第8回 調査会社に対する差止請求訴訟[PDF形式]

相談現場に役立つ情報
適格消費者団体活動レポート
第
8回
調査会社に対する差止請求訴訟
特定非営利活動(NPO)法人埼玉消費者被害をなくす会副理事長 弁護士
長田 淳
Osada Jun
合わせを行いました。
特定非営利活動(NPO)法人埼玉消費者被害をなくす会
2.2011年10月3日の再問い合わせ
消費者団体訴訟の担い手になることをめざして、2004年に従来の
「埼玉・商品被害をなくす連絡会」を発展的に解消して設立された
NPO法人。2009年3月5日に、適格消費者団体として内閣総理大
臣から認定を受け、差止請求訴訟業務等を行っている。2014年3
月31日現在、差止請求に至った件は全部で3件あり、そのいずれ
もが和解で終了している。
これに対して、MR社から解約手数料の条項
は既に変更している旨の回答がありました。変
更した解約手数料の条項は ①調査着手前は調査
料金の8% ②調査着手後は、実際の稼働料金
に加えて調査料金の20%という条項でした。当
今回は、特定非営利活動(NPO)法人埼玉消
費者被害をなくす会(以下、当会)の差止請求
会では再度この規定について検討しましたが、
に至った事案のうち、2012年10月9日に訴訟
やはり平均的損害*を超えるのではないかと考
を提起し、2013年3月29日に裁判上の和解で
え、再度の問い合わせを行いました。しかし、
終了した調査会社(いわゆる探偵業)である株
この問い合わせに対するMR社からの回答はあ
式会社MR(以下、MR社)に対する事案を中心
りませんでした。
に当会の差止請求訴訟業務を紹介します。
そこで、2011年12月19日および2012年2
月1日にも回答を送付してもらうように同社に
連絡しました。すると、2012年2月1日付け
差止請求に至る経過
で「当初の回答以外に付け加えるものはない」
との回答を得ました。
ご存じの人も多いと思いますが、調査会社に
3.2012年10月19日訴訟提起
ついての消費生活相談は一定数あります。①契
約時の強引な勧誘 ②解約時の違約金の請求や代
当会では、その後、慎重に検討を重ねた結果、
金トラブル ③調査内容に対する疑問や不満など
理事会の承認のもと、2012年6月7日、差止請
がその典型例です。MR社に対しても、解約手
求訴訟の要件とされる消費者契約法41条1項の
数料に関するトラブルの相談情報が当会に寄せ
請求を行いました。これに対してはMR社から
られたために、不当条項の有無の観点から検討
の回答はありませんでした。
をしました。
そこで、当会は、2012年10月19日に東京地
1.2011年3月7日の問い合わせ
方裁判所に差止請求訴訟を提起しました。
当会が、当初、入手したMR社の解約手数料
条項は、調査着手の前後を問わず30%という内
訴訟の内容
容でした。そこで、この条項が消費者契約法9
条の平均的損害を超える違約金条項に該当する
差止めを求めた条項は、以下の3つです。
のではないかという観点などからMR社に問い
⑴調査着手前である場合、解約手数料として調
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る
査料金の8%を支払うとする条項
①実稼働分の報酬を請求する案件については
⑵調査着手後である場合、実際に稼働した調査
1万円(+実稼働分の報酬)とする
料金および解約手数料として調査料金の20%
②実稼働分の報酬を請求できない案件につい
を支払うとする条項
ては6万円とする
⑶調査期間中は、原則として調査内容の報告を
⑶ 報告義務 「求めがあった場合には、調査状
しないものとする条項
況に応じ、合理的な時期及び方法により調
査内容を報告するものとします。ただし、
このうち、⑶について、説明を補足しますが、
委任者である顧客が調査会社の調査内容を当然
稼働の状況等に鑑み、調査に支障を来すと
把握したいときに報告されるべきであるのが民
認められる場合を除きます」
法の委任契約の内容です(民法645条)
。これ
をしないという条項は、調査業務の不透明さに
その後の経過および課題など
もつながり不当である
(消費者契約法10条違反)
との立場から問い合わせをしたにもかかわら
本件は、MR社側に適格消費者団体による差
ず、当初の回答より、変更を拒絶していたので
止請求訴訟についての認識が不足しており、訴
MR社に対して同時に削除を求めたものです。
訟提起の段階ではじめて深刻に受け止め、その
後は真摯な対応をし、和解に至ったという事情
があります。訴訟前の解決を可能にするために
訴訟提起後の経過
も適格消費者団体の役割をより事業者に周知す
ることが大切だと考えます。
当会は本件について、訴訟提起と同時に東京
地方裁判所で記者会見を行いました。そうした
また、当会は、県内の他の調査会社と任意の
ところ、MR社は、条項について変更を前提に
業界団体に対し、今回の問題点と解決について
した話し合いを求めてきました。
周知し、不当条項があれば事前に変更するよう、
周知文書を送付しています。
そこで、MR社と話し合いを重ねた結果、2013
年3月29日裁判上の和解に至りました。和解内
* なお、当会は、本件において着手前の解約において逸失利益に基づ
く損害は発生しておらず、契約が履行された場合に見込まれる事業
者の利益は消費者契約法9条の平均的損害に含まれていないとい
う理解を前提にしており、和解や改訂後の条項も同様の理解を前
提にしている。
容および変更された条項は、以下のとおりです。
1. 和解内容
⑴ 本件各条項の使用の停止
事例の詳細
特定非営利活動(NPO)法人埼玉消費者被害をなくす会
http://saitama-higainakusukai.or.jp/
⑵ 本件各条項が記載された契約書および重要
事項説明書の破棄
⑶ 改訂条項の当会への送付
⑷ 本件各条項の使用の停止および改訂につい
て、従業員への周知
しん し
⑸ 相談者への真摯な対応
2. 改訂された条項の内容
⑴ 調査着手前の解約手数料を3万円とする
⑵ 調査着手後の解約手数料を以下の①②とす
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