25 - 名古屋大学理学研究科高エネルギー素粒子物理学研究室

Triggering Challenge
名古屋大学 堀井泰之
日本物理学会 2014年秋季大会
!
素粒子実験領域,素粒子論領域合同シンポジウム
HL-LHC:ハドロンコライダーの将来と技術革新
!
2014年9月20日
2 /25
はじめに
3 /25
ATLAS実験におけるトリガーの役割
proton - (anti)proton cross sections
9
9
10
10
8
10
7
10
Tevatron
LHC
10
6
5
10
1秒あたりに保存するデータ量は、
σb
4
10
3
σ (nb)
2
1事象のデータ量:~1.3 MB。
4
10
3
10
10
jet
~300 MBに抑える必要がある。
10
σjet(ET
> √s/20)
σW
σZ
10
> 100 GeV)
10
1
10
0
10
jet
σjet(ET
2
10
1
0
-1
10
-1
-2
10
10
陽子・陽子衝突の頻度:40 MHz。
!
5
10
2008 JINST 3 S08003
σWW
-3
10
{
-4
-5
-3
10
σ
σZZt
σggH
10
10
データを保存する事象を選別する。
-2
10
MH=125 GeV
-4
10
σWH
-5
10
σVBF
-6
10
-6
10
WJS2012
-7
10
この役割を担うのが、「トリガー」。
-2 -1
6
10
!
7
10
33
全断面積の間に、大きな開きがある。
8
σtot
10
events / sec for L = 10 cm s
興味のある反応の断面積と
0.1
-7
1
√s (TeV)
10
10
14 TeV
James Stirling, Imperial College London,
http://www.hep.ph.ic.ac.uk/~wstirlin/plots/plots.html
ATLAS実験におけるトリガーの判定基準
4 /25
興味のない事象の多くは、低い横運動量を持つ粒子から成る。
トリガーの基本的な判定基準:高い横運動量を持つ粒子の検出。
検出粒子に応じた名称が存在:
光子トリガー, 電子トリガー, ミューオントリガー, ジェットトリガー, …
H→γγ候補
H→ZZ→eeμμ候補
ミューオン
トリガー
光子トリガー
電子トリガー
ATLAS実験におけるトリガーの概要
陽子陽子交差頻度:40 MHz
レベル1トリガー:
カロリメータとミューオン測定器を
用いたハードウェアでの高速判定。
75-100 kHz (2.5 μsec)
レベル2トリガー:
興味のある領域を、計算機で解析。
~ 3.5 kHz (~40 msec)
イベントフィルター:
全領域を、計算機でより詳細に解析。
~ 200 Hz (~ sec)
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2008 JINST 3 S08003;
ATLAS TDR Level-1 Trigger
6 /25
HL-LHCにおけるトリガーの課題
7 /25
重心系エネルギー:14 TeV
ピークルミノシティ:5 x 1034 cm-2s-1
想定される開始時期:2025年頃
2035年頃までに、積分ルミノシティ
3000 fb-1のデータを蓄積したい。
積分ルミノシティ [fb-1]
High-Luminosity LHC (“HL-LHC”)
HL-LHCを導入する
3000
2000
1000
場合の想定
LHCに対する想定
2015
2025
2035
西暦
ルミノシティを増強し、ヒッグス結合定数の精密測定や
より感度の高い新物理探索を行う。
8 /25
HL-LHCにおける物理とトリガー
1
WW
bb
gg
10-1
新物理探索
LHC HIGGS XS WG 2013
Higgs BR + Total Uncert
ヒッグス精密測定
ZZ
SUSY探索
ジェットトリガー
電子トリガー
cc
10-2
ミューオントリガー
質量欠損トリガー
Z
タウトリガー
10-3
10-480
100
120
140
光子トリガー
gKK, Z’探索
160
トップFCNC探索
MH ~ 125 GeV
180
200
MH [GeV]
…
電子トリガー
ミューオントリガー
多彩な生成・崩壊プロセスに対する精密測定や探索を行いたい。
各種トリガーが、重要な役割を担う。
改良なしの場合のレベル1トリガー発行頻度
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右の表は、トリガー改良なしのとき
HL-LHCで想定されるATLAS実験の
レベル1トリガー発行頻度を示す。
!
ルミノシティ7 x 1034 cm-2s-1を仮定。
!
ジェット・質量欠損の発行頻度は、
他との比が現行と同程度になる
として計算。
“Letter of Intent for the Phase-II Upgrade of the
ATLAS Experiment”, CERN-2012-022, LHCC-1-023
現行のレベル1データ輸送幅の上限(75-100 kHz)を、
大幅に上回ってしまう。トリガー改良が必須。
10 /25
HL-LHCに向けたトリガー改良
ー概要ー
横運動量pT:運動量ベクトルの
ビーム軸に垂直な成分の大きさ。
!
アクセプタンス:生成された粒子
アクセプタンス
トリガー改良を考える上での前提
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のうち、ある要求を満たす粒子の率。
右のミューオンの例の場合、
トリガー発行頻度を下げるために
仮にpT閾値20 GeVを30 GeVに上げると、
ミューオンのpTに対する アクセプタンスが20-50%程減ってしまう。 要求の下限値 [GeV]
興味のある物理過程を落とさないために、低いpT閾値を保ちたい。
12 /25
HL-LHCに向けたトリガー改良の方向性
ミューオン カロリメータ トラッカー
レベル1トリガーの
バッファを大きくし、
アルゴリズムを改良し、" レベル1
レベル1トリガーに"
低いpT閾値を維持しつつ
トリガー
かける時間を増やす。
トリガー発行頻度を削減。
3 μs → 20-30 μs
ミューオントリガー改良,"
カロリメータトリガー改良,"
データ輸送幅を強化し、"
トラックトリガー導入, …
より多くの事象を後段の"
ソフトウェアトリガーに。
75-100 kHz → 200-400 kHz
HL-LHCにおけるATLAS実験のトリガーのブロック図
13 /25
LHCにおける判定をレベル0として行う。 より厳しい要求をレベル1で課す。
6 μsec
500-1000 kHz
20-30 μsec
200-400 kHz
MDT Trigger may be!
included in Level-0.
レベル0で要求を
満たす事象・領域に
対して、レベル1の
判定を行う。
HL-LHCにおけるATLAS実験のトリガーのブロック図
14 /25
LHCにおける判定をレベル0として行う。 より厳しい要求をレベル1で課す。
6 μsec
500-1000 kHz
ミューオントリガー改良
トラッカートリガー導入
カロリメータトリガー改良
20-30 μsec
200-400 kHz
MDT Trigger may be!
included in Level-0.
レベル0で要求を
満たす事象・領域に
対して、レベル1の
判定を行う。
15 /25
HL-LHCに向けたトリガー改良
ー各パートの紹介ー
ATLAS日本グループの貢献を中心に紹介。
これまで貢献してきたミューオンを軸として。
新たにカロリメータ・トラッカーにも貢献。
16 /25
ミューオントリガー改良 概要
トリガー用測定器(位置分解能 ~ cm)を用い、これまでと同等の選別を行う。
精密位置測定器(位置分解能 < mm)を、新たにレベル1トリガーに導入。
精密位置測定器
トリガー測定器
µ
トリガー
測定器
磁場
精密位置
測定器
トリガーを通る候補数
運動量を低く見積もることで発行される「偽のトリガー」を除外する。
改良前 改良後
ミューオンの横運動量pT [GeV]
2カ所で飛跡を検出。
pT閾値20 GeVのミューオン
磁場中での曲がり具合を利用。
トリガーの発行頻度を半減。
17 /25
ミューオントリガー改良 回路開発
レベル1の発行時間内(20-30 μsec)に、早い飛跡構成を行う。
精密位置
測定機
ドリフト
チューブ
ドリフト時間測定の
データを回路室へ。
トリガー
測定器
早い飛跡構成。
トリガー判定。
興味のある領域。
ドリフト時間測定
のための時間原点。
ATLAS日本グループが、
早い飛跡構成の
汎用ボードを用いた
シミュレーション
試験を進行中。
も進行中。
18 /25
カロリメータトリガー改良 概要
検出器は変えずに、電子回路の入れ替えを行うことで、
トリガーにおけるエネルギー測定の領域分けを詳細にする。
位置分解能向上。電子とジェットの識別効率向上。
現行のレベル1
0.1 x 0.1 (η x φ) 内の
2018年以降のレベル1
(HL-LHCでのレベル0)
HL-LHCでのレベル1
和をとらずに、フルに
エネルギー和を用いる。 0.1 x 0.1, 0.025 x 0.1で4層。 分割された領域を利用。
ηの幅0.1
φの幅0.1
ηの幅0.1
φの幅0.1
(ET = 70 GeVの電子検出の例)
ηの幅0.1
φの幅0.1
η: 擬ラピ
η: 擬ラピディティ, φ: 方位角
カロリメータトリガー改良 回路開発
19 /25
2018年に
導入する部分。
HL-LHCでも
本学会
20aSG参照
ATLAS日本グループが開発に貢献。
波形解析、エネルギー算出を行う。
陽子・陽子交差あたりの相互作用数
が増えることによる影響を加味。
利用する予定。
20 /25
トラッカートリガー導入 概要
シリコン検出器の情報を使い、ハードウェアでトラック検出を行う。
ヒット情報を、事前に
用意したパターンと比べ、
トラック探索。
FPGAで、フィットを
トリガー発行頻度 [/秒]
電子・タウなど多くの対象に対し、トリガー発行頻度を大きく削減。
トラック情報なし
トラックあり
横エネルギーET [GeV] 行って、トラック構成。
電子トリガーの発行頻度削減。
2016年から稼働予定。~100 μsecで全領域のトラックを構成し、後段トリガーへ。
HL-LHCでは、レベル1トリガーで使用する予定。
21 /25
トラッカートリガー導入 回路開発
本学会18pSH参照
ATLAS日本グループが開発に貢献。
ピクセル・ストリップから情報を
受信し、クラスタリングを行う。
2015年に導入する予定。
HL-LHCへの足がかり。
改良後に想定されるレベル1トリガー発行頻度
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右の表:HL-LHCにおいて
トリガー改良後に想定される
レベル1トリガーの発行頻度。
ルミノシティ7 x 1034 cm-2s-1を仮定。
“Letter of Intent for the Phase-II Upgrade of the
ATLAS Experiment”, CERN-2012-022, LHCC-1-023
レベル1データ輸送幅からの制限(< 200-400 kHz)を満たす。
23 /25
おわりに
24 /25
拡張性
HL-LHC 14 TeV HE-LHC 33 TeV
Rende Steerenberg, CERN, Rencontres du Vietnam 2013
VHE-LHC 100 TeV
HL-LHCに向けたトリガーの開発は、将来のハドロンコライダー
におけるトリガー構築に向けたステップとなりうる。
まとめ
25 /25
HL-LHCに向けて、トリガーの改良は必須。
ATLAS実験では、以下の改良を行う計画。
レベル1トリガーの発行頻度を大きくし、より多くの事象を、
後段のソフトウェアトリガーにおける効率的な判定にかける。
レベル1トリガーの発行時間を大きくし、レベル1トリガーの
ロジックを改良する。
ALTAS日本グループは、ミューオントリガー改良を中心に、
カロリメータトリガー改良・トラッカートリガー導入にも貢献。
HL-LHCでのトリガーの実現に向けて、準備・開発が進行中。
26 /25
予備のスライド
27 /25
レベル1トリガー発行頻度の比較
トリガー改良前
トリガー改良後
レベル1トリガー
発行頻度
レベル1トリガー
電子・光子
200 kHz
電子
40 kHz
光子
10 kHz
ミューオン
10 kHz
タウ
20 kHz
ミューオン
タウ
レプトン対
> 40 kHz
50 kHz
100 kHz
レプトン対
発行頻度
< 5 kHz
ジェット・質量欠損
~ 100 kHz
ジェット・質量欠損
~ 100 kHz
合計
~ 500 kHz
合計
~ 200 kHz
ミューオンの横運動量と断面積の関係
横運動量pTに対して
!
pT > X [GeV]
!
という要求をすることで、
興味のある事象に対する
アクセプタンスを保持しつつ、
興味のない事象を除外できる。
ATLAS Muon Spectrometer TDR
28 /25
ミューオントリガー HL-LHC以前の改良
29 /25
2012年まで(Run 1)のトリガー:"
2015年以降(Run 2)のトリガー:"
複数層のRPC(バレル)、TGC
内層のTGC、カロリメータのヒット
(エンドキャップ)による位置測定。
とのコインシデンスを追加。
参考:2008 JINST 3 S08003
Run 1
参考:ATLAS-TDR-023-2013
2020年以降(Run 3)
のトリガー:
内層のミューオン検出
Run 1
Run 3
Run 2
器を入れ替え、内層に
おけるベクトル情報
(~1 mrad)を追加。
New small wheel
( Run 3 - )
参考:ATLAS-TDR-020-2013!
ATLAS-TDR-023-2013
ミューオン精密位置測定器MDT (Monitored Drift Tube)
Tube material
Outer tube diameter
30 /25
Al
30 mm
Wire material
Gold-plated
W/Re (97/3)
Wire diameter
50 μm
Gas mixture
Gas gain
Ar/CO2 (93/7)
2 x 10
Maximum drift time
~700 nsec
Resolution per tube
~80 μm
Position and angle are “monitored”
for obtaining the required resolution.
バレル
エンド
キャップ
NSW
バレル
ミューオン候補数
MDT chambers
角度差(ラジアン)
ミューオントリガー改良 コンセプト
LHCでの要求を満たす
31 /25
想定する角度分解能:~1 mrad。
エンド
キャップ
オフライン解析での1/pT [GeV-1]
ミューオン候補数
2つの線分の角度差を用いる。
小さな角度差:高い運動量。
LHCでの要求を満たす
(磁場中)
角度差(ラジアン)
オフライン解析での1/pT [GeV-1]
ミューオントリガー改良 期待される性能
32 /25
ミューオン候補数 / 0.06 実データを用い、pT閾値20 GeVのミューオントリガーに対して性能を評価。
HL-LHC前に
想定される要求後
磁場が弱い領域に
対するマスク後
精密位置測定器を
用いた要求後
オフライン解析で
pT > 20 GeVの候補
擬ラピディティ(ミューオンの飛行方向を示す。) 精密位置測定器を用いた要求を行う事で、
レベル1ミューオントリガーの発行頻度を半分程に削減できる。
33 /25
カロリメータトリガー改良 概要
検出器は変えずに、電子回路の入れ替えを行うことで、
トリガーにおけるエネルギー測定の領域分けを詳細にする。
0.1 (η)
0.1 (φ)
現状
レベル0
レベル1
(電磁カロリメータの2層目)
レベル0で、3 x 2領域と7 x 2領域のエネルギー比を用いることで、
電子トリガーの発行頻度を1/3-1/4にできる。レベル1でさらに向上。
34 /25
カロリメータトリガー改良 ブロック図
すべてのセルのデータ処理
HL-LHCで
導入(交換)
レベル1
現行のトリガー部。
フルに細分化された
データを使用。
(アナログ和利用。)
取り除く。
2018年に導入
(アナログ和)
レベル0
0.1 x 0.1や
0.025 x 0.1の和
を使用。
35 /25
レベル1カロリメータトリガー
HL-LHCにおけるレベル1カロリメータトリガーでは、
フルに細分化されたデータにアクセスできる。
したがって、エネルギーと位置の測定精度が向上。
レベル1カロリメータトリガーの出力は、電子・光子、
タウ、ジェットのオブジェクト。それぞれ、横エネルギー、
精密な位置、複数のエネルギー和の情報を提供。
π0→γγの識別も
効率的に行える。
カロリメータトリガー改良 パイルアップ耐性
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左図は、バンチ衝突あたりの
相互作用数の平均80に対する
シミュレーション。
!
より細分化された領域に対する
エネルギーを用いることで、
バンチ衝突あたりの相互作用数
の増加に対する耐性が向上する。
トラッカートリガー導入によるタウトリガー改善
37 /25
同じレベル1の
発行頻度を仮定
したときのタウの
検出効率が、
飛躍的に向上。
トポロジカルトリガー
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Thorsten Wengler
ECFA HL-LHC Experiments Workshop
1st – 3rd October 2013
後段トリガー(ソフトウェアトリガー)
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レベル1トリガーの発行頻度:200-400 kHz
後段トリガーの発行頻度(データ保存の頻度):5-10 kHz
後段トリガーの除去率:20分の1から80分の1
!
10年後までに期待される計算機の発展を生かし、
よりオフラインに近い解析を行う。
多数のコアを同時に使用し、プロセスをパラレルに走らせる。
40 /25
HL-LHCに向けた暫定的タイムライン
物理研究
デザイン検討
TDR
準備
R&D
建設
インストール
試運転
運転
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026
LHC Run 2
LHC Run 3
HL-LHC