温水頚下浸水の血中サイトカイン動態

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)15 : 45∼16 : 35 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!運動生理学 2】
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温水頚下浸水の血中サイトカイン動態
櫻井 雄太1),児嶋 大介3),山城
藤田 恭久2),木下利喜生2),梅本
麻未1),東山
安則5),田島
理加1),太田
文博2)
晴基1),森木
貴司2),小川
真輝4),
1)
那智勝浦町立温泉病院 リハビリテーション科,2)公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション科,
公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院紀北分院 リハビリテーション科,
4)
医療法人黎明会北出病院 リハビリテーション科,5)関西電力病院 リハビリテーション科
3)
key words IL−6・TNF−α・CXCL1
【はじめに,目的】
これまで,運動負荷が臓器に影響を与えるシグナル経路は,神経系だと考えられていた。しかし,Pedersen らは筋収縮により筋
細胞から Interleukin"
6(IL"
6)などのサイトカインが発現し,骨格筋が内分泌器官であると報告した。また,温熱負荷でも筋細
胞から IL"
6 が発現することが報告された。CXC motif ligand 1(CXCL1)
もまた骨格筋から発現するサイトカインの 1 つであり,
主に血管新生や肝保護,創傷治癒等に作用する。マウスに水泳をさせると,血中 IL"
6 が上昇し,その後血中 CXCL1 も上昇する。
さらに,CXCL1 の発現に IL"
6 が必要不可欠であると報告がある。これらのことから,我々は,温熱負荷による血中 IL"
6 上昇
後に血中 CXCL1 が上昇すると仮説を立てた。そこで我々は 20 分間の温水頚下浸水前後での血中 IL"
6,CXCL1,それらの代謝
機序に関係する TNF"
α,hsCRP を測定した。
【方法】
被験者は若年健常男性 8 名(年齢 25.8±1.2 歳,身長 173.3±1.4cm,体重 70.1±4.2kg)とした。除外基準は糖尿病,心疾患,慢
性炎症性疾患,皮膚疾患のない者とした。また,測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被験者
は室温 28℃ の環境で,深部体温として食道温をモニタリングしながら安静座位をとった。食道温が安定した後,10 分間の安静
期間を開始した。その後,42℃ の温水に頚まで浸かりながら 20 分間安静座位をとり,その後再び室温 28℃ の環境で 4 時間の安
静座位をとった。
浸水前,浸水終了直後,浸水後 1 時間,浸水後 2 時間,浸水後 3 時間,浸水後 4 時間に医師が採血を行った。採血後,直ちに遠
心分離機で血清を分離させ,ELISA 法により血中 IL"
6,CXCL1,TNF"
α を測定した。また,hsCRP,赤血球,ヘマトクリット
値,ヘモグロビン,単球の測定を行った。
結果の解析は,ANOVA を行い,post hoc test に Fisher s LSD test を用いて負荷前後の検定を実施した。有意水準は 5% 未満と
した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会の承認されており,実験に先立って被験者には研究の主旨と方法を書面と口頭で十分に説明し,同意を得て
から実施した。
【結果】
頚下浸水負荷前後の深部体温は浸水前(36.9±0.4℃)と比較し,浸水終了直後(40.4±0.4℃),浸水後 1 時間(37.4±0.3℃)
,浸
水後 2 時間(37.2±0.2℃)
,浸水後 3 時間(37.2±0.2℃)に有意な上昇が認められ,浸水後 4 時間には浸水前水準に戻った。
血中 IL"
6 濃度は,浸水前(0.9±0.3pg!
ml)と比較し,浸水後 1 時間(1.6±0.4pg!
ml)
,浸水後 2 時間(1.5±0.4pg!
ml)
,浸水後
3 時間(1.5±0.2pg!
ml)に有意な上昇が認められ,浸水後 4 時間には浸水前水準に戻った。
血中 CXCL1,TNF"
α,hsCRP は浸水前後で有意な差は認められなかった。
CBC の分画である赤血球,ヘマトクリット値,ヘモグロビン,単球は浸水前後で有意な差は認めなかった。
【考察】
若年健常者において,42℃ 温水頚下浸水により血中 IL"
6 が増加したが,血中 CXCL1 は変化がなかった。本研究の結果は,ヘ
マトクリット値に変化がなかったため,血中 IL"
6 やその他の血液データは温熱負荷による血液濃縮の影響は受けていないと考
えられる。IL"
6 や CXCL1 は,炎症反応により TNF"
α や単球によって産生される。しかし,浸水前後で hsCRP,TNF"
α,単球
数が一定であったことから,炎症反応による血中 IL"
6 の上昇は否定的である。IL"
6 は筋収縮だけでなく温熱負荷でも筋細胞か
ら発現する事が報告されている。今回の研究では,被験者は安静座位を保ったため,血中 IL"
6 上昇は過去の研究と一致し,筋
細胞から由来であると推測する。
また,過去の報告では,マウスに 1 時間水泳をさせることで血中 IL"
6 が 5 倍上昇し,その 2 時間後に血中 CXCL1 が上昇した。
一方,本研究では血中 IL"
6 の上昇が 2 倍であった。したがって,CXCL1 が変化しなかったことは IL"
6 の発現量が不十分であっ
た可能性も示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,温熱療法の効果機序を解明する一助となった。