日心第71回大会 (2007) 被験者内反復測定による真値のベイズ推定 奥村太一 (東京大学大学院教育学研究科) Key words : 真値のベイズ推定,反復測定,MCMC 問題と目的 心理検査等における測定の信頼性が低い場合,得られた素点 をそのまま分析に使用することは相関の希薄化など望ましく ない現象をもたらすことが知られている(Allen & Yen, 1979) 。 Watanabe(1984) は,折半法を想定した状況の下で真値間の 単回帰の問題を考えているが,真値の推定に関しては言及し ていない。しかしながら,真値の推定値を利用できればさら に複雑な統計解析に応用することも可能であると考えられる。 本研究では,被験者ごとに任意回数の反復測定を行うことに より真値のベイズ推定を行う方法を提案する。 モデル j 番目の被験者の i 回目の測定値を xij とする(ただし, j = 1, . . . , J; i = 1, . . . , nj とする) 。測定値 xij は j 番目の被 験者の真値 tj と誤差 eij によって構成されているとする。 xij = tj + eij , eij ∼ N (0, σ 2 ) (1) さらに,j 番目の被験者の真値 tj は全体平均 µ と j 番目の被 験者における偏差 uj から構成されているとする。 t j = µ + uj , uj ∼ N (0, τ 2 ) (2) このモデルは階層的線形モデル (hierarchical linear models; HLM) の最も基本的な one-way ANOVA モデルに相当する (Raudenbush & Bryk, 2002)。このモデルについて各母数の ベイズ推定値を解析的に求めるのは困難であるため,Gibbs sampler(Seltzer, Wong, & Bryk, 1996)を用いることにする。 事後分布 各母数の同時事後分布は以下のように表される。 J J Y Y p(t, µ, τ 2 , σ 2 |x) ∝ p(xj |tj , σ 2 ) p(tj |µ, τ 2 ) j=1 (3) j=1 τ2 , τ 2 + σ 2 /nj PJ −1 ¯.j j=1 ∆j x , µ ˜ = PJ −1 ∆ j j=1 Ã J !−1 X −1 ˜= D ∆j , (10) Λj = (11) (12) j=1 2 ∆j = τ + σ 2 /nj (13) とする。 シミュレーションと考察 真値および測定回数を Table 1 のように定め,それぞれの デザインについてデータセットを 1,000 個発生させ,ベイズ 推定(FB)と最小 2 乗推定(LS:素点の単純平均)の 2 通り で真値の推定を行った。 Table 1 Simulation Design Person 1 2 3 4 True score Frequency (Design1) Frequency (Design2) 10.00 1 1 10.00 1 1 10.00 2 4 10.00 2 4 Table 2 に 2 通りの推定法で得られた真値の推定値に関す る平均 2 乗誤差 (mean squared error; MSE) を示した。 Table 2 Mean Squared Error (MSE) Person 1 2 3 4 Design1 FB LS 0.534 0.973 0.583 1.043 0.324 0.465 0.351 0.517 Design2 FB LS 0.444 1.019 0.428 0.984 0.170 0.236 0.185 0.255 × p(σ 2 )p(τ 2 )p(µ) ただし各母数の事前分布については,p(σ 2 ) ∝ σ −2 ,p(τ 2 ) ∝ τ −2 ,p(µ) ∝ const. としておく。 Gibbs sampler Gibbs sampler では,以下のステップを各母数の値を更新 しながら繰り返せばよい。 tj ∼ N (t˜j , V˜j ) (4) ˜ µ ∼ N (˜ µ, D) Ã ! N 1 2 ∼ Γ a = , b = PJ Pnj 2 σ2 2 i=1 (xij − tj ) j=1 Ã ! J 1 2 ∼ Γ a = , b = PJ 2 τ2 2 (t j=1 j − µ) (5) (6) (7) ただし, t˜i = Λj x ¯.j + (1 − Λj )µ, 1 V˜j = 2 , (σ /nj )−1 + (τ 2 )−1 今回提示したベイズ推定法では,単純な最小 2 乗推定より も全体的に MSE が小さかった。また,ベイズ推定法では 1 回しか測定を行っていない被験者についても他の被験者の測 定回数を増加させると MSE が著しく減少していた。これは, ベイズ推定では最小 2 乗推定と異なりデータ全体の情報が個 人の真値の推定に利用されているためと考えられる。 (8) (9) 引用文献 Allen, M. J., & Yen, W. M. (1979). Introduction to measurement theory. Long Grove, IL: Waveland Press. Raudenbush, S. W., & Bryk, A. S. (2002). Hierarchical linear models: Applications and data analysis methods (2nd ed.). Thousand Oaks, CA: Sage. Seltzer, M. H., Wong, W. H., & Bryk, A. S. (1996). Bayesian analysis in application of hierarchical models: Issues and methods. Journal of Educational and Behavioral Statistics, 21, 131-167. Watanabe, H. (1984). Regression between true scores. Japanese Psychological Research, 26, 154-158. (OKUMURA Taichi)
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