講義スライド12

産業組織論 I
第 12 講: 寡占市場の理論 その 2
∼シュタッケルベルク競争∼
三浦慎太郎
2014 年 7 月 21 日・22 日
神奈川大学
1
概要
⃝ 寡占市場における時間差のある駆け引き.
➢ シュタッケルベルク競争.
➜ 時間差のある数量競争
➜ コミットメント
2
シュタッケルベルク競争
3
シュタッケルベルク競争
⃝ Q.「数量競争における先出しは有利?それとも不利?」
➢ A.「
自身の行動を固定し,相手から譲歩を引き出す.
」
⃝
: レモンの作付競争.
➢ レモンの国内生産量は広島県と愛媛県がワン・ツーである.
➢ 広島はレモン市場における “巨人”であり,愛媛に先駆けて生
産量 qH を決定する.
➢ 愛媛は広島の動向を観察した上で生産量 qE を決定する.
➢ 単純化のため以下のことを仮定する:
➜ 両県の生産技術は同一で,費用関数 C(qi) = 10qi で定義.
➜ 消費者は両県のレモンを
だと見なしている.
➢ 市場需要は需要関数 D(p) = 70 − p で与えられている.
➜ 総生産量:
.
➜ 総生産量がが市場需要と一致する水準で価格は決定する.
4
⃝ 逐次手番ゲームとして定式化 ➪ ゲームの木で描写
➢ ゲームの木を書くのに必要なゲームの “流れ”を明らかに!
⃝ ゲームの流れ:
1. 広島が 0∼60 の任意の値を生産量 qH として選択する.
2. 愛媛は
0∼60 の任意の値を生産量 qE として選
択する.
3. 総生産量 Q = qH + qE が需要量と一致する点で価格の決定
➢ 需要関数 D(p) = 70 − p ➪ 逆需要関数 P (Q) = 70 − Q.
➢ 各県の利潤は両県の生産量に依存する:
πH (qH , qE ) = P (Q)qH − C(qH )
= (70 − qH − qE )qH − 10qH
=
.
πE (qH , qE ) =
.
(1)
(2)
5
⃝ ゲームの木は上図のようになる.
6
広島
qH
愛媛
qE
H (qH ; qE )
E (qH ; qE )
⃝ 広島は qH に関する数えきれないほど多くの選択を持つ.その
一つ一つに愛媛の異なる意思決定ノードが続いている.
➪ 便宜的にその中の一つだけを取り出して書き出す.
7
広島
qH
qH
= 20
= 40
愛媛
愛媛
qE
= 20
H (20; 20)
E (20; 20)
qE
= 40
H (20; 40)
E (20; 40)
qE
= 20
H (40; 20)
E (40; 20)
qE
= 40
H (40; 40)
E (40; 40)
⃝ 本質的には上のゲームの木と同じ.
例. 生産量の選択肢が両県とも 20 か 40 だけのケース.
➢ 部分ゲーム完全均衡を求めるには後向き帰納法!
➢ “qH = 20”と “qH = 40”での愛媛の最適反応を求める.
➢ ゲームを縮約して広島の最適反応を求める.
8
⃝ シュタッケルベルク競争の部分ゲーム完全均衡は?
➢
➜
を前提条件として
の最適生産量を求める.
➜
を決める.
⃝ Step 1: 広島の生産量 qH を所与に愛媛の最適生産量を求める.
➢
πE (qH , qE ) = −qE 2 + 60qE − qH qE .
➢ 一階条件より最適な生産量 qE (qH ) は以下を満たす:
∂πE (qH , qE )
=
∂qE
.
(3)
➢ (3) を変形すると,愛媛の最適反応 qE (qH ) は,
(4)
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⃝ (4) は愛媛の手番から始まる部分ゲームに
おける愛媛の最適な生産量を表す.
広島
qH
愛媛
qE
H (qH ; qE )
E (qH ; qE )
➢ 適当な qH の値を代入すると,その qH の
下で愛媛の選択するべき生産量を与えてく
れる “公式”と言える.
➢
⃝ ここまではクールノー競争と同じ.
➢ 違いはここから.
➢ 広島の立場からすれば,愛媛は
と予測できる.
➜
10
広島
qH
H (qH ; qE (qH ))
E (qH ; qE (qH ))
⃝ Step 2: 最適反応 qE (qH ) を所与に広島の最適生産量の導出.
➢ Step 1 の結果を基にゲームを縮約する.(上図)
➢
➜ 広島の利潤関数 πH (qH , qE ) における qE の要素は,広島の
生産量 qH の関数と見なすことが出来る!
➜ この点を踏まえた上で広島は最適な生産量 qH を選択する.
➜ (1) の qE へ qE (qH ) を代入した,πH (qH , qE (qH )) が実際
に広島の直面している利潤関数である.
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⃝ 縮約ゲームにおける広島の利潤関数:
πH (qH , qE (qH )) = −qH 2 + 60qH − qH qE (qH )
=
1 2
2
= −qH + 60qH − 30qH + qH
2
=
. (5)
∗ は以下を満たす:
⃝ 一階条件より,広島の最適生産量 qH
∂πH (qH , qE (qH ))
=
∂qH
➢ したがって広島の最適な生産量は
(6)
.
12
∗ = 30 を (4) へ代入:
⃝ 広島の最適生産量 qH
.
(7)
➢ これが部分ゲーム完全均衡における愛媛の生産量である.
⃝ 部分ゲーム完全均衡ではどのような帰結が実現しているか?
∗ =
∗ =
➢ 各県の生産量: 広島 … qH
, 愛媛 … qE
.
∗ + q∗ =
➢ 総生産量: Q∗ = qH
.
E
➢ 均衡価格: P (Q∗) =
.
➢ 各県の均衡利潤:
∗ =
✽ 広島 … πH
.
∗ =
✽ 愛媛 … πE
.
➪
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⃝ クールノー競争 (同時手番ゲーム) との比較:
➢ 各県の均衡利潤: π C = 400. (11 講のスライドを参照)
➢
利潤 <
利潤 <
利潤.
➢ 先に動く広島 (
) は,クールノー競争時よりも高い利
潤を得て,追随する愛媛は (
) クールノー競争時よりも
低い利潤を得ることとなる.
➜ “
”と呼称.
⃝ 直観的解釈:
➢ ク: 互いに相手の戦略を知る前に自身の選択を行う.
➜
➢ シ: フォロワーはリーダーの行動を知った上で自身の選択を.
➜
➜ 「相手が全く譲らないのならば,もうしゃーない」
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⃝ 自分の選択の余地を排除し,特定の選択肢へ「縛り付ける」こ
とを
と呼称する.
⃝ 選択肢を排除することにどのようなメリットがあるのか?
➢
➢ 言い換えれば,自分の行動が絶対に変わらないことを
,結果的にその行動に対応せざるを得ない状況に相手
を追い込むことが出来る!
⃝
が議論の大前提.
➢ いわゆる「口だけ (空脅し)」では意味がない!
➢ ポイントは「いかにしてコミットメントに信憑性を与えるか?」
方法 1 大々的にアナウンスし,以外の行動を取れなくする.
➜ 背水の陣.
方法 2: 第三者によって保証を与えてもらう.
➜ 契約.
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シュタッケルベルク競争
⃝ リーダーのアドバンテージは,コミットメントに由来する.
➢ リーダーの手番は最初の 1 回だけ.
➢ 言い換えれば,最初の手番における決定は
として見なすことが出来る.
➢ リーダーの行動を観察したフォロワーにとって,リーダーの
行動は信憑性のあるコミットメントとして認識される!
➢ フォロワーはリーダーの行動に対応せざるを得なくなり,意
思決定に影響が出てしまう.
➢ フォロワーの後に更にリーダーが行動を変えられるならば…?
➜
➜ リーダーのアドバンテージなし!
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まとめ
⃝
では,フォロワーはリーダーの生産量を
観察した上で自身の生産量を決定する.
➢ リーダーは自身の生産量を通じてフォロワーの生産量へ影響
を及ぼすことが出来る.
➢ 即ち,特定の生産量へ
することで,フォロワー
にその生産量へ対応せざるを得ない状況を作り出す.
➢ そのため
が発生する.
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