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「グローバル人材 5000 プロジェクト」キックオフセミナー
講演「グローバル人材とオープンエデュケーション」要旨
講演者:飯吉 透 氏
(京都大学 高等教育研究開発推進センター 教授)
<はじめに>
第1部のロールモデルカフェでのお話で「英語が苦手でも怖じ気づいちゃだめ」という話が出ていたが、何を隠そう
自分も英語はずっと赤点だった。英語と自分の関係はいわば『愛と憎しみ』ともいえるものだったようにふりかえる。
学生当時、コンピュータに熱中した。書店でコンピュータ関連の最新情報が載っている英語雑誌を見つけ、新しい知識
を手に入れたくて辞書を引きながら英語を勉強した。なので、英語は憎い対象でありつつ、本当に知りたいことが学べる
という上では愛すべきものであり、「学びと教えの行動は、何かを激しく愛するときに最強となる」と考えている。
<学生を取り巻く状況>
今、日本の大学において「学びと教え」について様々な新しい取り組みが行われているが、そのことにより日本の大
学生がわくわくして社会に飛び出しているかというとそんなことはない、ということが就職活動に関するアンケートから
も明確となっている。これは学生一人ひとりがまるで「規格野菜」化しているかのように、それぞれの個性が見えにくく
なっていることを意味している。
今日は海外に出よう、という話。つまり「規格外」の人材となるということ。2 年ほど前、NY タイムズの調査による
と、現地における日本人の受け入れ状況が芳しくなかった。では、何が良くなかったのか。私は「公的抑圧」というもの
が日本を支配しているように感じている。つまり、日本の社会が愚直に教育を受けた人たちを評価していない。だから学
生にとっては学ぶ意味が見いだせないのではないか。頑張った人が報われるという実感がない、ということはやる気を削
いでしまっている。
<状況打破のために>
この状況を打破するため、日本におけるルールを変えていくことが大切なのではないか。そのためにはまず、世界的な
ネットワークに入っていくべきだ。例えばアメリカ大使館では「Tomodachi Generation Program」と呼ばれる日米の
学生交流のプログラムなどが展開されている。
また、京都大学のある学生グループでは、学生たちが自ら世界規模の大きなテーマを設定し、それぞれが違う一般教養
科目に出席する。そしてテーマの解決に役立ちそうな知識を持ち寄って教え合っている。これは学生自身が学びのオーナ
ーシップを持つということであり、「何のために学ぶのか」という意識を強化してゆく。
<オープンエデュケーションについて>
オープンエデュケーションの3構成要素は「オープンテクノロジー」
「オープンコンテンツ」
「オープンナレッジ」の3
つ。オープンエデュケーションにより、授業料数百万円の私立大学の授業が無料で留学することもなく受けることができ
るようになった。例えば MIT では 2,000 以上の講義教材・ビデオが公開されており、このオープンコンテンツの世界は
拡がり続けている。
日本の大学もオープンエデュケーションの取り組みに参加してはいるものの、まだまだ実感を持って普及しているとは
言えず、いかに高校生などに見てもらえるか、その工夫に苦戦しているのが実情だ。
オープンエデュケーション進展の背景には、高等教育のグローバル化が進んでいるということが指摘できる。大学の世
界ランキングが多様化しているのもその動きの1つ。
「輸出可能」
「交換可能」
「拡張可能」
「抽出可能」な高等教育の現状
がある。
<MOOC の登場>
そして、近年では先ほどの3つの要素に加え、
「オープンプラクティス」に注目が集まっており、MOOC(Massive Open
Online Courses:大学の講義配信サービス)などの取り組みは象徴的である。MOOC の枠組みでは、オンライン上で学習して、
最後まで修了すると「修了書」が発行される。正式な大学の単位ではないが、学びの実質的な評価としてはとても効果が
ある。スタンフォード大学、そして MIT でも取り組みが始まったことで、この動きは一気に世界規模で拡大した。
今年後半には Google を始めとして MOOC のプラットフォーム「MOOC.ORG」が立ち上がる予定となっている。誰
でも無料で MOOC が提供・そして利用できるような時代が始まろうとしている。こうした流れは教育現場において「互
いに学び会うこと」、「学ぶために教え、教えるために学ぶこと」の重要性が高まっていくことを意味していると考える。
<まとめ>
繰り返しになるが、オープンエデュケーションは修了書が出る。それがいい。そして、留学を進める上で、世界的なネ
ットワークとどうつながるかというのが重要となってくる。京都大学においても、クリエイティビティをつける授業など
が来年スタートする予定。これはリアルとバーチャルをつなげる試みだ。
オープンエデュケーションはいろいろなものをオープンにしてゆく。人々の学びのあり方や、学びの社会的インパクト
など。それは何を学んだかという点において、個人 をよりよく描き出していく。
また、オープンエデュケーションは、グローバル人材におけるいわゆる「T 型人材」を「すだれ型人材」に強化してゆ
く取り組みと捉えることができる。自分の専門性のみを掘り下げていくような人を「I 型人材」と言われるが、ここに広
い視野を持ち、いろんな人とコミュニケーションして協働できる人材を「T 型人材」、そしてさらにオープンエデュケー
ションによって、専門的知識だけでなく、いつでもどこでもいろんな専門性を身につけることができる「すだれ型人材」
が求められる。このような「すだれ型人材」が、ネットワークを組んで進んでいく社会にとって必要な人材となっていく
と考える。
これから抜本的に高等教育は変わっていくし、すでに変わっている。オープンエデュケーションは偶然のブームではな
く、必然的な教育の進化であるということとして捉える必要がある。以上、私からの講演を終了致します。ご清聴ありが
とうございました(会場拍手)
【2014 年 3 月 7 日(金) 東洋大学にて開催】