減圧法によるメタンハイドレートの生産を考慮した 海底地盤の動的解析 E

第 49 回地盤工学研究発表会
187
E - 08 (北九州) 2014 年 7 月
減圧法によるメタンハイドレートの生産を考慮した
海底地盤の動的解析
メタンハイドレート
動的解析
京都大学大学院
学生会員
○赤木
京都大学大学院
国際会員
木元
京都大学(名誉教授)
国際会員
岡
減圧法
俊文
小百合
二三生
3. 数値計算条件
1. はじめに
近年メタンハイドレート(以下 MH)が新しいエネルギ
図 2 に生産シミュレ
ー資源として注目されており,日本でも経済産業省主導で
ーションと動的解析
開発が進められている.一方で,日本は世界有数の地震大
に用いた有限要素メ
国であり,将来安定した MH の産出を実現するには MH の産
ッシュをそれぞれ示
出過程で発生する地震動の影響を事前に検討することが
す.図に示すように,
重要となる.そこで本研究では,MH 生産に伴う地盤状態
水深 700m の海底の海
の変化が海底地盤の動的挙動に与える影響を数値計算に
底 面 下 100m に 厚 さ
よって検討した.まず,化学-熱-力学連成解析手法 1)を用
100m の MH 含有層が存
いて減圧法を想定した生産シミュレーションを行い,減圧
在するモデルを設定
後の地盤状態を再現する.その計算結果を動的解析の初期
している.このモデル
値とすることで MH 生産に伴う地盤状態の変化を考慮した
は東部南海トラフに
動的解析を行う.
おいて確認されてい
2. 数値計算手法
る MH 濃集帯の深度を参考に設定した.生産シミュレーシ
ョンにおける減圧点は MH 含有層の中央に設定している.
動的解析に先立ち MH 生産後の地盤状態を求めるために
化学-熱-力学連成解析手法
1)
図 2 有限要素メッシュ
各解析ケース間では生産シミュレーションで与える減圧
を用いて生産シミュレーシ
ョンを行う.動的解析ではこの結果を初期値として用いる.
量を変更しており,減圧量は 0MPa(MH 生産なし),3MPa,
図 1 に動的解析手法の概要を示す.MH 含有地盤を土粒子
5MPa,7MPa の 4 種類を設定した.図 3 は入力地震動であ
(S),MH(H),水(W),ガス(G)の 4 相から成ると仮定し,多
り,強地震動予測手法 EMPR3)により求めた南海トラフ巨大
孔質媒体理論に基づいて連続体力学の枠組みで定式化す
地震の熊野灘地点における予測波形である.断層,アスペ
る.空間離散化は有限要素法,時間離散化はニューマーク
リティ位置は,それぞれ南海トラフの巨大地震モデル検討
のβ法を用いた.MH を含有した地盤は変形特性の MH 飽和
会が定めた基本ケース,標準位置で設定している.図 4 に
率依存性,ひずみ速度依存性を示す.MH 含有地盤のこう
動的解析の初期条件の例示として,平均骨格応力,水圧お
した特性を考慮しながら動的挙動を扱うため,本研究では
よび温度の初期条件を示す.減圧に伴う圧密による応力増
超過応力型の繰返し弾粘塑性構成式 2)を用いた.
加,MH 分解に伴う温度低下を確認することができる.
Horizontal
Acc (gal)
300
200
入力地震動
100
0
-100
-200
-300
-50
0
50
100
150
200
Time (sec)
図 3 入力地震動
図 1 動的解析手法の概要
Numerical analysis of dynamic behavior of seabed
sediments considering methane hydrate production by
depressurization
AKAKI Toshifumi (Kyoto University)
KIMOTO Sayuri (Kyoto University)
OKA Fusao (Kyoto University)
373
250
300
350
Initial Mean
Skeleton Stress
Initial Pore
Water Pressure
0
0
100
100
100
が小さい傾向がある.
0
200
200
海底面
100
300
400
300
400
300
400
500
500
260 270 280 290 300
0.0 3.0 6.0 9.0 12.0
0.0 2.0 4.0 6.0
Temperature (K)
Pore Water
Mean Skeleton Stress (MPa)
Pressure (MPa)
500
MH含有層
200
0MPa
300
3MPa
5MPa
7MPa
図 4 動的解析の初期条件
60
7MPa
0
100 120 140 160
10
50
図 6 最大水平変位の
深度分布
0MPa
15
τxy (kPa)
τxy (kPa)
40
図 5 最大水平加速度の
10
5
0
-5
-10
30
35
40
5
0
-5
-15
A
45
50
55
Mean Skeleton Stress (kPa)
60
5MPa
10
-10
B
ELEMENT43
-15
う圧密によって地盤の剛性が増加した影響が強く出てい
30
Maximum Horizontal
Displacement (cm)
20
15
-20
20
Maximum Horizontal
Acceleration (gal)
20
とる.MH 生産を行った場合は上記とは逆に深度 300m 付近
ると考えられる. MH 未生産のケースと他のケース間での
80
5MPa
深度分布
のケースでは深度 300m で極小値を,深度 250m で極大値を
つれて最大水平加速度が増大していることから,減圧に伴
3MPa
500
図 5 に最大水平加速度の深度分布を示す.減圧量 0MPa
7MPa 減圧のケースにおいて MH 含有層内で深度が上がるに
0MPa
500
4.1 最大水平加速度および最大水平変位に与える影響
の変化は MH 含有層内で生じていることと,3MPa,5MPa,
300
400
40
MH含有層
200
400
4. 数値計算結果と考察
で極大値を,深度 200m で極小値をとっている.地盤状態
Depth from Seabed (m)
100
0MPa
3MPa
5MPa
7MPa
海底面
0
200
Depth from Seabed (m)
Depth (m)
0MPa のケースで 1 回の振動に対する平均骨格応力の低下
Initial Temperature
海底面0
-20
30
B
ELEMENT43
A
35
40
45
50
55
Mean Skeleton Stress (kPa)
図 7 減圧量 0MPa,5MPa のケースで得られた応力径路
5. 結論と今後の課題
各極値の差は与える減圧量が増加するにつれて大きくな
減圧法による MH 生産シミュレーション結果を初期値と
る.海底面での最大水平加速度は与える減圧量の増加に伴
した動的解析を行い,MH 産出に伴う地盤状態の変化が海
い大きくなっている.
底地盤の動的挙動に与える影響を最大水平加速度,最大水
図 6 に最大水平変位の深度分布を示す.最大水平変位は
平変位,応力径路について検討した.水平加速度の深度分
すべてのケースで同様な深度分布を示している.深度
布には MH 生産による定性的な変化が見られた.最大水平
300m から海底面にかけて,与える減圧量が大きいほど最
変位は MH 生産を行わないケースに比べて,MH 生産を行っ
大水平変位は小さくなっている.これは図 4 に示す平均骨
た場合に小さくなるという結果を得た.この結果は MH 生
格応力の増加に対応し,減圧に伴う圧密で MH 含有層内の
産時に生じる海底地盤の挙動の変化は減圧に伴う地盤の
剛性が増加したためであると考えられる.
圧密によって地盤の剛性が増加したことによると考える.
4.2 海底地盤の応力径路
海底地盤の応力径路に与える影響
応力径路に与える影響
今後の課題としては,(1)MH の生産に伴う海底地盤の材料
図 7 に減圧量 0MPa と 5MPa のケースで得られた海底面
特性の質的変化の考慮 (2)MH 生産の影響範囲の 3 次元的
付近の要素の応力径路を示す.両ケースの応力径路はよく
な広がりの考慮 (3)地震時における生産井の安定性 (4)
似た挙動を示している.図に示す A の領域では大きな地震
地震中における MH の分解挙動,があげられる.
動が加わることで数回の振動で平均骨格応力が大きく低
参考文献
下しており,減圧量 0MPa のケースに比べて減圧量 5MPa の
1) 赤木俊文,木元小百合,岡二三生,肥後陽介,岩井裕正.第 47
ケースにおいて低下の度合いがやや大きい.これは 4.1 で
回地盤工学研究発表会概要集(CD-ROM).333-334.2012.
示したように MH 生産を行ったケースで海底面における水
2) Oka F and Kimoto S. Taylor and Francis. 2013.
平応答加速度が増加したためと考えられる.また,図に示
3) Sugito M, Furumoto Y and Sugiyama T. 12th World Conference on
した B の領域では減圧量 0MPa のケースに比べ,減圧量
Earthquake Engineering. Vol. 2111. No. 4. 2000.
374
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