製品を愛し、自分を愛し、 家族を愛する「QC 愛活動」

小集団活動ウオッチ
製品を愛し、
自分を愛し、
家族を愛する「QC 愛活動」
由利工業株式会社
本社:秋田県由利本荘市西目町沼田字新道下 2-659
由利工業株式会社が 2006 年から取り組むのが小集団活動の「QC 愛活動」だ。
製品を愛し、自分を愛し、家族を愛する。その好循環が良い製品を生み、
会社も発展させると、「愛」を基本に置く活動だ。
二十数年ぶりに復活した QCCI 活動
秋 田 県 由 利 本 荘 市に本 社を置く由 利 工 業は、
1955 年、円筒型コンデンサの製造で創業した会社
だ。現在、本社工場と秋田県大仙市の大曲工場の
へ)を合言葉にした。
QC 愛活動へ発展、テーマはより高度に
1年の活動の後、「QCCI 活動」を引き継ぐ形で
進化させたのが、現在の「QC 愛活動」だ。
2ヵ所で製造するのが、積層セラミックコンデンサだ。
「QC 愛活動と命名したのは、前代表取締役専務の
セラミックと電極を何層にも重ねて電気を蓄える小型
渡辺相談役です。ものづくりは製品の身になってと
のコンデンサで、いくつもの層を薄く重ねれば重ねる
意識改革を求めての変更です。活動を通じて愛情
ほど高性能になる。小型化が進み、かつて米粒ほど
を持って製品に接すれば、いい製品が生まれる。製
の大きさが、今では砂粒ほどまでになっている。それ
造に携わる本人にとって働きがいになり、家族もハッ
を同社では1日に2億個、月に 60 ~ 70 億個を製造
ピーになる。もちろん会社の業績も上がる。好循環
している。
が生まれる源はやっぱり“愛”
。社員ひとりひとりにとっ
最近ではスマートフォンの電子基板に組み込まれ
需要は高まる一方だが、品質はもちろん、さらなる小
ての心のベースになればと考えています」と、そのね
らいを語るのは須田哲生社長だ。
型化、製造のスピード、コストダウンといういくつもの
要件が強く求められている。そんな厳しい環境のもと
で、由利工業では 600 名の従業員が、日々の製造
を続けている。
同社が、2005 年6月、二十数年ぶりに復活させた
のが小集団活動の「QCCI 活動」だった。Quality
代表取締役 須田哲生氏
( 品 質 )、Cost( 原 価 )、Control( 管 理 )、そして、
“ 愛 ”が ひ と り ひ と り
の社員の心のベースに
なってくれれば
Improvement( 改良、改善)の頭文字をとった。歩
留まりが悪く、クレームが目立っていたことが再開の
きっかけだった。3S
(整理・整頓・清掃)などごく基本
目的は「製品に愛情を持つ。美しい環境で美しい
的なことをテーマに身近な問題から取り組み、「個々
製品をつくる。製品の身になって作業、治工具、設
の眠った能力、力を呼び起こそう。みんなで意識改
備、環境を見直す」。
革をしよう」と、
“Good to Great”
(良いからすごい
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2012 夏号
小集団活動の根幹にいつも
“愛”
を据えて、それを
中心に自分も家庭も会社も発展させていく。
2006 年から取り組み始め、現在はサークル数は
58、半年間を単位に活動し、年2回、社内での発表
会を設けて表彰している。
そして、金賞に輝いたサークルメンバー写真を QC
愛活動 PR としてポスター化し、活動を盛り上げてい
取締役工場長 矢野仁氏
る。
QC 愛活動で仕事にモラ
ルが伴った
「QCCI 活動」ではごく基本的な身近な問題をテー
マに選んだのに対し、「QC 愛活動」では、
「PDCA の回し方も分かってきて、さらにレベルの高
いテーマ、つまり、クレームや品質に直結するテーマ
由利工業の改善活動を支える
年間5万件の改善提案
を選ぶようになりました。その結果、クレームは半数
現在、由利工業では、この「QC 愛活動」と、「ス
以下に減少し、従業員のモチベーションは上がりまし
マートプロジェクト」を、全社で進める改善活動の2
た」と、活動の質も上がり、成果もより具体的に現れ
本柱と位置付けている。
たと言うのが、常務取締役の真坂護さんだ。
「スマートプロジェクト」とは、会社が課題とするコスト
ダウンの目標をはじめ、全社的なテーマに対して、管
理職が行う活動だ。目的は「TPS(トヨタ生産方式)
手法による生産性と生産効率の向上」であり、名称
は従業員から公募して決めた。
「QC 愛活動」が現場からのボトムアップの活動であ
常務取締役 真坂護氏
QC 愛活動で、品質もモ
チベーションも上がり
ました
るのに対し、「スマートプロジェクト」は、目的に記さ
れた全社的な生産性、生産効率の向上のほか、6S
(整理、整頓、清掃、清潔、躾、しっかり)、安全環
境、品質向上などに関して、職制による活動だ。
取締役工場長の矢野仁さんも、
また、由利工業では改善提案の提出率は 10 ~
「マニュアルや作業標準どおりに仕事をしていればそ
20%にとどまっていた。それを全員が、つまり提出率
れでいい。以前はそんな空気がありましたが、(QC
を 100%にまで引き上げ、しかも、1人月あたりの提出
活動によって)自らの手を使い、ひとつひとつの問題
数を5件にまで引き上げようとここ数年力を入れ、現
に対して解決策を自分たちが落とし込んでいくこと
在は従業員全員が、毎月1人5件以上の提案を続
で、普段の仕事に
“モラル”が伴ってきた気がします」
けている。
と、仕事に向き合う姿勢の質が変わったと語ってい
る。
由利工業の「QC 愛活動」によるサークル活動は、
「グループ会社(由利工業を含めて計6社)中、ダント
ツの数」と、胸を張るのは、プロジェクト係長の猪股
修さんだ。由利工業での改善提案件数は 2007 年
今では他社を含めた秋田地区の発表大会で県知
以降、年間5万件を突破し、現在もその水準を維持
事賞を受賞したり、石川馨賞を受賞したサークルも出
している。
るなど質の高さが認められている。個人でも「文部
改善提案活動で提案されたテーマを、小さなサブ
科学大臣表彰創意工夫功労者賞」を受賞する人が
テーマに具体化して小集団活動の「QC 愛活動」の
何人も続くなど、仕事の質は確実に向上している。
テーマにするケースもある。2本柱の活動が相互に
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連携し合い、職場を生き生きと保ちつつ、全社的な
目標達成の推進力になっているわけだ。
次から由利工業の「QC 愛活動」の代表例を見
ていこう。
推進事務局 猪股修係長
QC 愛活動も改善提案活
動もダントツの活動に
「できない」という思い込みを払拭、
DUFFY サークル
2011 年 度 下 期、由 利 工 業の「QC 愛 活 動 」の
社内発表大会で金賞に輝いたのが、大曲工場の
DUFFY サークルによる「素地 AVI と作業者の能
力 UP(処理個数と多能工化)」だ。
前列左から柿崎睦子さん、佐々木美夏さん、後藤恭英さん、大隅彩
佳さん、伊藤麻理子さん、後列左から冨士村和彦さん、友常信治さ
ん、今川慎二さん、原田直輝さん、武田直之さん、鈴木智之さん
積層セラミックコンデンサは、柔らかいペースト状の
セラミックを薄くシート状にしてそこに電極を印刷し、
ば再開できないのです。自分たちで何とかすることが
それを何層にも重ね合わせて製造する。その後、セ
できないだろうか。それが今回の活動に取り組もうと
ラミックを所定の大きさに切断してチップ状にして焼
したきっかけでした」
成し、最後には外側から電極を取り付けて仕上げ
る。最後の電極を取り付ける前段階、焼成後の縦
こう活 動 のきっか けを説 明 するのは、DUFFY
サークルの世話役を務めた深澤慎太郎さんだ。
横高さが 1 ミリに満たない、ごくごく小さなセラミックの
チップを
“素地”
と呼ぶ。
大曲工場の DUFFY サークルの人たちが担当す
るのが、その素地の外観検査だ。
と言っても人間の目で見るわけではない。AVI( 外
観検査装置)にチップを流し込み、チップが AVI 内
を通る間に、側面、上面、底面からカメラで撮像し
て異常がないかを確かめるのだ。AVI 内を流れる
チップは毎分 2,000 個というスピードで、検査を行う
1回のロットは 100 万~ 200 万個に及ぶ。
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世話役 深澤慎太郎係長
自分たちでできること
をどんどんやりました
ちょうど会社では多能工化を進めていた時期だっ
「しかし、機械を止めなければならないことが度々あり
た。1人でいくつもの技能を発揮すれば、工程での
ました。しかも、いったん止めると保全を呼ばなけれ
製造はスムーズに進められる。AVI の検査でも携わ
2012 夏号
る社員のスキルを上げることで問題が解決できるの
かわらない人がいないよう、全員が同じ方向を向こう
ではないか。そこでまず取り組んだのが全員のスキ
とした姿勢に感心しました」と深澤さんは語っている。
ルアップだ。
最初に作業に携わる社員のスキルを調べていくと、
常務取締役の真坂さんは、
「このサークルは 11 人中、女性が4人。リーダーも発
「簡易保守」と「ロット分割」の部分が弱いことが分
表者も女性でした。現場には、『ここは保全の仕事、
かった。その段階で機械を止めなければならなかっ
ここはオペレーター』『ここは男、ここは女 』。そんな
たのだ。
暗黙の了解がありました。そこを打ち破ったところが
「簡易保守」とは、チップが AVI の検査テーブルを
通る時、まっすぐ進むようにガイドを適正に調整するこ
とだ。調整が甘ければチップは傾いて走り、撮像の
際に“不良品”としてはねられてしまう。ガイドの調整
は保全の担当なので、調整のたびに担当者を呼び
に行って時間を取られていた。
素晴らしい」と、気持ちの壁を超えた勇気をたたえて
いる。
徹底して取り組んだ3S、
その後に作業改善も、
CCM 3S改善サークル
「ロット分割」は、1度に送られてくる数百万に及ぶ
チップの数を、検査のスケジュールに合わせていくつ
か分ける作業だ。帳票類を整えたり、パソコンで情
報を入力するなど事務的な作業が生じ、やはりこれ
も担当でなければできなかった。
この両方を自分たちでやるという目標を立て、その
ためにまず自分たちのスキルアップを図った。
「担当の人を呼ばなくても、自分らでどんどん作業で
きるようにしました。待ち時間はどんどん減り、活動を
始めた4月では調整待ち時間は 165 分でしたが、9
月にはそれが 10 分に短 縮していました」( 深 澤さ
ん)。
スキルアップに限らず、DUFFY サークル では、
不要な計量作業を必要最小限に減らしたり、検査
後、良品、不良品に分ける回収ボックスで静電気の
ためチップが付着してなかなかとれなかったものを、
ボックスの材質を変えることで解決するなど、時間短
縮のあらゆる機会を探った。
ある AVI では、スキルアップによる成果を動員し
左から須藤守さん、佐藤祐司さん、小助川翔さん、世話役の渋谷圭
さん、須田武春さん
て自ら調整することで、計3種類のチップに対応した
検査を可能にした。待ち時間ばかりでなく、作業時
2011 年度上期に社内発表大会で金賞を受賞し
間そのものを減らし、機械の稼働率を上げる工夫を
たのが、CCM 3S改善サークルの「3S(段取り2S)
実施していった。
改善活動」だ。CCM 工法製造課のメンバー4人は、
「シフトがあって全員が一堂に集まれるわけではあり
積層セラミックコンデンサの製造の前半、焼成前の
ません。シフトの引き継ぎを利用しながら、活動にか
ペースト状のセラミックを形づくるまでの、シート成形、
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ループ印刷、接着、切断の4工程を担当する人たち
「そこで必要になったのが作業分析です」(渋谷さ
だ。このすべての工程で3S――整理、整頓、清掃
ん)。別名、段取り2Sが始まった。活動の第2の目的
を徹底しようというのが、この活動の第1の目的だっ
だ。
各工程の作業を調べていくと、シート状にしたセラ
た。
「例えばシート成形工程では、加工に用いるテープは
ミックペーストを巻き取る「シート巻き取り」の工程で、
3ヵ月分以上置かれていました。購入してそのまま工
特に時間を要していることが分かった。ラインは4つ
程に持ち込んでいたんです。作業日報は1日2枚し
あるが、出来栄えを測る測定器はひとつしかなく、製
か使わないのに、2ヵ月分ありました。とにかく使わな
造のたびにそこまでわざわざ歩かなければならなかっ
いものであふれていたんです」
た。
取り組む以前の工程の様子をこう語るのは、活動
小さな治工具程度ならば自分で持って歩けば済
の世話役を務めた渋谷圭さんだ。
む。だが、高価な測定器であれば、運んで来ること
CCM 3S改 善 サークルは、工 程で当日使うものを
も、ましてや新しく買い足すことは難しかった。
「選手」、3日以内に使うものを「補欠」、3日を超え
じっくり工程を観察したところ、4つのラインの先に
るものを「退場」と定め、「退場」を徹底的に排除し
置かれている台車が不要だと気がついた。製品置
ていった。
場として使っていたが、3Sの徹底でライン通過後の
エリアを定めて全員で取り掛かると、工程から出
製品はすぐに次工程に運ぶことにしていたからだ。
された使わないモノが山のようにたまった。一方、工
不要な台車を取り除いたところ、測定器までの近道
程内ではモノがどんどん少なくなり、その結果、道具
ができ、作業性を上げることができた。
類、帳票類を収めていた引き出しや台車、棚そのも
月に一度の事務局診断では作業性が 13%改善し
たことが分かった。
のも不要になっていった。
各工程にあった帳票類の棚は、朝礼を行う掲示
「3Sというテーマは、往々にして
“目的”
になりやすい。
板の前に集めた。朝礼後に、当日、必要なものだけ
やり遂げればそこで満足してしまいますが、このサー
を工程内に持ち込む。各工程に散らばっていた書類
クルはあくまで3Sを“手段”ととらえ、さらに作業改善
が集まったことで、在庫管理も楽になった。
につなげたところを高く評価したい」というのは常務
見るからに広々となった各工程だが、そうなった段
取締役の真坂さんだ。
階で別の課題が浮かび上がった。工程に置く治工
徹底して行った3S、そして段取り2S。ギリギリにま
具類も必要最小限にしたため、それを取りに行くため
で突き詰めた今回の活動だが、世話役の渋谷さん
の手間がかえって増え始めたのだ。
は、まだまだできることはあると言う。
「例えば今回は工程で使うもので『3日を超える』もの
を『退場』
としてどんどん外に出しましたが、これを『1
日』に絞ることだってできるはずです」
「段取り2Sは全社的な取り組みでしたが、一番その
主旨を理解していたのがこのサークルでした」と猪股
さんは振り返る。
世話役 渋谷圭係長
やれることはまだまだ
あります
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2012 夏号
焼成前の4つの工程の3Sの徹底と段取り2Sを進
めたのが今回の活動だったが、今は、焼成工程にも
水平展開しようと、全社的な動きに広まっている。