パルスレーザ堆積法による BiMO3(M=Fe, Fe1

パルスレーザ堆積法による BiMO3(M=Fe, Fe1-xMnx)酸化物薄膜の作製と評価
Preparation and Evaluation of BiMO3(M=Fe, Fe1-xMnx) Thin Films
Grown by Pulsed Laser Deposition Method
日本大学理工学部 電子情報工学科
0014 番 稲葉隆哲
Department of Electronics & Computer Science,
College of Science & Technology, Nihon University,
B4, Takaaki Inaba
Abstract:本研究では超格子構造と呼ばれる結晶格子に、マルチフェロイック物質のような複数の性質をもつデバ
イス作製の実現を期待している。本報告では、人工超格子作製への足掛かりとして、SrTiO3(STO)(001)及び(110)面
基板上に成膜した BiMO3(M=Fe, Fe1-xMnx) 薄膜の結晶構造や表面状態等の評価を行った。
BFO/STO(001)薄膜では、成膜後の薄膜表面にはステップテラス構造は確認できず長方形状のグレインが確認でき
た。また Reciprocal Space Maps (RSMs)像から STO(103)ピーク周辺に 2 つ、STO(113)及び STO(-1-13)ピーク周辺に 3
つの BFO 由来のピークが確認できた。この結果から、バルクでは rhombohedral である BFO が STO(001)のストレス
を受けて、STO<110>方向に傾いた monoclinic の結晶構造で成長していることがわかった。
BFMO/STO(001)薄膜においては、成膜後の表面像では基板特有のステップテラス構造は確認できず、グレインが成
長していた。また RSM 像では BFMO に由来するピークが分離していた。これらの結果から BFMO は、基板面と結
晶面が傾いた Orthorhombic、もしくは Rhombohedral で成長していると考えている。
BFO/STO(110)及び BFMO/STO(110)薄膜においては、どちらも成膜後の表面像ではスッテプテラス構造は確認でき
ず、STO[001]に沿ってストライプ状にグレインが成長していることが確認できた。RSMs 像からどちらも STO(130)
には基板のストレスを受けた BiMO 由来と格子緩和した BiMO 由来の 2 つのピーク、STO(222)及び(22-2)には基
板のストレスを受けた BiMO 由来の 2 つのピークが確認できた。これらの結果から STO(110)上に成膜した BiMO3
薄膜の結晶構造は STO[001]と[00-1]に傾いた monoclinic の結晶構造で成長していることがわかった。
1.背景
近年研究が進められているデバイスの一つに、
Magnetic Random Access Memory (MRAM)と呼ばれるも
のがある。MRAM は、電荷の制御に加えもう一つの自由
度であるスピンの制御も可能な新規のデバイスである。
MRAM への応用が期待されている物質にマルチフェロ
イック物質と呼ばれるものがある。マルチフェロイック
物質とは、強誘電性・強磁性・強弾性の性質を 2 つ以上
併せ持つ物質のことである。この物質は新規の物性を発
現する可能性があるとされ、精力的に研究が行われてい
る。本研究では超格子構造と呼ばれる結晶格子に、マル
チフェロイック物質のような複数の性質をもつデバイス
作製の実現を期待している。超格子構造とは、複数の物
質を交互に積層させた構造のことである。このような構
造をもつ超格子に外部から電界をかけ、層間での電子移
動を誘起させ、各層に配置された磁性元素間の超交換相
互作用の変化させることができると期待している。この
磁気構造の変化を制御することができれば、室温で強磁
性,強誘電性を有する新規のデバイスを作製することが
可能となる。[1][2]
過去の研究では、強誘電性強磁性マルチフェロイック、
電界による磁気特性制御の点から注目を集めている
BiFeO3(BFO)を利用した超格子の作製を行っていた。しか
しながら、BFO は高品質な薄膜形成が難しく、室温で完
全に飽和したヒステリシスループが観測できている報告
例は少ない。さらにリーク電流が大きく抗電界が大きい
ことから、デバイスに適用した際、動作電圧が高くなる
という問題点がある。
2.目的
本研究の最終目標は REMO3(RE=Ca, Bi, La M=Fe, Mn,
Fe1-xMnx)を用いて作製した人工超格子において、その磁
気構造を制御することである。
人工超格子を作製する際には、各薄膜の性質、結晶構
造等を事前に調査し、また数層単位で薄膜総数及び膜厚
を制御する必要がある。
本報告では、REMO3 を用いた人工超格子作製への足掛
かりとして、SrTiO3(STO)(001)及び(110)面基板上に成膜
した BiMO3(M=Fe, Fe1-xMnx) 薄膜の結晶構造や表面状態
等の評価を行ったので報告する。我々は膜厚制御が可能
であるパルスレーザ堆積法(Pulsed Laser Deposition : PLD)
を用いて成膜を行った。[3]
3.実験方法・条件
3.1 BiFeO3/SrTiO3(001)薄膜の作製
3.1.1 STO 基板表面処理
本実験では STO(001)の 5mm×5mm の基板を用いた。基
板をアセトン 5min、アセトン 15min、エタノール 5min
超音波洗浄を行った。これらのプロセスにおいて、その
都度終了するごとに基板表面を観察し、付着物等の有無
を慎重に確認した。次に、純水で 30min の超音波洗浄を
行った後、緩衝フッ酸溶液(BHF : pH = 5.0)にて 45sec 超音
波洗浄を行った。BHF での洗浄処理後、アルミナ坩堝(新
和科学株式会社:RESCO04 純度 99.98% 20ml)に入れ高温
電気炉を用いて 920ºC、6h アニール処理を行った。
3.1.2 成膜条件
成膜には KrF エキシマレーザーを使用した PLD 法を用
いた。基板は基板ホルダーに Ag ペーストを用いて、基
板ホルダー中央に固定した。ターゲットと基板間の距離
は 55mm とした。レーザーアブレーションによって発生
したプルームの中央が基板と当たるようにレーザー位置、
ターゲット位置を調整した。ターゲットは BiFeO3 ターゲ
ットを用いた。またプレアブレーションとして、10Hz、3
分間、ターゲットと基板間のシャッターを閉めたままア
ブレーションを行った。その他の成膜条件を以下表 1 に
示す。
3.2 BiFe1-xMnxO3/SrTiO3(001)薄膜の作製
3.2.1 STO 基板表面処理
STO(001)の 5mm×5mm の基板を用いた。以下、3.1.1 の
基板表面処理と同様のプロセスを行った。
3.2.2 成膜条件
成膜には KrF エキシマレーザーを使用した PLD 法を用
いた。基板は基板ホルダーに Ag ペーストを用いて、基
板ホルダー中央に固定した。ターゲットと基板間の距離
は 55mm とした。レーザーアブレーションによって発生
したプルームの中央が基板と当たるようにレーザー位置、
ターゲット位置を調整した。ターゲットは BiFe1-xMnxO3
ターゲットを用いた。またプレアブレーションとして、
10Hz、3 分間、ターゲットと基板間のシャッターを閉め
たままアブレーションを行った。その他の成膜条件を以
下表 2 に示す。
表1
したプルームの中央が基板と当たるようにレーザー位置、
ターゲット位置を調整した。ターゲットは BiFeO3 ターゲ
ットを用いた。またプレアブレーションとして、10Hz、3
分間、ターゲットと基板間のシャッターを閉めたままア
ブレーションを行った。その他の成膜条件を以下表 3 に
示す。
3.4 BiFe1-xMnxO3/SrTiO3(110)薄膜の作製
3.4.1 STO 基板表面処理
STO(110)の 5mm×5mm の基板を用いた。以下、3.3.1 の
基板表面処理と同様のプロセスを行った。
STO(001)上に成膜した BFO 薄膜の成膜条件
ターゲット
BFO
基板温度[°C ]
670
使用レーザー
KrF
レーザー波長[nm]
248
レーザー周波数[Hz]
4
3.4.2 成膜条件
成膜には KrF エキシマレーザーを使用した PLD 法を用
いた。基板は基板ホルダーに Ag ペーストを用いて、基
板ホルダー中央に固定した。ターゲットと基板間の距離
は 55mm とした。レーザーアブレーションによって発生
したプルームの中央が基板と当たるようにレーザー位置、
ターゲット位置を調整した。ターゲットは BiFe1-xMnxO3
ターゲットを用いた。またプレアブレーションとして、
10Hz、3 分間、ターゲットと基板間のシャッターを閉め
たままアブレーションを行った。その他の成膜条件を以
下表 4 に示す。
レーザーエネルギー密度[J/cm2]
2.6
雰囲気
O2
圧力[Pa]
20
表3
流量[ccm]
20
ターゲット
BFO
基板温度[°C ]
670
使用レーザー
KrF
レーザー波長[nm]
248
成膜時間[min]
表2
16.0
STO(001)上に成膜した BFMO 薄膜の成膜条件
ターゲット
BFMO
STO(110)上に成膜した BFO 薄膜の成膜条件
レーザー周波数[Hz]
4
基板温度[°C ]
670
レーザーエネルギー密度[J/cm ]
2.7
使用レーザー
KrF
雰囲気
O2
レーザー波長[nm]
248
圧力[Pa]
20
流量[ccm]
20
レーザー周波数[Hz]
4
2
レーザーエネルギー密度[J/cm ]
2.7
雰囲気
O2
圧力[Pa]
20
流量[ccm]
20
成膜時間[min]
16.0
3.3 BiFeO3/ SrTiO3(110)薄膜の作製
3.3.1 STO 基板表面処理
STO(110)の 5mm×5mm の基板を用いた。基板をアセト
ン 5min、アセトン 15min、エタノール 5min 超音波洗浄を
行った。これらのプロセスにおいて、その都度終了する
ごとに基板表面を観察し、付着物等の有無を慎重に確認
した。次に、純水で 30min の超音波洗浄を行った後、緩
衝フッ酸溶液(BHF : pH = 5.0)にて 45sec 超音波洗浄を行
った。BHF での洗浄処理後、アルミナ坩堝(新和科学株式
会社:RESCO04 純度 99.98% 20ml)に入れ高温電気炉を用
いて 1100ºC、2h アニール処理を行った。
3.3.2 成膜条件
成膜には KrF エキシマレーザーを使用した PLD 法を用
いた。基板は基板ホルダーに Ag ペーストを用いて、基
板ホルダー中央に固定した。ターゲットと基板間の距離
は 55mm とした。レーザーアブレーションによって発生
2
成膜時間[min]
表4
16.0
STO(110)上に成膜した BFMO 薄膜の成膜条件
ターゲット
BFMO
基板温度[°C ]
670
使用レーザー
KrF
レーザー波長[nm]
248
レーザー周波数[Hz]
4
レーザーエネルギー密度[J/cm2]
2.7
雰囲気
O2
圧力[Pa]
20
流量[ccm]
20
成膜時間[min]
4.評価方法・条件
4.1 X 線回折(X-ray diffraction : XRD)
4.1.1 評価方法
16.0
成膜後の各薄膜を XRD 装置(BRUKER AXS D8
DISCOVER)で測定し、そのピークからどのような薄膜が
作製されているのか評価を行った。
4.1.2 原理
原子が規則正しく並んだ結晶に X 線が入射すると、特
定の方向で強い X 線が観察される。これを回折現象と呼
ぶ。図 1 に結晶格子によるブラッグ条件の図を示す。平
行にならんでいる原子面の間隔を d として、平行面に対
する X 線の入射角と反射角を θ とする。それぞれの面か
らの散乱は、隣接する面からの散乱波と、行路差 2dsinθ
が波長の整数倍 nλ に等しい時にだけ位相がそろって回
折が起こる。
2dsinθ = nλ
(1)
物質はそれぞれに特有な規則性を持つ結晶を作る
ことから、XRD では化合物の種類や、結晶の大きさ、材
料中に存在する結晶方位の分布状態(結晶配向)、結晶に掛
かる残留応力の評価を行うことができる。
本研究では X 線源に Cu-Kα 線(波長 λ=1.542Å)を用い
た。このとき、モノクロメータにより Cu-Kβ 線を除去し
た。
図1
同じで原子間力を検出している。DFM では探針背面に装
着されている圧電素子にてカンチレバーに共振操作を起
こす。探針と試料間に力が働くとカンチレバーの振幅が
変化、カンチレバーの微小な変化量を検出するためにレ
ーザー光をカンチエレバー先端に照射して反射光を検出
器で検出して振幅を一定に保つように Z 軸の電圧をフィ
ードバック、制御を行う。この状態で平面方向に XY 軸
の圧電素子を制御、振幅量一定つまり探針、試料間に作
用する力を一定に保ったまま表面の微小な凹凸を走査す
る。振動振幅は針先が触り始める接触点まで空気のダン
ピングによってわずかながら減少する。探針がさわるか
触らないかの接触点では、様々な引力を受ける。この接
触点での引力の値の増加を接触点と捕らえ探針が試料の
表面との境界で振幅を制御できるため DFM では軟らか
い試料の表面を触れずに測定することが可能となる。本
実験では作製した膜の上に積層を行うため試料表面に
触れずに形状を取ることができる DFM を用いた。
図 2 DFM の測定原理
カンチレバーからの反射レーザーを感知する
5.結果
ブラッグ回折条件
5.1 BFO/STO(001)の結果
5.1.1 BFO/STO(001)成膜前後の表面像
アニール処理した成膜前の基板表面像及び、BFO 成膜
後の薄膜表面像をそれぞれ図 3(a), (b)に示す。成膜前の表
面像ではステップテラス構造が確認できたが、BFO 成膜
後の薄膜表面にはステップテラス構造は確認できず長方
形状のグレインが確認できた。
4.2 Scanning Probe Microscope(SPM)
4.2.1 評価方法
アニール処理後の STO 基板と成膜後の各薄膜の表面形
状像を SPM(SII 社製 SPA400 筐体 ワークステーション
SPI3800N)のダイナミックフォースモード(DFM)で測定
し、評価を行った。
4.2.2 DFM 原理
DFM は SPM の測定モードのひとつであり、サイクリ
ックコンタクトモードと呼ばれる試料を周期的に触れて
測定するモード、ノンコンタクトモードと呼ばれる表面
にふれないで測定するモード、コンタクトモードと呼ば
れる表面に触れて測定するモードがある。サイクリック
コンタクトは表面形状、位相像などの検出に利用され、
ノンコンタクトモードは、磁気力顕微鏡、表面電位顕微
鏡に利用される。コンタクトモードは AFM と比較してや
わらかい試料にも適用が可能である。
図 2 に DFM の原理図を示す。DFM もコンタクト AFM と
0.0
nm
3.5
(a)成膜前の基板表面像
(2µm×2µm)
図3
0.0
nm
4.6
(b)BFO 成膜後の薄膜表面像
(5µm×5µm)
BFO/STO(001)成膜前後の表面像
5.1.2 BFO/STO(001)薄膜の X 線解析
BFO/STO(001)薄膜の Reciprocal Space Maps(RSMs)像を
図 4(a),(b),(c)に示す。(a)は STO(103)周辺、(b)は STO(113)
周辺、(c)は STO(-1-13)周辺の RSM 像である。STO(103)
ピーク周辺に 2 つのピーク、STO(113)及び STO(-1-13)ピ
ーク周辺に 3 つのピークが確認できた。この結果は、BFO
薄膜が STO<110>方向に傾いた monoclinic 構造を示し 4
つのグレインで構成されていることを示している。それ
ぞれのグレイン I, II, III, IV を図 5 に示す。(a)STO(103)で
は、グレイン I, II と III, IV に由来する 2 つのピークが観
測できた。(b)STO(113)では、グレイン I に由来する δ,IV
に由来する ε,II,III に由来する ζ の 3 つのピークが観測
できた。X 線を STO[-1-10]方向に沿って入射すると、II,
III に由来する ζ は、RSM 像では tetragonal のように観測
された。(c)STO(-1-13)では、X 線を STO[110]方向に沿っ
て入射しているため I と IV のピーク強度が入れ替わって
観測された。図 4(a),(b),(c)から BFO 薄膜の格子定数が
a=0.5489nm, b=0.5525nm, c=0.4071nm, β = 89.03º であるこ
とがわかった。
(a)
7.8
7.7
4
7.7
Sub
7.6
10
3
5.41x10
3
2.93x10
3
1.58x10
2
8.58x10
2
4.64x10
2
2.51x10
2
1.36x10
1
7.36x10
1
3.98x10
1
2.15x10
1
1.17x10
0
6.31x10
0
3.41x10
0
1.85x10
0
10
Sub
-1
7.5
7.5
7.4
7.4
7.3
7.3
7.2
2.5
2.6
δ
ζ
ε
Sub
7.6
7.5
7.4
ε
7.3
δ
3.6
-1
3.7
nm
0.0
3.6
3.7
q[-1-10](nm )
q[110](nm )
-1
(a)
(b)
850
X-ray[100]
X-ray[110]
[010]
7.70
q[001](nm-1)
図 4 BFO/STO(001)の RSM 像
(a)STO(103)周辺 (b)STO(113)周辺 (c)STO(-1-13)周辺
7.65
7.60
18.3
[100]
BFO
(001)
I II
III IV
BFO
BFO
(b)
[001]
[001]
(a)
BFO
III
IV
BFO
BFO
I
BFO
II III
BFO
7.50
7.50
7.50
7.45
7.45
7.45
7.40
7.40
7.40
7.35
7.35
7.35
7.30
2.4
7.30
2.5
2.6
IV
BFO
[1-10]
X-ray[110]
[-110]
図5
7.30
3.5
3.6
3.7
-1
q[110] (nm )
3.5
3.6
3.7
-1
q[-1-10] (nm )
5.3 BFO/STO(110)薄膜の結果
5.3.1 BFO/STO(110)成膜前後の表面像
アニール処理した成膜前の基板表面像及び、BFMO 成
膜後の薄膜表面像をそれぞれ図 8(a), (b)に示す。成膜前の
表面像では基板特有のステップテラス構造が確認でき
た。BFO/STO(110)成膜後の薄膜表面像にはステップテ
ラス構造は確認できず、STO[001]に沿ってストライプ
状にグレインが成長していることが確認できた。
[110] [-1-10]
[010]
[100] X-ray[100]
2.7
図 7 BFMO/STO(001)の RSM 像
(a)STO(103)周辺 (b)STO(113)周辺 (c)STO(-1-13)周辺
STO sub.
STO
7.60
11.3
7.55
7.00
q[100] (nm )
II
2
5.00x10
2
3.15x10
2
1.99x10
2
1.26x10
1
7.92x10
1
5.00x10
1
3.15x10
1
1.99x10
1
1.26x10
0
7.92x10
0
5.00x10
350
237 7.75
160
108 7.70
73.2
49.5 7.65
33.5
22.6 7.60
15.3
10.4
7.55
7.00
7.55
-1
I
BFO
(c)
7.80
7.80
526
7.75
326
201
7.70
125
77.1
7.65
47.7
29.5
7.75
[110]
17.0
BFO/STO(001)成膜前後の表面像
7.80
[001]
nm
4.7 0.0
(a)成膜前の基板表面像 (b)BFMO 成膜後の薄膜表面像
(2µm×2µm)
(1µm×1µm)
図6
q[1-10] (nm )
-1
q[100](nm )
10
3
5.41x10
3
2.93x10
3
1.58x10
2
8.58x10
2
4.64x10
2
2.51x10
2
1.36x10
1
7.36x10
1
3.98x10
1
2.15x10
1
1.17x10
0
6.31x10
0
3.41x10
0
1.85x10
0
10
-1
-1
-1
BFMO/STO(001)薄膜の RSMs 像を図 7(a),(b),(c)に示
す。どれも基板と薄膜のピークが確認でき、薄膜のピ
ークが分離していた。
ζ
q[-1-10] (nm )
q[100] (nm )
5.2.2 BFMO/STO(001)の X 線解析
4
7.7
7.2
7.2
2.7
(c)
7.8
-1
q[001] (nm )
7.6
q[001] (nm )
-1
q[001] (nm )
q[001](nm-1 )
(b)
7.8
4
5.00x10
4
2.43x10
4
1.18x10
3
5.74x10
3
2.79x10
3
1.36x10
2
6.60x10
2
3.21x10
2
1.56x10
1
7.58x10
1
3.68x10
1
1.79x10
0
8.71x10
0
4.23x10
0
2.06x10
0
10
5.2 BFMO/STO(001)の結果
5.2.1 BFMO/STO(001)成膜前後の表面像
アニール処理した成膜前の基板表面像及び、BFMO 成
膜後の薄膜表面像をそれぞれ図 6(a), (b)に示す。成膜前の
表面像ではステップテラス構造が確認できたが、BFMO
成膜後の表面はステップテラス構造が確認できずグレイ
ンが成長していることがわかった。
X 線入射方向から観測した 4 つの BFO グレイン
(a)X 線を STO[100]に沿って入射した場合
(b)X 線を STO[110]に沿って入射した場合
5.3.2 BFO/STO(001)薄膜の X 線解析
BFO/STO(110)薄膜の RSMs 像を図 9(a),(b),(c)に示す。
(a)は STO(130)周辺、(b)は STO(222)周辺、(c)は STO(22-2)
周辺の RSM 像である。STO(130)には基板のストレスを
受けた BFO 由来と格子緩和した BFO 由来の 2 つのピ
ーク、STO(222)及び(22-2)には基板のストレスを受けた
BFO 由来の 2 つのピークが確認できた。この結果は、BFO
薄膜が STO<001>及び<00-1>方向に傾いた monoclinic 構
造を示し 2 つのグレインで構成されていることを示して
いる。それぞれのグレイン V,VI を図 10 に示す。
(a)STO(130)では、V と VI が同じグレインとして観測され
た。(b)STO(222)では、V に由来するピーク η と VI に由
来するピーク℩の 2 つが確認できた。(c)STO(22-2)では、
(b)の場合の X 線の入射方向から反対方向に入射している
ため、V と VI に由来するピークが反転しているのがわか
った。RSM 像から STO(110)上に成膜した BFO の格子定
数は a=0.5611 nm, b=0.5662 nm, c=0.3907 nm, β = 89.33º で
あり、STO[00-1]及び[001]方向に傾いた monoclinic 構造で
2 つのグレインで構成されていることがわかった。
STO[001]
受けた BFMO 由来と格子緩和した BFMO 由来の 2 つ
のピーク、STO(222)及び(22-2)には基板のストレスを受
けた BFMO 由来の 2 つのピークが確認できた。5.3.2 と同
20.7
nm
0.0
(a)成膜前の基板表面像 (b)BFO 成膜後の薄膜表面像
(2µm×2µm)
(1µm×1µm)
図8
様の結果が得ることができ、STO(110)上に成膜した
BFMO の格子定数は、a=0.5714 nm, b=0.5618 nm, c=0.3914
nm, β = 89.22º であり、STO[00-1]及び[001]方向に傾いた
monoclinic 構造で 2 つのグレインで構成されていること
がわかった。
[001]
BFO/STO(110)成膜前後の表面像
BFO_003_NSTO(110)
103+phi0
BFO_003_NSTO(110) 222+phi90
BFO_003_NSTO(110) 222+phi270
(a)
7.35
7.30
Sub.
7.20
q[110] (nm-1)
q[110] (nm-1)
7.25
7.15
7.10
7.05
7.40
(b)
7.35
7.30
7.25
7.20
Sub.
7.15
7.10
η
7.05
7.00
7.00
6.95
6.95
6.90
3.50 3.55 3.60 3.65 3.70
500.0
346.0
239.5
165.7
114.7
79.37
54.93
38.01
26.31
18.21
12.60
8.719
6.034
4.176
2.890
2.000
7.35
7.30
7.25
7.20
7.15
Sub
.
7.10
℩
7.05
7.00
℩
η
6.95
6.90
5.05 5.10 5.15 5.20
6.90
5.05 5.10 5.15 5.20
q[-110] (nm-1)
(c)
7.40
500.0
346.0
239.5
165.7
114.7
79.37
54.93
38.01
26.31
18.21
12.60
8.719
6.034
4.176
2.890
2.000
q[001] (nm-1)
q[00-1] (nm-1)
[1-10]
nm
0.0
図 11
(a)
7.35
7.30
(001)
Sub.
7.25
q[110] (nm-1)
[001]
VI
BFO
7.20
7.15
7.10
7.05
X-ray [001]
V VI
BFO
BFO
VI
BFO
[001]
[1-10]
[001] X-ray [1-10]
V
STO sub.
STO sub.
図 10
[110]
(b)
[110]
[110]
(a)
[1-10]
[-110]
X-ray [001]
X 線入射方向から観測した 2 つの BFO グレイン
(a)X 線を STO[1-10]に沿って入射した場合
(b)X 線を STO[001]に沿って入射した場合
13.4
BFMO/STO(110)成膜前後の表面像
7.40
X-ray [1-10]
BFO
V
nm
0.0
(a)成膜前の基板表面像 (b)BFO 成膜後の薄膜表面像
(2µm×2µm)
(1µm×1µm)
図 9 BFO/STO(110)の RSM 像
(a)STO(130)周辺 (b)STO(222)周辺 (c)STO(22-2)周辺
BFO
12.3
(b)
300.0
214.8
153.8
110.1
78.86
56.46
40.43
28.95
20.73
14.84
10.63
7.609
5.448
3.901
2.793
2.000
q[110] (nm-1)
300.0
214.8
153.8
110.1
78.86
56.46
40.43
28.95
20.73
14.84
10.63
7.609
5.448
3.901
2.793
2.000
q[110] (nm-1)
7.40
7.40
7.35
7.30
Sub.
7.25
(c)
500.0
346.0
239.5
165.7
114.7
79.37
54.93
38.01
26.31
18.21
12.60
8.719
6.034
4.176
2.890
2.000
q[110] (nm-1)
0.0
6.77
の基板表面には基板特有のステップテラス構造が確認
できたが、BFMO/STO(110)成膜後の薄膜表面像には
5.3.1 と同様にステップテラス構造は確認できず、
STO[001]に沿ってストライプ状にグレインが成長し
ていることが確認できた。
5.4.2 BFO/STO(001)薄膜の X 線解析
BFMO/STO(110)薄膜の RSMs 像を図 12(a),(b),(c)に示す。
(a)は STO(130)周辺、(b)は STO(222)周辺、(c)は STO(22-2)
周辺の RSM 像である。STO(130)には基板のストレスを
STO[1-10]
nm
5.4 BFO/STO(110)薄膜の結果
5.4.1 BFMO/STO(110)成膜前後の表面像
アニール処理した成膜前の基板表面像及び、BFMO 成
膜後の薄膜表面像をそれぞれ図 11(a), (b)に示す。洗浄後
7.20
7.15
7.10
7.05
7.40
7.35
7.30
7.20
7.15
7.10
7.05
7.00
7.00
7.00
6.95
6.95
6.95
6.90
3.50 3.55 3.60 3.65 3.70
6.90
5.05 5.10 5.15 5.20
q[-110] (nm-1)
q[00-1] (nm-1)
Sub.
7.25
500.0
346.0
239.5
165.7
114.7
79.37
54.93
38.01
26.31
18.21
12.60
8.719
6.034
4.176
2.890
2.000
6.90
5.05 5.10 5.15 5.20
q[001] (nm-1)
図 12 BFMO/STO(110)の RSM 像
(a)STO(130)周辺 (b)STO(222)周辺 (c)STO(22-2)周辺
6.考察
6.1 BFO/STO(001)薄膜について
成膜後の表面像にはステップテラス構造が確認できず、
長方形状のグレインが成長していることがわかった。ま
た、RSM 像から STO(103)ピーク周辺に 2 つのピーク、
STO(113)及び STO(-1-13)ピーク周辺に 3 つのピークが確
認できた。これらから、BFO は STO の面内の結晶軸に合
わせるように成長したため、バルクでは rhombohedral で
ある BFO が STO(001)のストレスを受けて、β に由来す
る歪みが生じて STO(001)上に成長させた BFO 薄膜は,
STO<110>方向に傾いた monoclinic の結晶構造をもつと
考えられる。
6.2 BFMO/STO(001)薄膜について
RSM 像及び成膜後の表面像から、BFMO は、基板面と
結晶面が傾いた Orthorhombic、もしくは Rhombohedral で
成長していると考えられる。
6.3 BFO/STO(110)薄膜について
洗浄後の基板表面には基板特有のステップテラス構造
が確認できたが、BFO//STO(110)成膜後の薄膜表面像には
ステップテラス構造は確認できず、STO[001]に沿ってス
トライプ状にグレインが成長していることが確認できた。
BFO/STO(110)薄膜の RSM 像から面直方向の格子が異な
った 2 つの BFO があることがわかった。この結果から、
STO(110)上に成膜した BFO 薄膜の結晶構造は STO[001]
と[00-1]に傾いた monoclinic の結晶構造で成長している
と考えられる。
6.4BFMO/STO(110)薄膜について
BFMO/STO(110)成膜後の薄膜表面像にはステップテラ
ス構造は確認できず、STO[001]に沿ってストライプ状に
グレインが成長していることが確認できた。
BFMO//STO(110)薄膜の RSM 像から BFMO 薄膜が
STO<001>方向に傾いた monoclinic 構造を示し 2 つのグレ
インで構成されていることがわかった。このことから
STO(110)上に成膜した BFMO 薄膜の結晶構造は、
BFO//STO(110)薄膜と同様で STO[001]と[00-1]に傾いた
monoclinic の結晶構造で成長していると考えられる。
7.まとめ(600~800 字)
本研究では超格子構造と呼ばれる結晶格子に、マルチ
フェロイック物質のような複数の性質をもつデバイス作
製の実現を期待している。超格子構造とは、複数の物質
を交互に積層させた構造のことである。このような構造
をもつ超格子に外部から電界を印加した場合、各層間で
の電子移動が誘起され、界面での磁性の変化をもたらす
ことができると考えている。
本報告では、人工超格子作製への足掛かりとして、
SrTiO3(STO)(001)及び(110)面基板上に成膜した
BiMO3(M=Fe, Fe1-xMnx) 薄膜の結晶構造や表面状態等の
評価を行った。
成膜方法にはパルスレーザ堆積法を用いた。STO 基板
をアセトン、エタノールで超音波洗浄後、バッファード
フッ酸(BHF, pH=5.0, 関東化学株式会社)にてエッチング
した。その後アニールを STO(100)は 900°C で 4 時間、
STO(110)は 1100°C で 2 時間行った。成膜条件は、基板温
度を 670ºC、
成膜雰囲気を O2、成膜時圧力を 20Pa とした。
ターゲット上のエネルギー密度を 2.5~2.7 J/cm2 として
KrF エキシマレーザーを周波数 4Hz で照射した。
BFO/STO(001)薄膜では、RSM 像から STO(103)ピーク
周辺に 2 つ、STO(113)及び STO(-1-13)ピーク周辺に 3 つ
の BFO 由来のピークが確認できた。この結果から、バル
クでは rhombohedral である BFO が STO(001)のストレス
を受けて、STO<110>方向に傾いた monoclinic の結晶構造
で成長していることがわかった。
BFMO/STO(001)薄膜においては、成膜後の表面像では基
板特有のステップテラス構造は確認できず、グレインが
成長していた。また RSM 像では BFMO に由来するピー
クが分離していた。これらから BFMO は、基板面と結晶
面が傾いた Orthorhombic、もしくは Rhombohedral で成長
していると考えている。
BFO/STO(110)及び BFMO/STO(110)薄膜においては、ど
ちらも成膜後の表面像ではスッテプテラス構造は確認で
きず、STO[001]に沿ってストライプ状にグレインが成長
していることが確認できた。それぞれの RSM 像から
STO(110)上に成膜した BiMO3 薄膜の結晶構造は
STO[001]と[00-1]に傾いた monoclinic の結晶構造で成長
していることがわかった。
9.参考文献
[1]F.Gunkel et al., Appl. Phys. Lett. 100(2012)052103.
[2]M. R. Fitzsimmons et al., Phys. Rev. Lett.
107(2011)217201.
[3]社団法人電気学会 レーザーアブレーションとその応
用, コロナ社 (1999)