Science 2014 年 4 月 25 日号ハイライト

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Science 2014 年 4 月 25 日号ハイライト
なぜそんなに明るいのか ―― 超高輝度超新星の謎を解く
ツェツェバエのゲノムが睡眠病との闘いに役立つ
有史以前の農耕民と狩猟採集民との遺伝的差異
土壌炭素に対する大気中二酸化炭素の影響
なぜそんなに明るいのか ―― 超高輝度超新星の謎を解く
Why So Bright -- Solving the Puzzle of a Superluminous Supernova
新しい研究の報告によると、異常に明るい超新星があれほど輝いているのは、その手前にあ
るレンズによって光が増幅されているからだという。今回のレンズ発見により、天文分野の
重要な論争が決着する。2013 年に、ある研究者チームが報告した超新星 PS1-10afx は、同種
の他の超新星より明るく輝いていた。その並外れた輝きに多くの人は頭を悩ました。その結
果、非常に明るい新型の超新星であると結論付ける者もいる一方で、標準的な Ia 型超新星
(SNIa)が(近傍にある超大質量ブラックホールという)レンズによって拡大されたものだ
と言う者も現れた。Robert Quimby らは、もし超新星を拡大している重力レンズが存在した
ならば、超新星の消滅後もそこに存在するはずだと確信していた。そこで、レンズの痕跡を
調べるべく、超新星のあった場所をもう一度観測して新たにより良いデータを入手するため
に、ケック I 望遠鏡を利用して PS1-10afx の母銀河および近傍天体を観測した。彼らは PS110afx の最大輝度時の分光データを、消滅後のデータと比較した。もし、明るい期間に別の
銀河が PS1-10afx と同時に存在し、レンズとして機能していたならば、2 組のガス輝線が見
えることが予想される ―― そして、彼らはまさにこの現象をとらえた。このような方法で、
彼らは別の銀河が PS1-10afx のすぐ手前に存在して、ちょうどいい角度と距離で超新星の光
を増幅し、拡大鏡のような働きを果たしていたと推測した。このことが先行研究で見逃され
ていたのは、母銀河内にある超新星のまぶしい光にレンズの光がかき消されていたからだと
いう。今回確認されたレンズは Ia 型超新星を強力に増光した初の例である。Ia 型超新星
(レンズ効果を受けたものも含む)の挙動は遠方銀河までの距離測定に役立つため、今回の
発見により、レンズ効果を受けた今後の超新星現象を利用して、宇宙膨張を測定できるよう
になる可能性がある。
Article #10: "Detection of the Gravitational Lens Magnifying a Type Ia Supernova," by R.M.
Quimby; M. Oguri; A. More; S. More; M.C. Werner; G. Folatelli; M.C. Bersten; K. Nomoto at The
University of Tokyo in Kashiwa, Japan; R.M. Quimby; M. Oguri; A. More; S. More; M.C. Werner; G.
Folatelli; M.C. Bersten; K. Nomoto at Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe
(WPI) in Kashiwa, Japan; M. Oguri at The University of Tokyo in Tokyo, Japan; T.J. Moriya at
University of Bonn in Bonn, Germany; T.J. Moriya at Graduate School of Science University of
Tokyo in Tokyo, Japan; M.C. Werner at Duke University in Durham, NC; M. Tanaka at National
Astronomical Observatory of Japan in Tokyo, Japan; K. Maeda at Kyoto University in Kyoto, Japan.
ツェツェバエのゲノムが睡眠病との闘いに役立つ
Tsetse Fly Genome Could Help Combat Sleeping Sickness
ツェツェバエはサハラ以南のアフリカ全域でトリパノソーマ症(ヒトの睡眠病と家畜のナガ
ナ病)の原因になる原生寄生虫を媒介する。今回、新たにツェツェバエのゲノムの配列決定
が行われたことにより、この特異な昆虫に新たな光があてられ、またその伝播する致死的な
疾患に関する研究の基礎が築かれた。世界中の研究者から構成される International Glossina
Genome Initiativ は、366 メガ塩基対から成るツェツェバエ(Glossina morsitans morsitans)の
ゲノムを公表した。ツェツェバエは血液のみを栄養とし、生きた幼虫を体内で孵化させ、発
達する幼虫に哺乳類の母乳と類似したタンパク質の合成物で育てる。他のジャーナルに関連
論文 11 報を発表している研究者らは、ツェツェバエが栄養物として、血液からは得られな
い多くの共生細菌に依存していることを明らかにした。また、ツェツェバエはその進化の過
程で、そうした共生細菌、例えばボルバキアや、寄生蜂に由来する未特定のいくつかのウイ
ルスの染色体の一部を取り込んできたことも示唆された。研究者らによれば、ツェツェバエ
の乳は有胎盤哺乳類や有袋類の乳ときわめてよく似ているが、これに関連する 12 の遺伝子
は、乳を産生する雌のすべての転写活性のほぼ半分に関与しているという。また、ツェツェ
バエは速く飛ぶイエバエやクロバエと似た視覚系をもっているようであり、ツェツェバエを
捕えて殺すために用いられる青色や黒色のトラップに引き寄せられる理由を説明する助けに
なるという。しかし、厳格に決められた食物や狭い宿主の範囲と一致して、ツェツェバエの
ゲノムには、ショウジョウバエ属などの近縁種と比較して感覚および免疫反応に関与する遺
伝子が少ない。
Article #8: "Genome Sequence of the Tsetse Fly (Glossina morsitans): Vector of African
Trypanosomiasis," by International Glossina Genome Initiative at International Glossina Genome
Initiative in.
有史以前の農耕民と狩猟採集民との遺伝的差異
The Genetic Differences between Prehistoric Farmers and Foragers
欧州において石器時代の狩猟採集民はどのように農耕生活へと切り替わって行ったのか。こ
れは長年にわたり集団遺伝学者らで意見が分かれている問題で、その推進要因は移住だと言
う学者もいれば、文化の伝播だと言う学者もいる。今回、新しい遺伝学研究では、このいわ
ゆる新石器時代への移行について、狩猟採集民の祖先の遺伝子を拡大した農耕民集団のもの
と比較して調査している。Pontus Skoglund らはスウェーデンで発掘された石器時代の狩猟採
集民 7 名と石器時代の農耕民 4 名のゲノムを拡大し、彼らの遺伝的差異と現代の欧州人のも
のとを比較した。その結果、石器時代の狩猟採集民と農耕民は今日の欧州人以上に遺伝的に
離れていること、および、遺伝子は有史以前の狩猟採集民から農耕民へと受け継がれる傾向
にあり、その逆はないことが判明した。石器時代の人々の遺伝的多様性については狩猟採集
民の方が農耕民よりもかなり低く、このことは、狩猟採集民の方が農耕民よりも歴史的に人
口が少なかったことを示唆している。Skoglund らによるとこの農耕への移行には気候も一翼
を担ったと考えられ、初期の農耕民がより暖かい気候を享受し、狩猟採集民はより寒い地域
に追いやられたと Skoglund らは推測している。以上のことから、今回の研究結果により、
有史以前の欧州における人間集団の遺伝的状況を示す図が作成された。
Article #17: "Genomic Diversity and Admixture Differs for Stone-Age Scandinavian Foragers and
Farmers," by P. Skoglund; H. Malmström; T. Günther; M. Jakobsson at Uppsala University in
Uppsala, Sweden; A. Omrak; J. Storå; A. Götherström at Stockholm University in Stockholm,
Sweden; M. Raghavan; E. Willerslev at Natural History Museum of Denmark in Copenhagen,
Denmark; M. Raghavan; E. Willerslev at University of Copenhagen in Copenhagen, Denmark; C.
Valdiosera at La Trobe University in Melbourne, VIC, Australia; P. Hall at Karolinska Institutet in
Stockholm, Sweden; K. Tambets; J. Parik at Estonian Biocentre in Tartu, Estonia; K. Tambets; J.
Parik at University of Tartu in Tartu, Estonia; K.-G. Sjögren at University of Gothenburg in
Gothenburg, Sweden; J. Apel at Lund University in Lund, Sweden; P. Skoglund at Harvard Medical
School in Boston, MA.
土壌炭素に対する大気中二酸化炭素の影響
How Carbon Dioxide in the Atmosphere Affects Carbon in the Soil
大気中の CO2 濃度が上がるにつれて、土壌の炭素が(CO2 に戻す働きをする)微生物によっ
て分解されるスピードが増していることが最新の研究で報告されている。これは、過去に考
えられていたほど大量の炭素を土壌に貯留できない可能性を示唆している。ほとんどの地球
システムモデルでは、大気中の CO2 の増加により光合成が促されることで植物の CO2 の吸
収量が増え、その代わりに大気中の CO2 濃度が減少すると推定されている。しかし、大気中
の CO2 増加が土壌炭素の分解速度にも影響を与えるかどうかについては、はっきりしない点
が多い(植物が朽ちていくことで土壌炭素がもたらされる)。大気中の CO2 が増加すること
で土壌炭素の貯留量も増加し、炭素貯留プロセスに恩恵をもたらすと考える専門家もいる。
この疑問を明らかにするため、Kees Van Groenigen らは 50 件以上の CO2 濃縮実験の結果を調
査し、土壌-炭素循環モデルを使用してこれらの解析を行った。草地や森林、耕作地を調査
した結果、CO2 の濃縮は土壌炭素に植物が朽ちて戻るスピードとほぼ同スピードで土壌炭素
の分解を促進することが明らかになった。Van Groenigen らは、この事象が発生し得るいく
つかのプロセスを論じている。さらに、これらのプロセスが地球規模で起こる可能性がある
ことを示している。これまでの地球システムモデルは土壌炭素の分解に対する CO2 の影響を
考慮していないため、これはタイムリーな情報であるという。そして、モデルに反映されて
いないが故に、大気中の CO2 濃度が上昇する中で土壌中に捕えられている炭素の量が過大評
価されている可能性があると彼らは指摘している。
Article #14: "Faster Decomposition Under Increased Atmospheric CO2 Limits Soil Carbon Storage,"
by K.J. van Groenigen; B.A. Hungate at Northern Arizona University in Flagstaff, AZ; K.J. van
Groenigen at Trinity College Dublin in Dublin, Ireland; X. Qi; Y. Luo at University of Oklahoma in
Norman, OK; C.W. Osenberg at University of Florida in Gainesville, FL; Y. Luo at Tsinghua
University in Beijing, China.
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