2014 年度 情報論理学 第 10 回講義 2014 年 7 月 1 日 (火) 青戸等人 (東北大学 電気通信研究所) 目次 - 述語論理式の同値式と 同値変形 - 述語論理式の省略記法 - 述語論理の自然演繹体系 (1): ∀ の推論 重要な同値式 (1) 命題論理の場合と 同様, 以下の同値式が成立す る . A∧A∼ = A, A ∨ A ∼ =A A∧B ∼ = B ∧ A, A ∨ B ∼ =B∨A (A ∧ B) ∧ C ∼ = A ∧ (B ∧ C), (A ∨ B) ∨ C ∼ = A ∨ (B ∨ C) 分配律 A ∧ (B ∨ C) ∼ = (A ∧ B) ∨ (A ∧ C), A ∨ (B ∧ C) ∼ = (A ∨ B) ∧ (A ∨ C) 吸収律 A ∧ (A ∨ B) ∼ = A, A ∨ (A ∧ B) ∼ =A ド ・ モ ルガン の法則 ¬(A ∧ B) ∼ = (¬A) ∨ (¬B) ¬(A ∨ B) ∼ = (¬A) ∧ (¬B) 巾等律 交換律 結合律 1 二重否定の法則 ¬(¬A) ∼ =A 対偶 A→B∼ = (¬B) → (¬A) 含意の法則 A→B∼ = (¬A) ∨ B ⊥ 規則/⊤ 規則 A ∧ (¬A) ∼ = ⊥, A ∨ (¬A) ∼ =⊤ ¬⊤ ∼ = ⊥, ¬⊥ ∼ =⊤ A∧⊥∼ = ⊥, A ∧ ⊤ ∼ =A A∨⊥∼ =⊤ = A, A ∨ ⊤ ∼ A→⊥∼ = ¬A, ⊤ → A ∼ =A 2 重要な同値式 (2) 束縛の交換 ∀x ∀y A ∼ = ∀y ∀x A 束縛の分配 ∀x (A ∧ B) ∼ = ∀x A ∧ ∀x B ド ・ モ ルガン の法則 ¬∀x A ∼ = ∃x ¬A ∃x ∃y A ∼ = ∃y ∃x A ∃x (A ∨ B) ∼ = ∃x A ∨ ∃x B ¬∃x A ∼ = ∀x ¬A 3 束縛変数の名前替え (A′ は A から 束縛変数の名前替え で得ら れる と す る ) A∼ = A′ 束縛の導入・ 消去 (x ∈ / FV(C) と す る ) ∃x C ∼ ∀x C ∼ =C =C 束縛の移動 (x ∈ / FV(C) と す る ) ∀x (A ∨ C) ∼ ∃x (A ∧ C) ∼ = ∀x A ∨ C = ∃x A ∧ C 4 定理 1. 任意の変数 x, y , 述語論理式 A, B, C について , 1 ∼ 4 ページ の同値式が成立す る . (証明) ∀x ∀y A ∼ = ∀y ∀x A A を シ グ ニチャ L 上の述語論理式と す る . 任意の L-構造 M と , L-構造 M への任意の付値 v について , [[∀x ∀y A]]v = [[∀y ∀x A]]v と なる こ と を 示せばよ い. x = y の場合. ∀x ∀x A ∼ = ∀x ∀x A と なり , こ れは ∼ = の反射 性よ り 成立す る . x = y の場合. M を L-構造, v を M への付値と す る . こ のと き , 解釈の定義よ り , [[∀x ∀y A]]v = T ⇔ 任意の a ∈ |M| について , [[∀y A]]v[a/x] = T 5 ⇔ 任意の a, b ∈ |M| について , [[A]]v[a/x][b/y] = T. ま た, [[∀y ∀x A]]v = T ⇔ 任意の b ∈ |M| について , [[∀x A]]v[b/y] = T ⇔ 任意の a, b ∈ |M| について , [[A]]v[b/y][a/x] = T. こ のと き , x = y よ り , v[a/x][b/y] = v[b/y][a/x]. よ っ て, [[∀x ∀y A]]v = T ⇔ 任意の a, b ∈ |M| について , [[A]]v[a/x][b/y] = T ⇔ 任意の a, b ∈ |M| について , [[A]]v[b/y][a/x] = T ⇔ [[∀y ∀x A]]v = T. ∀x (A ∧ B) ∼ = ∀x A ∧ ∀x B A を シ グ ニ チャ L 上の述語論理式と す る . こ のと き , 任意6 の L-構造 M と , L-構造 M への任意の付値 v に つ い て , [[∀x (A ∧ B)]]v = [[∀x A ∧ ∀x B]]v と なる こ と を 示せばよ い. こ れには, M を L-構造, v を M への付値と し たと き , [[∀x (A ∧ B)]]v = T ⇔ [[∀x A ∧ ∀x B]]v = T を 示せばよ い. (⇒) [[∀x (A ∧ B)]]v = T と 仮定す る . こ のと き , 解釈の定義よ り , 任意の a ∈ |M| について , [[A∧ B]]v[a/x] = T. 従っ て , a ∈ |M| と し たと き , [[A ∧ B]]v[a/x] = T. こ のと き , 解釈の定義よ り , [[A]]v[a/x] = T かつ [[B]]v[a/x] = T. よっ て , a ∈ |M| の取り 方は任意だっ たから , [[∀x A]]v[a/x] = T が成立す る . 同様に, [[∀x B]]v[a/x] = T も 成立す る . 7 よ っ て , [[∀x A ∧ ∀x B]]v = T が成立す る . (⇐) [[∀x A ∧ ∀x B]]v = T と 仮定す る . こ のと き , 解釈の定義よ り , [[∀x A]]v = T およ び同様に, [[∀x B]]v = T. よ っ て , 解釈の定義よ り , 任意の a ∈ |M| に つ い て , [[A]]v[a/x] = T が成立す る . 同様に, 任意の b ∈ |M| について , [[B]]v[b/x] = T が成立す る. よ っ て , 任意の c ∈ |M| を と る と き , [[A]]v[c/x] = T も [[B]]v[c/x] = T も 成立す る . よ っ て , 任意の c ∈ |M| に つ いて , [[A ∧ B]]v[c/x] = T. す なわち , [[∀x (A ∧ B)]]v = T. (そ の他について は省略. ) 8 述語論理式の同値変形 命題論理式の場合と 同様, 以下の定理が成立す る . 定理 2. 論理的同値性は述語論理式上の合同関係で あ る . つま り , A ∼ = Qx B (Q ∈ = ¬B , Qx A ∼ = B なら ば, ¬A ∼ {∀, ∃}) が成立し , A ∼ = B かつ C ∼ = D なら ば, A◦C ∼ = B ◦D (◦ ∈ {∧, ∨, →}) が成立す る . 従っ て , 命題論理式の場合と 同様にし て , 同値変形を 行 う こ と が可能. ¬∃x ∀y ¬(x ≈ y) ∼ = ∀x ¬∀y ¬(x ≈ y) (ド ・ モ ルガン ) ∼ = ∀x ∃y ¬¬(x ≈ y) (二重否定) ∼ = ∀x ∃y (x ≈ y) 9 例. ∃x (P(x) → Q(x)) ∼ = ∃x (¬P(x) ∨ Q(x)) ∼ = ∃x ¬P(x) ∨ ∃x Q(x) ∼ = ¬∀x P(x) ∨ ∃x Q(x)) ∼ = ∀x P(x) → ∃x Q(x) ∀x (P(x) → Q) ∼ = ∼ = ∼ = ∼ = ∀x (¬P(x) ∨ Q) ∀x ¬P(x) ∨ Q ¬∃x P(x) ∨ Q ∃x P(x) → Q (含意) (存在と 論理和の交換) (ド ・ モ ルガン の法則) (ド ・ モ ルガン の法則) (含意) (束縛の移動) (ド ・ モ ルガン の法則) (含意) 演習 3. 以下の同値式を 示せ. (1) ∀x (P ∧ Q(x)) ∼ = P ∧ ∀x Q(x) (2) ∀x (P → Q(x)) ∼ = P → ∀x Q(x) (3) ∃x P(x) ∧ ∃x Q(x) ∼ = ∃x ∃y (P(x) ∧ Q(y)) 10 (1) 解答例 ∀x (P ∧ Q(x)) ∼ = ∀x P ∧ ∀x Q(x) (束縛の分配) ∼ (束縛の導入・ 消去) = P ∧ ∀x Q(x) (2) 解答例 ∀x (P → Q(x)) ∼ = ∀x (¬P ∨ Q(x)) (ド ・ モ ルガン の法則) ∼ = ∀x (Q(x) ∨ ¬P) (交換律) ∼ (束縛の移動) = ∀x Q(x) ∨ ¬P ∼ (交換律) = ¬P ∨ ∀x Q(x) ∼ (ド ・ モ ルガン の法則) = P → ∀x Q(x) (3) 解答例 ∃x P(x) ∧ ∃x Q(x) ∼ = ∃x (P(x) ∧ ∃x Q(x)) (束縛の移動) ∼ = ∃x (P(x) ∧ ∃y Q(y)) (束縛変数の名前替え ) ∼ = ∃x ∃y (P(x) ∧ Q(y)) (束縛の移動) 11 目次 - 述語論理式の同値式と 同値変形 - 述語論理式の省略記法 - 述語論理の自然演繹体系 (1): ∀ の推論 11 述語論理式の省略記法 (1) 並んだ同じ 量化記号の省略 ∀x1 · · · ∀xn A ∃x1 · · · ∃xn A を , そ れぞれ, ∀x1, . . . , xn A ∃x1, . . . , xn A と 省略す る こ と がある . 12 (2) 制約付き の量化子 (1) ∀x ∈ u A ∀x ≤ n A ∀x > 0 A は, そ れぞれ, ∀x (x ∈ u → A) ∀x (x ≤ n → A) ∀x (x > 0 → A) の省略. (x ∈ u, x ≤ n, x > 0 のと こ ろ は, 他にも いろ いろ あり 得る . ) 13 (3) 制約付き の量化子 (2) ∃x ∈ u A ∃x ≤ n A ∃x > 0 A は, そ れぞれ ∃x (x ∈ u ∧ A) ∃x (x ≤ n ∧ A) ∃x (x > 0 ∧ A) の省略. 制約付き の量化子は, ∀ と ∃ で制約の解釈が異なる こ と に 注意. 14 制約付き の全称・ 存在について も , ド ・ モ ルガン の法則 が成立す る ¬∀x ∈ u A = ¬∀x (x ∈ u → A) ∼ = ∃x ¬(x ∈ u → A) ∼ = ∃x ¬(¬(x ∈ u) ∨ A) ∼ = ∃x (¬(¬(x ∈ u)) ∧ ¬A) ∼ = ∃x (x ∈ u ∧ ¬A) = ∃x ∈ u ¬A 演習 4. 同様にし て , ¬∃x ∈ u A ∼ = ∀x ∈ u ¬A と なる こ と を 確かめよ . ただし , いつも 制約 “∈ u” 等を 追加し て 恒真性が保たれる と いう こ と で はない. 例え ば, ∀x P(x) → ∃x P(x) は恒真だが, ∀x ∈ u P(x) → ∃x ∈ u P(x) は恒真でない. 15 目次 - 述語論理式の同値変形 - 述語論理式の省略記法 - 述語論理の自然演繹体系 (1): ∀ の推論 15 自然演繹体系 (1): ∀ の推論 述語論理の自然演繹体系は, 命題論理の自然演繹体系に ∀, ∃ のそ れぞれについて の導入規則, 除去規則, 等号に関す る 推論規則を 追加す る こ と によ っ て 得ら れる . (11) ∀ の導入 (12) ∀ の除去 .. A ∀I ∀x A .. ∀x A ∀E [x := t](A) ただし , x が自由に出現す る 仮定は, 全て 除去さ れて いる と す る . こ こ で, t は任意の項を 表す. 16 ∀ の除去規則の適用例と 注意 ∀ の除去規則の適用例. (1) .. ∀x (x ≈ x) 0 ≈ 0 ∀E (2) .. ∀x (0 ≈ x × 0) 0 ≈ s(0) × 0 ∀E ∀ の除去規則は, ∀x A が成立し て いれば, A の x のと こ ろ に何を 代入し て も 成立す る , と いう 推論. こ れは, ∀x A の 意味を 考え る と , 自然な推論. 17 ∀ の除去規則の適用す る 際の注意. 推論規則の結論部 [x := t](A) では, 代入を 実行し て い る . こ のため, 代入に関す る 注意事項を 思い出す こ と . 演習 5. 以下の ∀E の適用例が正し いかど う か述べよ . .. ∀x∀y P(x, y) ∀y P(0, y) ∀E P(0, 0) ∀E .. ∀x∀y P(x, y) ∀y P(x, y) ∀E P(x, y) ∀E .. ∀x∀y P(x, y) ∀y P(z, y) ∀E P(z, z) ∀E .. ∀x∀y P(x, y) ∀y P(x, y) ∀E P(x, x) ∀E .. ∀x∀y P(x, y) ∀y P(y, y) ∀E P(y, y) ∀E .. ∀x∀y P(x, y) ∀z P(y, z) ∀E P(y, y) ∀E 18 ∀ の導入規則の適用例と 注意 ∀ の導入規則の適用例. .. x×1≈x ∀x (x × 1 ≈ x) ∀I ただし , こ のよ う な推論が成立する のは, x に関する 仮定が 何も さ れて いない時のみ. 推論規則の条件 「 x が自由に 出現す る 仮定は, 全て 除去さ れて いる と する 」 はこ れを 保証す る . 19 ∀ の導入規則の正し く ない適用例. [x ≈ 0] .. x×1≈0 ∀x (x × 1 ≈ 0) ∀I こ の場合, 除去さ れて いない仮定 [x ≈ 0] のなかに, 変数 x の自由な出現がある ので ダメ . も し こ のよ う なこ と を 許し たと す る と , ∀E 規則と 合わせて , [x ≈ 0] .. x×1≈0 ∀x (x × 1 ≈ 0) ∀I 1 × 1 ≈ 0 ∀E のよ う な証明が出来て し ま う ため, 明ら かにおかし い. 20 演習 6. 以下の ∀I の適用例が正し いかど う か述べよ . [∀y (P(x) ∧ Q(y))] P(x) ∧ Q(z) ∀E ∀x (P(x) ∧ Q(z)) ∀I [∀y (P(x) ∧ Q(y))] P(x) ∧ Q(z) ∀E ∀z (P(x) ∧ Q(z)) ∀I [∀y (P(x) ∧ Q(y))] P(x) ∧ Q(z) ∀E ∀y (P(x) ∧ Q(z)) ∀I [∀y (P(x) ∧ Q(y))] P(x) ∧ Q(x) ∀E ∀x (P(x) ∧ Q(x)) ∀I [∀y (P(y) ∧ Q(y))] P(x) ∧ Q(x) ∀E ∀x (P(x) ∧ Q(x)) ∀I [∀y (P(y) ∧ Q(y))] P(y) ∧ Q(y) ∀E ∀y (P(y) ∧ Q(y)) ∀I 21 ∀I, ∀E を 用いた証明図の例. [∀x∀y P(x, y)]1 ∀y P(x, y) ∀E P(x, y) ∀E ∀x P(x, y) ∀I ∀y∀x P(x, y) ∀I 1 →I ∀x∀y P(x, y) → ∀y∀x P(x, y) [∀x P(x)]1 P(y) ∀E ∀y P(y) ∀I 1 →I ∀x P(x) → ∀y P(y) 22 演習 7. 以下の証明図は正し いか? 正し く ないなら , ど こ が誤っ て いる 推論ス テッ プが指摘せよ . [∀x P(x, x)]1 P(y, z) ∀E ∀z P(y, z) ∀I ∀y∀z P(y, z) ∀I 1 →I ∀x P(x, x) → ∀y∀z P(y, z) 演習 8. ∀y P(y) ∧ ∀z Q(z) → ∀x (P(x) ∧ Q(x)) の省略さ れて いる 括弧を 補え . ま た, そ の証明図を 書け. 23 (((∀y P(y)) ∧ (∀z Q(z))) → (∀x (P(x) ∧ Q(x)))) [∀y P(y) ∧ ∀z Q(z)]1 [∀y P(y) ∧ ∀z Q(z)]1 ∧E ∧E ∀y P(y) ∀z Q(z) P(x) ∀E Q(x) ∀E ∧I P(x) ∧ Q(x) ∀x (P(x) ∧ Q(x)) ∀I 1 →I ∀y P(y) ∧ ∀z Q(z) → ∀x (P(x) ∧ Q(x)) 24 まとめ • 述語論理式の同値式と 同値変形 重要な同値式 同値変形 • 述語論理式の省略記法 並んだ量化記号の省略 制約付き の量化子 • 述語論理の自然演繹体系 (1) ∀ の導入規則と 除去規則 ∀ の導入規則におけ る 変数条件 25
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