様式 3 学 位 論 文 要 旨 研究題目 (注:欧文の場合は、括弧書きで和文も記入すること) Interferon-Gamma–Mediated Tissue Factor Expression Contributes to T-Cell-Mediated Hepatitis Through Induction of Hypercoagulation in Mice (インターフェロンγを介した組織因子の発現は、病的な凝固亢進を誘導して T 細胞媒 介性マウス肝炎に寄与する) 兵庫医科大学大学院医学研究科 専攻 器官・代謝制御 系 肝胆膵外科学 (指導教授 藤元 治朗) 氏 名 岡本 共弘 [目的] Concanavalin A (Con A)を投与するとマウスは広範な肝細胞壊死に陥る。この重症肝炎 における IFN-γや TNF の重要性は周知である。一方、凝固亢進の重要性も報告されている。 当該研究では、本重症肝炎における凝固亢進の役割とその細胞・分子機序の解明を目的 に、IFN-γと TNF の関連性に照準を合わせて検討した。 [研究計画・方法] 凝固先導因子である組織因子(TF)と線溶阻止因子である Plasminogen activator-1 (PAI-1)に着目して以下の項目を検討した。 (1)Con A 誘発肝炎における IFNγ、TNF の重要性と Tf、Pai1 の誘導 野生型(WT)マウスに Con A (0.4 mg/マウス)を投与し、経時的に肝臓と血漿を採取した。 肝臓のフィブリン沈着を免疫染色で、また HE 染色で肝臓の組織学的変化を検討した。血 漿 AST、ALT 量を測定すると共に、不安定なトロンビン量を正確に反映する血漿 thrombin anti-thrombin III 複合体(TAT)量を ELISA で測定した。同時に摘出肝における Ifnγ、Tnf、 Tf、Pai1 の発現をリアルタイム q-RT-PCR で定量した。同様の実験を Ifnγ-/-、Tnf-/-、 Ifnγ-/-/Tnf-/-マウスでも行った。 (2)Con A 肝炎における TF と PAI-1 の役割 TF の役割解明のため、TF 中和抗体で前処置したマウスに Con A 投与し、(1)の項目を調 べた。PAI-1 の影響を調べるためには、Pai1-/-マウスを用いた。 (3)TF 発現細胞の特定 Con A 投与後 3 時間のマウス肝から非実質細胞を分離し、MACS を用いて CD11b+ クッパー 細胞と CD146+肝類洞内細胞を分離した。各細胞分画の Tf 発現を q-RT-PCR で定量した。 (4) マクロファージ(Mø)の重要性 Clodronate liposome を投与し、クッパー細胞を含む Mø を除去したマウスを用いた。 (5)IFNγに応答して血栓性肝障害に関与する細胞種の特定 IFNγの転写因子である STAT1 の遺伝子を欠損したマウスを用いた。どの細胞種の IFNγ シグナルが重要かを判定するため、WT と Stat1-/-マウスの骨髄キメラマウスを作成した。 Mø を除去したレシピエントマウスを X 線照射したのち、ドナー骨髄細胞を移植し、非血 球系だけが Stat1-/-、 あるいは Mø を含む血球系だけが Stat1-/-のキメラマウスを作成した。 (6)Con A シグナリングと IFNγ、TNF シグナリングの協働 T 細胞と B 細胞が欠損する Rag2-/-マウスに Con A、あるいは、組換え IFNγ、TNF(rIFN γ/rTNF)を単独、あるいは組み合わせて投与した。 [研究結果] (1)Con A 肝炎における IFNγと TNF の重要性 WT マウスに Con A を投与すると肝 Ifnγ、Tnf の発現上昇と共に、フィブリン沈着を伴う 広範な肝細胞壊死を認めた。Ifnγ-/-、Tnf-/-、Ifnγ-/-/Tnf-/-マウスでは、これらの応答が軽 減あるいは欠落した。 (2)IFNγ、TNF による TF および PAI-1 の誘導 肝での Ifnγと Tnf の発現上昇に引き続き、 Tf と Pai1 の発現誘導が観られた。Ifnγ-/-、Tnf-/-、 Ifnγ-/-/Tnf-/-マウスでは、Tf と Pai1 の発現誘導が軽減あるいは欠落した。 (3)TF の重要性 抗 TF 中和抗体を前投与したマウスに Con A を投与すると、Ifnγと Tnf 発現が正常に誘導 されるにもかかわらず、 肝炎の重症度は中和抗体の濃度に比例して低下した。一方、Pai1-/マウスは WT マウスと遜色の無い血栓性肝障害を示した。 (4)TF 発現細胞の特定 Con A 投与後の WT マウスからクッパー細胞と肝類洞内細胞を分離し Tf の発現を測定した ところ、いずれの細胞も等しく、且つ高値の Tf 発現を示した。 (5)Mø の重要性 Mø 除去 WT マウスに Con A を投与すると、対照に比べ、Tf の発現誘導が減弱し、凝固亢 進と肝障害も軽減した。 (6)IFNγ/STAT1 シグナルの重要性 WT と Stat1-/-マウスを用いたキメラマウスの実験から、非血球系だけが Stat1-/-でも、Mø を含む血球系だけが Stat1-/-でも Con A 投与後の Tf の発現および肝障害が等しく軽減す ることが判明した。 (7)血栓性肝障害における Con A シグナリングと IFNγ、TNF シグナリングの協働 Rag2-/-マウスに Con A を投与しても Ifnγと Tnf の発現誘導は無く、肝炎抵抗性だった。 また、rIFNγ+rTNF のみを投与しても肝障害は起こらなかった。rIFNγ+rTNF と Con A を同 時投与すると凝固亢進を伴う広範な肝細胞壊死を認め、この肝障害は TF 中和抗体の投与 で阻止された。 [総括] 本研究により以下の可能性が判明した。Con A を投与すると、T 細胞が IFNγと TNF を産生 する。肝類洞内に局在する Mø と内皮細胞における IFNγ/STAT1 介シグナルが、TNF シグナ ルと Con A シグナルと協働して病的凝固亢進を誘導し、その結果、肝類洞の微小循環障 害を惹起し、広範な肝壊死を引き起こす。これらの成果から、劇症肝炎の治療として血 液凝固・線溶系の制御が浮上する可能性が示唆される。
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