海洋環境下におけるシリカフュームコンクリートの長期耐久性

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第47回(平成26年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №107
海洋環境下におけるシリカフュームコンクリートの長期耐久性
(株)修成建設コンサルタント
1.はじめに
小 西 雄 治
(4)鉄筋質量減少率
シリカフューム(以下 SF)は混和材料としてコンクリ
載荷試験終了後の暴露供試体から鉄筋をはつり出した
ートの潜在的内部欠陥となるセメントと水和生成物間の
後,10%クエン酸二アンモニウム水溶液(60℃)に数日間
不連続粒子径の領域を十分に充填することができる。ま
浸漬させ錆を除去した。除去後は直ちに乾燥させ,18 等
た,ポゾラン反応により非常に緻密な組織を有するコン
分した後,非腐食の鉄筋と比較することで、各箇所での
クリートを造ることができるという特長を有している。
鉄筋の質量減少率を算出した。
本研究では、SF を添加した鉄筋コンクリート梁(以下
(5)塩化物イオン含有量試験
RC 梁)を三重県熊野地区の海洋環境下に約 19 年間暴露
コアドリルにより採取したコンクリートコアを表面よ
して得られた測定結果と破壊試験から、SF コンクリート
り 20mm 間隔に切断し試料とした。試料数は垂直方向に 6
の塩害に対する長期耐久性について調査を行った。
試料である。測定は JCI-SC5「硬化コンクリート中に含
まれる全塩分の簡易分析方法」に基づいて実施した。
2.供試体概要
(6)中性化深さ調査
供試体概要を図-1 に示す。供試体は 120x120x1300mm
コアドリルにより採取したコンクリートコアの割裂面
の RC 梁であり,かぶり 25mm の位置に D10 の鉄筋を 2 本
を測定対象とした。測定面にフェノールフタレイン 1%
配置している。供試体は,SF をセメントに対して 0,
溶液を噴霧し、表面から赤紫色の着色部分までの距離を
15,30%置換した 3 種類の暴露供試体を各 2 体づつ,さ
8 点で測定し、その平均値を中性化深さとした。
らに,暴露供試体と同配合で作成した供試体が各置換率
4.測定結果
で 2 体づつの,計 12 体である。
(1)自然電位
図-2 より、暴露期間 10 年までを比較すると、SF30%
は暴露初期から腐食領域である-350mV 以下を推移して
いるのに対し、SF0%、SF15%は不確定領域内に分布して
図-1 供試体概要
いることがわかる。特に、SF15%は比較的貴な値を示し
ている。以上より、SF の置換率により鉄筋の劣化に違い
3.測定項目
が見られ、SF 置換率が 15%程度の配合が最も劣化を抑制
(1)自然電位
することができると予想される。
電位差計を使用し、電極には銅・硫酸銅を用いた。測
No.1 SF=0%
500
400
(2)分極抵抗
300
-mV
れに行った。
3電極型のコロージョンミニターを使用し、電極には
自然電位の経年変化
600
定箇所は、鉄筋軸方向に 10cm 間隔とし2本の鉄筋それぞ
No.2 SF=0%
No.3 SF=15%
No.4 SF=15%
200
No.5 SF=30%
100
銅・硫酸銅を用いた。測定箇所は供試体の中央のみと
No.6 SF=30%
0
し、10 秒間の平均値を測定した。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617
暴露年数(年)
(3)載荷試験
図-2 自然電位の経年変化
せん断圧縮破壊を起こすと推測される a/d=1.1 と斜め
引張破壊を起こすと推測される a/d=3.5 で全供試体につ
(2)分極抵抗
図-3 より SF0%は低い値を示した。つまり、SF0%の供
いて載過試験を行った。実験では載荷荷重、供試体中央
のたわみを測定した。
試体は比較的劣化が進行しやすい状態であると予測され
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第47回(平成26年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №107
る。置換率による差は顕著に表れなかったが、SF を置換
(4)鉄筋質量減少率
することで劣化速度を抑制できると考えられる。
図-5 に鉄筋の質量減少率(%)のグラフを示す。このこと
分極抵抗の経年変化
から,SF を置換することで塩害による鉄筋腐食に対する
100
kΩ
10
No.1 SF=0%
耐久性が向上しているといえる。特に SF15%では顕著に効
No.2 SF=0%
果が認められた。
No.3 SF=15%
(5)塩化物イオン含有量試験
1
0.1
No.4 SF=15%
図-6 より、SF0%に対して SF15%および SF30%の塩化物
No.5 SF=30%
イオン量が著しく低く,SF の混入が塩化物イオンの含浸
No.6 SF=30%
0.01
を抑制していることがわかる。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
暴露年数(年)
塩化物イオン含有量
20.0
(3)載荷試験
図-4 において、SF0%に関しては、暴露、健全とで最大
荷重に大きな差が見られた。暴露により、鉄筋あるいは
(Cl-kg/m3)
図-3 分極抵抗の経年変化
コンクリートに劣化が生じたためだと考えられる。一
No.1 SF=0%
No.2 SF=0%
15.0
No.3 SF=15%
10.0
No.4 SF=15%
5.0
No.5 SF=30%
No.6 SF=30%
0.0
0
方、SF15%、SF30%に関しても最大荷重の低下は見られた
20
40
60
80
100
設置時上面からの距離(mm)
が比較的小さかったことから、SF が塩害による劣化を抑
制していると考えられる。
図-6 塩化物イオン含有量
(6)中性化深さ調査
a/d=1.1 荷重-たわみ曲線
荷重(kN)
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
図-7 より,SF 置換率によって中性化深さに大きな差が
No.1 SF=0%
確認された。しかし,中性化深さは鉄筋かぶり 25mm に達
No.3 SF=15%
していない。
No.5 SF=30%
No.11 SF=30%
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24
たわみ(mm)
中性化深さ(mm)
No.9 SF=15%
2
中性化深さ
8
No.7 SF=0%
0
120
6
4
2
0
No.1
SF=0%
a/d=3.5 荷重-たわみ曲線
No.2
SF=0%
No.3
SF=15%
No.4
SF=15%
No.5
SF=30%
No.6
SF=30%
40
図-7 中性化深さ調査
No.2 SF=0%
荷重(kN)
30
No.4 SF=15%
20
10
0
0
2
4
6
8
No.6 SF=30%
5.結論
No.8 SF=0%
(1)SF 混入率の違いにより、測定値に差が生じており。
No.10 SF=15%
SF を混入することにより塩害に対する耐久性は向上する
No.12 SF=30%
といえる。特に、混入率 15%の供試体に関しては他の供
10 12 14 16 18 20 22 24
たわみ(mm)
試体に対して優れた測定結果を示した。
(2)塩害には効果的であると考えられる SF であるが、中
図-4 荷重-たわみ曲線
性化に対しては否定的な側面が見られた。SF コンクリー
質量減少率(%)
50
トを使用するには、適切な配合量を求め、SF が引き起こ
鉄筋の質量減少率
No.81 SF0(%)
40
No.85 SF0(%)
30
No.91 SF15(%)
20
No.95 SF15(%)
す中性化の進行に対する対処法を考察する必要がある。
謝辞
No.99 SF30(%)
10
本研究で使用した供試体は若手コンクリート研究会・
No.105 SF30(%)
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130
供試体端からの位置(mm)
図-5 鉄筋質量減少率
海洋コンクリート WG のご協力で継続調査されてきたもの
である。ここに,関係者各位に深く感謝の意を表するも
のである。
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