ヒマラヤ学誌 N o . 51 9 9 4 高所での就眠時動脈血酸素飽和度の周期性変動 出水明 幸会喜多病院 KUMREX'90に参加した隊員のうち 2 1名から、合計 8 1回のパルスオキシメーターによる就限時連続酸 2の周期性変動の発生について調べた。周期性 素飽和度測定をおこない、そのデータの分析から、 Sp0 変動は S p02<90%で発生がみられたが、個人差が大きく、変動のおこりにくい群と、起こりやすい群 がやや低い傾向はみられたが、登山のパ が存在することが示唆された。変動の起こりやすい群のめ02 フォーマンスに影響を及ぼしたとは考えられなかった。同一記録内での周期性変動部分と非周期性変 動部分の比較では、周期性部分で S p 変動幅がやや大きかったが、平均 S p0 2に有意J!はなく、酸素 02 摂取に関しては差はないものと考えられた。 1 はじめに 02 ( S p ) 連続データから得られた S p02 周期性変動 について報告する。 高所では睡眠時に周期性呼吸を生じることがよ く知られている。無呼吸を含むこの周期性呼吸は 2 対象と方法 動脈血酸素飽和度の周期性変動として反映される ことになる。京都大学ヒマラヤ医学学術計画、第 KUMREX'90に参加した隊員のうち 2 1名から、 3次シシャパンマ登山隊 (KUMREX' 90) 遠 合計8 1回の就眠時 S p02記録をおこなった。記録 征期間中に記録した就眠時の動脈血酸素飽和度 を行った地点とその高度と大気圧は表 1 の通りで ある。 記録はいずれも無酸素で行ったものである。記 記 録 数 地 図 上 高 度 (m)大気圧 (Toπ) 地点 4 北京 4 3 7 5 5 712 478 成都 7 4 9 8 ラサ 1 6 3 6 5 0 録にはパルスオキシメーター(ミノ帥 のF i n g e r針。 b eを用い、充電式外部N i ・ Cd電池で駆 動させ、内部記憶装置に蓄えられた 5 秒毎のデー タを翌朝RS232Cポートを通してノート型コンビ ューター (NECP C9801n) のフロッピィディスク (前半2日;LAIlO後半2日;LA26) シガツェ 1 1 ∞ 3 9 に保存し帰国後分析に用いた O 468 BC 1 8 5 0 2 0 410 (登頂前;BC112登 頂 後 ;BC26) 北京 ラサ 1 A BC 1 8 5640 382 (登頂前;油 C18 C4 建 設 後 ;ABC2 1 0 ) C1 C4 6 5850 7430 PULSOX7 ) 9 7 . 6: t0. 5 成都 7 3 . 2: t4. 3 ラサ 2 分析は、 5秒 毎 9 5 . 2: t1 . 1 l : : t5 . 1 82. シガツェ 8 2 . 7士4 . 2 2 .9: t5 . 1 BC2 8 BCl 7 2 . 6: t3 . 0 t4 . 9 A BC 2 7 ABC 1 6 6 . 5: t4 . 7 3 . 7: C1 6 4 . 3: : 1 : 8. 1 C4 5 8. 5 372 302 表 2 各地点で、の就眠時平鈎 S p 02 表1 記録地点と高度、大気圧 'EA aA 唱 qJ 高所での就眠時動脈血酸素飽和度の周期性変動(出水 明) St02 (た) 1日8 s~ø ε 日 7日 ら 目 E , 0 れ k 1 ¥ f l l 1 lj r ' J ~'U 1 三; 8 ( b p m ) ( 1 回目) (巴日) 、 ' ¥ JJ t t l I Un 、, 、P r / 1 ' . . . ヘ ー 、ーー j E 1 ' ¥ f , . . . . . 1 ハ I U ヘ / '1, r1 ' 1 M J ハ 門戸 , r ¥ 1 ¥ l ヘ、 , . / 1 u. V ー 、 , . 1 J、 /、 ー ー 、司伶 ¥ , J '、 ι ' , , , . . 日 図 1 Sp02とHRのトレンド(1 ) (目盛り l 幅=30 秒) 図 2 .Sp02とHRのトレンド(2) (目盛り幅 =30秒) のSp02データを連続的にプロットし、それを直 周期が40 秒未満の明ら 線で結んで波形を描き、 1 かな波形が3 波形以上連続する時に、その部分に 周期性変動があると判定した。 図1 は1目盛り 30 秒で表示した典型的な周期性変 動を示す Sp02 (上段)と脈拍数(下段)のトレ ンドである。図 2は同じく周期性変動部分から、 非周期性変動部分へ移行するところを示してい る 。 飽和度の分布を示す。各地点での子均 SpO(%) は 、 表2の通 りであった。 の周期性変動比率の分布 図4に各地点での Sp02 を示す。北京、成都ではほぼ0%であるが、ラサ 以上の高度では最大92% (BC1での記録 ID=SS) から最小1.0%(BC2での記録 ID=MK)まで変同 幅が大きい。 図5は平均酸素飽和度と周期性変動の比率との 関係を示したものである。周期性変動の占める部 分が 5%以上あるものを周期性変動が認められる 群とすると、平均 Sp02>88%では周期件変動は発 生していない。また周期性変動が発生していない 3 .結果 1 0 . 6: 1 :1 0 8 . 7分) 合計33259分間のデータ(平均 4 を分析した。図3に各地点での就眠時の平均酸素 旬Eム A佳 Ti ヒマラヤ学誌 No. 3 1992 1 0 0 95 e 9 0 8 。 8 65 0 。 。 。 。 。 70 e 。。 。 。 。 。 。 。 N o a ω 75 8 00800QG 80 e OQMUQ 貝U O oooau 85 8 。 60 55 8 4 託7 郎 占m﹂ 戸 印地ト PK LA1LA2 XG B C 1 BC2A B C 1ABC2C 1 C4 1 0 6 1 1 1 2 6 8 10 6 各地点での就眠時平均酸素飽和度(%) 100 O 90 凹 70 O O 60 O 20 O 、 8 J ζ ユ O O O 8 O O eO 旦 。 1 0 O e Q)a︾ O 8 O O O 000 O 30 O O O O 50 40 O O O o s a E e余日軍高制組問障理 wh) ︹ O O 80 O O O O O PK S E LA1LA2 XG B C 1 BC2ABC1ABC2C 1 C4 N= 4 7 1 0 6 1 1 1 2 6 8 1 0 6 地点、 図 4 各地点、での就眠時酸素飽和度記録における州規制変動部分の比率(%) 唱﹃ム 'EA ロd 明) 高所での就眠時動脈血酸素飽和度の周期性変動(出水 、‘., % fh J 川 べ0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 O U09988776655 , 、 n r c d .••• 。 O O O O O 00 O O O O O O O O O o o0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 図 5 酸素飽和度と周期性変動比率の関係 次にラサ以上の高度で 3間以仁データを得るこ 最 低 の 平 均 Sp02は 64.9% (BC 1で の 記 録 I D=EK) であり、逆に言うと平均 S p02<64%では との出来た 1 4 名 、 6 0データに対象を絞って分析を 必ず周期性変動が発生している。しかしながら、 おこなった 。記録時間の合計は 2 5 0 3 8分である。 Sp02と周期性変動比率の間にさほど明確な直線 図6は酸素飽和度と周期性変動部分の変動周期 的相関が認められないことから、周期性変動の発 (秒)の相関をみたものである。酸素飽和度が低 くなるほど変動周期が短くなることが示されてい 生に個人差が大きいことが予想される。 変動周期(秒) 26 24 23 22J 2 ι J2 1J 。 o~ O 0 (C)I"¥ g o 。 。 0υ 00 。♂ 20 19 O 18 17 。 。 。 O . 55 。 8 ' ' 〉 16 50 。 。 。 25 60 65 酸素飽和度(%) 70 SP02 o~ 。 O OO O 75 80 図 6 酸素飽和度と変動周期の関係 -116- O 。 85 90 ヒマラヤ学誌 N O . 3 1 9 9 2 ∞ る ( R = 0 . 3 6 3P < O . 5 )。変動周期の平均時間は 21 .2士2 . 2 秒であった。 表3は各データの周期性変動部分の各要素(1. 最低 Sp024. Sp02変動 平均 Sp022.最高 Sp023. 幅=最高と最低の Sp02の差)を非周期性変動部 分のそれらと比較したものである。 周期性変動部分では非周期性変動部分に比べて Sp02は、最高がより高く、最低がより低いため に変動幅が大きくなっているが、平均では有意差 はない。 図7、図8は周期性変動比率を個人別プロットし たものであるが、最大変動比率が50%を超えたか どうかで分けると 7人ずつの 2群に区別ができるこ とを示している。 図9は周期性変動比率の低い群 (LowP e r i o d i c Ch 如 g eGroup=LPC 群 7名 2 7データ)と高い群 H i g hP e r i 吋i cCh 如 g e=HPC群 7名 3 3データ)の 90 愚大変動比率<50% 80 7 0 60 巨 ~ 40 30 胤 Y5 。。 。 8 NM FK 図 7 周期性変動の低い群 100 。 8 。。 8 8 。 。 。 。 O 、 表 3 周期性変動部分と 非周期性変動部分の比較 100 。 。。 。。。 。 。 。 90 nvnunununununununu J au''coEJa--93'ι''HH * p<0.005 * * * p<0.∞ 1 * p< 0 . 0 5 * 8 。。 。 。。。 MT UH 55 DA 5T N5 TM 図 8 周期性変動の高い群 70 60 50 8 0 0 4以 。 。 8R ︽ u 1u n: 20 8 。 。o i 5 5 0 配位。。 -U凶仏 周期性変動部分 非周期性変動部分 7 4 . 2 : : ! : : 8 . 2 7 4 . 2 : : ! : : 8 . 0( % ) 平均Sp02 . 4 士 7 . 7 7 6 . 9 : : ! : : 7 . 6 7 7 最高 Sp02* . 3: : ! : : 8 . 8 7 2 . 2土8 . 2 71 最低Sp 02料 Sp02 変動幅*** 6 . 1 : : ! : : 2 . 8 4 . 7 : : ! : :1 .8 100 75.4% 40 30 20 10 o LPC HPC LPC HPC Sp02(%) P e r i o d i c i t y ( % ) 図 9 周期性変動比率群の S p02と周期性変動比率 噌EA i 可 ウ d 高所での就眠時動脈血酸素飽和度の周期性変動(出水 明) 平均 Sp02と周期性変動比率を比較したものであ n p a i r e dt T e s tで両群間の Sp02に有意差はな る 。 U LPC群 75. 4 : : 1 :7 . 5 HPC群 73. 0: 1 :8. 3%)、 いが ( 周期性変動比率は有意に差が認められる (LPC 群 1 4 . 8士11 .7 HPC群 44. 6 : ! : : 2 6. 5% P<O. OOI)。し かしながら両群間でそれぞれの周期性変動部分の (E余 FHCF) 込入、﹂ムG図脚へ]、U4入│敏之容詮﹂Fmwg堂超豪匝日恒例山骨出回世廉 周期の長さ ( LPC 群 21 .6 : ! : : 2. 3 HPC群 2 0 . 8 : ! : : 2 . 2秒)、最高 Sp02、最低 Sp02に有意差はなく、 それぞれの非周期性変動部分の Sp02にも有意差 はみられなかった。 4 .考察 高所では睡眠時に無呼吸を含む周期性の呼吸が e r s s e n b r u g g e みられることはよく知られている。 B らは低圧室で 455Torrに減圧した研究で、約 10 秒 の無呼吸を含む 21 .2土1.8秒の周期性呼吸を観察 し、低酸素下の N R E M睡眠時によくみられ、 R E M睡眠時や覚醒時にはほとんどみられないこと を報告している。今回も図 1 0に示すように 一部で 記録した鼻腔サーミスタによる呼吸パターンで は、同様の周期性呼吸が認められている。 山 平地ではヒトの換気応答は主として C02ドライ 付近に維持されている ブに支配されPC02=40Torr が、高所では低酸素による末梢化学受容体からの 換気刺激、すなわち 02ドライブの役割が大きく なる。このため高所では、肺胞換気量が増大して PC02が低下し、肺胞気の P02が維持される。 この低下した PC02でも覚醒時には無呼吸とな ることはないが、腰眠時、特に N R E M睡眠時に 無呼吸関債が上昇して無呼吸を は呼吸中枢の C02 生じることになる。無呼吸によって血液の P02は 低下し PC02は上昇し、それらの刺激によって再 o-図 sng u g 寓 凶"“.。 日 冨 -ann.。 -1 1 8 N"・ @ - 負荷時の呼吸応、 性呼吸を起こしやすい人は、 C02 H y p e r c a p n i cV e n t i l a t o r yResponse=HCVR)が高 答 ( 目 るN R E M睡眠時の周期性呼吸変動の起こりやす さの違いの 2つが考えられる。 Chapmanらは周期 " H e e 動比率は就眠時の Sp02と直線関係はみられなか 1 )それぞれの記録時に った。この理由として、 ( N R E M睡眠の占める割合の違い、 ( 2 )個人によ 。伺・.。 び呼吸が再開され、周期性の呼吸となると考えら れている。 今回のフィールドでの記録でも、 Sp02<90% 付近から周期性の変動がとらえられたが、その変 高所での就眠時動脈血酸素飽和度の周期性変動(出水 いと報告している。今回の記録では睡眠時脳波お 明) 5 結語 よび呼吸パターンの記録はごく一部をのぞいて行 1..パルスオキシメーターによる就眠時連続酸 っていないので睡眠ステージは不明である。また 素飽和度測定をおこない、そのデータの分析から、 HCVRについても調べていないので、周期性変動 の起こりやすきで分けた 2群について、その機序 Sp 02の周期性変動の発生について調べた。 に関してはわからない。 BCで登頂前と登頂後に 2 .周期性変動は Sp02<90%で発生がみられた が、個人差が大きく、変動のおこりにくい群と、 おこなった動脈血ガス分析を両群で比較してみた 起こりやすい群が存夜することが示唆された。変 群でやや高かったが ( 7. 5 1i : が、前の pHのみ HPC 動の起こりやすい群の Sp02がやや低い傾向はみ られたが、登山のパフォーマンスに影響を及ぼし 0. 02 VS 7 . 5 5i :0. 04 P < 0 . 0 5 )、PC02、P02、 BEには有意な差はみられなかった。 また両群聞で Sp 02に関して、 HPC群で各パラ メーターがやや低い傾向にはあったが、統計学的 たとは考えられなかった。 3 .同一記録内での周期性変動部分と非周期性変 変動幅が 動部分の比較では、周期性部分で Sp02 に有意差はなかった。実際の登山活動におけるパ やや大きかったが、平均 Sp02に有意差はなく、 群の登頂者が5 名 、 フォーマンスに関しでも、 HPC 酸素摂取に関しては差はないものと考えられた。 LPC群の登頂者は 3名であり、 HPC群のやや低い 参考文献 Sp02 が何らかの影響を及ぼしたとは考えにくい。 l回の記録の中での周期性変動部分と非周期性 変動部分との比較では、周期性部分での変動幅が 有意に大きかった。しかし平均 Sp02 には差はな く、周期性変動によって、酸素摂取能力が低下す るとは考えにくい。 W e s tB.e ta l .N o c t u m a lp e r i o d i cb r e a t h i n ga ta l t i t u d e so f 6 3 a n d8 0 5 伽 .J . App . l P h y s i o . l1 9 8 6( 6 1 )2 8 0 剖 7 B e r s s e n b r u g g eA.e ta . lH y p o x i ai n d u c e dp e r i o d i cb r e a t h i n g d u r i n gs l e e p.J . P h y s i o . l1 9 8 3( 3 4 3 )5 0 7・5 2 4 ChapmanK . R .e ta l .P o s s i b l em e c h a n i s m so fp e r i o d i c b r ω出i n gd u r i n gs l e e p.J . A p p . l P h y s i o. l1 9 8 8( 6 4 )1 0 - ∞ , ∞ 18 - 119- ∞
© Copyright 2024 ExpyDoc