k,MichaelMeyer,PlenumP
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.,NewYork,
1
9
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np
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.
富田稔:脳循環測定法, 1
n:脳血管障害実験法,田村晃,早川徹,桐野高明編,印刷中
Y
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ehomogenates.JApplP
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5
.
EA
唱
ρhv
第1
4回国際脳循環代謝会議報告
北里大学医学部内科
坂井文彦
はじめに
第1
4回国際脳循環代謝会議“ B
r
a
i
n89" は 5 月 28 日 ~6 月 1 日の 5 日間イタリアのボロー
ニアで開催された。長年にわたり脳循環代謝研究の中心的役割を果たしてきたこの学会も,
学問の進歩とともに大変大きな学会となり,今回の学会抄録集 1)をとってみても目次だけで
4
2頁,演題数 7
5
6題の m
i
n
i
p
a
p
e
rを収録する大変分厚いものとなった(本文中,紹介演題
に続く括弧内の数字は抄録集のページ数を示す)。研究分野も極めて広範囲にわたっている
ため,本報告は私が輿味を持った限られた演題についての印象記といったものである。た
だ自分なりに何とか学会の全体像をとらえたいという希望のもとに,できるだけ多くの人
の話,専門家の話を聞くように試みたので,「人から聞いた話」を交えて報告としたい。な
i
e
s
c
h
i らが学会誌 J
o
u
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a
lo
fC
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r
e
b
ra
l Blood Flow and
お,この学会の会長である F
Metabolismの E
d
i
t
o
r
i
a
lとして本学会の報告をしている九全体を網羅した学会報告とな
っているので参照していただきたい。
学会の開催されたボロニアはイタリアのやや北部にあり,昔から交通の要として栄えた
i
e
s
c
h
iは
ところである。ボロニアはまた古い大学の町としても有名で,今回の学会の会長 F
0
0年であるため,特にこの地
ローマ大学の教授にもかかわらず,今年がボロニア大学創立9
2
0
0
人とマンモス学会だ、ったが,日本か
で学会を開催したという事である。参加者は合計1
2
0人と多く,全体の 10%を占めた。日本からの研究発表は 1
0
6
題と多く,
らの参加登録者も 1
0
題に 1題が日本からのものだった。
ポスターは 5題に 1題が,口演は 2
脳虚血と蛋白代謝
初日の第一会場では,最近トピックスとなっている虚血時の蛋白代謝が最初のテーマで
あった。従来脳代謝の研究というと,エネルギー産生に関係したグルコース代謝が主体で
e
l
a
y
e
dn
e
u
r
o
n
a
ld
e
a
t
hに関連し,脳細胞に不
あったが,近年,特に遅発性神経細胞壊死 d
完全な障害があった場合,その回復過程に蛋白代謝が重要な役割を演じているとする研究
S
l
) は,虚血という侵襲に対し蛋白合成系
が多いようである。 Hossmannらのグループ (
t
円
τよ
国際会議報告
のどこに障害が生ずるかについて検討し, m
e
s
s
e
n
g
e
rRNA には変化がないが,主として
t
r
a
n
s
f
e
r RNAからアミノ酸配列への翻訳過程に問題がある,すなわち RNAの
“t
r
a
n
s
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t
i
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n
a
l
"でなく“t
r
a
n
s
c
r
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i
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l
"な合成過程に障害が生ず、るとした。その他,虚血時にみら
S
2
),蛋白の p
h
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s
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r
y
l
a
t
i
o
n(
S
3
),markerp
r
o
t
e
i
n
(
S
4
)といった新
れる特異な蛋白物質 (
しいテーマがトピックスとなった。最近,蛋白代謝の研究が大変進歩し,その研究手法が
虚血の研究に応用され,多くの新知見が得られつつあるようである。グルコース代謝をは
i
a
b
i
l
i
t
y
"を論じていたのに対し,
じめとしたエネルギー代謝の研究が,主として脳組織の“v
蛋白代謝の研究では,脳細胞がどのように回復し得るか,さらには神経細胞の可塑性とは
といったテーマについて新しい研究が展開しつつあるように思われる。
脳虚血と興奮性アミノ酸
この学会では MK801と呼ばれる薬剤に関する研究が多かった。 MK801は米国の Merk
社で作られたグ lレタミン酸レセプターのブロッカーである。虚血後 2~3 日遅れて脳細胞
が壊死に陥るいわゆる遅発性細胞壊死の原因として,虚血により放出された興奮性アミノ
酸により周囲の細胞が異常に刺激され,障害に陥るとの学説が脚光をあびている。治療面
では,遅発性細胞壊死に対するグルタミン酸レセプターのブロッカーの効果が検討されて
i
n
s
b
e
r
gのグループは
いるが,従来賛否両論といったところであった。今回, Miamiの G
(
S
5
),MK801だけでは必ずしも良い結果は得られなかったが, DopamineD
la
g
o
n
i
s
tと
e
r
b
i
lの脳虚血モデルで良い結果が得られたとした。これに対し,米国 C
o
r
n
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l
併用すると g
大学の P
u
l
s
i
n
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l
l
i は MK801だげではだめだったが combinedt
h
e
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p
yは良いかも知れな
S
6
) は MK801は虚血のすべて
いとコメントした。スコットランド Avimoreのグループ (
e
i
z
u
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ea
c
t
i
v
i
t
yの見られるなど神経細胞
に有効なわけではなく,有効なのは虚血巣周辺で s
活動の異常な興奮のみられる領域のみであるとした。
レセプター,イメージング
神経伝達物質の動きをできるだけダイナミックにとらえたいという目的で,オートラジ
オグラフ法のトレーサーとして抗コリン薬,カルシウム拾抗薬, ドーパミン吸収阻害薬な
S
1
3,
1
4,
1
5
) を使用した研究が注目をあびた。その他,脳細胞障害のマーカーを開発
ど (
S
1
7
)。蛋白代謝のイメー
し,障害の程度のイメージングを試みるといった報告があった (
o
k
o
l
o
f
fのグループ (
S
2
0
1
) は蛋白合成には血中からのアミ
ジングの研究も進んでおり, S
e
c
y
d
i
n
gがかなりある事を明らかにし
ノ酸のみならず,分解した蛋白のアミノ酸の再利用 r
た
。
脳循環調節機序
3
K+イオンによる脳血流の調節の問題も近年注目されている。 P
a
u
l
s
o
n
,Newman
)らによ
れば,脳細胞の活動により脳血流が増加するのは,神経細胞の脱分極の際に細胞外に出た
K+を星状細胞の樹状突起の一端がサイフォンの様に吸い取り,その刺激により連鎖反応的
t
.L
o
u
i
s
に反対側の突起より K+イオンが放出され,脳血管が拡張するというものである。 S
i
a
噌
。
白
-国際会議報告
のl
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aのグループ (
S
2
0
7
)は m
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r
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eで星状細胞中の K+の変化を測定すると
ともにレーザー・ドプラー法で局所脳血流を測定し,星状細胞と K+とが局所脳血流の調節
に重要な働きを持つ事を改めて強調した。ここで重要なのは,脳機能充進の際の血流増加
が代謝の充進を介さずに起こり得る可能性が示唆されている事である。この点に関連して,
S
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sの R
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eらのグループの血流と酸素代謝の u
n
c
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n
g説,すなわち脳機能の
早い変化には代謝を介さずに血流が増加するとの考えがある 4)。
Couplingo
rUncoupling
脳機能の充進に伴う血流増加は必ずしも代謝克進を伴うとは限らないという S
t
.L
o
u
i
sグ
S
5
7
8
)から反対の意見がでた。 PETに
ループの研究に対し,今回スエーデンのグループ (
,
CMR02を測定したところ,皮膚の感覚刺激に対する頭頂葉の血流と代謝は,血
より CBF
流が50%
増加し,酸素消費量も 22%
増加した。即ち,脳機能が充進して血流が増加するの
は酸素代謝が増加するためであり,機能・代謝・血流の 3者聞にやはり密接な関係がある
a
i
c
h
l
eは
, CMR0
2%増加したというのは,彼らが以前報告した
とした。これに対し R
2が2
5%よりは多いが,脳血流やグルコース消費量が59%増加したのと比べると少なしやは
n
c
o
u
p
l
i
n
gが存在すると述べた。これに対し,酸素が必要ないのなら,どう
りある程度の u
して血流の増加する必要があるのかといった反論もあった。 R
a
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eらの u
n
c
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u
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n
g学説
o
u
p
l
i
n
gの考えに挑戦しているかにも見
は脳循環代謝の生理の中でも基本的な概念である c
え,重要な問題だげに強い反対意見を述べる人も多かった。
脳循環の調節機序に関しては,その他にも多くの新しい仕事があり,神経性調節,エンド
セリンなどが注目された。
脳血管障害
脳血管障害のセッション会場はさすがに多くの聴衆が集まり,興味と期待の強さが感じ
t
.L
o
u
i
sグループの PETによる研究で脳血管障害の予後に関する報告
られた。ここでも S
(
S
3
5
6
)が注目された。彼らのグループは,従来 PETによる脳酸素抽出率 OEF
,血流量/
血液量比から局所脳循環動態の程度および予後が把握できるとしている。バイパス手術の
適応も PETによれば正確であるとの主張をしており,今回の報告も, PETにより手術適
応ありとされバイパス手術を受けたグループと PETにより外科的治療の適応なしと判断さ
れ内科的治療を受げた群との比較を行ったものである。彼らの結果は,① PET分類による
脳循環障害の程度と内科的治療による予後とは全く無関係であった,②バイパス手術によ
n
d
i
c
a
t
i
o
nどおり脳血流は増加したが,臨床的予後は改善されなかったというも
り確かに i
のであった。症例数が少なく, r
a
n
d
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m
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ds
t
u
d
yでないこともあり,結論的なことは言え
ないわけであるが,内科,外科を問わず多くの人がこの発表を聞いて PETの仕事に失望し
たようである。もしかしたら PETの仕事からは脳血管障害の臨床に関し役に立つ情報は出
i
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,
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てこないかも知れないと感じた人も多いようである。 M
d
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s
i
sなどを提唱した B
a
r
o
nも,この点については悲観的であった。 PETでは痴呆あ
るいはハンチントン舞踏病といった疾患のほうが研究し易く,脳血管障害の急性期はとに
EA
旬
ny
国際会議報告
かく検査が大変でやりにくい,急性期はやはり SPECTのほうがいいかも知れない。た
だ
, SPECTの研究の質をもっと高めてくれなくては困るといった話であった。
高次神経機能
PETによる研究では高次神経機能,特に a
c
t
i
v
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t
i
o
nに関する仕事が最も充実していた
(
S
5
7
6,
5
7
7
)。従来のように,ただ絵を見せるだけといったものでなく,内容的にしっかり
した研究が多く,脳機能と脳解剖との対応あるいは脳血流の絶対値の変化といったことが
しっかりと捉えられてきた印象を受けた。少なくとも神経心理学の分野では, PETのおか
げで学聞が進歩したと考える人が少なくないようである。
脳内 pH
脳虚血時の pHは古くて新しい問題のようである。虚血後の pHを PET及び核磁気共鳴
スペクトロスコピー MRSで測定した結果が報告された。 D
e
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r
o
i
tの Welchらのグループ (
S
3
5
7
)
は3
1
pの c
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ls
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tを利用し, MRSにより脳内 pHを測定した。脳血管障害患者で
c
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i
sとなるが,発症 4
"
'
5日の亜急性期には a
l
k
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l
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i
sとなり,
は,虚血急性期に一時 a
l
k
a
l
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s
i
sがひどいほど悪く, a
c
i
d
o
s
i
sとは無関係であったとしてい
脳血管障害の予後は a
る。従来,脳虚血亜急性期の脳組織は a
c
i
d
o
s
i
sと考えられており,これまでの報告と異な
l
p
e
r
tによ
るわけであるが,同じ様な結果が PETによる pH測定からも発表されている。 A
S
3
6
1
)は PETを利用したものであり,同時に脳血流と脳酸素摂取率をも測
る脳 pH測定 (
l
k
a
l
o
s
i
sとなり,こ
定できる利点があるが,彼らの結果によると,脳虚血亜急性期に脳は a
のとき脳血流は増加し, OEFは低下していた。すなわち, L
a
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s
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nのいう l
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o
n
に一致する病態に酷いて pHは a
l
k
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i
sであったというものである。 L
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nは l
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nは l
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ca
c
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s
i
sによるとしており,くいちがってくる。その点に関して, L
a
s
s
e
n
からの反論があった。 PETにより測定された pHは細胞内 pHか細胞外 pHか,どこの pH
を測定しているかが明確ではない。すなわち,細胞外 pHは細胞内 pHに比し高く,脳内 pH
は均一ではないが, PETによる pHは両者の加重平均をみているのではないか。そうだと
したら,再開通のように h
y
p
e
r
e
m
i
aとともに v
a
s
o
g
e
n
i
cedemaが生じた場合,細胞外 pH
の占める割合が多くなり,全体として pHが増加して見えるのではないか。 H
yperemiaの
結果としての pHの変化と, pHの変化の結果生ずる h
y
p
e
r
e
m
i
aとを混同しではならない
ことを強調する発言であった。細胞内 pHはエネルギ一代謝の重要な指標であることには違
い な し 今 後 MRSを中心とした虚血時 pHの研究がどのように発展していくか興味があ
る
。
SPECT
SPECTの新しいトレーサーについての発表も多く, TC-99m-ECD,SQ32097(
S
3
9
8,3
9
9
)
といった新しい脳血流トレーサーが注目された。いずれも IMP
,PAOといった従来のトレ
ーサーによるイメージよりも画像が鮮明で,虚血巣がより明確にイメージ化されていたの
が印象的であった。ただ,血流トレーサーとして脳血流の絶対値を測定し得るかというと,
-2
0-
国際会議報告
そのための t
r
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c
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rk
i
n
e
t
i
c
sに関する検討は不十分という状態であった。 SPECT用の新し
i
a
g
n
o
s
t
i
ci
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g
いトレーサー開発の目的が厳密な意味での局所脳血流測定法というよりも, d
i
n
g法,あるいは f
u
n
c
t
i
o
n
a
limaging法といった方向に進んでいる印象があった。脳血流
トレーサーとしての可能性と限界とをもう少ししっかりと見きわめていく必要があろう。
SPECTのトレーサーでもう一つ注目されたのは, SPECTでもレセプターのイメージング
が可能になったという報告で,ムスカリン様レセプターである QNBを使った痴呆の研究が
S
5
3
7
)。
発表された (
脳循環代謝学会について
第 1回日本脳循環代謝学会会長の田崎義昭教授よりの御要望もあり,国際脳循環代謝学
会の現状,方向性,あり方といったことについていろいろな人に聞いてみた。今回の会長
i
e
s
c
h
iは,「昔は脳循環代謝の測定法あるいは臨床応用を研究するひとにぎりの人たち
のF
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l
i
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dn
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u
r
o
s
c
i
e
n
c
eの各分野の新しい進歩を発表す
の同好会的な学会だったが,最近は a
る国際学会の場となった。その結果,新しいグループの人たち,特に若い人たちがたくさ
ん参加してくれた。」と,この学会の発展にたいへん満足しているようであった。これに対
し,学会が大きくなりすぎ,お祭り的になりすぎたので,もっと脳循環代謝にテーマをし
ぽった学会にすべきだといった意見も少なくなかった。脳循環代謝学会としての特徴を残
e
u
r
o
s
c
i
e
n
c
eの学会は他にもあり,そちらにゆずるべきだという意見で
していくべきで, n
r
e
s
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n
tである Plumは,「この学会が余りにも n
e
u
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n
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e的な学会にな
ある。学会の P
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cr
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s
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ったという批判は当たらない。臨床研究あるいは臨床の進歩は,あくまでも b
の進歩に依存しており,基本的なことをやる人は徹底的に基礎的な研究を進めてほしい。
p
p
l
i
c
a
t
i
o
nに急ぎすぎることの方がかえって問題ではないか。」と強調していた。
とかく a
“8rain91"
次回は 1
9
9
1年 6月 1日から 6日まで,米国フロリダ州マイアミの G
i
n
s
b
e
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g,S
c
h
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i
n
b
e
r
g
のもとで行われる予定である。その後も 2年毎に開催されるが,
ドイツのケルン,仙台の
順で行われる予定である。
文献
1
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lBloodFlowandMetabolism,Vol
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