課題3

氏名 [課題3]
陽イオン(金属イオン)と陰イオン(造岩鉱物ではO2-)では,
12配位
サイト
下の層
陰イオンのほうが大きい.そのため,鉱物の結晶構造は,まずあ
る半径をもつ陰イオンがぎっしりと並び(専門用語では「充填す
上の層
る」という),その隙間(サイト)に金属イオンは入っていると
考えればわかりやすい.同じ大きさの陰イオンがある平面上に並
6配位
サイト
ぶと,右図に示すような六角対称の配置ができ,どの陰イオンも
6個の陰イオンと接する層をつくる.その上にさらに陰イオンを並
べれば,層や陰イオンの間にいろいろな大きさの隙間ができる.
右図には4種類のサイトが見られる.3つの陰イオンに囲まれた3配
位サイト,4つの陰イオンに囲まれた4配位サイト,6つの陰イオン
4配位
サイト
3配位
サイト
に囲まれた6配位サイト,12個の陰イオンに囲まれた12配位サイト
である.鉱物結晶では,このようなサイトに陽イオンが入ってい
る.
陽イオンの配位数を決定する最も重要な要素は,陽イオンと陰イオンの半径比である.
一つの陽イオンを取り巻く陰イオンがそのイオン半径以下の距離に接近すると,イオン間
に反発力が働き,それまで安定であった構造が不安定になる(下図A).このときには配
位数の少ない構造のほうが安定になる.反対に陰イオンが離れすぎると,配位数の多い構
造のほうが安定になる(下図B).その結果,陽イオンの周りに配位する陰イオンが相互
に接触するようになった状態での半径比(臨界半径比)が,その配位数を実現するための
半径比の最小値となる.
(A)
(B)
不安定
(4配位)
安定
(3配位)
陰イオン
不安定
(8配位)
安定
(12配位)
陽イオン
(1)以下の配位数での陽イオン(半径Rc)と陰イオン(半径Ra)の臨界半径比(Rc/Ra)
を求めなさい.
[3配位 4配位 6配位 8配位 12配位]
(2)陰イオンが酸素(O2-)のとき,以下の陽イオンがとる配位数を求めなさい.イオン
半径の値には,第11図の値を用いなさい.[ Ca2+ Na+ K+ Fe2+ Mg2+ Al3+ Si4+]
3配位
8配位
4配位
12配位
6配位
元素の充填様式の模式図.
白丸が陰イオン,黒丸が陽
イオンをあらわす. 12配位
サイト
[3配位]
Ra
Rc
Rc
拡大
Ra=1
30°
Ra=1
陽イオンの半径をRcとし、陰イオンの半径Raは計算を単純化す
るために1とする。右上の直角三角形では、
cos 30°=1/(1+Rc)
の関係が成り立ち、この関係式からRcを求めると
Rc=(1-0.866)/0.866=0.155
となる。したがって、3配位での臨界半径比は、
Rc/Ra=0.155/1=0.155
となる。半径比が0.155よりも小さいと陰イオンが反発し合い、
3配位の構造が不安定となる。
[4配位]
C
左の図は、4配位の幾何学構造である。点A、
B、C、Dは4個の陰イオンの中心である。点
Mは、4配位サイトに位置する陽イオンの中心
であり、正四面体の重心でもある。
M(重心)
A
E
D
F
B
左の図は、正四面体の底面の正三角形ABDを示
している。赤丸は陰イオンを示しており、その
D
半径Raは計算を単純化するために1とする。ま
Ra=1
た、点Fは、この正三角形の重心である。この
とき、
cos 30°=AE/AF
F
A
∴AF=1/cos 30°=1/0.866=1.155
となる。
B
E
次に、重心Mを通る直角三角形ACFを考える。こ
の直角三角形では、
AC2=AF2+CF2
C
の関係が成り立ち、この関係式からCFを求める
Ra=1
と
CF=√22-1.1552 =1.633
M
A
F
2Rc
となる。重心MはCM=CF×3/4の位置にあるので
1+Rc=1.633×3/4
となり、Rc=0.225である。したがって4配位構造
での臨界半径比は、
Rc/Ra=0.225/1=0.225
となり、半径比が0.225以下になると4配位構造は
不安定になる。
[6配位]
A
M
A
D
D
2Rc
D
M
C
B
B
B
Ra
C
C
左の図は、6配位の幾何学構造の一部を抜き出したものである。点A、B、C、
Dは4個の陰イオンの中心であり、正四角形を作って配置している。陰イオン
の隙間には陽イオン(半径Rc、中心位置M)が収まっている。陰イオンの半径
Raは計算を単純化するために1とする。
この図の中の直角二等辺三角形ABCに着目すると、この三角形では
AC2=AB2+BC2
の関係が成り立ち、
(2+2Rc2)=22+22
∴Rc=0.414
となる。したがって6配位構造での臨界半径比は、
Rc/Ra=0.414/1=0.414
となり、半径比が0.414以下になると6配位構造は不安定になる。
[8配位]
Ra×2
(=2)
A
Ra×2
(=2)
左の図に示すように、8配位の幾何学構
B
造は正六面体である。この正六面体中の
面ABCDを用いて、臨界イオン半径比を求
める。なお、計算を単純化するため、陰イ
オンの半径Raは1とする。
まず、面ABCDのABの長さを求める。
ABは正六面体の底面の対角線であるため、
ピタゴラスの定理から、
AB2=(1+1)2+(1+1)2
D
∴AB=2√2
となる。
C
Ra=1
B
A
M
Rc
D
C
面ABCDの幾何学的構造を上に示す。点A、B、C、Dは4個の陰イオンの中
心であり、長方形を作って配置している。陰イオンの隙間には陽イオン(半径
Rc)が収まっている。ここで直角三角形ABDにピタゴラスの定理をあてはめると
BD2=AB2+AD2
∴(2+2Rc)2=(2√2)2+(1+1)2
の関係が成り立ち、
Rc=0.732
となる。したがって8配位構造での臨界半径比は、
Rc/Ra=0.732/1=0.732
となり、半径比が0.732以下になると8配位構造は不安定になる。
[12配位]
左の図に示すように、12配位の幾何学構
造は立方八面体(構成面:正三角形8枚、
正方形6)である。この立方八面体には、
陽イオンと陰イオンの中心を通る正六角
形の面が3枚あるので、その中の一枚(黄
M
A
色の面)を用いて臨界イオン半径比を求
める。なお、計算を単純化するため、陰
イオンの半径Raは1とする。
B
A
Ra=1
C
B
Rc
M
この正六角形は、底辺の長さが2Raの6つの正三角形から構成
されている。正三角形の一つABMを底辺ABの中点Cに直交する
線で2分割し、直角三角形ACMをつくる。このとき
cos 60°=Ra/(Ra+Rc)=1/(1+Rc)=0.5
∴Rc=1
となる。したがって12配位の臨界イオン半径比はRc/Ra=
1/1=1となる。
11 地殻を構成する主要な
イオンの大きさ
[酒井,2003,p.49]
イオン半径比で、各陽イ
オンの配位数は予想でき
るが、実際には予想され
た配位数にならないこと
がある。これは、イオン
半径比だけではなく電荷
(価数)も配位数を決め
る要因になっているため
である。