学 位 記 番

Akita University
氏
名・(本籍)
い
とう
とも
お
伊 藤 智 夫 (秋田県)
専攻分野の名称
博士(医学)
学 位 記 番 号
医博甲第 854 号
学位授与の日付
平成 26 年 3 月 22 日
学位授与の要件
学位規則第 4 条第 1 項該当
研 究 科 ・ 専 攻
医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名
No Involvement of Acid Sphingomyelinase in the Secretion of IL-6
from alveolar Macrophages in neonatal rat
(酸性スフィンゴミエリナーゼはラット肺胞マクロファージからの IL-6 分泌に
関与しない)
論 文 審 査 委 員
(主査) 教授 橋 本
学
(副査) 教授 南 谷 佳
弘
教授
三 浦
昌 朋
Akita University
研
学 位 論 文 内 容 要 旨
究
成
績
妊 娠 ラ ッ ト へ の LPS 腹 腔 内 投 与 で は 仔 ラ ッ ト の 肺 組 織 ASM 活 性 は 上 昇 し た 。し か し 、統 計
学的有意差を認めなかった。
No Involvement of Acid Sphingomyelinase in the Secretion of IL-6 from alveolar
Macrophages in neonatal rat
( 酸 性 ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ナ ー ゼ は ラ ッ ト 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ か ら の IL-6 分 泌 に 関
与しない)
培 養 ラ ッ ト 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ に LPS を 添 加 す る と 、投 与 後 2 時 間 で 有 意 な 培 養 液 中 IL-6
上 昇 を 認 め た 。 し か し 、 細 胞 ASM 活 性 上 昇 は 認 め な か っ た 。
培 養 ラ ッ ト 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ に 対 し LPS と ASM 抑 制 剤 の 投 与 を 行 う と 、 開 始 後 2 時 間 で
細 胞 ASM 活 性 は 全 薬 剤 で 有 意 に 抑 制 さ れ た 。培 養 液 中 IL-6 は 、imipramine、chlorpromazine、
maprotiline 、 doxepin 、 protryptyline で 有 意 に 抑 制 さ れ た 。 し か し 、 nortryptiline 、
申請者氏名
伊藤智夫
promethazine、 desipramine で は 有 意 な 抑 制 を 認 め な か っ た 。
ASM 抑 制 剤 と し て imipramine を 用 い 、 LPS 投 与 後 2 時 間 、 4 時 間 お よ び 6 時 間 の 検 討 を 行
っ た 。そ の 結 果 、細 胞 ASM 活 性 は 6 時 間 後 ま で 抑 制 さ れ た 。培 養 液 中 IL-6 は 2 時 間 後 、4 時
間後では有意に抑制されたが、6 時間後では抑制されていなかった。
研
究
目
的
Western blot 法 に よ る ASM 蛋 白 の 解 析 で 、 全 薬 剤 で 蛋 白 量 を 含 め 変 化 を 認 め な か っ た 。
新 生 児 慢 性 肺 疾 患 ( CLD: chronic lung disease of newborn) は 長 期 の 治 療 を 要 す る 合 併
症 で 、 そ の 有 無 は 未 熟 児 の 予 後 を 大 き く 左 右 す る 。 CLD の 病 因 は 多 因 子 性 と さ れ 不 明 な た め
結
論
確 立 さ れ た 治 療 法 は な い 。 最 近 、 絨 毛 膜 羊 膜 炎 な ど 子 宮 内 炎 症 が CLD の 発 症 の 重 要 因 子 と さ
れ 、 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ の 活 性 化 と CLD 発 症 の 関 与 が 報 告 さ れ た 。
酸 性 ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ナ ー ゼ ( ASM: acid sphingomyelinase) は ラ イ ソ ゾ ー ム 酵 素 で 、 細
胞膜の主要リン脂質であるスフィンゴミエリンをセラミドとフォスフォコリンに分解する。
近 年 、 ASM の 活 性 化 が 炎 症 を 含 め た 細 胞 ス ト レ ス 応 答 へ 関 与 す る こ と が 確 立 さ れ 、 治 療 目 的
の ASM 抑 制 剤 も 数 多 く 報 告 さ れ て い る 。
関連を調べた。
究
方
法
妊 娠 ラ ッ ト に 対 し 、 妊 娠 20 日 お よ び 21 日 (満 期 は 22 日 )に LPS( lipopolysaccharide)
3.5mg/kg を 腹 腔 内 投 与 し た 。仔 ラ ッ ト の 日 齢 1 の 肺 組 織 の ASM 活 性 を 測 定 し た 。生 理 食 塩 水
投与をコントロールとし測定値を検討した。
培 養 ラ ッ ト 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ (ATCC8383)に LPS を 1µg/ml の 濃 度 で 培 養 液 に 投 与 し 、細 胞
ASM 活 性 お よ び 培 養 液 中 IL-6 を 測 定 し た 。さ ら に LPS に 加 え ASM 抑 制 剤 を 添 加 し 、同 様 に 細
胞 ASM 活 性 お よ び 培 養 液 中 IL-6 を 測 定 し た 。 以 上 に 対 し Western blot 法 に て ASM 蛋 白 を 検
討 し た 。 ASM 抑 制 剤 と し て imipramine、 chlorpromazine、 maprotiline、 nortryptiline、
promethazine 、 doxepin 、 protryptyline 、 desipramine を 使 用 し 、 imipramine は 30µM 、
chlorpromazine は 25µM、maprotiline、nortryptiline、promethazine、doxepin、protryptyline、
desipramine は 10µM で 投 与 し た 。
ASM 活 性 は
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お け る サ イ ト カ イ ン 分 泌 と ASM 活 性 化 、 以 上 2 点 の 有 意 の 関 係 は み ら れ な か っ た 。
Imipramine を 含 め た い く つ か の ASM 抑 制 剤 は 、培 養 ラ ッ ト 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ 活 性 化 に よ
る IL-6 産 生 を 抑 制 し た が 、 反 応 初 期 に 対 す る 抑 制 効 果 で あ っ た 。
今 回 我 々 は 、 CLD モ デ ル に お け る 肺 の 炎 症 と ASM 活 性 化 、 お よ び 、 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ の
研
母 体 誘 発 炎 症 に よ る 仔 ラ ッ ト CLD 発 症 と ASM 活 性 化 、お よ び 、培 養 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ に
C-labeled sphingomyelin を 用 い て 測 定 し た 。 IL-6 は ELISA 法 を 用 い て 測 定
し た 。 統 計 学 的 検 討 は Excel 2012 を 用 い て 行 っ た 。
CLD の 病 因 に お け る ASM 活 性 化 の 関 与 に 関 し て 今 後 さ ら な る 研 究 が 必 要 で あ る 。
Akita University
学位(博士―甲)論文審査結果の要旨
主査 : 橋本 学
申請者: 伊藤 智夫
論文題名: No Involvement of Acid Sphingomyelinase in the Secretion
of IL-6 from alveolar Macrophages in neonatal rat (酸性スフィンゴミ
エリナーゼはラット肺胞マクロファージからの IL-6 分泌に関与しない)
要旨
新生児慢性肺疾患(CLD)の患者では出生時の気管(支)内の気道分泌液中のマク
ロファージの数の有意な増加が認められる。この細胞からの炎症性サイトカイン分泌が
CLD 発症の一つの要因であり acid sphingomelinase (ASM)がサイトカイン分泌に
関与するのではないかと考えられている。
著者は肺の炎症環境下では ASM がマクロファージのサイトカイン分泌に関与するこ
とを証明するため動物・細胞レベルで検討をおこ なった。妊娠ラット腹腔内への
lipopolysaccharid(LPS)投与で仔ラットの肺組織の ASM 活性を測定したが、有意な
増加がなかった。次に、ASM が肺胞マクロファージからの interleukin (IL)-6 分泌に
関与するかどうか実験細胞モデルで検討した。培養ラット肺胞マクロファージに LPS
を単独および各種 ASM 抑制剤を同時に投与し、細胞内 ASM 活性と培養液中の IL-6 を
測定し検討した。LPS 投与で ASM の発現や活性の増加はみられなかったが、IL-6 分
泌の増加がみられた。また、ASM 抑制剤(imipramine)同時投与群で ASM 活性と IL-6
分泌を有意に抑制することを明らかにした。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明瞭さは以下の通りである。
1)斬新さ
Akita University
小動物の仔の肺組織に炎症状態を作成する試みをはじめておこなった。LPS の腹腔
内投与では作成できなかったが、投与ルートについて今後の小動物を使った実験モデル
の作成に貴重な情報と考える。また、はじめて培養肺胞マクロファージを使用し、各種
状況下での ASM 蛋白の発現、ASM 活性化、IL-6 分泌の状態を検討した。
2)重要性
LPS 投与により肺胞マクロファージの ASM 蛋白発現・ASM 活性化に変化はないが
IL-6 分泌が増加し、ASM が細胞からの IL-6 分泌に関与しないとの結論であった。こ
れは従来の報告とは異なるものであり、ASM 活性とマクロファージからのサイトカイ
ン分泌の関連性の解明にさらなる検討が必要であることを明らかにした。しかし、ASM
阻害剤は有意に IL-6 分泌を低下させることを証明したことは、CLD など炎症に起因す
る肺疾患でも ASM 阻害剤の有用性を示すものと考える。また、個々の細胞レベルの
ASM 活性化ではなくマクロファージの数の増加によるサイトカイン増加が、CLD 発現
には重要な要因であることを示した可能性がある。このように、本研究の結果は今後の
CLD の基礎的研究に一石を投じたことは重要と考える。
3)研究方法の正確性
ASM 蛋白の発現は Western blot 法で、ASM 活性は著者の属するグループで経験の
ある 14C-labeled sphingomyelin を用い測定した。IL-6 定量は ELISA 法で測定した。
いずれの検討もコントロール群を含めた統計学的検討を加えており、えられた結論は客
観的で正確性があると考えられる。
4)表現の明瞭さ
マクロファージのサイトカイン産生に ASM が関与するかどうかを実験的に明らかに
するための方法、実験結果、考察を簡潔・明瞭に記載していると考える。
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。