数学講習 2014

数学講習 2014
SHINOBU YOKOYAMA
概要. 本日は講習と いう 名目だが , 時間の制限に よ り 講義形式を と る こ と に な る だ
ろ う と 思う . そ れでも 人数は少な いので質問は自由に , そ し て 積極的に し て ほし い .
ノ ート はでき る 限り と ら な いですむよ う 心がけ る . も ち ろ んそれも 自由にし て く れれ
ばいい . 計算ミ ス な ど 気づく 点があれば指摘し て く れる と あ り がたい .
こ の文の内容は, 別冊の配布テ キ ス ト (高 IA 新課程:青, 複素平面:白) で不十分と
思われた 箇所に ついて 補足およ び証明を 与え る こ と を 目的に 書かれて ある .
講習を 通し , 新課程を 高校等で履修し て いな い人に ある 程度習得し て 帰っ て も ら う
と いう 主旨で進むが , も ち ろ ん , 高校生に 教え る こ と を 想定し た と き , 各自演習が必
要な こ と は自身で判断し て 欲し い .
前半は初等数論がメ イ ン で進む . 新課程では概し て 整数の性質に関する 内容に限定
し て おり , そ の中の合同式は除法に おけ る 余り で分類さ れた数の間の等式を 扱う . 初
等数論と いう 名称は一般的な も のだが , 簡単と いう 意味では決し て な い .
続いて 新課程で追加さ れたユーク リ ッ ド 幾何の多面体定理は , 一般化する と たち ま
ち 高度な 数学を 要求する も のに 変わる . 具体例に のみ絞っ て 二つ , 三つ程の事例に 親
し んでおく こ と が肝要と 思われる .
統計では , ベク ト ルの内積に よ る 定義が自然であ る に も 関わら ず , 一年生はベク ト
ルを 履修し な い . 従っ て 分散や相関の定義式な ど は難解な 見た目を し て おり , 初見の
高校生は (大学生でも ...?) 脱落し たく な る かも 知れな い . そ れを 避け る ために , 一つ
一つ , 二乗し て , 足し て , 平方根を と っ て ... と 一緒に 計算し て 見せて あ げる と いいだ
ろう .
複素平面は複素数の実部と 虚部を x 軸, y 軸に そ れぞれ対応さ せたも のだが , 複素
数の計算規則 (複素構造) に よ っ て , 点と 点を 足し た り 掛け 合わせる こ と が , 平行移
動・ 回転・ 拡大と いう , いわゆる 線形変換の性質を 持っ て し ま う かな り 異質な 空間で
あ る . (変換と いう 意味で ) こ の平面に おいて 点は関数であ り , 関数は点であ る , と み
な せる . そのこ と を 正当化する かのよ う に , 任意の複素数は大き さ と 角度によ る 表現,
極形式を 持つ .
前置き が長く な っ た が , 専門でな い人に も 興味を 持っ て 取り 組ん で頂け る こ と が ,
何よ り 教わる 学生の感ずる と こ ろ がある だろ う と 思う .
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1. 用語
e.g.:=exempli gratia:
例え ば . 例を 挙げる と き に つかう .
i.e.:=id est:
すな わち . つま る と こ ろ .
cf.:=confer:
参照, 比較せよ .
Z:
整数のこ と . x ∈ Z は, 整数 x と 読む .
d:=divider:
記号で断り な く d と 言え ば約数を 表す .
q:=quotient:
記号で断り な く q と 言え ば商を 表す (e.g. 31 = 4q + 3).
r:=residue:
記号で断り な く r と 言え ば余り を 表す (e.g. 31 = 4 · 7 + r).
lcm:=least common multiple:
最小公倍数 (e.g. lcm(2, 3) = 6).
gcd:=greatest common divider:
最大公約数 (e.g. gcd(32, 24) = 8).
a|b:
整数 a が整数 b を 割り 切る .
Bl:
配布テキ ス ト : 数学 IA 新課程 PLUS(表紙が青いため )
Wh:
配布テキ ス ト : 複素数平面 (表紙が白いため )
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2. 初等数論
定理 1. (約数の個数の公式) 自然数 x が , 素因数分解
x = pr11 · pr22 · · · prmm
(rj ∈ Z, pj は素数; j = 1, 2, . . . , m)
を 持つと き , x の約数の個数は次で与え ら れる .
(p1 + 1)(p2 + 1) · · · (pm + 1)
約数が , 各素因数 pj を qj (0 ≤ qj ≤ rj ) 回ずつと っ て 掛け 合わせた も のと し て 一
意的に 構成でき る こ と が分かればすぐ に 証明でき る .
p1 の次数
0
1
r1
p2 の次数
0
1
···
r2
···
···
···
pm の次数
0
1
···
rm
定理 2. (約数の和の公式) 自然数 x が , 定理 1 と 同じ 素因数分解を 持つな ら , x の約
数の和は次で与え ら れる .
pr11 +1 − 1 pr22 +1 − 1
prm +1 − 1
·
··· m
p1 − 1
p2 − 1
pm − 1
Warning!! 証明が技巧的な ので飛ばし て く ださ い (他に 思いつかな かっ たのでいいア イ デア があれば教え て 欲
各 pi のど れを 選ぶかは約数の作り 方に 関係し な い (すな わち 約数の作り 方は各素
因数の個数のみに 関係する . 例え ば 12 = 22 · 3 の場合, 2 を 0, 1, 2 個選ぶ 3 パタ ーン
と 3 を 0, 1 個選ぶ 2 パタ ーン の組み合わせでのみ決ま る が , 2 が 2 回掛かっ て る から
と いっ て 1 個選ぶ場合, 20 , 21 等と 区別し たり し な い ). そ こ で j 番目の素因数 pj を ij
個選んで約数を 作る , と いう 言い方を すれば (0 ≤ ij ≤ rj , 1 ≤ j ≤ m), 約数の和 σ は
X
σ=
pi11 pi22 · · · pimm
0≤i ≤r
j
j
L=( 1≤j≤m
)
と 書け る . こ こ で
i
i
j+1
j−1
· · · pimm
pj+1
qij = pi11 pi22 · · · pj−1
即ち 上の式の右辺に おいて 第 j 番目の素因数を 除いたも のを qij と すれば ,
σ=
X
i
pjj qij
L
と 書け る . L から j に 関する 条件のみを 除いた集合を L\Lj と 表し ,
σ=
X
i
pjj qij
L\Lj
)
(0≤i
j ≤rj
は明ら かに pj に 関する 等比数列の和に 等し い (ij が 0 から rj ま で動く と き qij は
動かな いので , 初項を p0j · qij = qij , 公比を pj と 考え る こ と ができ る ).
こ のこ と から 結局,
σ=
r +1
pj j − 1 X
qij
pj − 1
L\Lj
を 得る ので , こ の操作を m 回繰り 返せば L は空に な り , 公式が得ら れる
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定理 3. (剰余定理) 整数 x,y に 対し
y = xq + r
(|x| > |r|)
を 満たす整数 q, r が一意的に 存在する (x を 除数, q を 商, r を 剰余と いう ).
命題 1. 整数 x, y (y > x) に 対し , y を x で割っ たと き の余り を r と する . こ のと き x
と y の最大公約数は, x と r の最大公約数に 等し い .
y = xq + r と 表し たと き に gcd(x, y) = d, gcd(x, r) = f と おく と
d|r, f |y
であっ て d は (x,r) の約数と みな せる . f はそ のよ う な も のの最大の数であ る から
d ≤ f . 同様に f を (x,y) の約数と みな すと き , d がそ のよ う な も のの最大の数であ る
から f ≤ d. 故に d = f
命題 2. (ユーク リ ッ ド の互除法) 与え ら れた 整数 x, y の最大公約数は有限回の代数
演算で求ま る .
有限回の代数演算と は有限回の加減乗除と 根号を と る 操作のこ と を 言う . 与え ら
れた整数 x, y (y¿x) に 対し 定理 3 を 繰り 返し 適用すれば ,
y
x
r
r1
rn−1
=
=
=
=
···
=
xq + r
rq1 + r1
r1 q2 + r2
r2 q3 + r3
rn qn−1
のよ う に でき る (除数を 余り で割る 操作を 繰り 返すと , 最終的に 余り が 0 と な る よ
う に でき る ). そ こ で命題 1 を 使っ て ,
=
=
···
=
gcd(y, x) = gcd(x, r)
gcd(x, r) = gcd(r, r1 )
gcd(r, r1 ) = gcd(r1 , r2 )
gcd(rn−2 , rn−1 ) = gcd(rn−1 , rn )
と な る . 結局た かだか n 回の代数演算で最大公約数 gcd(x, y) = rn が求ま る こ と
が分かる
例 1. (Bl:p.41 6) 3 で割る と 2 余り , 5 で割る と 4 余り , 8 で割る と 6 余る 自然数のう
ち 最小のも のを 求めよ .
求める 自然数を x で表すと ,
x ≡
x ≡
x ≡
2
4
6
mod 3
mod 5
mod 8
を 満た すから , x=3a+2=5b+4=8c+6 と な る 整数 a, b, c ∈ Z があ る . 3a+2=5b+4 か
ら 3a-5b=2 を 不定一次方程式と し て 解いて a=a(k), b=b(k) (k は整数) と な る よ う な
一般解があ る (一方のみ求めればいいです . a(k) のみ使いま す ). 3a+2=8c+6 から ,
3a(k)-8c=4 を 不定一次方程式と し て 解いて a(k)=a’(l) と な る よ う な 一般解がある の
で , 最後に x の等式に 代入し て
x = 3a′ (l) + 2 > 0
が最小と な る l を 代入すれば良い
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例 2. (Bl:p.41 7-(2)) a, b, c を 整数と し , a, b の最大公約数を d と おく . x, y が整数
の時, ax+by=c の整数解は, c が d の倍数である と き に 限っ て 存在する .
方程式 ax+by=c が整数解を 持つこ と が , d|c と な る 必要十分条件であ る こ と を 示
せば良い .
を 示せば良い .
十分は, 条件から a=a’d, b=b’d (a’ と b’ は互いに素) と な る 整数 a′ , b′ ∈ Z があり ,
d| 左辺 ⇒d|(右辺=c) で示せる . 必要は, ま ず
a′ z + b′ w = 1 · · · (Ed.1)
を 満たす整数の組 (z,w) が存在する (a’ と b’ は互いに素を 使う ; cf. Bl, p.38). (d|c
よ り )c=c’d と な る 整数 c’ がある ので ,
a ′ c ′ z + b′ c ′ w = c ′
を 満たす ((Ed.1) に c’ を 掛け ま し た ).
こ れら 整数の組に 対し , (c’z,c’w)=(x,y) が求める ax+by=c の解である
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3. 統計
中学の範囲 (標本調査) のに 関し て , 言葉の意味さ え 覚え れば大丈夫.
————————————————————————————————
階級:
変量の数値の区間, 範囲
階級値:
分類さ れたデータ の値. 0 10 のよ う な と き は 5 が値に な る .
度数:
(階級ごと の ) データ の個数
代表値:
平均値, 中央値, 最頻値な ど データ を 表す指標のこ と
平均値 (mean):
階級値× 度数の和を 度数の合計で割っ たも の
中央値 (median):
データ を 小さ い順に 並べたと き 中央に 位置する 値
最頻値 (mode):
データ 群で最も 頻繁に 出現する 値
相対度数:
(そ の階級の ) 度数を 度数の合計で割っ たも の
分布の範囲:
データ の最大値と 最小値の差
累積数:
そ れよ り も 階級値が小さ い値の和. 累積度数, 累積相対度数等.
————————————————————————————————
• 中央値は度数の合計が奇数のと き は中央の値でいいが、 偶数のと き は中央に
隣接する 2 つのデータ の平均値
• 最頻値 (=度数の最大値) も 相対度数 (=度数の割合) も 度数だけ見れば求ま る .
• 平均値に ついて , 階級が一つの数字で表さ れる と き はデータ の値の平均値と
一致する が、 階級の変量に 幅がある 場合 (2 6 等), 必ずし も 一致し な い . そ れ
でも 次の方法
R
X
ni vi
平均値 =
i=1
で計算でき る (ni は度数, vi は階級値, R は階級数; cf. p.11).
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4. 複素平面
例 3. 複素平面の点 z ∈ C を ω = −1 + i, O を 通る 直線に 関し て 対称移動さ せた点を
w と する .
こ のと き
w = −z
が成り 立つ .
こ れを 解く のに , 次の事実を 使う .
(1)
(2)
(3)
ω = −1 + i, O を 通る 直線は実軸を − π/4 傾け たも のと 一致
θ回転を 表す複素数を r(θ) と 書く と , r(θ)r(α) = r(θ + α), r(θ) = r(−θ)
軸を θ傾け た空間に おけ る 座標は, 傾け る 前の座標 z に 対し r(−θ)z
z に 対し 次の変換を 順に 施し て いけ ば , w に な る わけ である .
軸の回転 −→ 回転し た (実) 軸に 対する 対称変換 −→ 軸の回転戻し
複素平面で θ 分の回転は, 上の記号で言う と こ ろ の r(θ) を 乗じ る こ と に 等し いの
で , w を 求める 式は次のよ う に な る .
w
=
=
=
=
=
r(−π/4)r(π/4)z
r(−π/4)r(π/4)z
r(−π/4)r(−π/4)z
r(−π/2)z
−z