2 半導体の発光 自然研究講座 中田博保 半導体は現在多くの電子機器で用いられている。携帯電話やパソコンのメモリなどに シリコン(Si)が使われ、半導体のない生活は考えにくくなってきている。半導体は金 属と絶縁体の中間の電気伝導度を持ち、微量の不純物の存在が性質を大きく変える。ま た半導体は光を吸収したり放出したりする性質があり、太陽電池や発光ダイオード (LED)としても利用されている。この研修ではこのように非常に重要な材料である 半導体の基本的な性質を発光の分光という実験を通して理解する。 代表的な半導体である Si を例にして半導体の基本的な概念であるバンドギャップに ついて説明する。Si は原子番号が 14 であり、電子は K 殻に 2 個、L 殻に 8 個、最外殻 である M 殻に 4 個入っている。Si 原子が結晶を組むと最外殻電子のうちの 1 個と隣の Si 原子の最外殻電子 1 個とが 2 つの Si 原子が共有して接着剤のようなボンドを形成す る。このようなボンドに参加している電子は価電子と呼ばれる。 M L K ボンド Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si+14 電子 図1 Si 原子の電子配置 図2 Si 結晶のボンド ボンドを形成している価電子にある程度のエネルギーを与えると Si 原子と Si 原子の 間の位置から飛び出して自由にすることができる。このような自由になった電子を伝導 電子という。価電子を自由にして伝導電子にするにはエネルギーが必要でこれをバンド ギャップエネルギーという。バンドギャップエネルギーは半導体の種類によって異なり、 おもな半導体の室温におけるバンドギャップエネルギーは表1のようになっている。 表1 おもな半導体の室温におけるバンドギャップエネルギー 半導体の種類 エネルギーギャップの値(eV) Si 1.1 GaAs 1.5 GaP 2.3 ZnO 3.4 エネルギーの単位 eV は電子1つを電圧 1 V で加速するのに必要なエネルギーである。 半導体中の電子と光の相互作用で最も簡単な現象は光吸収である。この光吸収によって 半導体のみかけの色が決まる。光のエネルギーがバンドギャップのエネルギーより大き いと価電子が光を吸収して伝導電子になることができる。Si の場合はバンドギャップ が 1.1eV なので可視光の最も波長の長い光の波長 770nm に対応したエネルギー1.6eV よりかなり小さくなる。そのため可視光は吸収されたのち反射され不透明な金属のよう に見える。一方 ZnO はみかけが透明である。これはバンドギャップが紫の光の波長 380nm に対応したエネルギー3.2eV より大きいからである。GaP は赤い結晶であるが これは補色の緑色が主に吸収されているためである。このように半導体の光吸収を調べ ることによりエネルギーギャップの値を求めることができる。 エネルギー 伝導電子 光 光 価電子 図3 光吸収 図4 発光 ここで取り上げる半導体の発光は吸収より複雑な現象になる。まず不純物の話をする必 要がある。半導体はそれ自身だけで利用されることはあまりない。微量の不純物をまぜ て電子の数を制御することにより動作させることがほとんどである。たとえば Si に P を微量入れると P は Si に入れ替わって入る。P は最外殻に5個の電子を持っているの で1個の電子が余る。この余った電子はボンドの位置からはずれてさまよう。このとき P 原子は電子が1個なくなるので+1 の電荷を持つ陽イオンとなる。P 陽イオンの周り に電子が弱く束縛された状態が実現する。これがドナーと呼ばれる状態である。この束 縛は非常に弱く常温では束縛されていた電子は伝導電子となりドナーはイオン化する。 このように P を入れてやることにより伝導電子を作りだすことができる。 同様なことが III 属の原子である B を導入することによっても起こる。しかしこの場 合は電子が1個不足した状態アクセプタとなる。電子のない場所はあたかも正の電荷を 持った粒子のようにふるまい、正孔と呼ばれる。中性のアクセプタでは陰イオンの周り に正孔が束縛されているが、常温ではイオン化して正孔が自由に動きまわることができ る。ドナーが多く存在する半導体を N 型半導体、アクセプタが多く存在する半導体を P 型半導体という。 ダイオードでは N 型半導体と P 型半導体の接合を作る。N 型にプラス、P 型にマイ ナスの電圧を印加すると電子と正孔がそれぞれ電極の方にひきつけられて電気が流れ ない。一方 N 型にマイナス、P 型にプラスの電圧をかけると電子と正孔が逆の電極の 方に向かって流れ電流が生じる。このようにダイオードでは一方向にしか電流が流れな いため整流作用がある。 半導体の中にはダイオードに電流を流したときに接合部分から光が出るものがある。 このようなダイオードを発光ダイオード(LED)と言う。このとき接合部では電子と 正孔が出会って再結合がおこり、その時に失われたエネルギーが光となる。この再結合 は伝導電子が価電子に戻ると考えることもでき放出される光のエネルギーはほぼバン ドギャップのエネルギーに等しくなる。実験では発光ダイオードからの光を分光してど のようなエネルギーを光が放出されているかを調べる。 半導体を光らせるのに発光ダイオード以外にも方法があります。バンドギャップより 高いエネルギーを持つ光を半導体に照射して電子と正孔を作りそれらが再結合する際 の発光を利用する方法である。この方法はフォトルミネッセンスと言われ半導体中の半 導体などを調べるのによく用いられる。ここでは2番目の実験として多孔質 Si や GaN のフォトルミネッセンスを観測する。 まず LED の実験から説明します。LED からの光をチョッパーによって 200Hz で変 調する。変調した光を分光器に入れ、光電子倍増管で検出する。信号はロックイン増幅 器で 200Hz 成分のみを増幅し、出力をデジタルマルチメーターでデジタル化したのち パソコンに取り込む。分光器の波長はパソコンからの指令でスキャンしパソコンのディ スプレイにスペクトルを表示する。このデータをエクセルでグラフにする。 一方半導体のフォトルミネセンスの実験では LED の代わりに紫外線のレーザーと半 導体試料を用いる。He-Cd レーザーの 325nm の光を試料に照射し発光を分光する。レ ーザーからは紫外光以外に可視光も出ているのでレーザーと試料の間に可視カットの フィルターを入れてこれらの余分の光を除去する。 このようにして得られた発光スペクトルはバンドギャップ以外のいくつかの情報、特 に不純物に関するものを含んでいるので概略を当日説明する。
© Copyright 2024 ExpyDoc