東京モーターショーから見えた 車の“未来”

東京モーターショーから見えた
車の“未来”
昨年11月23日∼12月1日の日程で、東京モーターショー2013が東京ビックサイトにおいて開催された。
世界12ヶ国から181ブランドが参加し、総来場者数は約90万人と前回(約84万人、2011年)を上回った。
「若者の車離れ」が言われ、来場者も1991年の約201万人をピークに減少傾向となっているが、実際訪れ
てみると会場は熱気に包まれており、若者含めて車に対する熱意が感じられた。
また、今回感じたことは、
電気自動車(以下EV)や燃料電池自動車(以下FCV)など次世代自動車がもはや遠い存在ではない
ことである。前回はまだ「夢」段階であったものが、今回は「現実」として目に見えるようになった。そこで、
東京モーターショーで展示された次世代自動車(EV、
FCV)
を紹介することで、車の“未来”
をお伝えしたい。
(1)
メーカー
EV
トヨタ自動車は、
EVよりもPHV、
HVおよびFCVがメイン
今回のモーターショーでは多くのメーカーでPHV
(プラグ
であったが、
EVでは超小型モビリティ(注1)
「i-ROAD」の
インハイブリッド車)が展示されていた。
PHVも次世代自動
展示があった。
このモビリティは2人乗りで、前2輪、後1輪
車の主力として今後普及をしていくだろうが、電源に繋ぐこ
という独特の形である。見た目「きちんと曲がるのか?」
とい
とができるHV
(ハイブリッド車)
ということで既に認知度が
う疑問が浮かぶが、曲がる時はバイクのように車体を傾け
高いと考えられるため、以 下では主に純 粋なEVを取り
るアクティブリーンという機構が作動し、安定して曲がるこ
上げる。
なお、会場は一通り巡ったものの、会場の広さと人
とができる。現在、豊田市において都市交通システム「Ha
:
の多さにより見逃しているものもあること、
ページ数に限りが
コムス
(後述)
を利用し
mo
(ハーモ)」の実証実験(注2)が、
あることから全てを紹介できないことをご了承願いたい。
て行われているが、今年初頭にはこの「i-ROAD」
も利用
トヨタ自動車「i-ROAD」
日産自動車「Bl
adeGl
i
der」
筆者撮影
(以下全写真筆者撮影)
37
A.トヨタ自動車
できるようになる予定である。
なお、
トヨタ自動車は、
「直感
1台目はコンセプトカー「Bl
adeGl
i
der」。運転席を中央に
で通じ合えるクルマ」をコンセプトとした「FV2」を出展して
置いた3シーターのEVで、上から見ると先端が狭い三角
いたが、見物客が多くて見ることができなかった。
形となっており、
ドラッグレース(注3)車両のような形。いかに
も空力が良さそうで、運動性能も高そうだ。
EVはガソリン
B.日産自動車
三 菱自動 車「i-MiEV」
( 2 0 0 9 年 発 売 開 始 )に続き、
車とは「走りが違う」
と言われるが、
まさにそれを実感でき
そうな車である。2台目は「e-NV200」。
これは現在販売さ
2010年に「リーフ」を発売した日産自動車。
リーフそのもの
れている「NV200バネット」のEV版である。主に商用車で
は直近の月販平均が1,000台程度とやや低調であるもの
の使用だろうが、商用車は1日当たりの走行距離やルート
の、
EVの「先駆者」
としてリーフ以外に3台展示があった。
がほぼ決まっているためEV向きと言われており、
e-NV
日産自動車「e-NV200」
200には期待できそうだ。今年度中に発売される予定で
ある。最後は超小型モビリティ
「NISSAN New Mob
i
l
i
ty
CONCEPT」。前後2人乗りの超小型モビリティで、街中
でのちょっとした移動にもってこいだ。現在、横浜市でこの
車を利 用したワンウェイ型カーシェアリング「チョイモビ
ヨコハマ」
という取組みが、今年11月までの予定で行われ
ている。
このような車が普 及してくると、移 動だけでなく
街そのものも変わっていくだろう。
C.ホンダ
ホンダブースでは、
「NSX CONCEPT」、
「HondaS660
Concept」
といったスポーツカーに注目が集まっていた。
EV
では、
ブース内ではないものの、超小型モビリティ
「MC-β」の
日産自動車「NISSAN New Mob
i
l
i
tyCONCEPT」
ホンダ「MC-β」
38
体験走行が行われていた。
これも、先の日産自動車のもの
版である。
「e-up!」は、搭載しているリチウムイオン電池容
と同じく2人乗りの超小型モビリティである。現在、熊本県、
量が18.7kWhで、最高出力は60kW、最大トルクは210N・m、
さいたま市、宮古島市(沖縄県)の各自治体と共同で社会
最大航続距離は160kmである(注4)。
「e-Go
l
f」は、搭載し
実証実験が行われている。
ているリチウムイオン電池容量が24.2kWhで、最高出力
は85kW、最大トルクは270N・m、最大航続距離は190km
D.VW
トヨタ自動車と自動車世界販売台数トップを争うVWは、
「e-up!」
と
「e-Go
l
f」を出展した。
これは、一昨年より発売
された小型自動車「up
!」
と世界的な人気車「Go
l
f」のEV
VW「e-up!」
である。
「e-up
!」は昨年欧州で発売開始となり、価格は
26,900ユーロ
(約370万円)、今年日本でも発売開始となる
予定である。
「e-Go
l
f」は今年欧州で、
日本では今年末∼
来年にかけて発売開始となる予定である。
E.スマート
(ダイムラーAG)
スマートは、高級車部門にメルセデス・ベンツを持つダイ
ムラーAGの子会社である。
スマートは、2012年に「smar
t
f
or
two e
l
ec
t
r
i
c dr
i
ve」の発売を開始したが、東京モー
ターショーでは、チューニングメーカーであるブラバスが開
発した「smar
tf
or
two BRABUSe
l
ec
t
r
i
cdr
i
ve」を公
開した。
リチウムイオン電池容量は17.6kWhで、最高出力
は60kW(ノーマル55kW)、最大トルクは135N・m
(同130
N・m)、最大航続距離は169km
(同181km)
である。精悍
な 外 見 は 、走りの 気 持 ちよさを物 語っており、EVの
「チューニング」
も今後続々と出てきそうだ。価格は399万
(注5)
円(ノーマル295万円)
で、全国限定80台の販売となる。
VW「e-Go
l
f」
39
smar
tfor
twoBRABUSe
l
ect
r
i
cdr
i
ve
F.BMW
BMWは、
今年4月に発売される
「i3」
を出展した。
搭載して
いるリチウムイオン電池容量は18.8kWhで、
最高出力は125
ンで発電用エンジンを搭載すると546万円となる。
EV市場が
期待したほど盛り上がっていない中、
VW、
BMWといった海
外勢の参入により、
ようやくEV市場が活気付きそうだ。
kW、最大トルクは250N・m、最大航続距離は160kmである。
この車の特徴は軽いこと。
CFRP
(炭素繊維強化プラスチッ
ク)製ボディとアルミニウム合金製のシャーシを組み合わせた
「L
i
f
eDr
i
ve」構造により、車両重量は1,260kgと日産自動車
のリーフ
(1,430kg)
より軽く、
走りは相当期待できそうだ。購入
申込み受付は既に始まっており、
価格は499万円で、
オプショ
BMW「i3」
コラム 自動運転
自動運転と言うと、雑誌等で目にする機会は増えた
ものの、
まだまだ遠い話と思うかもしれない。
しかし、例
えば海外ではグーグルが2009年から自社内で自動運
転の開発を進め、2012年からは公道で自動運転の
実験を開始、走行距離は60万km以上におよぶ。
また、
国内では日産が高速道路での自動運転の実証実験
をスタートさせており、
自動運転の法整備が前提条件
ではあるものの、2020年までに発売するとしている。
今回の東京モーターショーでは、
ビックサイト屋上展示
場において自動運転デモンストレーションが行われ、
試乗する機会を得た。
筆者が試乗したのは、東京にあるロボット技術を
ベースに自動運転等を研究・開発しているZMPの
「RoboCa
r® HV」
である。
コースは屋上展示場を一周
するもので、途中で人を認識、回避するというデモン
テスラ「Mode
lS」
ストレーションであった。期待半分不安半分で後部座
席に乗り込み、運転席に座っている方のスイッチオン
で自動運転がスタートした。アクセルを踏んでないの
に止まることなく進み、ハンドルに触れてないのにカー
ブを曲がっていく。人を認識、緊急回避も違和感なく
スムーズにこなし無事終了となった。
今回の試乗で自動運転の完成度が想像より高い
ことに驚いた。
もちろん、今回は閉鎖された決められた
ルートの走行であり、街中のような様々な自動車等が
混在している状況での自動運転のハードルは相当高
い。
しかし、技術面だけで考えると、完全自動運転まで
いかなくとも、
ドライバーをサポートするような半自動運
転の実用化はそれほど遠くないのではないかと感じた。
40
G.テスラ
である。最大航続距離は370∼480kmとガソリンエンジン
2008年に最初の生産車両「Roads
t
ar」を発売したテ
車並み、最高出力は225∼310kW、最大トルクは430∼
スラは、
アメリカのEVベンチャー企業である。同時期には
600N・m、0-97km/h加速は4.2∼5.9秒、最高速度は193
少なくないPHVを含めたベンチャー企業が設立されたも
∼210km/hと性能はスポーツカー並みである。テスラ車
のの、
メーカーとして今なお存在感があるのはテスラくらい
は、
アメリカのセレブの間で大人気だそうだが、
この人目を
である。そのテスラは、今春にも日本導入予定の5ドアハッ
引くデザイン、高い走行性能で、
日本でも人気となりそうだ。
チバックセダン「Mode
l S」を出展した。搭載しているリチ
ウムイオン電池容量は60kWhと85kWhの2仕様で、
アメリ
カでの価格は69,900ドル、79,900ドル(約720、820万円)
トヨタ車体「コムス」
(右)
とトヨタ自動車「i-ROAD」
(左)
(2)
メーカー以外でのEV出展
EVはガソリンエンジン車のような垂直・摺り合わせ産業
ではなく、パソコンのような水平・組立て型産業である。そ
のため、商品となる「車」を製造できるかは別として、企業
規模、業種問わず参入しやすい市場である。今回のモー
ターショーでは、超小型モビリティではあるが、いくつかの
中堅・中小企業から出展があったので紹介する。いずれも
既存の車にこだわらない斬新なモビリティである。
A.
トヨタ車体
2012年7月に発売開始したコムスは1人乗りの超小型
モビリティである。セブンイレブンが宅配用として採用した
ため、街中で見かけた方もいるかもしれない。現在、一般
向けの「P・COM」、業務用の「B・COM」が販売されてい
るが、東京モーターショーでは前後2人乗りモデル「T・CO
DURAX
「D-face」
41
プロッツァ
「Peco
l
o」
M」を初公開した。車は、
日常1人で乗る事が多いと思わ
(西宮市)、
U
‘eyes Des
i
gnInc.(横浜市)の3社が立ち
れるが、1人乗りはやはり制約が大きく市場は小さいと考え
上げたものである。ちなみに、
D Artは前 2 輪、後 1 輪の
られる。2人乗りであれば利用の制約が少なく、購入層が
トライクバイク(注6)
「鋼-HAGANE-」を製造、販売している
広がることが予想される。現在、
コムスは前述の豊田市で
ことでご存知の方もみえるかもしれない。そのDURAXは、
の実証実験「Ha
:mo
(ハーモ)」で使用されているため、
超小型モビリティ
「D-Face」を出展した。
このモビリティの
ご興味があれば一度利用してみてはいかがだろうか。
特徴は車両前部が開閉し、そこから乗り込むことである。
このことによって、乗り降りの身体負荷が少なく、雨の日の
B.DURAX LLP
(有限責任事業組合)
DURAX LLPは、
D Ar
t
(関市)
、
De
s
i
gn&Rea
l
i
za
t
i
ons
テラモーターズの電動3輪車
乗り降りも快適だ。
また、中の計器はタブレットPCであり、
車の未来を先取りした感じだ。
EVと発電機搭載のものを
検討中で、2014年モニター販売、2015年に量産開始予
定である。筆者は超小型モビリティ含め数多くのEVを見
てきたが、
このモビリティは非常にユニークで早く街中を
走り回る姿を見てみたいと思った。
C.プロッツァ、
テラモーターズ
プロッツァは一宮市にある会社で、2013年にカー用品業
者であるプロスタッフのEV事業が独立したものである。
テラ
モーターズは電動バイク製造等を手掛ける東京の会社で
ある。新興国では、
自動車の普及とともに排気ガス等による
大気汚染等が問題となっており、
タクシーの電動化などが
進められているが、
この2社の電動3輪車はこれに対応した
もので、
それぞれフィリピンで導入されている、
または導入予
コボット
「KOBOT θ」
トヨタ「FCV CONCEPT」
42
定である。法規制等で日本での販売は難しいと思われるが、
の優位性を保つことができる。今回のモーターショーでは
日本でも観光地等をこの電動3輪車で巡ってみたいものだ。
市販レベルのFCVが登場し、普及へ向けて第一歩が記
された。ただし、
FCVはインフラ等を「ゼロ」から造らなけ
D.コボット
ればならないという大きな課題がある。
コボットは、名古屋市の医薬事業等を手掛ける興和と
宗像市(福岡県)のロボット開発・製造・販売を手掛けるテ
ムザックが合弁で2011年に設立した「興和テムザック」が
(1)
トヨタ自動車
今回のトヨタ自動車の目玉はFCV
「FCV CONCEPT」
2012年に社名変更した会社である。前回の2011年東京
である。
トヨタは、2008年に特定ユーザー向けに「FCHV-
モーターショーでも出展していたが、今回は最新モデルを
adv」を発売しているが、
これはそれを進化させたもので
出展した。
コボットは、
自動車メーカー以外の企業が製作
ある。搭載している燃料電池は、小型・軽量化が図られな
した組立車として全国初で九州運輸局から超小型モビリ
がらも出力を向上させており、実用航続距離は500km以
ティ認定を受けたものであり、現在、宗像市と糸島市(福
上、水素充填時間は約3分とガソリンエンジン車並みの性
岡県)において実証実験が進められている。
日常使用で
能である。すぐにでも市販可能なレベルであると感じたが、
はこのような超小型モビリティで充分であり、今後このよう
市販は2015年予定。価格は未定であるが、
トヨタはプリウス
な超小型モビリティが普及すれば、交通システムそのもの
発売時に思い切った価格設定をした過去があり、今回も
も大幅に変わっていくだろう。
同じ戦略を取る可能性もある。次世代車に関しては、
FCV
は次世代車の本命と言われながら、
EVに比べると
「遅れて
FCV
(燃料電池自動車)
性能を考えると、
ガソリンエンジン車の代替となる次世
いる」感じを受けていた。
しかし、
「FCV CONCEPT」によりよ
うやく市販の道が見え、普及へ向けてスタートを切ったと
言える。
代自動車はFCVであろう。
また、
FCVはEVと違い従来の
摺り合わせ型であり、高度な技術を必要とするため、
日本
ダイハツ「FC 凸 DECK」
(2)
ダイハツ
ダイハツは、
コンセプトカー「FC 凸 DECK」を出展した。
これは、独自技術の貴金属フリー液体燃料電池を搭載し
た軽規格のFCVである。
FCVが高額なのは、燃料電池
に触媒として白金を使用していること、水素タンクに炭素
繊維強化プラスチック等を使用していること等が要因で
あるが、
ダイハツの燃料電池は貴金属フリーかつ燃料が
液体ということで低コスト化が可能だ。
また、燃料タンクを
使用できるため、
コンパクト化も可能である。
FCVは、燃料
電池や水素タンクなど大きな構成部品が必要であるため、
採用されるのは中型車以上と思っていたが、
このシステム
なら軽規格でも充分である。近い将来、軽FCVが発売さ
れれば、次世代車を巡る競争が一段と激化しそうだ。
なお、
ダイハツではこの技術を利用した発電機も出展しており、
車だけでなく様々な分野へ拡がっていくことが期待できる。
43
まとめ
冒頭にも記したが、2年前の前回と比べると次世代自動
車はもはや夢ではなく現 実ということを感じるモーター
ショーであった。訪れた人の数と熱気はこれから車に起こ
る変化への期待を表しているのではないだろうか。
今回はEVとFCVのみ取り上げたが、展示車はもはや
HV、
PHVは当たり前で、車の「電動化」が急速に進んで
いること、車単体ではなくインフラ等様々なものに繋がる新
しい社会の到来を感じた。ただし、車の電動化が進むと
いうことは、既存の自動車産業の有り方も変わるということ
だ。その変化に対応するための時間的な猶予は、
もはや
残り少ないのではないかと強く思ったモーターショーで
あった。
(注1)国土交通省の定義では、
自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境
性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1∼2人乗り程度の車両
のこと。
(注2)
トヨタ自動車が2012年10月より豊田市で実証運用している都市交
通システム。
「Ha
:mo」は、
クルマなどと公共交通の最適な組み合わ
せによって、人にも街にも社会にも優しい移動の実現を目指す交通
サポートシステムの総称。道路状況や公共交通機関の運行状況に
応じてCO2 排出量と利便性の双方に配慮し最適な移動手段の情
報提供を行う
「マルチモーダルルート案内」、並びに都市内の近距
離移動ニーズに対応する小型EVシェアリングサービス「Ha
:mo RI
DE」
を提供している。
(注3)直線上で停止状態からスタートし、
ゴールまでの時間を競う競技。
距離は1/4マイル
(約400m)
で行われることが多い。
(注4)
日産リーフは、搭載しているリチウムイオン電池容量が24kWhで、
最高出力は80kW、最大トルクは254N・m、最大航続距離は228km
である。
(注5)
EVの価格はカタログ価格。
クリーンエネルギー自動車等導入対策
費補助対象車両であれば、購入の際には補助金が交付される。
現在は、25年度の補助金が期間延長となった。
なお、補助金につ
いて詳細は一般社団法人次世代自動車振興センターHPを参照
(http://www.cev-pc.or.jp/index.html)。
(注6)
いわゆる三輪バイクで、多くが前一輪、後二輪である。
ここの「鋼-H
AGANE-」は前二輪、後一輪で「逆トライク」
とも呼ばれる。
(2014.2.26)共立総合研究所 調査部 河村 宏明
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