EUにおける環境・エネルギー政策 2013年6月 目次 政策の概要 政策の背景 各政策の内容 エネルギー・気候変動政策パッケージ Energy 2020 Roadmap 2050 Energy Roadmap 2050 エネルギー効率化指令 欧州と日本の政策の比較 1 欧州のエネルギー政策の概要 1 本日触れる主な政策 2007年 3月 エネルギー・気候変動政策パッケージの合意 2010年11月 Energy 2020の発表 2011年 3月 Roadmap 2050の発表 2011年12月 Energy Roadmap 2050の発表 2012年12月 エネルギー効率化指令の施行 2013年11月 第7次環境行動計画の採択 2014年 1月 2030年の気候変動・エネルギー政策目標の発表 2 参考:欧州の環境関連政策 1 廃棄物関連 1994年12月 2000年10月 2 化学物質関連・その他 包装廃棄物指令の採択・・・包 2003年 2月 装廃棄物の再利用・リサイクル などの目標を設定 RoSH (Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical equipment )指令の施行・・・電気 電子機器に関する特定有害物 質の使用制限に関する規制。 2011年6月には改正され、対象 品目などが拡大された ELV (End-of Life Vehicles)指令の施 行・・・使用済み自動車の解 体・リサイクル・回収ネットワー ク・環境負荷物質に関する規 2007 年 6 月 REACH 制 (Registration, Evaluation, Restriction of Authorization and Chemicals )規則の施行・・・化学 2003年2月 WEEE (Waste Electrical and Electronic Equipment)指令の施行・・・電気 電子機器廃棄物の回収・リサ イクルに関する規制。2012年8 月に改正され、製品が追加さ れた 物質の登録・評価・認可・制限 に関する規制。ほぼ全ての化 学物質が対象となり、登録され ていない化学物質は使用が出 来ない 2005年 8月 EuP (Energy-using Products)指令の 施行・・・環境配慮設計に関す る規制。その後、2009年に対 象がErP (Energy-related Products) に拡大された 3 参考:温暖化について-メカニズム ●地球は、太陽から届くエネルギーと釣り合ったエネルギーを宇宙へ放出することで、気温を一定の範囲内に保って いる。 ●大気中の特定の物質(二酸化炭素等)は、宇宙へ放出するエネルギーを吸収し、一部を地球側へ跳ね返す性質を 持っている。この作用を「温室効果」と呼び、その効果をもたらすガスを「温室効果ガス」と言う。 ◆温室効果ガスには二酸化炭素のほか、メタン、一酸化二窒素などのガスが含まれる。 ●気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の第4次評価報告書では、 「産業革命以降、人為的活動に起因する温室効果ガスの排出量が増加し、大気中の温室効果ガス濃度の著しい増 加を招いた」としている。 太陽からのエネルギーで地表面が温まります。地表面から放射される熱 を温室効果ガスが吸収・再放射して大気が温まる。 二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中濃度が上昇すると・・・ 温室効果のメカニズム 地球温暖化 温室効果がこれまでより強くなり、地表面の温度が上昇する。 主な温室効果ガス 二酸化炭素(CO2) メタン(CH4) 一酸化二窒素(N2O) 地球温暖化係数 1 21 310 ハイドロフルオロカーボン(HFC) 140∼11,700 パーフルオロカーボン(PFC) 6,500∼9,200 六フッ化硫黄(SF 6) 23,900 4 参考:温暖化について-現状と将来 ●温暖化に伴う影響として、水、生態系、食料、沿岸域、健康について下図のようなものが考えられている。 ●2100年には世界平均値上気温は、2000年から1.8℃∼4.0℃程度上昇すると予測されている。 【温暖化の現状】 ・気温や海水温度の上昇 ・雪氷の広範囲にわたる融解 ・世界平均海面水位の上昇 ・氷河、積雪、氷床の減少 ・極端な気象現象 ・熱帯低気圧の発生数の増加 出典) IPCC第4次評価報告書 【将来の予測】 2100年の世界平均地上気温は、 2000年から1.8℃∼4.0℃上昇する と予測されている。 出典) IPCC第4次評価報告書 5 参考:EU域内排出量取引制度(EU-ETS) 出典:環境省 6 政策の概要 政策の背景 各政策の内容 エネルギー・気候変動政策パッケージ Energy 2020 Roadmap 2050 Energy Roadmap 2050 エネルギー効率化指令 欧州と日本の政策の比較 7 欧州のエネルギー政策の背景 1 欧州の問題意識 ○エネルギー輸入依存度の上昇 ・ロシア問題 ・北海油田等の域内資源の枯渇 ○エネルギーコストの上昇 ・新興国の経済発展による資源獲得競争 ○気候変動問題の深刻化 ・2℃目標を達成するには温室効果ガス排出量を80%以上削減する必要がある ○エネルギー自給率の向上と安定供給の確保 ・資源・エネルギー・環境の制約と経済活動を切り離す ○新しいエネルギー・経済システムの構築 ・これまでの先進国モデルを代替する新しいモデルの模索 ○環境と成長の調和 8 欧州のエネルギー政策の背景 2 エネルギー自給率の推移 1. 2. 3. 北海油田等の域内生産の低下 → 自給率の低下 ロシアと周辺国とのガス紛争 → ロシア資源の安定確保の必要性認識 ロシアとウクライナの対立 → 新たな冷戦の再来懸念 → ロシアへのエネ ルギー依存度を低減しようとする意識の高まり → シェール開発促進・LNG 輸入検討 出所:BP資料 9 欧州のエネルギー政策の背景 3 電力料金の推移 新興国での需要増を主因としてエネルギーコストが上昇中 出所:EURISTAT資料 10 政策の概要 政策の背景 各政策の内容 エネルギー・気候変動政策パッケージ Energy 2020 Roadmap 2050 Energy Roadmap 2050 エネルギー効率化指令 欧州と日本の政策の比較 11 エネルギー・気候変動政策パッケージ (2007年) 1 パッケージの概要 ロシアウクライナのガス紛争を契機にEUエネルギー政策の骨子となるパッケージを発表 ○3つの20%目標 (20:20:20) ・2020年までに 1. 温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減 2. 最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーのシェアを20%に拡大 3. エネルギー効率を20%改善(20%の省エネ) ○4つの政策手法 1. EU‐ETSの見直し 2. EU-ETS対象外分野の国別目標の設定 3. 国別再生可能エネルギー目標 → 次頁以降 4. CCS(Carbon Capture and Storage)に向けた法的枠組みの整備 12 エネルギー・気候変動政策パッケージ (2007年) 2 ドイツの再生可能エネルギー ∼脱原子力路線を強化∼ ○2013年4月には瞬間値であるものの、ドイツ全体の電力需要の50%を風力発電と 太陽光発電で供給することが出来た。 出所:各種ウェブサイト 13 エネルギー・気候変動政策パッケージ (2007年) 3 イギリスの再生可能エネルギー ∼北海油田・ガス田の枯渇により海洋エネルギーへ∼ ○海洋発電や洋上風力発電に注力しており、2020年までに最終消費エネルギーの 15%を再生可能エネルギーで賄うことを目指している 出所:各種ウェブサイト 14 エネルギー・気候変動政策パッケージ (2007年) 4 デンマークの再生可能エネルギー ∼大胆な再生可能エネルギー普及策∼ ○デンマークでは、2050年までにバイオマスや風力発電などの再生可能エネルギー により発電量のすべてをまかなう計画。 出所:各種ウェブサイト 15 参考:エネルギー・気候変動政策パッケージにおける各国目標 温室効果ガス排出限度 2020年(2005年対比)ETS非対象分野 ベルギー ブルガリア チェコ共和国 デンマーク ドイツ エストニア アイルランド ギリシャ スペイン フランス イタリア キプロス ラトビア リトアニア ルクセンブルク ハンガリー マルタ オランダ オーストリア ポーランド ポルトガル ルーマニア スロベニア スロバキア フィンランド スウェーデン 英国 EU27ヵ国計 −15% +20% +9% −20% −14% +11% −20% −4% −10% −14% −13% −5% +17% +15% −20% +10% +5% −16% −16% +14% +1% +19% +4% +13% −16% −17% −16% −10% エネルギー最終消費に占める再生可能エネルギーのシェア 2005年実績 2.2% 9.4% 6.1% 17.0% 5.8% 18.0% 3.1% 6.9% 8.7% 10.3% 5.2% 2.9% 34.9% 15.0% 0.9% 4.3% 0.0% 2.4% 23.3% 7.2% 20.5% 17.8% 16.0% 6.7% 28.5% 39.8% 1.3% 8.5% 2020年目標 13% 16% 13% 30% 18% 25% 16% 18% 20% 23% 17% 13% 42% 23% 11% 13% 10% 14% 34% 15% 31% 24% 25% 14% 38% 49% 15% 20% 16 Energy 2020 (2010年) 1 政策の概要(1) 目標を確実に達成するためのエネルギー政策における5つの優先課題を提示 ○5つの優先課題と対応するアクション ・優先課題1:エネルギー効率の高い欧州の達成 -アクション1: 省エネの潜在性が最も高い建物・交通分野に注力 -アクション2: 産業のエネルギー効率向上による競争力強化 -アクション3: エネルギー供給における効率の向上 -アクション4: 国家エネルギー効率行動計画の最大活用 ・優先課題2:汎欧州で統合されたエネルギー市場の構築 -アクション1: 域内市場関連法のタイムリーかつ的確な施行 -アクション2: 2020∼2030年のエネルギーインフラ構想の確立 -アクション3: エネルギーインフラ開発のための認可手続き改善と市場ルールの合理化 -アクション4: 必要な資金調達枠組みの提供 ・優先課題3:消費者の権利強化と最高水準の安全性・供給確保 -アクション1: エネルギー政策を消費者フレンドリーなものに -アクション2: 安全性と安定供給確保の継続的な改善 ・優先課題4:エネルギー技術とイノベーションにおけるEUの主導的立場の増強 -アクション1: 戦略的エネルギー技術計画(SET Plan)の遅延なき実施 -アクション2: EUレベルの4つの大規模プロジェクトの実施 -アクション3: 長期的なEUの技術競争力の確保 17 Energy 2020 (2010年) 2 政策の概要(2) ○5つの優先課題と対応するアクション ・優先課題5:EUエネルギー市場の対外的側面の強化 -アクション1:近隣諸国とのエネルギー市場および規制枠組みの統合 -アクション2:主要パートナー国との特権的パートナーシップの確立 -アクション3:将来的な低炭素エネルギー分野におけるEUの世界的な役割の促進 -アクション4:法的拘束力のある原子力安全、安全保障、世界的な核不拡散規範の促進 ○エネルギーインフラ整備構想における6つの優先インフラ ①電力グリッド整備 ②ガス供給源の多様化とEUガス網の相互接続および柔軟化 ③原油の供給安全保障の確保 ④スマートグリッド技術の展開 ⑤欧州電力ハイウェイ ⑥欧州CO2輸送網 18 Energy 2020 (2010年) 3 欧州の電力グリッド整備 ○再生可能エネルギーの導入には、変動抑制のために電力グリッドの整備が重 要。その延長に最終的にはアフリカまで繋がるデザーテック構想がある。 出所:デザーテック財団 19 Energy 2020 (2010年) 4 ガス供給源の多様化 ○BPが主導するShah Deniz コンソーシアムがアゼルバイジャンのカスピ海沖の Shah Deniz ガス田から欧州向けへの輸送ルートについて、検討を開始(南部ガ ス回廊)。 出所:Shah Deniz コンソーシアム 20 Energy 2020 (2010年) 5 スマートグリッド技術の展開 ○導入を進める再生可能エネルギーが増加することにより、電力系統が不安定に なるため、それを安定化させるためにスマートグリッドが必要とされている。 出所:EU JRC "SMART ELECTRICITY SYSTEMS AND INTEROPERABILITY" ACTION 21 参考:「スマートコミュニティ」 IT技術・蓄電技術を核とした「需要のコントロール」を行い、従来の大規模集中電源から一方向で供給されるエネ ルギー供給構造から、需要供給双方向により需給調整を行う、分散型エネルギー需給構造に変革。 スマートコミュニティのインフラにエネルギーの情報のみならず、医療・交通システム等、様々の情報ソースを載せ ることで、需要家を起点とした新たなサービス等の可能性が芽生える。 <スマートコミュニティ> <エネルギー需給の構造変化> <スマートコミュニティで実現する将来の暮らし> (出所) 資源エネルギー庁資料 22 参考:Energy 2020における優先インフラの概要 出所:欧州委員会資料 23 Roadmap 2050 (2011年) 1 ロードマップの概要(1) 主要産業部門の政策や各国の低炭素戦略、長期的な投資についての方向性を提示 ○主な内容 ・2050年において温室効果ガスを80%削減するためのシナリオを提示。 ・コスト効果分析に基づく方向性の提示。 ・燃料価格・技術発展を織り込んだモデル分析から、排出削減シナリオを設定。 図表 Roadmap 2050における温室効果ガス排出削減シナリオの概要 100% 80% 100% Power Sector 80% Current policy 60% Residential & Tertiary 60% Industry 40% 40% Transport 20% 20% Non CO2 Agriculture Non CO2 Other Sectors 0% 1990 2000 2010 2020 2030 2040 0% 2050 出所:欧州委員会資料 24 Roadmap 2050 (2011年) 2 ロードマップの概要(2) ○部門ごとの排出削減シナリオとコスト ・技術イノベーションの可能性の違いや化石燃料価格の違いから設定した複数の 排出削減シナリオを分析。 ・必要な投資額は、40年間で公共投資と民間投資を合わせてEUの域内GDPの約 1.5%に当たる約2,700 億ユーロ/年になると試算。 図表 Roadmap 2050における部門ごとの温室効果ガス排出削減見通し 出所:欧州委員会資料 25 Roadmap 2050 (2011年) 3 技術イノベーションの例 ○見込んでいる技術イノベーションは多様なセクターが含まれる。欧州企業の取組 により実現する事を想定している。 出所:欧州委員会資料 26 Energy Roadmap 2050 (2011年) 1 ロードマップの概要(1) エネルギーシステムの脱炭素化への道筋を探求するシナリオ ○主な内容 ・エネルギー供給保障と経済競争力を改善しながらエネルギーの脱炭素化を図る ための2050年までのシナリオ群を示し、EU各国の共通認識として調和のとれた EU各国の政策及びEU全体政策の策定に反映させることを目的に検討 ・具体的には以下の7シナリオを分析 <現行のトレンド シナリオ> - Reference :2010年3月までの政策・コストが継続 - Current policy initiative :福島第一原子力発電所事故以降の最新の政策・コストを反映 <脱炭素シナリオ> - High energy efficiency :より強い省エネ支援政策 - Diversified supply technology :経済性で低炭素技術が選択される - High renewable energy :より強い再生可能エネルギー支援政策 - Delayed CCS :CCSの導入が遅れ、代わりに原子力が選択される - Low nuclear :原子力の新規建設がなく、代わりにCCSが選択される 27 Energy Roadmap 2050 (2011年) 2 ロードマップの概要(2) ○シナリオ分析結果 ・リファレンスシナリオ及びCPIシナリオでは2050年までに1990年レベルの約60%(約 40%減)の水準までしか削減する事ができない。 ・全ての脱炭素化シナリオで約15%(約85%減)の水準まで削減することができる。 ・EU経済の競争力を維持しながら脱炭素化することは可能。 図表 Energy Roadmap 2050におけるシナリオごとの温室効果ガス排出削減見通し Year 1990年 2000年 2010年 2020年 2030年 2040年 2050年 GDP 8.1 10.1 11.4 14.2 16.8 19.5 22.6 Reference 93.6 85.4 74.0 63.7 59.6 Current policy initiative 91.5 79.7 72.1 62.9 58.7 High energy efficiency 91.5 76.0 60.0 35.5 15.6 91.5 76.7 61.0 36.8 16.1 High renewable energy 91.5 76.6 59.4 36.1 16.6 Delayed CCS 91.5 76.9 60.3 34.1 16.6 Low nuclear 91.5 77.7 61.6 37.1 15.7 Diversified technology supply 100 94.5 単位:GDP・・・兆ユーロ、各シナリオ・・・温室効果ガス排出量(1990年比) 出所:欧州委員会資料 28 Energy Roadmap 2050 (2011年) 3 CCSによる削減 ○CCSについては、テストプラントが欧州でも建設されている(以下はドイツのプラン ト)。しかし、商用プラントの建設は排出権価格の下落などにより停滞している。 出所:欧州委員会資料 29 参考:CCSの仕組 CCS=二酸化炭素(CO2)の回収・貯留 (Carbon Dioxide Capture and Storage) <CCSの概念図> <二酸化炭素回収の仕組> 出典:産業技術総合研究所 出典:東芝 30 エネルギー効率化指令 (2012年) 1 指令の概要(1) 20%効率化目標の達成を加盟国に義務付ける新指令 ○エネルギー効率目標関連 ・2013年4月末までに、エネルギー効率化(省エネ)目標を設定する ・2013年4月から毎年、目標達成状況を欧州委員会に報告する ・2014年4月末から3年毎にエネルギー効率化行動計画を策定して欧州委員会に提出する ○政府の率先行動 ・中央政府はエネルギー効率化の模範を示す。 ・中央政府は、その所有する施設に冷房又は暖房設備があるものについて、省エネを推進 する。 ・中央政府の調達に際しては、エネルギー効率をその調達要件として記載する ○その他の取組 ・企業を対象とするエネルギーの効率化義務の枠組みを策定。 ・大企業にエネルギー使用等に関する監査を受けさせる。 ・最終顧客が電力、ガス、地域冷暖房等の消費状況を確認できるメーターを設置 31 エネルギー効率化指令 (2012年) 2 ビルの省エネ ○欧州にも米国のLEEDや日本のCASBEEに相当するビルのエネルギー効率を評 価・認証する制度のGreen Ratingがある。 出所:BUREAU VERITAS 32 第7次環境行動計画 (2013年) 1 計画の概要 ○環境行動計画策定の背景 ・1970年代初頭に「すべての政策はまず環境への配慮から」という政策方針が打 ち立てられ、1973年11月に「第1次環境行動計画」(EAP)が採択された。現在で は2014∼2020年を対象とする「第7次環境行動計画(EAP7)」へ引き継がれてい る。 ○9つの優先領域 ・自然資本の保護 ・資源効率的で低炭素な経済への転換 ・健康へ影響する環境圧力・リスクからの保護 ・環境法からの利益の最大化 ・環境知識の向上と論拠に基づく政策の拡大 ・環境投資の確保と環境コストの負担 ・他の政策分野と環境政策の統合 ・都市の持続可能性の向上 ・環境における国際協調の推進 33 2030年の気候変動・エネルギー政策目標 (2014年) 1 政策目標の概要(1) ○2030年の気候変動・エネルギー政策目標の位置付け ・エネルギー・気候変動政策パッケージで示された2020年についてのEUの公式目標であ る、いわゆる「トリプル20」(GHG排出量の20%削減、再生可能エネルギーシェア20%達 成、エネルギー消費効率20%改善)を、より長期の目標として強化すべく打ち出されたも の。 ○新たな政策目標 ①EU全体の温室効果ガス排出量を1990年比40%削減 ②EU全体の再生可能エネルギー比率を27%以上に引き上げ ③エネルギー消費効率向上に向けて関連政策を2014年中に見直し ④EU-ETSのルールを見直し、2021年からのフェーズ4での市場安定化準備制度の導入を 検討 34 2030年の気候変動・エネルギー政策目標 (2014年) 2 政策目標の概要(2) ○EU全体の温室効果ガス排出量を1990年比40%削減 ・2020年の20%から、次の10年間で40%削減まで強化するEUとしての「意思」を表明したも の。 ・一方で、2008年以降、欧州金融危機などにより長期化する景気後退を受けて、経済・産業 の発展と温室効果ガス排出削減を両立させる方策を示すべきとの声が産業界では大きく なっている。 ・環境NGOは景気後退を受けて20%目標の達成が容易になった様に、40%目標も高い目標で はないと批判しており、産業界とは異なる懸念も示されている。 ○ EU全体の再生可能エネルギー比率を27%以上に引き上げ ・国別目標が定められた2020年目標とは異なり、今回の再生可能エネルギー目標はEU全 体としての目標となっている。 ・EUで進められてきた再生可能エネルギーの積極導入は、温室効果ガス排出削減に一定 の効果があったものの、需要家負担の増大や発電地と需要地が離れることによる送電負 荷の増大、既設電源の競争力低下など、大きな課題も生み出した。 ・これらの問題を解決しつつ、更なる再生可能エネルギーの導入を進めるために国や地域 の取組に偏りが生じることも許容する事を示している。 35 2030年の気候変動・エネルギー政策目標 (2014年) 3 政策目標の概要(3) ○エネルギー消費効率向上に向けて関連政策を2014年中に見直し ・エネルギー消費効率向上は「トリプル20」の中で最も遅れている分野。 ・国ごとに取組むべき領域が異なっていることや自動車の様に国を超えた規制が必要な領 域もあり、統合的かつ中心となって推進する主体が不在となっている。 ・EUは相対的に高エネルギーコスト構造となっているとの分析をしており、エネルギーコスト と競争力の関係からも取組を強化したい意向は強い。 ○ EU-ETSのルールを見直し ・欧州委員会の試算では現在のEU-ETSのルールを継続する場合、2030年時点で余剰とな る排出枠(EUA)は20億トンになると見込まれている。 ・2011年のEU27の排出実績は45.5億トンであることと比較しても大量の排出枠(EUA)が余る ことになり、EU-ETSが当初の見込み通りの機能を示すことは難しいと見込まれる。 ・これに対して、Market Stability Reserveと言う手法が提案されている。この手法は、市場流 通量が8.3億トンを超えた際に、市場からあらかじめ決められたフォーミュラにしたがって、 排出枠を隔離するものである。逆に4億トンを下回った場合は、隔離した排出枠を市場へ 放出する。この手法により、2030年時点の余剰排出枠は4∼8.3億トンになると欧州委員会 は見込んでいる。 36 政策の概要 政策の背景 各政策の内容 エネルギー・気候変動政策パッケージ Energy 2020 Roadmap 2050 Energy Roadmap 2050 エネルギー効率化指令 欧州と日本の政策の比較 37 欧州のエネルギー政策の特徴 欧州 日本 ・長期的な戦略 ・モデル分析やシナリオを重視 ・政策実施による不利益よりも不 作為による不利益の回避を重視 ・短期的な戦術 ・政策立案においては、関係者の 合意形成を重視 政策目標の 取扱 ・挑戦的な目標を設定する傾向 ・目標達成できない場合もある ・結果に対する責任が曖昧なこと もある ・目標はほぼ必達の扱い ・自主的に設定した目標は控えめ ・将来的な不確実性について懸念 する傾向 政策・規制と 経済活動 ・政策・規制は産業育成や競争力 の強化に寄与するとの位置付け ・中長期的な観点から、政策・規制 を検討・実施 ・政策・規制は、該当する分野の 政策を実現するための手段との 位置付け ・短期的に経済的な不利益が大き くなるような政策は回避 政策決定 プロセスの 特徴 38 欧州と日本の比較 1 基礎情報の比較 ・人口:500 million ・GDP:9,482 billion USD ・ 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 : 1,656 million 石油換算トン ・電力消費量:3,037 TWh ・人口:127 million ・GDP:4,872 billion USD ・一次エネルギー供給量:472 million 石油換算トン ・電力消費量:997 TWh 出所:IEA資料 39 欧州と日本の比較 2 電源構成の比較 出所:日本エネルギー経済研究所資料 40 欧州と日本の比較 3 再生可能エネルギー導入量の比較 出所:日本エネルギー経済研究所資料 41 欧州のエネルギー政策の評価 4 排出権価格の推移 ○排出権価格は低迷。炭素価格付けによる産業部門の低炭素化は進んでいない。 出所:Platts資料 42 参考:日本の取組 二国間クレジット制度 出所:新メカニズム情報プラットフォーム 43 欧州のエネルギー政策の評価 1 再生可能エネルギーの固定価格買取制度 ○スペイン:固定価格購入制度によって210億ユーロの債務が発生。経済危機に 伴い、再生可能エネルギーの固定買取制度を停止(2012年2月) ○ドイツ:2012年に太陽光発電の固定価格買取制度を大幅見直し ・80億ユーロの間接補助金を費やして発電電力量に占めるシェアは3.3%。 ○英国:太陽光発電の買取価格を大幅に引き下げ ○この他、イタリアなどのドイツ・スペインに遅れて固定価格買取制度を本格運用 した国において、負担の増加を背景に制度の見直しが進められている。 44 参考:日本の取組 再生可能エネルギー固定価格買取制度 出典:経済産業省 45 欧州のエネルギー政策の評価 1 CCS関連 ○EU-ETSの制度設計時は、EUA(EU-ETSの排出権)価格が40ユーロを超えれば、 排出権を購入するよりもCCSを実施した方が経済性があると欧州委員会では試 算していた。 ○EU-ETSが景気後退・エネルギー消費量の減少を見込んでいなかったため、 EUA価格は低迷し、CCSを商業的に実施できない状況となった。 ○CCSを商業プラントへ設置する動きが無くなったため、CCSに関する技術開発も 停滞。補助金を使った「商業プラント」が数機あるのみであり、本格的な商業プラ ントの展開は見通せない状況。 46 欧州の原子力政策 1 各国の原子力政策 ○必ずしも全ての国で原子力がエネルギー政策における最重事項ではない ・ “脱”政策を掲げたことのない国が重視するエネルギー政策の柱 - フランス:自給率向上とエネルギー安全保障 - フィンランド:石油・ガス依存度低減と自給率向上 ・ “脱”から“開発推進”へ転換中の国が重視するエネルギー政策の柱 - イギリス:原発事故後も原子力発電の新設計画は凍結せず ・“脱原子力”を検討中の国が重視するエネルギー政策の柱 - スウェーデン:長期ビジョンで「炭素中立的な社会」を明記 - スイス:原発事故後、脱原発の動きを強めている - イタリア:原発事故後、国民投票で新規建設計画を凍結 - ドイツ:原発事故後、迅速に脱原子力を決定、直ちに8基を停止 - ベルギー:省エネルギーと化石燃料輸入依存度の低減に注力 ○欧州としての統一的な原子力政策は存在せず、各国がそれぞれの状況に応じて 推進・撤退を選択している。 47 欧州のエネルギー政策から日本が学ぶべき点 1 ○日本はボトムアップ型。欧州はトップダウン型。それぞれにメリット・デメリットがあ る。 ○欧州では、トップダウン型で政策が作られていくため、「先行事例」として有用な存 在。 ○例えば3つの20%目標を設定した点は、日本には出来ない取組 ○一方で、再生可能エネルギーへの過剰な資源投入、EU-ETSの制度設計などは、 結果論として成果に繋がっていないものもある ○欧州全体で見れば、日本と電源構成は似ており、経済規模も2倍程度であること から、基本的に実施されている政策は参考となる。 ○ボトムアップ型の政策策定プロセスに、理念や目標先行的な要素を加えつつ、時 間軸や実現可能性を考慮してバランスを取ることが、欧州のエネルギー政策から 日本が学べることではないか。 48
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