解約返戻金について (Wの悲劇?) 2014年2月 免責事項 本セミナーで使用した資料、講師の発言等はすべて、講師の個人的な意見であり、 所属団体および主催者の意見や考え方を代表するものではありません。 本セミナーにおきまして使用した資料、講師の発言等を用いて資料作成等を行い、 それにより損失等を被った場合でも、本セミナーの講師、所属団体および主催者は 責任を負いません。 本セミナーで登場する保険商品は、具体的な事例として挙げているだけであり、 それらの商品に対して推奨・批判等を行うものではありません。 2 目次 1.はじめに 2.マーケット動向 3.解約返戻金とは 4.予定解約率と保険料 5.解約返戻金の活用事例 3 1.はじめに (1)Wとは何の略? S 保険金額 Sum Insuredの頭文字 P 営業保険料 Premiumの頭文字 D 契約者(社員)配当 Dividendの頭文字 V 責任準備金 Value(価値),Valuation(評価)の 頭文字 解約返戻金 Withdrawal(引き出す)の頭文字, (アルファベットで)Vの次? W 4 1.はじめに (2)解約返戻金はどのように決まるのか? 日本では、一般の生命保険の解約返戻金は、以下の算式で算出している。 (保険加入の当初の10年間、解約控除をする場合の例) 解約返戻金 = 保険料計算基礎に よる平準純保険料 式保険料積立金 契約者価額 max (0 , 10 − 経過年数 −α × 10 ∗ ) 解約控除 【出典】 日本アクチュアリー会 『保険1(生命保険) 第2章 解約および解約返戻金(平成24年4月作成)』 11ページ α ∗ は、「解約控除の率」(ただし初年度の率)であるが、これを「新契約費」と表現する 論文もある。(注) (注)生命保険論集第162号『被保険者のために積み立てた金額と解約返戻金(第一生命:田口城氏)』 (http://www.jili.or.jp/research/search/pdf/D_162_7.pdf)』282ページ( ファイル上は14ページ) 5 1.はじめに (3)解約控除は生命保険特有のもの? 【特定継続的役務】 特定商取引法では、「エステティックサロン」、 「語学教室」、「家庭教師」、「学習塾」、「パソコン 教室」、「結婚相手紹介サービス」の6業種が、 特定継続的役務提供に係る規制の対象。 ※ 提供期間・金額等による例外措置あり。 【判決文】 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2007040 3164908.pdf 【単価の例】 登録ポイント数 600ポイント 〃 300ポイント ポイント単価 1200円 〃 1750円 (例)600ポイント購入者が300ポイント費消時点で解約 ○ 残額=600ポイント×1200円―300ポイント×1200円 × 残額=600ポイント×1200円―300ポイント×1750円 【出典】 経済産業省HP(http://www.meti.go.jp/policy/economy/consumer/pdf/tuutatsukaisei.pdf) 6 1.はじめに (4)解約控除は生命保険特有のものではない! 特定継続的役務では、中途解約時に契約残額の一定割合(通常の損害額)を控除することが認められている。 ≪中途解約時の最低返金額(役務提供開始後)≫ 1.「最低返金額」=「契約額」-「損害賠償額の上限額」 (例)美顔エステの20回分の契約を現金一括払い¥100,000で行なった。 契約期間は1年(1年以内に20回施術を受けられる)であり、契約書面に は不備はないものとする。 契約してから3か月間で5回施術を受けたが、 効果があまりないので中途解約することにした。エステサロンから最低 どれだけの返金を受けられるか? 2.「損害賠償の上限額」 = 「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」 + 「契約の解除によって通常生ずる損害の額 ※ 」 ※ 次のように定められている。 エステティック :2万円又は契約残額の10%の低い額 語学教室 :5万円又は契約残額の20%の低い額 家庭教師等 :5万円又は1か月分の役務対価の低い額 学習塾等 :2万円又は1か月分の役務対価の低い額 パソコン教室等 :5万円又は契約残額の20%の低い額 結婚情報提供 :2万円又は契約残額の20%の低い額 (解答) ◾ 「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」の計算 20回分が¥100,000なので、1回あたりは¥100,000÷20=¥5,000 今まで5回施術を受けたので、「提供された特定継続的役務の対価に 相当する額」=¥5,000×5=¥25,000 ◾ 「契約の解除によって通常生ずる損害の額」の計算 「契約残高」=「契約額(支払済の額)」-「提供された特定継続的役務の 対価に相当する額」 =¥100,000-¥25,000=¥75,000 ¥20,000と「契約残額の10%に相当する額(¥7,500)」の低い額なので、 ¥7,500 ◾ 「損害賠償の上限額」の計算 「損害賠償の上限額」=「提供された特定継続的役務の対価に相当 する額」+「契約の解除によって通常生ずる損害の額」 =¥25,000+¥7,500=¥32,500 ◾ 「最低返金額」の計算 「最低返金額」=「契約額(支払済の額)」-「損害賠償額の上限額」 =¥100,000-¥32,500 =¥67,500 ⇒ 最低でも¥67,500は返金。 【出典】 BUZZMATOME(http://buzzmatome.net/matome/000300/pages/286261050194782255204f3bf99ca903.html) 7 2.マーケット動向 (1)解約返戻金抑制型保険の販売状況_個人年金 年金開始前の死亡給付が既払込保険料相当額に等しい場合、経過年数が深くなれば、 『責任準備金>死亡給付金』となり、従来の個人保険の考え方をそのまま適用すると、 『責任準備金≧解約返戻金>死亡給付金』となってしまう恐れがある。 このため、解約返戻金の上限を死亡給付金とすることで、ミスプライシングを回避。 【責任準備金(イメージ)】 差額(113万円) 953 万 840 円 万 円 利殖効果 + 死亡給付削減効果 解約返戻金が既払 込保険料相当額を 上限とすることを、 文字の色で強調 【出典】明治安田生命HP(http://www.meijiyasuda.co.jp/find/list/hitosuji/index.html)を加工。 8 2.マーケット動向 (2)解約返戻金抑制型保険の販売状況_個人保険 終身保険、定期保険、医療保険およびこども保険で、解約返戻金を抑制した商品の 販売状況は以下のとおり。 終身保険 定期保険 30社中13社が販売 33社中22社が販売 (うち8社が併売) (うち15社が併売) 医療保険 こども保険 29社中24社が販売 17社中1社が販売 (うち5社が併売) (併売社なし) 【出典】生命保険文化センター『各社個人保険商品一覧(平成25年4月現在)』より作成。 9 2.マーケット動向 (3)解約失効率のトレンド 個人保険は低下(改善)傾向、個人年金保険は低下トレンドに歯止め。 (億円) * 1. 解約・失効の金額=(解約+失効+保険金額の減少)-(復活+保険金額の増加) 2. 解約・失効率=解約・失効の金額/年度始保有契約高×100(%) (億円) * 1. 年金開始前契約による方式 2. 解約・失効の金額=(解約+失効+保険金額の減少)-(復活+保険金額の増加) 3. 解約・失効率=解約・失効の金額/年度始保有契約高×100(%) 【出典】生命保険協会『生命保険の動向(2013年版)』(http://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/pdf/11.pdf) 10 (%) (%) 2.マーケット動向 (4)解約返戻金のトレンド 損益計算書上の解約返戻金は、低下トレンドに歯止め。 (億円) ≪商品別内訳≫ その他 個人年金 18,825 (32%) 団体年金 1,600 (3%) 財形 1,444 (2%) 団体保険 2 (0%) 個人保険 36,799 (63%) 24 【出典】生命保険協会HPおよび各社ディスクロージャー資料より作成。 11 3.解約返戻金とは (1)生命保険文化センターによる説明 【出典】 生命保険文化センターHP(http://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/explanation/word.html#henreikin) (http://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/continuance/cancell.html) (注)『解約返戻金』の呼称例:日本生命(解約払戻金)、第一生命(解約返還金)、明治安田生命(返戻金)、住友生命(解約返戻金)。 なお、『保険会社向けの総合的な監督指針』では、『解約返戻金』が使用されている。 12 3.解約返戻金とは (2)法務省による整理(保険法での規律化は断念) 【出典】 金融庁HP(http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/dai2/siryou/20071218/01.pdf) (注)“解約返戻金については、今回の保険法制定に際し、法制審議会保険法部会でも保険契約法としての規律を設けることが鋭意検討されたが、 保険商品の多様化に伴い、解約返戻金の算出方法も多種あり、一律の契約ルールを定めることが困難であるという技術的な観点から、規律 化を断念した。” (山下友信、米山高生編『保険法解説(有斐閣)』713ページ) 13 3.解約返戻金とは (3)契約者価額および解約控除の発生メカニズム 解約返戻金 = ①契約者価額 ー ②解約控除 ① 〔保険料積立金〕 (=契約者価額) ② 〔未回収の部分〕 (解約控除) 保険料の平準化 解約時の 預り金 通常、保険事故発生 は加齢とともに上昇。 保険料は毎年一定の ため、経過の浅い期 間で剰余が発生。こ れを負債に積み立て ておき、経過の深いと ころでの保険金支払 いに備えるため、預り 金が発生。(注) 新契約に関する事業 費(募集人手数料、診 査、保険証券発行な ど)は契約時に集中。 保険料は毎年一定の ため、新契約事業費 は将来の保険料から 遅れて回収。解約で 未回収が発生。 【出典】 『生命保険会社のディスクロージャー虎の巻』生命保険協会 (http://www.seiho.or.jp/data/publication/tora/pdf/tora2011_all.pdf) 【新契約事業費の回収イメージ】 事業費 の支出 保険料が払い込まれる都度、 事業費を回収 ・・・ 回収 (注)保険料一時払または生存保険金のある商品では、保険事故発生率にかかわらず預り金が発生。 14 解約 未回収 ・・・ 3.解約返戻金とは (4)解約控除の歴史的変遷 (少なくとも1990年までは)解約控除を引き下げ、解約返戻金を増加させてきた。 養老保険の場合 解約控除(S比例) 1946年 予定新契約費 (S比例) (P比例) 4.5% 3.0% ― 1956年 4.0% 3.0% ― 1962年 3.75% 3.0% ― 1973年 3.5% 3.0% ― 1976年 3.0% 2.5% 2% 1981年 2.5% 2.5% 2% 1985年 2.2% 2.5% 2% 1990年 1.9% 2.5% 2% 【出典】 日本アクチュアリー会 『保険1(生命保険) 第2章 解約および解約返戻金(平成24年4月作成)』 19ページを加工。 15 3.解約返戻金とは (5)解約返戻金および解約控除の具体的水準 養老保険、男性、30歳加入、20年満期、保険金額100万円、保険料月払、保険料払込免除なしの 解約返戻金および解約控除の推移。(空白部分の解約返戻金は出典に記載なし) 経過年数 ①:解約返戻金 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21,000 62,000 104,100 147,400 191,800 284,000 431,600 695,600 935,400 1,000,000 ②:契約者価額 38,100 77,200 117,500 158,800 201,300 244,900 289,700 335,700 383,000 431,600 481,500 532,800 585,600 639,800 695,600 752,900 812,000 872,800 935,400 1,000,000 解約控除 (②-①) 17,100 15,200 13,400 11,400 9,500 α* ③:払込保険料 19,000 19,000 19,143 19,000 19,000 5,700 19,000 0 0 0 0 0 0 0 0 44,652 89,304 133,956 178,608 223,260 267,912 312,564 357,216 401,868 446,520 491,172 535,824 580,476 625,128 669,780 714,432 759,084 803,736 848,388 893,040 返戻率 (①÷③) 47% 69% 78% 83% 86% 91% 97% 104% 110% 112% 【出典】解約返戻金は 『図説 日本の生命保険(財経詳報社)平成9年版』121ページより転記。 契約者価額および払込保険料は、出典に記載の以下の保険料計算基礎率に基づき試算。 ◆ 予定死亡率:生保標準生命表1996(死亡保険用) ◆ 予定利率:2.75% ◆ 予定事業費率 ⇒ 新契約費:保険金額の25‰と保険料の2%、維持費:保険金額の2.40 ‰ /年、 集金費:保険料の3%。 16 3.解約返戻金とは (6)解約控除の根拠 解約控除を設定する根拠として、以下の4点が挙げられているが・・・。 新契約費の回収 新契約時にかかる経費(特に、募集経費)は保険料払込期間にわたって回収 されるため、解約に伴う将来の未回収部分を控除。 投資上の不利益 解約返戻金支払いのため資産を換金したり、事前に流動性を高めることで、 資産運用利回りが低下するため、この低下分を補うため控除。 逆選択防止 解約者(死亡保険:健康体、生存保険:不健康体)による残存群団の収支の 悪化を補うため控除。 ペナルティー 解約に伴う上記の様々な(保険会社にとっての)不利益へのペナルティー。 【出典】 日本アクチュアリー会 『保険1(生命保険) 第2章 解約および解約返戻金(平成24年4月作成)』 12~13ページ 少なくとも、以下の2点は検討しなければならない。 ① 前述のとおり、最近は、『解約控除<予定新契約費』となっているが、 『解約控除=新契約費の将来の未回収部分』と言えるのか? もし、 『解約控除>新契約費の将来の未回収部分』であれば、消費者にとって不利だが。 ② 募集人に対して既に支払った手数料等を解約時に(一部)返納させる場合、返納分を考慮して 解約控除を設定しなければ、保険会社にとって『二重取り』にならないか。 17 3.解約返戻金とは (7)営業保険料の計算式(一例) 【前提】養老保険、男性、30歳加入、20年満期、保険金額100万円、保険料月払、保険料払込免除なし。 予定死亡率:生保標準生命表1996(死亡保険用)、予定利率:2.75%、 予定事業費率(予定新契約費(α:2.5%、δ:2%)、予定集金費(β:3%)、予定維持費(γ:0.24%)) 保険金額(Sと表記) 本来は加入時に2.5万円を 収入すべきだが、保険料 を平準化するため、遅延 利息(=予定利率)などによ り多くなる。 保険料(Pと表記) 2% 3,721円 × 3% 74円 … β 525円 (14%) 112円 予定 維持費 200円 γ 2,400円(100万円×0.24%) 2 3 4 5 6 7 8 ÷12(ヶ月) 9 10 11 12 13 14 … (ヶ月) 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 第20保険年度 第1保険年度 保険料払込期間 付加保険料 (予定事業費) 予定 集金費 (P比例(P比例)(S比例) 部分) 3,721円 (100%) 139円 1 18 3,196円 (86%) 営業保険料 ÷240(ヶ月) ≒ 104 円 純保険料 (S比例部分) 予定 新契約費 α δ 100万円×2.5%=25,000円 3.解約返戻金とは (8)解約返戻金を早期に積み上げる方法 方法 保険事故発生率の 急上昇ゾーンを狙う 保険金の逓増化 満期保険金の 早期化 19 内容 注意点 ◆ 将来の保険金支払に備えて、 解約返戻金が早くたまる。 ◆ 保険事故発生率の上昇 ゾーンは、意図的に操作 できず、ターゲットが制限 される。 ◆ 保険金の上昇スピードを高 めれば、将来の保険金支払 に備えて、解約返戻金が早 くたまる。 ◆ 過度な上昇は、 『保険料>保険金』という 現象をもたらす。 ◆ 満期保険金支払に備えて、 解約返戻金が早くたまる。 ◆ 最近の低金利環境では、 『元本割れ』が生じるため、 早期化に限界あり。 4.予定解約率と保険料 (1)旧保険業法施行規則に登場する脱退率 旧保険業法施行規則では、算出方法書の記載事項に脱退残存率が含まれていた。 (ただし、保険料ではなく配当計算に使用するためのものと推測される。) 現在の決算状況表(金融庁提出資料)では、残存率を100%として配当を計算。 〔保険料及び責任準備金算出方法書〕 第十三条 生命保険会社ノ保険料及責任準備金算出方法書ニハ左の事項ヲ定ムルコトヲ要ス 一 予定死亡率、予定高度障害率、予定傷害率及予定入院率其ノ他予定事故発生率ニ関スル事項 二 利益配当附又ハ剰余金配当附ノ保険種類ニ存リテハ保険契約ノ脱退残存率ニ関スル事項 三 (略) 現在の算出方法書 には記載なし 【出典】『生命保険必携一九九四(財経詳報社)』40ページより引用。 19.翌期・翌々期社員(契約者)配当所要額明細表 区分 個人保険 翌期配当所要額 費差配当所要額 死差配当所要額 利差配当所要額 特別配当所要額 翌々期配当所要額 個人年金保険 (単位:百万円) 財形保険・ 団体年金保険 その他の保険 合計 財形年金保険 団体保険 - - - - (備考) 1.翌期・翌々期配当所要額は、金融庁長官に報告した配当率を使用して算出すること。 2.翌期配当所要額は、残存率を100%として算出すること。 3.翌々期配当所要額は、3年目配当契約の年度末保有契約を対象に、経過年数を1年進めた配当率を使用して算出すること。 4.翌期配当所要額の内訳項目に関して、利源別配当方式を用いない場合には、適切な内訳項目を作成して記載することとする。 20 【出典】電子政府の総合窓口 イーガブ 『(中間)決算状況表/連結決算状況表の提出(生命保険会社、外国生命保険会社等、 保険持株会社(生保))』 4.予定解約率と保険料 (2)長割り終身の導入 21 【出典】東京海上日動あんしん生命HP(http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/report/challenge/3.html) (下線は筆者が追加) 4.予定解約率と保険料 (3)浅谷氏のコメント ○ またまた問題な商品が AIGグループのアリコジャパンが、日本初の割安な「終身医療保険」を新しく5月20日から発売すると、99年4月30日に発表した。 「日本で初めて、解約返戻金をなくすことにより、割安な保険料を実現した医療保険です。この商品の大きな特徴として、病気・ケガによる入院を一 生涯保障、解約返戻金をなくすことにより割安な保険料を実現したのはもちろんですが、死亡保障のない医療保障のみに重点を置いたタイプを選ぶ ことにより、保険料をさらに安くすることが可能となりました」と、新聞発表に述べている。 この新商品は、経営努力により保険料を安くしたのではなく、解約返戻金をなくし、また死亡保障のないタイプを選択して保険料を安くしたとある。 長期の保険で解約返戻金の水準に操作して保険料を安くしたのは、あんしん生命の長割保険が最初であり、私はコンシューマにミスリードさせ、ま た反歴史的な特色を強く非難したものを投稿し、金監庁にもその旨を伝えたところ、大蔵省時代の最終認可であるとの返事が返ってきた。 アメリカでは伝統的な商品種類には不可没収法があり、解約返戻金・不可没収給付のない商品は違法になるが、新しい商品にも法の適用範囲を 拡大するのがなかなか追いつかず、NAICが絶えず努力していることは、知る人ぞ知る事実である。最近ではXXXで定期保険の解約返戻金が強制 化され、またLTC保険のモデル規則にも同様な規定があり、各州に於いてその適用をめぐって、監督官達と業界とが争われ、昨年6月にモデル規則 の改正が行われた。この健康保険の補完である商品は、アメリカでは当然に類似のものはない(アメリカでは65歳以上のメディケアー以外の健康保 険は民間であるから)にしても、アメリカの監督官なら反コンシューマな商品として問題視する筈である。 私はアリコジャパンに偏見を持っていないが、このような動きは商品設計に規範喪失してきた証拠であり、また金監庁に確固たる認可方針がないこ との現れであり、また世界の動向についての知識が十分に入ってきていないからだと思うが、寒心に堪えない。 私は、本当にコンシューマ・オリエンテドな行政を確立して貰いたい、と切望している。なおついでながら、保険商品を販売する保険会社の立場から 考察するのと、販売される顧客の立場から考察するのとは違うように、アクチュアリ学の在り方も、保険会社アクチュアリとガバメント・アクチュアリの 考え方が違うことを前から私は主張している。そこでハッキリと違うのは解約価格の在り方に表れる。また契約者配当の在り方及び契約者配当準備 金の水準の在り方にも違いが出てくる。もう一つハッキリ違う例を挙げると、例えば、アメリカでの患者の権利法に対する考え方である。この違いを、 金監庁の人達が理解して行政しなくては、我が国の保険行政は乱れる一方である。 【出典】『浅谷輝雄 SOHOからのメッセージ』(http://www005.upp.so-net.ne.jp/asatani/kiji11.htm#kiji1106) (下線は筆者が追加) 22 4.予定解約率と保険料 (4)解約率を導入すると保険料が安くなるカラクリ 【第 t 保険年度の契約者価額の公式(死亡保険、保険料年払、保険金年度末支払)】 V + P = v × q x + t −1 + v × (1 − q x + t −1 ) ×t V t −1 t=1とすると・・・ P = v × q x + v × (1 − q x ) ×1V V ・・・ 第 t 保険年度末の契約者価額 P ・・・ 年払純保険料(予定解約率なし) t v ・・・ 現価率(= 1 1+予定利率 ) 予定解約率を導入すると・・・ ( ) P w = v × q x + v × q xw ×1W + v × 1 − q x − q xw ×1V w q x +t −1 ・・・ P w ・・・ 第 t 保険年度の予定死亡率 年払純保険料(予定解約率あり) PとP の差は・・・ P − P w = v × q xw × (1V −1W ) W qx>0 P > Pw 23 ならば・・・ ⇔ V > 1W 1 q xw ・・・ 第 1 保険年度の予定解約率 W ・・・ 第 1 保険年度末の解約返戻金 1 4.予定解約率と保険料 (5)純保険料の引き下げ効果_定期保険(10年満期) 【前提】予定死亡率:生保標準生命表2007(死亡保険用)、予定利率:1%、保険料月払、保険金額1000万円、解約返戻金なし 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 24 予定解約率 純保険料 比率 0% 691円 100% 2% 691円 100% 4% 691円 100% 6% 691円 0% 女性 予定解約率 純保険料 比率 0% 302円 100% 2% 300円 99% 4% 297円 98% 100% 6% 295円 98% 883円 100% 0% 570円 100% 2% 874円 99% 2% 563円 99% 4% 866円 98% 4% 556円 97% 6% 857円 97% 6% 548円 96% 0% 1,890円 100% 0% 1,161円 100% 2% 1,860円 98% 2% 1,144円 99% 4% 1,830円 97% 4% 1,128円 97% 6% 1,800円 95% 6% 1,111円 96% 0% 4,585円 100% 0% 2,389円 100% 2% 4,519円 99% 2% 2,366円 99% 4% 4,451円 97% 4% 2,342円 98% 6% 4,383円 96% 6% 2,318円 97% 20歳 30歳 40歳 50歳 4.予定解約率と保険料 (6)純保険料の引き下げ効果_定期保険(70歳満期) 【前提】予定死亡率:生保標準生命表2007(死亡保険用)、予定利率:1%、保険料月払、保険金額1000万円、解約返戻金なし 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 25 予定解約率 純保険料 比率 0% 3,134円 100% 2% 2,338円 75% 4% 1,743円 56% 6% 1,337円 0% 女性 予定解約率 純保険料 比率 0% 1,585円 100% 2% 1,207円 76% 4% 911円 57% 43% 6% 700円 44% 3,956円 100% 0% 2,006円 100% 2% 3,201円 81% 2% 1,673円 83% 4% 2,572円 65% 4% 1,388円 69% 6% 2,076円 52% 6% 1,158円 58% 0% 5,283円 100% 0% 2,609円 100% 2% 4,654円 88% 2% 2,350円 90% 4% 4,084円 77% 4% 2,111円 81% 6% 3,585円 68% 6% 1,899円 73% 0% 7,406円 100% 0% 3,483円 100% 2% 6,986円 94% 2% 3,322円 95% 4% 6,582円 89% 4% 3,167円 91% 6% 6,200円 84% 6% 3,021円 87% 20歳 30歳 40歳 50歳 4.予定解約率と保険料 (7)純保険料の引き下げ効果_終身保険(60歳払込) 【前提】予定死亡率:生保標準生命表2007(死亡保険用)、予定利率:1%、保険料月払、保険金額1000万円、解約返戻金=70% 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 予定解約率 純保険料 比率 0% 14,562円 100% 2% 13,071円 90% 4% 12,013円 82% 6% 11,314円 0% 予定解約率 純保険料 比率 0% 13,480円 100% 2% 12,064円 89% 4% 11,058円 82% 78% 6% 10,394円 77% 20,353円 100% 0% 18,915円 100% 2% 18,748円 92% 2% 17,394円 92% 4% 17,471円 86% 4% 16,186円 86% 6% 16,499円 81% 6% 15,267円 81% 0% 32,017円 100% 0% 29,763円 100% 2% 30,311円 95% 2% 28,145円 95% 4% 28,813円 90% 4% 26,723円 90% 6% 27,524円 86% 6% 25,501円 86% 0% 66,539円 100% 0% 62,025円 100% 2% 64,777円 97% 2% 60,351円 97% 4% 63,086円 95% 4% 58,744円 95% 6% 61,474円 92% 6% 57,211円 92% (注)保険料払込期間終了後の解約返戻金=100% 26 女性 20歳 30歳 40歳 50歳 4.予定解約率と保険料 (8)純保険料の引き下げ効果_終身保険(終身払込) 【前提】予定死亡率:生保標準生命表2007(死亡保険用)、予定利率:1%、保険料月払、保険金額1000万円、解約返戻金=70% 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 27 予定解約率 純保険料 比率 女性 予定解約率 純保険料 比率 0% 9,215円 100% 2% 7,786円 84% 4% 7,071円 77% 0% 10,658円 100% 2% 9,174円 86% 4% 8,368円 79% 6% 7,968円 75% 6% 6,750円 73% 0% 13,396円 100% 0% 11,438円 100% 2% 11,802円 88% 2% 9,897円 87% 4% 10,822円 81% 4% 9,022円 79% 6% 10,259円 77% 6% 8,568円 75% 0% 17,492円 100% 0% 14,588円 100% 2% 15,806円 90% 2% 12,937円 89% 4% 14,656円 84% 4% 11,887円 81% 6% 13,907円 80% 6% 11,262円 77% 0% 23,918円 100% 0% 19,300円 100% 2% 22,167円 93% 2% 17,546円 91% 4% 20,859円 87% 4% 16,307円 84% 6% 19,911円 83% 6% 15,473円 80% 20歳 30歳 40歳 50歳 4.予定解約率と保険料 (9)純保険料の引き下げ効果_個人年金保険 【前提】予定死亡率:生保標準生命表2007(年金開始後用)、予定利率:1%、保険料月払、年金年額100万円、解約返戻金70% 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 予定解約率 純保険料 比率 0% 16,091円 100% 2% 13,900円 86% 4% 12,459円 77% 6% 11,640円 0% 女性 予定解約率 比率 0% 16,166円 100% 2% 13,765円 85% 4% 12,123円 75% 72% 6% 11,104円 69% 22,675円 100% 0% 22,746円 100% 2% 19,887円 88% 2% 19,759円 87% 4% 17,763円 78% 4% 17,444円 77% 6% 16,246円 72% 6% 15,742円 69% 0% 35,908円 100% 0% 35,969円 100% 2% 32,463円 90% 2% 32,352円 90% 4% 29,510円 82% 4% 29,230円 81% 6% 27,041円 75% 6% 26,597円 74% 0% 75,718円 100% 0% 75,760円 100% 2% 71,523円 94% 2% 71,449円 94% 4% 67,559円 89% 4% 67,371円 89% 6% 63,839円 84% 6% 63,535円 84% 20歳 30歳 40歳 50歳 (注)60歳年金開始、10年確定年金、年金開始前の死亡給付金=既払込保険料相当額。 28 純保険料 4.予定解約率と保険料 (10)純保険料の引き下げ効果_入院保険(10年満期) 【前提】予定死亡率:第三分野標準生命表2007、予定利率:1%、保険料月払、入院日額1万円(60日型)、解約返戻金なし 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 予定解約率 純保険料 比率 女性 予定解約率 比率 0% 209円 100% 2% 207円 99% 4% 204円 98% 97% 6% 202円 97% 319円 100% 0% 319円 100% 2% 317円 99% 2% 317円 99% 4% 315円 99% 4% 315円 99% 6% 313円 98% 6% 313円 98% 0% 529円 100% 0% 530円 100% 2% 523円 99% 2% 523円 99% 4% 516円 98% 4% 517円 98% 6% 510円 96% 6% 510円 96% 0% 1,068円 100% 0% 1,069円 100% 2% 1,054円 99% 2% 1,056円 99% 4% 1,041円 97% 4% 1,042円 97% 6% 1,027円 96% 6% 1,029円 96% 0% 209円 100% 2% 206円 99% 4% 204円 98% 6% 202円 0% 20歳 30歳 40歳 50歳 (注)死亡給付金なし、予定入院発生率は『平成23年患者調査(厚生労働省)』に基づく。 29 純保険料 4.予定解約率と保険料 (11)純保険料の引き下げ効果_入院保険(終身払込) 【前提】予定死亡率:第三分野標準生命表2007、予定利率:1%、保険料月払、入院日額1万円(60日型)、解約返戻金なし 男性 20歳 30歳 40歳 50歳 予定解約率 純保険料 比率 0% 1,874円 100% 2% 1,109円 59% 4% 675円 36% 6% 450円 0% 女性 予定解約率 純保険料 比率 0% 2,540円 100% 2% 1,416円 56% 4% 796円 31% 24% 6% 493円 19% 2,313円 100% 0% 3,100円 100% 2% 1,522円 66% 2% 1,939円 63% 4% 1,019円 44% 4% 1,216円 39% 6% 723円 31% 6% 808円 26% 0% 2,935円 100% 0% 3,871円 100% 2% 2,132円 73% 2% 2,700円 70% 4% 1,568円 53% 4% 1,884円 49% 6% 1,192円 41% 6% 1,357円 35% 0% 3,869円 100% 0% 4,984円 100% 2% 3,081円 80% 2% 3,847円 77% 4% 2,478円 64% 4% 2,974円 60% 6% 2,304円 53% 6% 2,341円 47% 20歳 30歳 40歳 50歳 (注)死亡給付金なし、予定入院発生率は『平成23年患者調査(厚生労働省)』に基づく。 30 4.予定解約率と保険料 (12)変額年金保険の仕組み 一時払変額年金保険は一時払保険料を原資に投資信託を購入し、据置期間終了時 から、積立金(=投資信託の残高)に応じた年金が支給される。 据置期間終了や被保険者死亡等、所定の条件(商品により様々)を満たした時に積立 金の残高が最低保証額に満たない場合、その差額を保険会社が給付するものであり、 この最低保証部分が変額年金保険の「保険」たる所以。 保険会社は一時払保険料の一定割合の手数料を最初に積立金から徴収し、その後 に積立金の残高の一定割合を信託報酬・保険関係費用等の名目で日割りで徴収する (この購入時と日割りの徴収部分が保険会社から見た真の保険料)。 【出典】『日本郵便HP』(http://www.post.japanpost.jp/insurance/variablepension/index03.html) 31 4.予定解約率と保険料 (13)変額年金保険は無解約返戻金型商品? 変額年金保険の解約時には、積立金の残高から解約控除を差し引いた解約返戻金が 支払われる。 一方で、保険会社は前述した最低保証のために保険関係費用を日割りで徴収し、責 任準備金を積立てているため、理論上はこの部分に係る解約返戻金があってもよいの だが、一般的な変額年金において最低保証に係る解約返戻金は設定されていない。 一般的な変額年金保険の「保険」部分は無解約返戻金型といえる。 これらの最低保証部分に対応 する解約返戻金はない 【出典】『日本郵便HP』(http://www.post.japanpost.jp/insurance/variablepension/index03.html)を加工。 32 4.予定解約率と保険料 (14)変額年金と投資信託どちらがお得? 変額年金の場合、一時払保険料に対して100%の年金原資保証がつけば、日割りの 手数料は年率換算で積立金の3%前後、運用資産は債券比率60%~80%が目安。 このような手数料水準と資産構成では利回りに大きな期待はできないため、運用利回 りという意味では、税制面の不利を加味しても投資信託が有利となる可能性が高い。 終身タイプの年金保険(確定・変額問わず)は、長寿リスクに対する保険機能がある。 変額年金に期待するものが長寿リスクやインフレリスクに対するヘッジの場合、確定拠 出年金の活用も選択肢に入れるとよい。加入や掛け金に関する制限が多く、流動性も ほとんどないが、節税効果を加味するとかなりの高利回りが期待できる。 投資信託 変額年金 △ ○ ※1 ×~○ ※3 保険料は生命保険料 換金時に利益に対して 控除の対象※5 解約返戻金・一時金は 20.315%の課税 一時所得扱い※6 利回り ○ 流動性 ◎ 運用の自由度 ◎ 税制 確定拠出年金 ◎ × ※2 △ ※4 掛け金は非課税 退職所得控除または 公的年金控除あり ※1 短期解約の場合、一般的に変額年金の解約控除は投資信託の換金時手数料より大きい ※2 基本的に60歳になるまで引き出せないため、流動性が皆無に近い ※3 運用資産の選択肢が限定される、あるいは指定が一切できない ※4 運用資産の選択肢が限定され、掛け金も毎月一定額に限られる ※5 保険料は生命保険料控除の対象だが、個人年金保険料控除の対象ではない ※6 5年以内の解約時は20.315%の源泉分離課税、年金は利益部分を雑所得扱い 33 5.解約返戻金の活用事例 (1)法人向け節税ニーズ(その1) 逓増定期保険は、解約返戻金が早期にたまり、現在の税制では、保険料(の一部)が 損金に算入できる。 ⇒ 法人向け節税商品として利用。 50+(72-50)×2 =94<95 ⇒1/2損金 ↓ 73歳満期の場合、 50+(73-50)×2 =96>95 ⇒1/3損金 34 【出典】ライフィHP(http://lify.jp/goods/aig_fuji_s/increasing.pdf) 5.解約返戻金の活用事例 (1)法人向け節税ニーズ(その2) 保険料の損金効果を考慮しなくても、戻り率が100%を上回ることも。 【出典】三井住友海上あいおい生命HP(http://www.msa-life.co.jp/pdf/attention/keiyakugaiyou-21.pdf) 35 5.解約返戻金の活用事例 (2)保障内容変更制度 36 【出典】 生命保険文化センターHP(http://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/change/revokable_case.html) (下線は筆者が追加) 5.解約返戻金の活用事例 (3)払済保険による疑似一時払 会社によっては、 変更時に予定利率 等が変更(引下げ) される場合あり。 37 【出典】ライフィHP(http://lify.jp/contents/insurance_study/s25.php) ≪参考≫ 予定解約率のジレンマ 継続率向上による 危険差益等の増 解約返戻金 抑制型商品 に限定した 解約失効率 の開示が 必要? 予定解約率 が低いと 保険料が 安くならない 予定解約率 導入(調整) 責任準備金 解約返戻金 積立コスト増 引き下げ 解約失効率 低下 解約は損 予定解約率の設定は慎重に。(特に、発売後のモニタリングが重要) 38 保障性の強い 商品では意識 薄い?
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