C2-14, P2-29

C2-14, P2-29
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
トラックの走行時燃費を考慮した BTL 燃料に関する WtW 分析
A Life cycle analysis of biomass to liquid considering fuel consumption of a truck
○渡辺佑太郎*1)、佐藤由雄 2) 、川野大輔 2)、堂脇清志 1)
Yutaro WATANABE, Yoshio SATO, Daisuke KAWANO, Kiyoshi DOWAKI
1) 東京理科大学, 2)交通安全環境研究所
*[email protected]
1.
はじめに
表 1 投入エネルギー原単位 2)
現在、ディーゼル車への BTL(Biomass to Liquid)導入
電気
発電効率
[%]
42.0
CO2 排出係数 [kg-CO2 /kWh] 0.39
[MJ/L]
35.5
軽油
発熱量
2.640
CO2 排出係数 [kg-CO2 /L]
[MJ/kg]
13.7
バイオマス 発熱量
0
CO2 排出係数 [kg-CO2 /kg]
に向けて技術開発や実証試験が行われている。しかし、
原料収集から走行までの Well to Wheel にわたるエネルギ
ー効率(エネルギー収支比)
、CO2 削減効果及びトラック
に適用し燃費性能を含めて総合的に検討した研究は少な
い。そこで筆者らは、将来のバイオ燃料導入に向けた環
境指標作りを目的として、Well to Wheel にわたるバイオ
燃料のライフサイクル分析を行った。
今回は、国内の木質バイオマスから製造される H2、
DME 及び MeOH を分析の対象とした。本研究では走行
段階を考慮し、実走行を反映した走行モードを運転した
時の 4t 積載トラックの燃料消費量データや文献をもとに、
各燃料の Tank to Wheel における CO2 排出量を算出し、軽
油代替燃料としてのポテンシャル評価を行った。
2.
処理、ガス化-合成、自動車への充填までの Well to Tank
におけるエネルギー収支比を算出し、Tank to Wheel を含
めたライフサイクル全体の CO2 排出量を算出した。なお、
エネルギー収支比(MJ/MJ-Fuel)は、投入エネルギーを 1
次エネルギー換算したものを製品のエネルギーで割った
値である。電力消費量については日本の発電所における
発電効率 42.0%で割り戻した値を用いた(表 1)
。
Tank to Wheel では、バイオ燃料の燃焼により発生する
CO2 排出量を測定しているが、カーボンニュートラルを
考慮しゼロカウントとした。また、今回は車両製作時や
LCA の条件設定
本研究のシステム境界は図 1 のとおりである。本研究
では、国内において原料のスギ廃材から小規模分散型対
応のブルータワーガス化プロセス(BT プロセス)1)を使
用して製造される H2, DME 及び MeOH の 3 種類のバイオ
燃料について検討した。今回のケースでは製造時に必要
となる外部からの投入エネルギーは商用電力のみを使用
し、反応に必要な熱はオフガスで賄う製造システムを想
定した。そのため、所内動力としてのバイオ原料は使用
していない。製造はオンサイトで 12t-dry/d の小規模プラ
ントを想定した。この場合、プラントから 50km 圏内で必
要となるバイオマス量を確保できる 1)ことから、原料輸送
距離を 5-50km と仮定した。さらに、原料の含水率を
その他メンテナンス等で発生する CO2 は考慮していない。
また、そのため、Well to Wheel におけるバイオ燃料の CO2
排出量は Well to Tank の部分のみを考慮した。
3.
Well to Tank 分析結果
図 2 に Well to Tank の分析結果を示す。エネルギー収支
比(MJ/MJ-Fuel)は MeOH が最大で 1.38MJ/MJ-MeOH で
あるほか、全てのバイオ燃料のエネルギー収支比が 1 を
上回った。内訳をみると、原料輸送の割合は 30%前後、
製造所内で使用する所内動力(電力)の割合は 55.3-70.0%
であり、輸送と所内動力だけで Well to Tank のエネルギー
消費量の 87.4%-97.1%を占めることが分かった。
20-50%と仮定し、原料輸送と前処理における不確実性を
考慮した。
これらを踏まえ、原料のチップ化、輸送から乾燥の前
軽油
Utility
電力
Utility
Well to Tank
Tank to
Wheel
Utility
チップ化
バイオマス
輸送
ガス化
合成ガス
オフガス
乾燥
液化・精製
前処理・輸送
製造
充填
バイオ燃料
走行
CO2
図 1 本研究のシステム境界
図 2 Well to Tank におけるエネルギー収支比
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第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
図 3 Well to Tank における CO2 排出量
図 4 Well to Wheel における CO2 排出量
原料の乾燥はガス化炉の廃熱を利用するため非常に小
また、図 3 及び 4 の結果から、原料の輸送部分及び所
さい。また、Well to Tank におけるエネルギー収支比で最
内動力が大きいことから、例えば、比較的集約された地
大のMeOHは軽油の11.5倍、
最小のH2も軽油の9.7倍と、
域からの原料供給や所内動力の軽減(低圧条件における
バイオ燃料の製造には従来の燃料と比較して非常に多く
合成技術の確立)が求められる。本分析をもとに試算し
のエネルギーが必要であることが分かった。
た結果では、原料収集の範囲として、H2 が 21.0km 圏内、
次に、CO2 排出量(g-CO2/MJ-Fuel)を図 3 に示す。MeOH
DME が 26.9km 圏内及び MeOH については、9.4km 圏内
では 72.73g-CO2/MJ- MeOH であり軽油の 9.3 倍、CO2 排
のときに、Diesel トラックに対して 10%の CO2 削減効果
出量が比較的少ない H2 においても軽油の 8.1 倍であり、
が得られることになる。また、車両側においても、H2 や
全てのバイオ燃料が軽油の CO2 排出量を大きく上回った。
MeOH の燃費については、仮に Diesel 車と同等程度まで
以上より、原料輸送時の軽油消費と製造時の所内動力
の燃費の向上が可能となれば、H2 や MeOH を燃料とする
(電力)が Well to Tank におけるエネルギー収支比及び
トラックの CO2 低減が図られることになる。
CO2 排出量を決定する大きな要因であることが分かる。
6.
4.
おわりに
今回、BT ガス化プロセスを用いた小規模バイオマスプ
バイオ燃料を使用するトラックの走行燃費
市販軽油、DME を燃料とした 4t トラックの JE05 試験
ラントにおいて H2、DME 及び MeOH 製造を対象とした
モード走行における排ガス測定結果 3)をもとに、本研究で
Well to Wheel 分析により以下の知見を得た。
は貨物の積載率別に測定された試験データのうち、半積
(1) バイオ燃料の Well to Tank におけるエネルギー収支
載(積載率 50%)における燃費、CO2 データを使用した。
比(MJ/MJ-Fuel)は 1 を上回り、原料輸送と所内動
JE05 運転モードで試験が行われていない MeOH の燃費
力が 90%前後を占めることが分かった。
(km/MJ-Fuel)については、火花点火方式のエンジンで
(2) Well to Wheel 全体を通した各バイオ燃料の CO2 排
使用されるため軽油の燃費の 75%とし、同じく火花点火
方式でも燃焼速度の速いH2 は軽油の85%として走行時及
出量(g-CO2/km)は、軽油とほぼ同等であった。
(3) Well to Wheel における更なる CO2 削減には、
各バイ
び Well to Wheel 全体の CO2 排出量を算出した。
オ燃料の原料輸送の燃料消費及び燃料製造時の所
内動力(MJ/MJ-Fuel)の低減、ならびに車両燃費
5.
Well to Wheel 分析結果
(MJ/km)の低減が必要である。
以上のデータから、Well to Wheel 全体を通した CO2 排
今後、バイオ燃料の原料輸送や製造時の所内動力の低
出量(g-CO2/km)を算出した結果を図 4 に示す。バイオ燃料
減効果(低圧下での燃料合成の可能性)などについて実
の CO2 排出量は軽油の 0.9-1.1 倍となり、軽油とほぼ同等
験を含め検討を行う予定である。
であることが分かった。しかし、バイオ燃料の CO2 排出
量には前処理や輸送における不確実性を含むため、この
参考文献
結果よりもさらに CO2 排出量を減らせる可能性がある。
1) Kiyoshi Dowaki, Yutaka Genchi :Int J Life Cycle Assess,
14 , (2009), pp. 611–620
また、試験データから算出した燃費は、低位発熱量ベ
ースで軽油:0.169km/MJ-Diesel、DME:0.181km/MJ-DME
2) 日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編,
となり、現時点では DME は軽油より 7%ほど良い結果で
“エネルギー・経済統計要覧”
,省エネルギーセンタ
あった。DME は軽油に比べエネルギー密度は小さいもの
ー,東京(2011)
,pp.224-225
のエネルギー効率は良いことから、代替燃料としてのポ
3) 佐藤由雄:交通安全環境研究所フォーラム 2010 講演
概要, 2010 年, p.21
テンシャルを持っていると言えよう。
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