外国人留学生のリクルーティング戦略 International

ウェブマガジン『留学交流』2014 年6月号 Vol.39
外国人留学生のリクルーティング戦略
-海 外 向 け 大 学 広 報 戦 略 の 立 て 方 と 実 践 方 法 -
International Student Recruitment
Strategy: how to develop and practice
attractive University PR for overseas
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院
客員教授
北村 倫夫
K I T A M U R A M i c h i o ( V is i t i n g P ro f e s s or , Re s e a r c h Fa c u l t y o f M e d i a a n d
C o m m u n i c at i o n , H o k ka i d o U n i ve r s i t y)
キーワード:外国人留学生、大学広報戦略、留学生リクルーティング戦略
はじめに
現 在 、 我 が 国 で は 「 留 学 生 30 万 人 計 画 」 に 基 づ い て 、 日 本 留 学 へ の 誘 い 、 入 試 ・
入学・入国の入り口の改善、大学等のグローバル化の推進、受入れ環境づくりなどの
面で、様々な取組が行なわれている。しかし、我が国の外国人留学生総数をみると、
平 成 2 2 年 の 1 4 . 2 万 人 を ピ ー ク に 平 成 2 3 年 1 3 . 8 万 人 、 平 成 24 年 1 3 . 8 万 人 と 近 年 は
伸び悩んでおり
1
、 こ の ま ま で は 、 2020 年 ま で に 外 国 人 留 学 生 受 入 れ 30 万 人 と い う
目標の達成は、かなり厳しい状況にある。
一方で、今日本の大学は、アジアの大学との熾烈な競争にさらされている。各種大
学ランキングはもとより、外国人留学生獲得数においても、アジアのトップ大学に比
較 し て 日 本 の 大 学 は 苦 戦 を 強 い ら れ て い る 。 例 え ば 、「 2 01 4 年 Q S ア ジ ア 大 学 ラ ン キ ン
グ 」 2 を み る と 、前 年 に 比 較 し て 日 本 の 大 学 は 全 体 的 に 順 位 を 下 げ た 。2 0 1 4 年 で 5 0 位
以 内 に ラ ン ク さ れ て い る 日 本 の 大 学 13 校 の う ち 、 前 年 よ り 順 位 が 下 が っ た 大 学 は 8
大学に及ぶ。
日 本 の 大 学 が 国 際 競 争 力 を 低 下 さ せ て い る 理 由 と し て は 、大 学 の グ ロ ー バ ル 化 の 遅
れ、日本語の問題、アカデミックパスの少なさなどの様々な要因が指摘されている。
し か し 、あ ま り 指 摘 さ れ る こ と が な い の が 、
「 大 学 広 報 」の 側 面 で あ る 。
“ E v e ry t h in g i s
o n t h e W eb ” の 流 れ の 中 で 、 日 本 の 大 学 が 公 式 W e b サ イ ト に お い て 、 世 界 に 対 し て 発
信する「大学広報」の影響力は大きい。にもかかわらず、その実態(実力)は、アジ
アのトップ大学に比較してかなり劣っているといわざるを得ない。
以上の状況を踏まえて、本稿では日本の大学が、外国人留学生獲得に向けた大学広
1
「 留 学 生 数 の 推 移 ( 各 年 5 月 1 日 現 在 )」 独 立 行 政 法 人 日 本 学 生 支 援 機 構
Q S A s i a Q u a c q u a r e l l i S y m o n d s 社 よ り 公 表 さ れ た“ Q S A s i a n U n i v e r s i t y R a n k i n g s 2 0 1 4 ”
http://www.topuniversities.com/university-rankings/asian-university-rankings/20
14#sorting=rank+region=+country=+faculty=+stars=false+search=
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報 の 質 と 効 果 を 高 め る た め に 、「 何 を 広 報 す べ き か ( コ ン テ ン ツ )」 及 び 「 ど の よ う に
広 報 す べ き か ( 手 段 )」 に 焦 点 を 当 て 、 そ の 望 ま し い あ り 方 を 提 示 す る 。 そ の 要 諦 は 、
コ ン テ ン ツ 面 で は 「 な ぜ ( W hy ) 本 学 か ? 」 を 訴 求 す る こ と 、手 段 面 で は ロ ジ カ ル & エ
モーショナルな側面で訴求力を高めることである。
1.大学広報の枠組みについて
まず議論の導入部分として、前提となる「大学広報」全体の枠組みについて示す。
大学広報の基本的な流れは、大学内の様々な実体(教育・研究活動、学生・教職員、
生活、建物・自然、文化・風土等)の中から、広報すべきもの(コンテンツ)を選択
し、それを効果的なやり方(手段)で情報発信するということである。
特に、大学広報においては、大学内の森羅万象のうち「何を選択して訴求するか」
が重要となる。その際には、選択の方針(広報方針)が不可欠である。この広報方針
が欠けている又は不十分な場合、発信される情報量は膨大になり、受け手側(留学見
込み学生等)に伝えたい事項や訴求点が曖昧になる。
ま た 、広 報 の 媒 体 選 択( W e b サ イ ト 、ガ イ ド 等 )と そ の 特 性 に 合 っ た 伝 え 方( 構 造 、
デザイン、表現、更新)も重要である。これらを十分に配慮することによって、アク
セス性、共感性、信頼性、新規性に優れた大学広報を行なうことが可能になる。
図表 1
大学実体
大学広報の枠組み
広報すべきもの(コンテンツ)
広報のやり方(手段)
広報方針
広報すべき理念
×
教育活動
研究活動
広報すべき教育活動
広報すべき研究成果
学生
教職員
文化活動
交流活動
媒体選択
生活
構造
デザイン
表現
広報すべき生活実態
更新
↓
広報すべき文化活動
建物・自然
・
・
・
アクセス性
共感性
広報すべき○○
新規性
信頼性
大学広報の訴求対象者(外国人留学生等)
理念・ポリシー
文化・風土
(出所)筆者作成
2.外国人留学生獲得に向けて求められる大学実体の質向上
以上の大学広報の枠組みの中で、外国人留学生の獲得(リクルーティング)に最も
重 要 な こ と は 、「 大 学 実 体 」 の 質 を 高 め る こ と で あ る 。 大 学 実 体 と は 、「 大 学 の 人 格 と
能 力 の 総 体 」 の こ と で あ り 、「 理 念 ・ ポ リ シ ー 」、「 研 究 ・ 教 育 活 動 」、「 学 生 ・ 教 職 員 」、
「 生 活 」、「 建 物 ・ 自 然 」、「 文 化 ・ 風 土 」 な ど の 要 素 か ら 構 成 さ れ る も の で あ る 。
今、各大学が注目する世界/アジア大学ランキングは、大学実体を構成する一部の
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要 素 を 評 価 す る も の と な っ て い る 。 例 え ば 、「 TH E 世 界 大 学 ラ ン キ ン グ 2 0 1 3- 2 0 1 4」 3 で
は、
「 教 育 」、「 研 究 」、
「 産 業 界 か ら の 収 入 」、「 論 文 被 引 用 」、「 国 際 性 」 が 評 価 対 象 項 目
となっており、これらはいずれも大学実体の構成要素である。
こ う し た 大 学 実 体( 人 格 と 能 力 )の 質 が 高 け れ ば 、世 界 の 留 学 希 望 者 の 関 心 を 集 め 、
結果として多くの留学希望者が受験・入学するということは、大学にとって自明の理
である。例えば、ノーベル賞級の研究者が多数いれば、その最先端研究を目指して、
世界から学生や研究者が集まってこよう。
したがって、日本の大学が外国人留学生を多く獲得するためには、大学実体の質を
高めることが最も重要な課題となる。しかし、大学実体の質をどう高めるかの議論に
ついては、本稿の範囲である大学広報を超えるため、ここではこれ以上言及しない。
3.外国人留学生への訴求力の高い大学広報コンテンツとは
外国人留学生獲得に向けた大学広報において最も重要となるのは、留学希望者にと
って魅力的かつ訴求力の高い広報コンテンツを提供することである。以下では、大学
公 式 Web サ イ ト に お け る 広 報 を 念 頭 に 置 い て 、 望 ま し い 大 学 広 報 コ ン テ ン ツ の あ り 方
を示す。
( 1 ) 重 要 な 広 報 コ ン テ ン ツ は 「 な ぜ ( Why) 本 学 か ? 」 を 示 す こ と
大学広報において、外国人留学生の獲得のために最も重要となるコンテンツ(訴求
す る 内 容 ) は 、「 な ぜ 本 学 か ? 」 を 示 す こ と 、 す な わ ち 、「 な ぜ 、 あ な た に と っ て 、 本
学は選ぶ価値があるか」の具体的メッセージ(理由)を、大学側が明確に伝えること
で あ る 。留 学 希 望 者 を 対 象 と す る 大 学 広 報 コ ン テ ン ツ の 全 て は 、こ の「 な ぜ 本 学 か ? 」
のメッセージを表現するものと捉えることが望ましい。
( 2 ) 日 本 の 大 学 の 弱 点 は 「 な ぜ ( Why) 本 学 か ? 」 の 訴 求 力 の 低 さ
こ の 点 に つ い て 、「 2 01 4 年 Q S ア ジ ア 大 学 ラ ン キ ン グ 」 4 上 位 5 0 位 ま で に 入 っ て い る
日 本 の 1 3 大 学( 東 京 大 、京 都 大 、大 阪 大 、東 京 工 業 大 、東 北 大 、名 古 屋 大 、北 海 道 大 、
九 州 大 、筑 波 大 、慶 應 義 塾 大 、神 戸 大 、早 稲 田 大 、広 島 大 )の う ち 、公 式 Webサ イ ト で
「なぜ本学か?」
( 英 語 )を 掲 載 し て い る の は 、北 海 道 大 と 九 州 大 の み で あ る 。そ れ 以
外でも一橋大、上智大などの数大学に限られる。
これに対して、日本のライバルとなるアジアのランキング上位大学(中国の大学を
除 く ) は 、「 な ぜ 本 学 か ? 」 の 掲 載 例 が 目 立 っ て い る 。 例 え ば 、 ト ッ プ 1 0 位 に 入 っ て
い る シ ン ガ ポ ー ル 国 立 大 学 、 南 洋 理 工 大 学 ( シ ン ガ ポ ー ル )、 ソ ウ ル 大 学 ( 韓 国 ) は 、
いずれも「なぜ本学か?」を掲載している。
ま た 、 日 本 と ア ジ ア の 大 き な 違 い は 、「 な ぜ 本 学 か ? 」 の 内 容 で あ る 。 ア ジ ア の 上
位大学の「なぜ本学か?」の訴求点は、日本の大学に比較して優れているといわざる
を 得 な い 。ア ジ ア の 大 学 で は 、
「 優 れ た 大 学 と し て の 評 価( A T r adi t i o n o f Ex c e l l en c e、
3
T i m e s H i g h e r E d u c a t i o n ( T H E ) 社 よ り 公 表 さ れ た“ W o r l d U n i v e r s i t y R a n k i n g s 2 0 1 3 - 2 0 1 4 ”
http://www.timeshighereducation.co.uk/world -university-rankings/2013-14/world-r
anking
4 脚注 2 に同じ
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U n i v e r s i ty R a n k i ng s 等 )」、「 グ ロ ー バ ル な 教 育 ( W o rl d - C l as s Ed u c a t i o n、 L o c a l an d
o v e r s e a s c a m pu s e s 等 )」、「 先 端 的 ト ッ プ レ ベ ル の 研 究 ( C u tt i n g- E d g e Re s e a r c h 等 )」、
「 研 究 ・ 人 材 の 多 様 性 ( D i v e rs e d i s ci p li n e s f o r di v e r s e t al e n t s 等 )」、「 卒 業 生 の
世 界 ネ ッ ト ワ ー ク( I nt e r n a t i o na l Al u m n i 等 )」、
「 優 れ た 大 学 生 活( V i b r a nt C am p u s L if e
等 )」 な ど が 、 世 界 に 対 す る 大 学 の P R ポ イ ン ト と し て 強 調 さ れ て い る 。
これに対して、日本の大学は、ローカル性の強い事項、情緒的な事項が多く、逆に
大学の中核的な広報事項であるべき「教育・研究」に触れないなど、アジアの上位大
学に比べてかなり見劣りがする。
図表2
タイトル
項目
ア ジ ア の 上 位 大 学 に み る 「 な ぜ ( Why) 本 学 か ? 」 の 掲 載 項 目 例
シンガポール国立大学
南洋理工大学
ソウル大学
Nation al Un ive rsity of Sin gapore
Nan yan g Te c h n ologic al Un ive rsity
Se ou l Nation al Un ive rsity
Why NUS?
Why NTU?
Why Should I choose SNU?
Director's Message
Diverse disciplines for diverse talents
Five Reasons to Come to SNU
University Rankings
Well-rounded, global education; tailored
programmes for high-achievers
- A Tradition of Excellence
Global Education
Distinctive edge in science and
engineering; Nobel boost
- World-Class Education
Multiple Pathways
Local and overseas campuses
- Cutting-Edge Research
Student Life
Outstanding international profile
- Extraordinary Alumni Networks
International Alumni
- Vibrant Campus Life
Experiences@NUS
NUS Because
(出所)各大学のホームページ掲載情報より筆者作成
図表3
日 本 の 大 学 の 「 な ぜ ( Why) 本 学 か ? 」 の 掲 載 項 目 例
北海道大学
タイトル Why Hokkaido University?
TOP 10 UNIVERSITY IN JAPAN
MOST BEAUTIFUL CAMPUS
一橋大学
九州大学・ グリーンアジア国際戦略
プログラム
上智大学
WHY HITOTSUBASHI?
Why learn at Sophia University?
Why Kyushu University
Ten Reasons to Choose
We are a pioneer in language
Hitotsubashi's Undergraduate Program
education:
(A)
We are in a great location: Just a
minute from JR/ subway Yotsuya
Ten Reasons to Choose
station. Our campus is located in the
Hitotsubashi's Graduate Program (B)
center of Japan; Sophia University's
"City Campus".
項目
Other services available: You have
access to the university facilities
such as library ( reading only, no
borrowing rights), bookshops (10%
discount with registration card),
cafeterias etc.
SAPPORO : MOST DESIRABLE CITY
A Historic University with an
Academic Pedigree
Advanced Facilities for Education and
Research
Distinguished Academic Achievements
International Exchange and
Collaboration
HIGHEST STUDENT SATISFACTION
( 注 ) 一 橋 大 学 の 項 目 (A)、 (B)は 、 さ ら に 詳 細 に 情 報 表 示 さ れ て い る が 省 略
(出所)各大学のホームページ掲載情報より筆者作成
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( 3 ) 日 本 の 大 学 が 「 な ぜ ( Why) 本 学 か ? 」 で 訴 求 す べ き 7 つ の ポ イ ン ト
日本の大学がアジアの上位大学と、大学広報の面で対等に競争していくためには、
「なぜ本学か?」の訴求力を高めていくことが必須の課題である。
アジア上位大学の実例や留学希望者の想定ニーズを踏まえると、日本の大学が「な
ぜ 本 学 か ? 」 に お い て 訴 求 ( 広 報 ) す べ き 項 目 、 す な わ ち 、「 他 大 学 に 比 較 し て 、 い か
に本学が優れているか」を示すポイントは、以下の7点である。
留学希望者を対象とした海外向け大学広報の主要コンテンツは、この7つのポイン
トを魅力的かつ具体的に説明するという広報方針で作成されることが望ましい。
図表4
日 本 の 大 学 が 「 な ぜ ( Why) 本 学 か ? 」 で 訴 求 す べ き 7 つ の ポ イ ン ト
表現例
訴求点
1.優れた大学としての評価
University Rankings
A Tradition of Excellence
2.世界レベルの教育
Global Education
World-Class Education
3.先端的トップレベルの研究
4.学問・進路の多様性
Well-rounded, global education
Distinctive edge in science and
Cutting-Edge Research
engineering
Diverse disciplines for diverse
Multiple Pathways
talents
5.国際ネットワーク/アウトリーチ Local and overseas campuses
Outstanding international profile
6.卒業生ネットワーク
International Alumni
Extraordinary Alumni Networks
7.安心と活気に満ちた生活
Vibrant Campus Life
Student Life
Experiences@NUS
(出所)筆者作成
①「優れた大学としての評価」
QS ア ジ ア 大 学 ラ ン キ ン グ 、 THE 世 界 大 学 ラ ン キ ン グ な ど の 国 際 的 な 大 学 ラ ン キ
ングにおける本学の位置(順位)を示す。順位が低くても事実情報として掲載す
ることが必要である。また、日本国内における本学の評価・ステータスの高さを
示す定量的情報(難易度、偏差値順位等)や定性的情報(報道記事等)も合わせ
て掲載する。
②「世界レベルの教育」
世界を舞台にした教育プログラム(交換留学生プログラム、海外キャンパス学
習 プ ロ グ ラ ム 等 )、本 学 と 外 国 高 等 教 育 機 関 と の 連 携 プ ロ グ ラ ム な ど の 内 容 を 示 す 。
ま た 、大 学 教 育 の 結 果 と し て の 卒 業 生 の 獲 得 能 力・評 価 結 果 な ど を 示 す 情 報( 例 :
国家資格取得者数、専門家の輩出数など)を掲載することが望ましい。
③「先端的トップレベルの研究」
本学が、世界的にみていかに優れた最先端研究を行なっているかの事実(分野
別研究論文数、各種学術賞の取得数、特許申請・登録数等)とイメージ(研究、
受賞の写真等)を掲載し、アピールする。
④「学問・進路の多様性」
本学で行われている学問・研究領域、学内でのアカデミックキャリアパス(ダ
ブ ル デ ィ グ リ ー 、デ ュ ア ル デ ィ グ リ ー 、コ ン カ レ ン ト デ ィ グ リ ー 等 )、大 学 卒 業 後
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の キ ャ リ ア パ ス ( 大 学 、 官 庁 、 民 間 、 N P O、 国 際 機 関 等 ) の 多 様 性 と 実 績 を ア ピ ー
ルする。
⑤「国際ネットワーク/アウトリーチ」
本学は、海外にサテライトキャンパスがあり、そこでの教育・研究が可能であ
ることをアピールする。あるいは、国際的なパートナーシップ協定等を結んでい
る、海外の大学や学術研究機関が多いことを示す。
⑥「卒業生ネットワーク」
本学の卒業生(同窓生)が、世界の多くの国・地域で、かつ多様な分野で活躍
していることを人数や分布図などの事実と表現によってアピールする。また、同
窓会の世界的ネットワークと活動の内容について示す。
⑦「安心と活気に満ちた生活」
本学では、住宅、医療、教育等のオンキャンパスサービスが非常に充実してい
ることを示す。また、本学が、活気あふれる楽しいキャンパスライフを営めるこ
とを写真や在学生インタビュー談話などによってアピールする。
(4)外国人留学生の「声」を踏まえた日本の大学として発信すべき情報
筆者が客員で勤務する北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院の外国人留学
生(中国、台湾の修士学生)数名に対して、大学院選択時に求める情報についてヒア
リングを行った。その結果、留学希望者が大学院選択段階で特に必要とした情報、あ
るいは重視した情報として、以下のものが挙げられる。
①研究テーマ・研究者
学生自身の関心のある研究テーマ(かなり具体的なテーマ)が大学院のコース
としてあるか、またそのテーマの研究をやっている研究者がいるか否かの情報。
特に、研究者の詳細なプロフィール・研究領域・論文・メールアドレス等の情報
が必要とされている。
②マネー(支出と収入)
学生の支出となる生活費、食費、学費等の情報、及び収入となる奨学金、アル
バ イ ト に 関 す る 情 報 ( 容 易 さ ・ 制 限 、 種 類 、 金 額 等 )。 特 に 、 中 国 や 台 湾 等 か ら の
私費留学生は経済的にかなり厳しい状況に置かれており、親からの仕送りだけで
は経済的に厳しいため、現実的な生活収支の情報が必要とされている。
③キャンパス環境
大学キャンパスの環境(広さ、ゆとり、豊かな自然、景観の美しさ等)に関す
る情報。日本の大学を選択する際に環境の良さが重視される傾向にある。
④大学の知名度
留学希望者の本国及び日本国内での知名度・ステータスに関する情報。日本の
大学に関する情報の流通量が多くない中で、選択候補大学(院)の知名度・ステ
ータスの高さが志向されるようである。
⑤就職の可能性
大学(院)卒業後の日本企業への就職の可能性に関する情報。特に、企業にお
ける外国人留学生の採用実績、採用可能性の高い就職先企業、就職にあたっての
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難易度等の情報が求められる。
以上のような外国人留学生の「声」を踏まえると、特にアジアからの留学希望者を
対象としたときに、日本の大学の魅力度をアピールするために、例えば、以下の情報
を「なぜ本学か?」の中で、強調して提供することが望ましい。また、これらの訴求
点は、アジアの大学にはない日本の大学の比較優位性になる可能性を秘めている。
図表5 日本の大学が強調すべき「なぜ本学か?」の訴求点(外国人留学生の声より)
訴求項目
特に、発信・アピールすべき情報 (外国人留学生の声より)
優れた大学としての評価
■日本国内での知名度・社会的評価・人気の高さ
⇒社会的に高い評価を受けており、受験生の人気があること(受験倍率)を示す
先端的トップレベルの研究
■留学生の幅広い研究ニーズへの対応力
⇒研究者の研究テーマが多様であり、あらゆる研究ニーズに対応可能であることを示す
学問・進路の多様性
■日本企業への高い就職力
⇒留学生の日本企業への就職実績や企業における評価が高いことを示す
安心と活気に満ちた生活
■経済的なゆとりの大きさ
⇒支出が低く(生活費・学費安い)、収入が得やすい(奨学金豊富、アルバイトし易い)ことを示す
■良好な生活・自然環境
⇒大学キャンパスの環境の良さ(広さ、ゆとり、豊かな自然、美しさ)を示す
(出所)筆者作成
4.留学希望者への訴求力を高める広報手段とは
効 果 的 な 海 外 向 け 大 学 広 報 を 展 開 す る た め に は 、広 報 手 段 の ロ ジ カ ル な 側 面( 構 造 、
文 字 表 現 等 )、エ モ ー シ ョ ナ ル な 側 面( デ ザ イ ン 、視 覚 表 現 等 )の 双 方 に お い て 、訴 求
力 を 高 め る 工 夫 が 必 要 と な る 。 以 下 で は 、 大 学 公 式 Web サ イ ト に 対 象 を 限 定 し 、 主 な
工夫のあり方を示す。
(1)必要とする情報にアクセスしやすい構造を構築する
留学希望者が必要とする情報にアクセスしやすい、ホームページの構造を構築する
ことが重要である。そのためには、以下の工夫が効果的である。
①イベントを「タイムライン」で表現する
日 本 の 大 学 で は 、留 学 希 望 者 に 対 し て 受 験 や 入 学 手 続 き な ど の 説 明 を す る 場 合 、
必要行為や手続きを時系列に並べて表示している例は少ない。これに対して、例
え ば シ ン ガ ポ ー ル 国 立 大 学 で は 、願 書 提 出 か ら 入 学 ま で の イ ベ ン ト を“ B e f or e Yo u
A p p l y ” “ W h e n Y ou Ap p l y ” “ Af t e r Y ou Ap p l y ” “ Af t e r A cc e pt a n c e ” と 時 系 列
で表示し、各々について詳しい情報を提供している。このようなタイムライン形
式によるイベントの表示は、必要行為や手続きの順番が明確になる点で、留学希
望者にとって非常にわかりやすいという利点を持っている。
②「ライフイベント」による構造化を試みる
国 内 外 の 大 学 を 問 わ ず W e b サ イ ト で 提 供 さ れ る 情 報 は 、「 大 学 案 内 」、「 教 育 」、
「 研 究 」、「 産 学 連 携 」、「 学 生 生 活 」、「 国 際 交 流 」、「 広 報 」 な ど の “ 事 象 分 野 カ テ
ゴリー”による提供が一般的である。しかし、留学希望者にとってよりわかりや
す い 広 報 に 向 け て は 、入 学 か ら 卒 業 ま で の 、
“ ラ イ フ イ ベ ン ト ・ カ テ ゴ リ ー ”の 設
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置による情報提供に配慮すべきである。例えば、入学後のライフイベントを「大
学 に 入 る 」、
「 家 を 探 す 」、
「 生 活 用 品 を 揃 え る 」、
「 イ ン タ ー ネ ッ ト に ア ク セ ス す る 」、
「 授 業 を 受 け る 」、「 友 達 を つ く る 」、「 ア ル バ イ ト す る 」、「 課 外 活 動 を 行 う 」、「 ボ
ランティアに参加する」などに範疇化して、詳細な情報を提供するというイメー
ジである。
③組織別カテゴリーを改善する
一般的に国内外の大学を問わず、外国人留学生関係の情報は「入学関係部署
( A d m i s s io n O f fi c e 等 )」 と 「 国 際 関 係 部 署 ( I n t e rn a t i o na l
R e l a t i o n s O f f i ce
等 )」に 分 散 さ れ て 提 供 さ れ る 。そ の 結 果 、外 国 人 留 学 生 が 必 要 情 報 に ア ク セ ス す
る際に探し難いなどの状況が発生している。こうした組織カテゴリーの壁を超え
て、ワンストップで必要情報が入手できるなど、外国人留学生の視点に立った広
報マネジメントが必要である。
(2)ユニバーサル情報とユニーク情報を区別し効果的に発信する
外国人留学生に必須の「日本国に在留する外国人として必要な情報」などは、国内
であればどこの大学でも共通であるにもかかわらず、実際は各大学が独自に情報を整
理し広報コンテンツとして提供している。効果的かつ効率的な海外向け大学広報を展
開 し て い く に あ た っ て 、こ う し た「 ユ ニ バ ー サ ル 情 報 」
(外国人留学生の誰にとっても
共 通 な 情 報 )は 、大 学 共 同 で 共 通 コ ン テ ン ツ を 作 成 し 、共 同 利 用 す る こ と が 望 ま し い 。
なぜなら、ユニバーサル情報は、大学で共同作成・利用することによって翻訳等の労
力やコストの削減に結びつくからである。
一 方 で 、「 ユ ニ ー ク 情 報 」( 大 学 に 固 有 の ア ピ ー ル 情 報 ) に つ い て は 、 各 大 学 が 独 自
に作成し、大学の個性や強みをアピールできることから、総力をあげて充実していく
べ き で あ る 。こ の よ う に 、ユ ニ バ ー サ ル 情 報 と ユ ニ ー ク 情 報 を 明 確 に 区 別 し 、効 率 的 ・
効果的に発信していくことが重要である。
図表6
海外向け大学広報におけるユニバーサル情報とユニーク情報の区別と発信
大学
ユニーク情報
地域
ユニバーサル
情報
日本
ユニバーサル
情報
■個々の大学固有の留学生に関連する情報
①Why 〇〇大学?: アピールポイント
②大学概要: 理念、歴史、ファクト、キャンパスマップ、教職員、卒業生 等
③研究・教育: 研究者プロフィール、研究内容・教育カリキュラム、履修手続き 等
③生活・文化: 生活イメージ、イベント、学内サービス、スポーツ・課外活動 等
各大学が独自に作成
大学の個性アピール
■地域に居住する住民として必要な情報 (大学キャンパス外居住者対象)
①手続き情報: 転入・転出届、国民健康保険 等
②住宅情報: 住宅の探し方、契約の仕方 等
③安全安心情報: 緊急時対応、医療機関 等
④日常生活情報: 電気・ガス・水道、電話、銀行、郵便局、交通、ゴミ、買い物 等
⑤文化・慣習情報: 地域固有の文化・慣習情報 等
大学共同で作成
特定機関が作成
↓
大学が共同利用
(翻訳等のコスト削減、
作成労力の削減)
■日本国に在留する外国人として必要な情報
①入国関連: 来日前準備情報、入国・在留手続き情報
②滞在関連: 日本の文化・慣習情報、日本の公民としての権利・義務情報
③出国関連: 帰国準備情報、出国手続き情報
(出所)筆者作成
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(3)その他の取組むべき工夫
以上の工夫に加えて、広報コンテンツの表現や内容について、次のような工夫を試
みることも望ましい。
①メッセージの主語を「あなたは」に転換する
日本の大学では、
「 私 た ち の 大 学 は 、あ な た 達 に ○ ○ を 提 供 す る 」と い う 表 現 が
一 般 的 で あ る 。 こ れ に 対 し て 、ア ジ ア の 大 学 で は 、
「 あ な た( 達 ) は 、 私 た ち の 大
学で○○ができる」という表現が多い。これは「主語」を大学と留学希望者のど
ちらにするかという問題である。アジアの大学のように、留学希望者の視点に立
つ、すなわち主語を学生とするほうが、留学希望者にとっては訴求力が高い。
②留学希望者向け「日本語」コンテンツも充実する
留学希望者向けの広報コンテンツは、決して外国語だけであってはならない。
日 本 語 に よ る コ ン テ ン ツ も し っ か り と 作 成 し て お く 必 要 が あ る 。な ぜ な ら 、中 国 、
台 湾 、韓 国 か ら の 留 学 希 望 者 は 、受 験 段 階 で 日 本 語 レ ベ ル の 相 当 高 い 学 生 が 多 く 、
彼らは日本語情報を読みにいくからである。
③ 「 人 ( 笑 顔 )」 の 画 像 を 多 く 出 す
ア ジ ア の ( 世 界 の ) 大 学 の 広 報 は 、「 人 ( 笑 い 顔 、 生 き 生 き と し た 姿 ) の 写 真 」
を前面に出してアピールすることが一般的である。これに対して、日本の大学は
改 善 さ れ て き て い る も の の 未 だ に「 施 設( 校 舎 建 物 )の 写 真 」中 心 の 広 報 が 多 い 。
留学希望者へどちらが柔らかく・親しみやすい印象を与えるかは、一目瞭然であ
る。
④外国人在学生、卒業生に語らせる
留学希望者への広報で重要な点は、在学中の外国人留学生や卒業生の語りのコ
ンテンツを前面に出すことである。一般的に、大学当局が言うことには懐疑的と
な る が 、同 国 人( 同 胞 )経 験 者 の 言 う こ と は 共 感 で き る / 信 頼 で き る か ら で あ る 。
5.終わりに~留学希望者に「正しく伝わる」大学広報を目指して~
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お い て 、( 正 し く )「 伝 え る 」 と 「 伝 わ る 」 に は 大 き な 差 異 が
あ る 。「 正 し く 伝 わ る 」 と は 、 情 報 ・ メ ッ セ ー ジ の 送 り 手 ( 大 学 側 ) が 「 正 し く 伝 え る
こ と ( 表 現 す る こ と )」 と 、 受 け 手 ( 留 学 希 望 者 ) が 「 正 し く 理 解 す る こ と ( 受 け 取 る
こ と )」 の 双 方 が 同 時 に 達 成 さ れ る こ と で あ る 。
し か し 、 今 の 大 学 広 報 は 「 伝 え る 」 こ と が 中 心 で あ り 、「 正 し く 伝 わ る 」 こ と に 課
題 が あ る 。例 え ば 、日 本 の 大 学 広 報 は 、大 学 側 か ら の 上 意 下 達( 一 方 向 で 伝 え る の み )
の 性 格 が 強 い 、 W eb サ イ ト 構 造 の 複 雑 性 、 情 報 量 過 多 ( 未 整 理 ) に よ り 必 要 情 報 へ ア
ク セ ス し に く い 、文 章 が 文 語 調 で 難 し く わ か り や す い 表 現 に な っ て い な い な ど 、
「正し
く伝わる」ことが達成されていない。
したがって、今後は留学希望者に「正しく伝わる」大学広報を実践していくことが
重要である。
「 正 し く 伝 わ る 」大 学 広 報 に 向 け て は 、留 学 希 望 者 に 理 解 し て も ら い た い
事 項 を 強 調 し P R す る こ と(「 な ぜ 本 学 か ? 」の ア ピ ー ル 等 )、留 学 希 望 者 の 違 い を し っ
か り 認 識 す る こ と( 国 籍 、留 学 ス テ ー タ ス 、キ ャ リ ア ニ ー ズ 等 )、留 学 希 望 者 の 目 線 に
立った広報を行うこと(主語の「大学は」から「あなたは」へ転換等)などが必要で
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ウェブマガジン『留学交流』2014 年6月号 Vol.39
ある。
日本の多くの大学において、こうした「正しく伝わる」海外向け大学広報が実践さ
れることを期待したい。
【参考文献】
< Web サ イ ト : 2014 年 2 月 26 日 時 点 参 照 >
・ シ ン ガ ポ ー ル 国 立 大 学 ( N a ti o n a l U n i ve r s i t y o f S i n g ap o r e) の 公 式 W e b サ イ ト
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・ ソ ウ ル 大 学 ( Se o u l N a t i o n a l U n i v er s i ty ) の 公 式 W e b サ イ ト
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・ 南 洋 理 工 大 学 ( N a ny a n g T e c hn o l o g ic a l U n i v e r s i ty ) の 公 式 W e b サ イ ト
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・ 北 海 道 大 学 の 公 式 Web サ イ ト
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・ 一 橋 大 学 の 公 式 W eb サ イ ト
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・ 上 智 大 学 の 公 式 W eb サ イ ト
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・ 九 州 大 学 ・ グ リ ー ン ア ジ ア 国 際 戦 略 プ ロ グ ラ ム の 公 式 Web サ イ ト
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<日本語文献>
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ウ ェ ブ マ ガ ジ ン 『 留 学 交 流 』 20 1 4 年 5 月 号 V o l . 3 8
・ 横 田 雅 弘 ( 2 0 13 )「 留 学 生 獲 得 の た め の 入 試 広 報 戦 略 - オ ー ル ジ ャ パ ン と 個 々 の
大 学 の 戦 略 - 」 ウ ェ ブ マ ガ ジ ン 『 留 学 交 流 』 2 0 1 3 年 1 2 月 号 Vo l . 3 3
・ 戦 略 的 な 留 学 生 交 流 の 推 進 に 関 す る 検 討 会 ( 2 0 13 )「 世 界 の 成 長 を 取 り 込 む た め
の 外 国 人 留 学 生 の 受 入 れ 戦 略 ( 中 間 ま と め )』 平 成 2 5 年 8 月 2 2 日
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