関節リウマチの GWAS と創薬への展開にむけて

シンポジウム①
関節リウマチの GWAS と創薬への展開にむけて
あああああああああああああああああああああああああああああああああ
◎大村 浩一郎
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京都大学免疫・膠原病内科
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全ゲノム関連解析(GWAS)による疾患感受性遺伝
子検索はここ 10 年間で急速に拡大し、
様々な疾患の関
連遺伝子が多数見つかっている。我々はかつて関節リ
ウマチ(RA)の感受性遺伝子検索を GWAS にて行い、
myelin basic protein(MBP)が感受性遺伝子であること
を報告した(Terao C et al., PLoS One 2011; 6: e20457)
。
MBP は神経鞘の構成蛋白であるが、リンパ球にも発現
しており T 細胞の活性化抑制にも関与することが示さ
れている。また、MBP は関節滑膜に発現しており、シ
トルリン化されると RA の自己抗原にもなることを示
した。このように GWAS の醍醐味は思いもよらない遺
伝子の病態への関与が発見されることである。
我々はその後、理研、東京女子医科大学と共同し RA
患者 9,351 名とコントロール 38,575 名を用いた GWAS
メタ解析および追認解析を行い、9 つの新規 RA 感受
性遺伝子を発見した(Okada Y et al., Nat Genet. 2012; 44:
511)
。この研究で意義深い点は、欧米の GWAS 結果と
照合し、多くの RA 感受性遺伝子は日本人と欧米人で
共通していることを示した点である。PTPN22 のよう
に感受性遺伝子多型における人種間の差が強調される
なかで、多くの感受性遺伝子は欧米人、アジア人で共
通しているのである。
そこで、全世界の RA 感受性遺伝子の GWAS を統合
して解析しようというプロジェクトが立ち上がり、欧
米諸国、日本、韓国、中国、オーストラリアから 22
個の GWAS を統合し、合計 10 万人以上におよぶサン
プルと約 1000 万個の 1 塩基多型(SNP)を用いたメタ
解析を行った結果、既報と合わせて計 101 個の RA 感
受性遺伝子領域が同定された(Okada Y et al., Nature
2014; 506: 376)
。この中から創薬の対象になる遺伝子
を絞り込む作業を効率よく行うことが重要である。
HLA 領域を除く 100 遺伝子領域というのは、100 個
の遺伝子ではなく、各遺伝子領域(top SNP と LD 関係
にある領域)に数個の遺伝子が存在するため、正確に
は 377 個の遺伝子が含まれており、そこから創薬対象
を絞り込むわけである。その方法論をご紹介する。基
本的には多数の公にされている生物学的データベース
を用いて本物の関連遺伝子を探し当てるという作業で
ある。今回用いたデータベースは
1.ミスセンス/ナンセンス変異
2.Cis-eQTL(mRNA 発現量変化)
3.PubMed テキスト検索
4.蛋白質相互作用ネットワーク
5.メンデル型遺伝病(免疫・炎症系)
6.悪性腫瘍体細胞変異(血液系)
7.ノックアウトモデル生物形質(免疫・血液系)
8.パスウェイ解析
であり、これら 8 つカテゴリーのうち 2 つ以上に当て
はまる遺伝子を生物学的 RA リスク遺伝子候補とした。
その結果、98 遺伝子が候補遺伝子となり、1つも候補
遺伝子がなかった領域が 100 のうち 40 にのぼった。
また、ヒストンメチル化データベースを用いた解析
では RA 感受性遺伝子領域は制御性 T 細胞での
H3K4me3 peak がみられる領域に強く関連がみられ、
RA における制御性 T 細胞の病態への関わりが示唆さ
れ興味深い。
さらに蛋白質間相互作用ネットワークおよび創薬デ
ータベースを用いた解析では、既存の RA 治療薬のタ
ーゲット分子が RA 感受性遺伝子とつながっているこ
とも明らかとなった。また RA 以外の疾患で用いられ
ている既存の治療薬の中で RA 感受性遺伝子をターゲ
ットにしているものもあり、他の疾患への適用拡大
(Drug repurposing)という観点でも本方法が非常に有
用なツールとなることが明らかとなった。
GWAS でみつかる遺伝子多型の疾患発症に関わる寄
与度は決して大きくはないが、GWAS は病態理解をす
るための遺伝子検索のツールとして、また創薬候補を
検索するツールとして非常に有用であり、様々な生物
学的データベースを駆使することでゲノム創薬に貢献
できると考えられる。