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小学校教科内容論算数(第 5 回-第 6 回)
山田智宏 (Tomohiro Yamada)
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自然数の除法
除法は乗法の逆演算として定義される。すなわち a = b × q となる q を求めるこ
とである。交換法則から、これは a = q × b となる q を求めることでもある。
これには「等分除」と「包含除」の二種類の意味がある。等分除は与えられた数
a を同じ数ずつ、与えられた個数 b 個の集まりに等分したときにひとつの集まりが
何個からなるかを求めるものであり、包含除は与えられた数 a を与えられた個数 b
個ずつ、何個かの集まりに分割したときに何個の集まりができるかを求めるもので
ある。
したがって「ある量 a が b 個分あるときの全体の量」を ab とする観点からは等
分除は a = qb となる q を求めることであり包含除は a = bq となる q を求めること
であるといえる。
このとき、このような q を a を b で割った商といいこれにより a/b を定める。
問題は、a = bq となる整数 q が存在するとは限らないことである。しかしなが
ら、次のことが言える。
Theorem 1.1. 任意の自然数 a, b(b ̸= 0) に対し、a = bq + r, 0 ≤ r ≤ b − 1 となる
整数 q, r は一通りに定まる。
Proof. 0 = 0b + 0 である。n = bq + r のとき n+ (= n + 1) が bq ′ + r′ とあらわせる
ことを示す。0 ≤ r ≤ b − 2 のときは n+ = bq + (r + 1) となり r = b − 1 のときは
n+ = bq + (b − 1) + 1 = b(q + 1) + 0 となる。よって数学的帰納法より、定理は示さ
れた。
このとき q, r をそれぞれ a を b で割った商、余りといい、a/b = q · · · r とかく。
Example 1.2. 17 = 5 × 3 + 2 より 17/5 = 3 · · · 2 である。
余りを含む除法の等分除としての意味は、たとえば a 個のものを b 個の容器に 1
個ずつ入れていき、残りが b 個未満になったところで終わりにする動作を考える。
このとき容器に q 個ずつ入っており、残りが r 個あれば a = qb + r となる。
1. 自然数の除法
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余りを含む除法の包含除としての意味は、たとえば a 個のものを b 個ずつ取り出
していき、残りが b 個未満になったところで終わりにする動作を考える。容器に q
個ずつ入っており、残りが r 個あれば a = qb + r となる。
b 個ずつ q 個の容器に入れても b 個の容器に 1 個ずつ入れていくことを q 回繰り
返しても bq = qb 個のものを取り出すことは同様であるから、余りを含めても、や
はり等分除と包含除は本質的には同義となる。
a = bq となる q が存在するとき a は b の倍数である、 b は a の約数である、a
は b で割り切れるあるいは整除できる、 b は a を割り切るあるいは整除するといい
b | a であらわす。
0 は任意の自然数の倍数であり 1 は任意の自然数の約数である。
a が b1 , b2 , . . . bn すべての倍数であるとき a は b1 , b2 , . . . , bn の公倍数といい a が
b1 , b2 , . . . bn すべての約数であるとき a は b1 , b2 , . . . , bn の公約数という。
これらの概念については後に論ずる。
1.1
基本的な諸法則
加法と減法が逆演算の関係にあるように、乗法と除法も逆演算の関係にある。し
たがって減法の時と同様にして、次の法則が確かめられる。
1. a/1 = a.
2. ab/b = a.
3. b | a のとき (a/b) × b = a.
4. b | a のとき a/(a/b) = b.
5. b | a のとき (a/b) × c = ac/b.
6. b | c のとき ac/b = a(c/b).
7. c | b | a のとき a/(b/c) = (a/b) × c.
8. bc | a のとき a/(bc) = a/b/c = a/c/b.
9. c | b | ac のとき ac/b = a/(b/c).
また、除法については分配法則が成り立つ: a, b が共に c の倍数であるとき a/c +
b/c = (a+b)/c である。実際 a = mc, b = nc のとき a/c+b/c = m+n = (m+n)c/c =
(a + b)/c である。
Example 1.3. 256×64/512 = 256/(512/64) = 256/8 = 32, 64/16+80/16 = 4+5 =
9 = 144/16.
1. 自然数の除法
1.2
3
商と余りの計算
筆算による割り算の計算は加減乗とはかなり趣を異にする。加法、減法、乗法で
は 1 の位から上へと順に計算結果を求めていたが、除法に於いては最も上の位から
下へと商を求め、最終的に余りが残る形となる。
すなわち自然数 A, B(B ̸= 0) に対し、A = (10l cl + · · · + 10c1 + c0 )B + r(cl ̸= 0)
となる 10l cl + · · · + 10c1 + c0 および r < B を求めたいわけだが、cl , cl−1 , . . . , c0 , r
の順に求めることになる。
まず、このとき 10l B ≤ A ≤ (9 × 10l cl + · · · + 90 + 9)B + (B − 1) = 10l+1 B − 1
であることに注意する。
そこで 10l B ≤ A < 10l+1 B となる l を求める。このとき 10l cl B ≤ A < 10l (cl +1)B
となる cl ∈ {1, 2, . . . , 9} が存在する。
今 A1 = A − 10l cl B とおくと A1 < 10k B である。よって 10l−1 cl−1 A ≤ A1 <
10l−1 (cl−1 + 1)B となる cl−1 ∈ {0, 1, 2, . . . , 9} が存在する(このとき cl−1 は 0 であ
る可能性もある)。次に A2 = A1 −10l−1 cl−1 B とおくと a2 < 10l−1 B である。これを繰
り返し、最終的に Al+1 < B となる。このとき Al+1 = A−(10l cl +10l−1 cl−1 +· · ·+c0 )B
であるから r = Al+1 とおくと確かに A = (10l cl + · · · + 10c1 + c0 )B + r, r < B と
なる。
簡潔のため Dl = an · · · al − cl B とおくと A1 = 10l Dl + al1 · · · a0 である。次に
Dl−1 = 10Dl + al−1 − cl−1 B とおくと A2 = 10l−1 Dl−1 + al−2 · · · a0 である。これを用
いて
cl cl−1 cl−2 · · · c1 c0
B ) an an−1 · · · al al−1 al−2 · · · a1 a0
cl B
Dl al−1 al−2 · · · a1 a0
cl−1 B
Dl−1 al−2 · · · a1 a0
·
·
·
Al+1
のように商と余りを求めることができる。