ニュージーランドにおける天敵利用について 388 ニュージーランドにおける天敵利用について農研機構中央農業総合研究センター下田武志涼な気候である。飛べない鳥であるキーウィに代表されはじめにる独特な生態系を持つが，ヨーロッパ系白人移民（一部平成 24 ∼ 27 年度の予定で，農林水産省委託プロジェではマオリ族）の入植以降，森林伐採や農地開拓によるクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立環境破壊，さらには外来の作物や家畜等の導入による生のための技術開発」の中で「土着天敵を有効活用した害態系かく乱が進んだ歴史がある。そのため現在では，入虫防除システムの開発」（以下，土着天敵プロ）が実施国時に空港内で靴裏（土壌付着）検査があるなど，外来されている。土着天敵プロの主要目的は，気象などの環生物の持ち込みに対して厳しい規制が課せられている。境条件が異なる複数の地域において，集落レベルのまとワイン用ブドウを含む園芸作物はニュージーランドのまった農地を対象に土着天敵を活用した害虫防除の技術重要な輸出品目である。2012 年の統計（Plant & Food 体系を構築することにある。本プロジェクトの推進のた Research Limited, 2012）では，これらは 110 か国以上めの情報収集を目的として，2013 年 5 月および 9 月の 2 に輸出され，輸出額は 36.5 億 NZ ＄（ニュージーラン度にわたり，天敵利用の先進国の一つであるニュージードドル，約 3,200 億円）に達する。主な輸出国はオースランドの研究者らとの研究交流を行う機会があった。トラリア（8.8 億 NZ ＄），日本（5.6 億 NZ ＄），米国（3.7 前者ではニュージーランドの Plant & Food Research 億 NZ ＄）であるが，近年では，最大の輸出先であるア Limited における天敵に関する研究や現地圃場を視察し，ジア（11.9 億 NZ ＄，日本を含む）を重視した農業・輸後者では同研究機関の研究員 2 名を高知県と茨城県つく出政策を行っている。主な輸出品目はワイン（11.7 億ば市に招聘し，現地検討会や公開セミナーの形で両国の NZ ＄），キウイフルーツ（10.5 億 NZ ＄），リンゴ（3.4 天敵利用の現状や将来展望に関する意見交換を行った。億 NZ ＄），アボカド（1 億 NZ ＄）等の果樹類であり，本稿では，これらの交流で得た情報をもとに，ニュージ。生鮮野菜の輸出額は比較的小さい（2.1 億 NZ ＄）植物防疫ーランドの農業政策を簡単に紹介し，天敵利用に関する近年の動向を紹介したい。ワインの主な輸出先はオーストラリア（32％），イギリス（24％），米国（21％）で，日本への輸出割合は低本文に先立ち，ニュージーランドでの現地視察およびい（1％）。一方，キウイフルーツの主な輸出先は日本情報提供にご協力いただいた農業環境技術研究所・生物（31％）やヨーロッパ（21％），中国（9％）である。近年，多様生領域・小沼明弘博士および農研機構果樹研究所キウイフルーツかいよう病（病原菌 Pseudomonas syringae 品種育成・病害虫研究領域の井原史雄博士，現地視察お pv. actinidiae）が日本や韓国，中国，イタリアで報告さよび日本での研究交流や資料提供にご協力いただいた上れているが，ニュージーランドでも大きな問題となって記研究機関の John CHARLES 博士，Graham WALKER 博士おいる。本病に対する根本的な治療法は見つかっていないよび現地研究者に厚く御礼申し上げる。なお，公開セミが，政府や企業，研究機関等が協力し，抵抗性品種の開ナーは農研機構の助成を得て農研機構研究会「農業害虫発・普及を進めている。防除に天敵利用技術を普及させるための戦略検討会」とリンゴの主な輸出先はヨーロッパ（51％），アジア（29％），米国（14％）であり，近年はインド，香港，マして行ったものである。レーシア等アジアへの輸出割合が高くなっている。生鮮 I ニュージーランドの農業野菜はカボチャ類（0.7 億 NZ ＄），タマネギ（0.6 億 NZ ニュージーランドは北島と南島を含む大小の島々で構成され，面積は 26 万 km と日本の 7 割程度，人口は約 2 ＄），トウガラシ類（0.4 億 NZ ＄）等が輸出され，主な輸出先は日本（0.9 億 NZ ＄）である。 450 万人である（図―1）。一部の地域を除き，温暖∼冷 Biological Control of Invasive Pest Insects in New Zealand. By Takeshi SHIMODA （キーワード：ニュージーランド，侵入害虫，導入天敵，伝統的生物的防除，土着天敵） II ニュージーランドの天敵利用 Plant & Food Research Limited（オークランドおよびネーピア，図―1）への視察に同行し，天敵利用に関する情報収集を行った。その際，印象的であったことは，ニ ― 13 ―