MHC クラス II 分子複合体による新たな自己免疫疾患発症機構

特別講演
ミスフォールド蛋白質/MHC クラス II 分子複合体による新たな自己免疫疾患発症機構
◎荒瀬 尚
大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫化学研究室/大阪大学微生物病研究所免疫化学分野
自己免疫疾患の原因分子として様々な候補分子が報
自己抗体の結合性という全く異なるパラメーターが、
告されているが、特定の MHC、特に MHC クラスⅡ分子
非常に高い相関を示した(相関係数 0.81)
。つまり、
が最も強く疾患感受性に影響を与える。しかし、特定
gGH/HLA-DR 分子複合体を形成しやすい MHC クラス II
の MHC クラスⅡ分子がなぜ自己免疫疾患に関与してい
分子を持っているヒトは関節リウマチに罹りやすいこ
るかは長年不明である。最近、我々は、MHC クラスⅡ
とになる。以上より、IgGH/MHC クラスⅡ分子複合体
分子が小胞体内のミスフォールド蛋白質を分解させず
が自己抗体の標的として関節リウマチの発症に関わっ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
に細胞外へ輸送するシャペロンとして機能することを
ていると考えられる。
明らかにした。さらに、MHC クラスⅡ分子に提示され
細胞内ではミスフォールド蛋白質は常に作られてい
たミスフォールド蛋白質は、抗原特異的な B 細胞を刺
るが、通常は細胞内で速やかに分解され、細胞外に運
激することから、何らかの免疫応答に関わっている可
ばれることは無い。従って、免疫システムはそのよう
能性が考えられた。そこで、このような MHC クラスⅡ
なミスフォールドタンパク質に寛容になっていないと
分子に提示されたミスフォールド蛋白質が、代表的な
考えられる。ところが、細胞内のミスフォールド蛋白
自己免疫疾患の一つである関節リウマチの病態にどの
質が自己免疫疾患に感受性の MHC クラスⅡ分子と結合
ように関わっているかを解析した。
すると、細胞外に輸送されてしまい、それが異物とし
関節リウマチにおける代表的な自己抗体としてリウ
て自己抗体の標的になっていると考えられる。MHC ク
マチ因子が古くから知られており、現在でも関節リウ
ラスⅡ分子は、非免疫細胞ではほとんど発現しておら
マチの診断の重要な指標になっている。リウマチ因子
ず、IgG を多量に産生するプラズマ細胞も MHC クラス
は、変性した IgG に対する自己抗体であるが、病態生
Ⅱの発現は低い。ところが、感染等の炎症で産生され
理的な標的抗原は明らかでなく、なぜ関節リウマチで
る IFN-等のサイトカインによって、ヒト由来細胞は
リウマチ因子が陽性になるかも明らかでない。
非常に強く MHC クラスⅡを発現する。従って、MHC ク
IgG は重鎖と軽鎖からなり、重鎖のみでは分泌もさ
ラスⅡ陰性細胞に MHC クラスⅡ分子が発現すると、細
れないし、細胞表面にも発現しない。ところが、MHC
胞内のミスフォールド蛋白質が MHC クラスⅡ分子によ
クラスⅡ分子が存在すると IgG 重鎖(IgGH)が単独で細
って細胞外へ輸送されてしまい、異物としてミスフォ
胞表面に出現するようになる。MHC クラスⅡ分子によ
ールド蛋白質に対する自己抗体の産生が引き起こされ
る IgGH の細胞表面発現は、MHC クラスⅡ分子に結合し
ると考えられる。実際、自己免疫疾患は、ウイルス感
たペプチドで阻害されるため、IgGH は MHC クラスⅡ分
染等をきっかけとして発病する場合がある。また、多
子のペプチド結合部位に結合する。さらに、この
くの自己免疫疾患の標的組織では、異常な MHC クラス
IgGH/MHC クラスⅡ分子複合体は、関節リウマチ患者の
Ⅱ分子の発現が認められる。このように、MHC クラス
自己抗体に認識されることが明らかになった。一方、
Ⅱ分子が誤って細胞内のミスフォールド蛋白質を細胞
血清中の正常な IgG は認識されない。また、IgGH/MHC
外へ輸送してしまうことが、関節リウマチを含めて多
クラスⅡ分子複合体に対する自己抗体は関節リウマチ
くの自己免疫疾患の原因ではないかという新たな発症
あああああああああああああああああああああああああああああああ
患者に特異的で、健常人や他の疾患でリウマチ因子が
機構が考えられた。
陽性になる患者でも検出されない。従って、IgGH/MHC
クラスⅡ分子複合体は、関節リウマチの自己抗体の特
異的標的抗原であることが判明した。実際、IgGH/MHC
クラスⅡ分子複合体は関節リウマチ患者の滑膜組織中
に検出されるが、変形性関節症の滑膜組織には認めら
れない。
関節リウマチの感受性には MHC クラスⅡ分子が最も
深く関与している。そこで、IgGH と種々の HLA-DR と
の複合体に対する自己抗体の結合性を解析すると、そ
れぞれの HLA-DR アリルによる関節リウマチの罹りや
すさ(オッズ比)と IgGH/HLA-DR 分子複合体に対する