A2-03, P2-59

A2-03, P2-59
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
産地及び農法の違いを考慮した食事における間接 CO2 排出量の分析
Analysis of indirect CO2 emissions for meals
considering production area and the differences in farming methods
○伊豆野正和*1)、井原智彦 2)、堂脇清志 1)
Masakazu IZUNO, Tomohiko IHARA, Kiyoshi DOWAKI
1) 東京理科大学, 2) 産業技術総合研究所
*
[email protected]
1.
研究の背景・目的
2.0%
地球温暖化防止には製造者側だけではなく消費者側か
12.3%
らの取り組みも重要である。東芦谷ら 1)は、消費者からの
米
2.3%
野菜
豆
CO2 排出の中で、食事が約 15%と大きな割合を占めてい
41.2%
肉類
18.5%
ることを明らかにした。しかし、東芦谷らは産地の違い
酪農
による CO2 排出量の変化を考慮しておらず、また国内で
魚介類
8.7%
の CO2 排出しか計算していない。東日本大震災や TPP・
7.1%
FTA に伴い、食料の産地が国内外にわたって変化しうる
油脂
15.1%
その他
ことを踏まえると、産地の違いによる CO2 排出の違いや、
海外での CO2 排出を考慮することも、食事に伴う CO2 排
図 1 品目別 CO2 排出量割合
出量の把握、ひいては食事における CO2 排出削減策を検
討する上で必要であると考えられる。本研究では、さま
3.
国内の産地の違いに伴う CO2 排出量の変化
ざまな食材の国内外の CO2 排出量を定量化し、産地の違
国内で生産される食品は日本全国に出荷されている。
いによる排出の変化を評価した。品目は消費量の大きい
そのため、各食品の CO2 排出原単位は産地の違いによっ
米、肉、野菜を評価対象とした。
て変わると考えられる。そこで主要な消費野菜に関して、
産地の違いによる CO2 排出原単位の評価を行った。生産
2.
段階での CO2 排出量の差は大きくないと考えられるため、
食品の品目別 CO2 排出量割合
国内の家計消費に伴う年間の農水畜産品の CO2 排出量
2)
今回生産段階の CO2 排出量はどの産地も同じとした。対
に占める主要品目の割合を算出するために、3EID と経済
象は露地栽培のニンジン、キャベツ、トマトとし、シス
産業省の平成 17 年産業連関表 3)を用いて農水畜産品別総
テム境界は生産段階から東京卸売市場までの輸送とした。
CO2 排出量 e を算出した。算出式は、式(1),(2),(3),(4)を用
算出方法は、生産段階に関しては社団法人産業環境管理
いた。
協会の LCA ソフト(MiLCA ver.1.0.5)の値を用いて算出
した。輸送段階に関しては、農産品の代表輸送機関別都
−1
x = (I − A1 )
ed = Ed × x
−1
ei = (I − A2 )
e = ed + ei
×f
× Ed × x
(1)
道府県間物流量から各都道府県の東京への代表輸送機関
(2)
別食品輸送割合を算出し、代表輸送機関別 CO2 排出原単
(3)
位と東京までの距離をかけることで、輸送段階における
(4)
CO2 排出量を算出した。図 2 にニンジンの主要入荷産地
別 CO2 排出原単位を示す。千葉県産は青森県産より CO2
A1 は農作物の列の値を 0 とした投入係数行列、A2 は農
排出量が 17.5%低い値になった。北海道産は CO2 原単位
作物以外の列の値を 0 とした投入係数行列である。f は家
の低いフェリーによる輸送が多いため、輸送距離の短い
計消費支出であり、Ed は 3EID の直接 GHG 排出原単位で
青森より CO2 排出量が 10.3%低い値になった。
ある。ed と ei はそれぞれ CO2 排出量を示している。図 1
酪農が 8.7%と畜産品の割合が高いことが分かった。米は
12.3%、野菜は 2.0%であった。魚介類は 15.1%と高い割合
を占めていたが、産地の違いによる漁獲段階での CO2 排
出量の違いは少ないと考えられるため、本研究では評価
0.4
CO2排出原単位[kg-CO2/kg]
に農水畜産別総 CO2 排出量を示す。
図 1 から肉類が 18.5%、
0.3
輸送段階
生産段階
0.2
0.1
対象にしていない。1 人 1 日当たりの品目別 CO2 排出量
0
は、米は 759g、野菜は 125g、肉類は 938g となった。
図 2 主要入荷産地別ニンジン CO2 排出原単位
- 146 -
北海道
青森
千葉
徳島
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
4. 国内産・海外産の違いに伴う CO2 排出量の変化
2.0
1.8
LCA 分析を行った。対象品目は米、トマト、なす、たま
ねぎ、ホウレンソウ、にんじん、レタス、キャベツ、牛
肉、豚肉とし、システム境界は、生産段階と東京卸売市
場までの輸送段階とした。肉類に関しては、輸入率の高
CO2排出原単位[kg-CO2/kg]
次に日本の主要輸入国であるアメリカと中国の食品の
いアメリカと日本の CO2 排出原単位を算出した。算出方
1.6
国外輸送
1.4
国内輸送
1.2
精米
1.0
土壌メタン
0.8
光熱動力
0.6
農薬
0.4
肥料
0.2
0.0
法に関して、国内産の食品データについては MiLCA を用
アメリカ
中国
日本
図 4 米の国別 CO2 排出原単位
いたが、データがない場合には、MiLCA の算出方法に基
づいて値を算出した。アメリカ産の米、野菜に関しては、
吉川ら 4)の手法を用いて算出した。中国の米に関しては、
5. 食品の産地の違いによる食事の CO2 排出量
5)
文献値 と MiLCA のデータを用いて算出した。中国の野
食事における国別 CO2 排出量の比較を行った。メニュ
菜に関して、肥料については日本と中国の野菜の肥料使
ーはハンバーグ、御飯、サラダとし、調理段階の光熱は、
用量を推定し投入量を定めた。また、光熱動力や諸材料
津田ら 7)の研究をもとに算出した。表 1 に 4 人前の食事の
に関しては、栽培面積当たりの総使用量を同じとし、品
CO2 排出量を示す。日本産からアメリカ産にした場合、
目別の単位収穫量で比較することにより算出した。牛肉
CO2 排出量は 42.9%低くなることが分かった。
6)
に関しては Peters ら の値を用いた。豚肉も同様である。
表 1 産地別食事 CO2 排出量(g-CO2/4 人前)
国外輸送の部分については、米に関してはばら積み貨物
日本
アメリカ
アメリカ-日本
船での輸送とし、野菜、肉に関しては、冷却コンテナ船
での輸送とした。
ハンバーグ(牛肉)
7742
3293
-4450
御飯 サラダ 合計
721
589 9052
577 1302 5172
-144
714 -3880
図 3 に野菜の国別品目別 CO2 排出原単位を示す。図 3
を見ると、中国の野菜に関してはホウレンソウのみ日本
6. まとめ
の値より低く、21.5%少ない値になった。これは中国のホ
本研究では、国内産地の違いや生産国の違いを考慮し
ウレンソウの単収が日本の 1.87 倍高いことが大きく影響
た食品の LCA を行ったが、特に海外産と国産の食品の
している。アメリカの野菜は、生産段階における CO2 排
CO2 排出量には大きく変化する食品が多く、米に関して
出原単位がほとんどの品目で最も小さくなったが、国外
は国産よりアメリカ産の方が CO2 排出量が 22.4%低くな
輸送部分が全体の約 5 割を占めており、その影響で値が
ることが分かった。今後、本研究を元に CO2 排出量の把
高くなっている。図 4 に国別の米の CO2 排出原単位を示
握、削減策の検討を行うことで、より実態を反映した分
す。米は日本より中国の方が CO2 排出原単位が 13.3%高
析を行うことができると考える。
くなったが、これは中国の水田から出る CH4 が、日本よ
り高いことが主な要因である。アメリカは大規模農業で
参考文献
あることから光熱動力などの値が低くなっており、CO2
1) 玄地裕, 東芦谷智, 井原智彦, 山成素子, 堂脇清志: 第
排出原単位は日本より 22.4%低くなった。また国外輸送
6 回日本 LCA 学会研究発表会講演要旨集, (2010),
工程では、ばら積み貨物船を用いているため CO2 排出原
pp.118-119
2) 南斉規介, 森口祐一 産業連関表による環境負荷原単
CO 2 排出原単位[kg-CO 2 /kg]
単位が低くなっている。
1.0
位データブック(3EID): 2005 年表(β+版), 独立行政
0.9
法人国立環境研究所 地球環境研究センター
0.8
3) 経済産業省,産業連関表, 全国表(2005)
0.7
4) 吉川直樹, 天野耕二, 島田幸司:第 4 回日本 LCA 学会
0.6
研究発表会講演要旨集, (2008), pp.9-10
0.5
日本
0.4
アメリカ
0.3
中国
0.2
5) Mingxin Wang, Xunfeng Xia, Qianjin Zhang and Jianguo
Liu: International Journal of Sustainable Development &
World Ecology, 17, (2010), pp.157-161
6) Gregory M.Peters, Hazel V.Rowley, Stephen Wiedemann,
0.1
Robyn Tucker, Michael D. Shortand Matthias Schulz:
0.0
Environ. Sci. Technol, (2010), 44(4), pp.1327–1332
7) 津田淑江, 久保倉寛子, 辻本進, 上田玲子, 大家千恵
子:日本 LCA 学会誌, 3, (2007), pp.157-167
図 3 野菜の国別品目別 CO2 排出原単位
- 147 -