AN1292 - Microchip

注意 : この日本語版文書は参考資料としてご利用ください。最新情報は必ずオリジ
ナルの英語版をご参照願います。
AN1292
PLL 推定器と磁界弱め (FW) を使った
永久磁石同期モータ (PMSM) のセンサレス磁界方向制御 (FOC)
Author:
Mihai Cheles
Microchip Technology Inc.
はじめに
最 近 の 業 界 の 傾 向 と し て、永 久 磁 石 同 期 モ ー タ
(PMSM) はモータ制御アプリケーション向けに最も好
まれて用いられています。PMSM は同一カテゴリの他
のモータに比べて電力密度、動特性、効率、磁気特性
に優れる上に製造コストが低いため、大量生産製品へ
の実装に適しています。
Microchip 社は、全てのタイプのモータに効率と信頼
性の高い柔軟な制御を実装可能とする豊富なデジタル
シグナル コントローラ (DSC) 製品と、開発に必要な
ツールセットを含むリファレンス デザインを提供す
る事で、お客様が新製品を容易に短期間で開発できる
よう支援します。
センサレス磁界方向制御 (FOC)
PMSM では、ロータ磁界の回転速度とステータ ( アー
マチュア ) 磁界の回転速度は一致する ( すなわち同期
する ) 必要があります。ロータ磁界とステータ磁界間
の同期が損なわれると、モータは停止します。
磁界方向制御 (FOC) 方式では、ステータ電流のトルク
生成成分と磁束生成成分をデカップリングする事を目
的として、磁束の 1 つ ( ロータ、ステータ、エアギャッ
 2014 Microchip Technology Inc.
プのいずれか ) をそれ以外の磁束の 1 つに対する参照
フレームを生成するためのベースとして扱います。デ
カップリングによって、複雑な三相モータを他励 DC
モータと同様に容易に制御できます。これは、アーマ
チュア電流がトルク生成に関与し、励起電流が磁束生
成に関与する事を意味します。本書では、ロータ磁束
をステータおよびエアギャップ磁束に対する参照フ
レームとして扱います。
FOC の原理は、Microchip 社の他のアプリケーション
ノート 『AN1078
(
- PMSM モーターのセンサレス FOC
制 御』、 『AN908 - Using the dsPIC30F for Vector
Control of an ACIM』等 ) に記載しています (「参考資
料」参照 )。本書では、FOC に関して詳しく説明せず、
上記の既刊アプリケーション ノートには含まれない
新しい実装機能についてのみ説明します。
FOC の制御構成を図 1 に示します。この制御構成の実装
と検証には、ハードウェアを一切追加する事なく各種の
制御方式で PMSM モータを駆動可能な dsPICDEM™
MCLV 開発ボード (DM330021) を使いました。
この制御構成は、推定器の細部とモータのタイプが異
なる (ACIM に対して PMSM) 点を除けば、アプリケー
ション ノート『AN1162 - AC 誘導モータ (ACIM) のセ
ンサレス磁界方向制御 (FOC)』(「参考資料」参照 ) の
制御構成に類似しています。
DS01292A_JP - p. 1
6
ref
4
Iqref
+
-
-
PI
Idref
7
Vq
+
Field
Weakening
8
SVM
Vd
,
3-Phase
Bridge
estim
Iq

d,q
,

Id
,
A,B


Angle Estimation
Estimator
Speed Estimation
V
V
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Software
ハードウェア ブロック
1.
永久磁石同期モータ
2.
三相ブリッジ ( 整流器、インバータ、アクイジションおよび保護回路 )
®
ソフトウェア ブロック (dsPIC DSC で実行 )
3.
クラーク正変換ブロック
4.
パーク正変換および逆変換ブロック
5.
角度 / 速度推定器ブロック
6.
PI コントローラ ブロック
7.
磁界弱めブロック
8.
空間ベクトル変調ブロック
5
B
C
V
PI
mech
1
A
V
d,q
PI
+
-
2
3
Hardware
PMSM
AN1292
DS01292A_JP - p. 2
図 1: PMSM 向けセンサレス FOC のブロック図
AN1292
PMSM における FOC の特異性は、ステータの d 軸参
照電流 Idref (d 軸上のアーマチュア応答磁束に対応 ) が
ゼロに設定されるという点にあります。PMSM のロー
タ磁石はロータ磁束鎖交数 PM を生成します。これ
とは異なり、AC 誘導モータは磁化電流に対して一定
の参照値 Idref を必要とし、これによってロータ磁束鎖
交数を生成します。
角度および速度の推定にはモータの数学的モデルを
使います。モデルが実際のハードウェアに近いほど推
定器の性能は向上します。PMSM の数学的モデルは、
永久磁石の構造に基づいて大きく 2 つのタイプ ( 表面
実装型と埋め込み型 ) に分類されます。タイプによっ
てアプリケーションのニーズに対する長所と短所が
異なります。本書の制御構成は表面実装永久磁石同期
モータ ( 図 2) 向けに開発されました。表面実装型はト
ルクリップルが小さく低コストという利点を持ちま
す。表面実装型 PMSM のエアギャップ磁束は平滑であ
るため、ステータのインダクタンス値は Ld = Lq( 非突
極 PMSM) であり、逆起電力 (BEMF) は正弦波状です。
エアギャップ磁束は、ロータの磁束鎖交数の合計 ( 永久
磁石によって生成される磁束鎖交数とステータ電流に
よって生成されるアーマチュア応答磁束鎖交数の合計 )
です。FOC における定トルクモードでは、d 軸エア
ギャップ磁束 = PM であり、d 軸アーマチュア応答磁
束はゼロです。
表面実装磁石はステータの歯とロータコアの間に位置
するため、エアギャップが大きくなります。このため、
表面実装型PMSMはサイズと定格出力が同等の他タイ
プのモータに比べてインダクタンスは小さくなりま
す。このようなモータ特性により、速度 / 位置推定器
で使う数学的モデルをある程度簡略化できると同時に
FOC を効率的に使用できます。
これに対し定出力モードでは、エアギャップ磁界弱め
用にステータ電流の磁束生成成分 Id を使う事で、定ト
ルクモードよりも高速を達成します。
角度または速度センサを使わないセンサレス制御で
は、温度や電磁ノイズ等の影響を除去可能な信頼性の
高い速度推定器の実装が技術的課題となります。一般
的にセンサレス制御は、角度センサ等の可動部品の追
加が許容されない低コスト アプリケーションや、電気
的に苛酷な環境でモータを運転する必要がある場合に
使われます。しかし、センサレス制御を採用するアプ
リケーションでは、特に低速域における制御精度が重
視されない事が必要です。
FOC の最大トルク / 電流比は、ロータ磁束鎖交数を
アーマチュアが生成する磁束鎖交数の 90° 遅れに常時
保つ事によって得られます ( 図 3 参照 )。
図 2: 表面実装永久磁石型 PMSM の断面図
3
4
Motor’s Transversal Section
1.Rotor shaft
5
2.Rotor core
3.Armature (stator)
6
4.Armature slots with armature windings
5.Rotor’s permanent magnets
6.Air gap
1
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2
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AN1292
図 3: FOC ベクトル図 ( 基本速度 )
注意 :
q
x
U ma
K 
mit
In v
er t
er
li
ut
tp
u
o
Us
RsIs
Is = Iq
jLsIs
PM
d
表面実装永久磁石 (SPM) 型 PMSM の磁界
弱め動作では、必要な配慮を怠ったりモー
タ製造者の仕様に従わなかった場合、ロー
タの機械的損傷と永久磁石の減磁を招く
恐れがあります。通常、永久磁石の固定に
はエポキシ接着剤またはカーボンファイ
バ製のリングが使われます。モータ製造者
が指示する最大速度を超えた場合、磁石が
外れたり割れたりして、ロータおよびモー
タシャフトに固定されている他の機械部
品が破損する可能性があります。また、エ
アギャップ磁束密度が図5の磁束密度曲線
の折れ曲がり点 BD を超えると、減磁が発
生する可能性があります。
図 5: 永久磁石の理論的ヒステリシス
B[T]
1
100ºC
このタイプのモータでは、大きなエアギャップによっ
てロータの永久磁石磁束鎖交数を分配するアーマチュ
ア応答磁束が弱くなるため、FOC 定出力モードでは効
果的に磁界弱めを実行できないと考えられます。この
ため、本書の供試モータでは、基本速度の 2 倍を超え
る最大速度を達成する事はできません。図 4 に、定出
力 - 磁界弱めモードにおけるベクトル図を示します。
BR
2
BD
図 4: FOC ベクトル図 ( 高速 - 磁界弱めモード )
q
K 
In v
ert
er
H[A/m]
ax
it U m
t lim
u
tp
ou
Us
jLsIs
ヒステリシス図
1.
2.
Is
Iq
Is
Rs
Id
HCiHC
PM
永久磁石の B-H 減磁曲線
永久磁石の J-H 減磁曲線
H = 磁界の強さ
d
B = 磁束密度 / 磁化
BR = 残留磁化
HC = 保磁力
HCi = 真の保磁力
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式 3:
PLL 型推定器
本書では、
『AN1162 - AC 誘導モータ (ACIM) のセンサ
レス磁界方向制御 (FOC)』(「参考資料」参照 ) に記載
した推定器を PMSM 向けに適合化して使います。
E d = E  cos   estim  + E  sin   estim 
E q = E  sin   estim  + E  cos   estim 
この推定器は PLL 構造を有します。その動作原理は、
「定常動作モードにおいて逆起電力 (BEMF) の d 成分は
ゼロに等しい」という事実に基づきます。推定器のブ
ロック図を図 6 に示します。
固定ステータフレームに基づき、ステータ回路の式は
式 4 のように表せます。
式 4:
図 6 に示す閉ループのフィードバック部では、ロータ
の推定速度( Restim)を積分する事で推定角度を求めま
す ( 式 1 参照 )。
dI 
E  = V  – R S I  – L S -------dt
式 1:
dI 
E  = V  – R S I  – L S -------dt
 estim =   Restim dt
式 4 で  -  を含む項は、三相システムの計測値からク
ラーク変換によって求まります。LS と RS は、ステータ
相が Y ( 星型 ) 結線されている場合の相あたりのステー
タ インダクタンスと抵抗を表します。モータが ∆ ( デ
ルタ ) 結線されている場合、Y 結線に等価な相抵抗およ
びインダクタンス値に換算して、上式に代入する必要
があります。
推定速度  Restim は、BEMF 値の q 成分を電圧定数 K
で除算する事によって求めます ( 式 2 参照 )。
式 2:
1  E – sgn  E   E 
 Restim = -------qf
df
K  qf
図 7 に、推定器のリファレンス電気回路モデルを示し
ます。モータの A、B、C 端子はインバータの各出力
端子に接続されます。電圧 VA、VB、VC はモータのス
テータ巻き線に印加される相電圧を表します。VAB、
VBC、VCA はインバータの相間電源電圧を表し、IA、IB、
IC は相電流を表します。
定常状態において BEMF の d 軸値はゼロであるという
初期前提を考慮し、式 2 では、Edf (BEMF の d 軸値 )
を使って、Eqf (BEMF の q 軸値 ) をその符号に応じて
修正します。BEMF の d-q 成分の値は、式 3 に示す
パーク変換の後に、一次フィルタで処理されます。
図 6: PLL 推定器のブロック図
LPF
E
Edf
Ed
,
LPF
E
Eq
Sign
Eqf
d,q
+
+

estim
1s
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Restim
DS01292A_JP - p. 5
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式 5:
図 7: PLL 推定器の電気回路路モデル
MotorEstimParm.qLsDt は下記を表す
L S_NORM
15
1 U0
----------------------- = -----L
------  2
dt
TS S I0 0
RS
VAB
VCA
VA
LS
LS = Y 結線のモータ相インダクタンス
TS = PWM 周期に等しいサンプリング時間
IA
VB
IC
LS
LS
IB
RS
RS
VC
UN
U0 = ------- 、UN はインバータの DC リンク電圧
15
2
I peak
I0 = ------------- 、Ipeak は相あたりの最大ピーク電流
15
2
2 
0 = ---------60
および
MotorEstimParm.qRs は下記を表す
U 0 15
R S_NORM = R S -------  2
I0
VBC
制御システム内の各計算ステップにおいて、推定器の
式 4 内の電圧 V と V は、FOC の直前のサイクルで
計算された値です。これらの値は、直前の制御ステッ
プで空間ベクトル モジュール (SVM) ブロックに入力
されますが、現在のステップで推定器ブロックにも入
力されます。I と I は相電流からのクラーク変換結果
であり、各推定器サイクルで読み出されます。
式 4 内のステータのインダクタンス (LS) と抵抗 (RS)
は、計算を容易にすると共にソフトウェア内の数値表
現要件を満たすために、正規化および適合化されます
( 式 5 参照 )。
RS = Y 結線のモータ相抵抗
式 4 の最後の項は電流の時間微分値であり、ソフト
ウェア内でノイズ発生原因となるため、推定器の実行
ループあたりの電流変化量は上限値によって制限され
ます。これは PWM 割り込みのたびに適用されます。
式 4 から求まった BEMF の E および E 値は、パーク
変換によってロータ磁束の回転参照フレームへと変換
され、式 3 の Ed および Eq 値が得られます。パーク変
換には、推定器の直前の実行サイクルで計算された角
度 estim を使います。BEMF の d-q 値は一次フィルタ
処理された後に、Ed = 0 に基づいて、推定器のメイン
条件に入力されます。
その結果、電気的回転速度 Restim が式 2 のように求ま
ります。さらに、この電気的回転速度を積分する事で、
ロータ磁束と  –  固定ステータフレーム間の角度
(estim) が求まります。式 2 において、 は表 1 に示
す電圧定数です。電気的回転速度の計算で使う正規化
した  を式 6 に示します。
式 6:
MotorEstimParm.qInvKFi は下記を表します。
U
1000
15
1
---------------------------- = ------0- 3  2   ------------------  P 2
60  K 
0
K _ NORM
P = 極ペアと前述の他の入力の数
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速度のフィードバックには、BEMF に使った物と同じ
一次フィルタが適用されます。フィルタの一般的な形
態を式 7 に示します。
式 7:
y(n) = y(n – 1) + Kfilter · (x(n) – y(n – 1))
y(n) = 電流サイクル フィルタ出力
y(n – 1) = 前サイクルのフィルタ出力
x(n) = 現サイクルのフィルタ入力
Kfilter = フィルタ定数
フィルタ出力は DC 値に近い状態である事 (ADC アク
イジションまたはソフトウェア計算で生じる高周波ノ
イズを含まない事 ) が必要です。フィルタの通過帯域
は、フィルタ処理する信号 (BEMF の d-q 成分と電気
的回転速度 ) の必要な周波数成分が通過できるよう設
定する必要があります。BEMF d-q 成分の場合、高速
域と低速域で状況が異なります。磁界弱めモードを使
う高速域では、急激なトルク変化または加速度変化が
生じないため、低速域よりも値の変化は緩やかです。
速度変化率は、モータ ( およびモータシャフト負荷 )
の機械的定数と参照速度の最大変化率 ( 上昇または下
降のいずれか速い方 ) によって決まります。
磁界弱め (FW)
PMSM の磁界弱めでは、回転フレームの d 軸上のス
テータ電流は負の値となり、これによってエアギャッ
プ磁束鎖交数が弱まります。
インバータの電圧出力はステータの抵抗と誘導リアク
タンスによって降下し、残りの電圧が BEMF を弱める
ために使われます。BEMF はモータ速度と電圧定数 
に比例します。インバータの出力電圧は制限される事
から、速度を上げるにはモータの電圧定数 ( エア
ギャップ磁束鎖交数に比例 ) を低減する必要がありま
す。もちろん、エアギャップ磁束鎖交数を低減すると
トルクも低下します。
エアギャップ磁界弱めの制御に関係するモータの各種
特性パラメータは複雑に関係し合うため、現象は単純
ではありません。
このような特性変化は高度に非線形であるため、特性
の決定には手間がかかります。
調整と実験結果
基本速度以下の速度域におけるアルゴリムの調整は単
純です。基本的に、製造者が提供するモータ パラメー
タまたは計測したモータ パラメータを、本書に付属す
るサポートファイル tuning_params.xls に入力す
る事で、推定器用の正規化モータ パラメータを求めま
す (「補遺 A: ソースコード」参照 )。これらの値を
userparms.h プロジェクト ファイルに反映する事
で、実行可能となります。
計測するパラメータにはロータの抵抗 RS、インダクタ
ンス LS、電圧定数  があります。
ステータの抵抗とインダクタンスはモータの端子で計
測でき、計測値を 2 で割る事で LS および RS 値が求ま
ります。デルタ結線モータの場合、モータ製造者が提
供する相抵抗値と相インダクタンス値を 3 で割る事
で、スター結線モータの RS および LS 値に等価な値が
得られます。
全てのモータ製造者は電圧定数  を提示しています。
しかし、この値は、ロータシャフトを一定速度で回転
させてモータ端子で出力電圧を計測するといった非常
に簡単な方法で計測する事もできます。1000 rpm で計
測した AC 電圧が RMS (typ.) 値です。
この計測値に 2 の
平方根を乗算する事で Vpeak /KRPM 値が求まります。
表 1 に、本書の供試モータを上記の方法で計測した結
果を示します。
表 1:
Hurst Motor 社製
DMB00224C10002
単位
Y
—
L-L 抵抗
1.92 · 2
Ω
L-L インダクタンス - 1 kHz
2.67 · 2
mH
電圧定数 
7.24
Vpeak/
KRPM
周囲温度
22.7
℃
モータタイプ
結線型
エアギャップ磁界弱めに対するアーマチュア d 軸電流
の影響は、アーマチュアの歯からロータのコアまでを
含む磁気回路の形状と磁気特性によって決まります。
既に述べたように、表面実装永久磁石は磁界弱めに対
して有利に作用しません。このため、この種のモータ
の磁気回路は基本速度域の動作だけを考慮して設計さ
れている可能性があります。そのようなモータでは、
基本速度域を超えると飽和現象が発生します。飽和効
果によって電気的パラメータが変化します。例えば、
磁界弱めモードではステータの磁束鎖交数が低下しま
す。
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DS01292A_JP - p. 7
AN1292
dsPICDEM MCLV 開発ボード上の 2 つのシャント抵抗
を使って 2 つの相電流を計測し、ADC アクイジション
後に、それらの値を適切なレンジにスケーリングしま
す。総合的な電流スケール係数は、シャント計測用差
動オペアンプのゲインと、モータに流れる電流の最大
値によって決まります。例えば、ピーク相電流が 4.4 A、
シャント抵抗が 0.005 Ω、オペアンプのゲインが 75 で
ある場合、ADC 入力における電圧は 3.3 V です。電流
のスケール係数を 1 とした場合、例 1 のように定義す
る事で、電流値はソフトウェアの実装要件に適合する
Q15 形式で得られます。
例 1:
#define
#define
KCURRA
KCURRB
Q15(-0.5)
Q15(-0.5)
本書のアプリケーションでは、電気部品の許容誤差に起
因する計算誤差を無くすため、上記のように計算するの
ではなく、サポートファイル tuning_params.xls を
使って実験的に電流スケール係数を決定しました。式 8
に示すスケール定数を内部ソフトウェア変数に乗算す
る事で、実際の電流値が求まります。
式 8:
I peak
I 0 = ------------15
2
逆に、計測した電流値をその値に対応するソフトウェ
ア内の十進値で除算する事で、スケール係数が求まり
ます。これを行うには、電流プローブと MPLAB® IDE
のデータモニタおよびキャプチャ インターフェイス
(DMCI) 機能を使って、定常運転中にスコープ上で計測
したピーク電流値を、これに対応する DMCI の表示値
で除算します。DMCI の詳細な使用方法については、
MPLAB IDE のヘルプファイルを参照してください。
サンプリング後にスケール定数が乗算された電流値
は、式 4 内の抵抗および誘導リアクタンスによる電圧
降下を求めるために使われます。電流の計測値にはノ
イズが含まれるため、有効な結果を得るには、微分項
( 誘導リアクタンスによる電圧降下 ) の値の変化量を制
限する必要があります。本書の供試モータの場合、最
大速度 5500 rpm/ ピークツーピーク電流 5 A において、
50 s 間の最大電流変化量は 0.25 A であると考えられ
ます。
負荷がかかった状態で始動する場合、初期校正で開
ループのランプ パラメータを調整する必要がありま
す。
DS01292A_JP - p. 8
開ループ調整パラメータにはロック時間、加速終了速
度、電流参照値が含まれます。ロック時間とはロータ
の角度検出に必要な時間を意味し、初期負荷トルクと
慣性モーメントによって決まります。慣性モーメント
が大きいほど、ロック時間は長くなります。初期加速
の終了速度 (rpm) は、推定器の BEMF 計算に必要な精
度が確保できるよう、十分に高くする必要があります。
この速度に達するまでの時間は、モータのシャフトに
かかる負荷によって決まります。この負荷が大きいほ
ど、最終的な参照速度に達するまでの時間は長くなり
ます。
開ループ制御は閉ループ制御の簡易版として実装され
ます。開ループ制御による初期加速中のロータ磁束と
固定参照フレーム間の角度は、推定されるのではなく
強制的に設定されます(実際のロータ位置に関係なく、
連続的に増加するよう強制的に設定されます )。図 1
に示した制御ループを簡略化するため、速度コント
ローラは省略され、q 軸の参照電流はハードコードさ
れます。
q 軸の参照電流によって開ループ加速中にモータに流
れる電流が決まります。初期負荷が高いほど高い電流
が必要です。この参照電流は概ね参照トルクのように
機能します。
参照電流を設定するマクロ定義 ( 例 2 参照 ) は、電流の
物理値入力パラメータをソフトウェアが要求するレン
ジに適合するよう正規化します。この計算には、初期
に求めた電流スケール係数(NORM_CURRENT_CONST)を
使います。入力として許容される電流値 (A) のレンジは
-Ipeak ~ Ipeak です。
例 2:
#define NORM_CURRENT(current_real)
(Q15(current_real/NORM_CURRENT_CONST/32768))
初期調整を目的として、アルゴリズムの閉ループへの
移行を無効にする ( 開ループ制御を実行し続ける ) に
は、例 3 に示す特殊なコードマクロ定義を有効にしま
す。
例 3:
#define OPEN_LOOP_FUNCTIONING
これは特に、閉ループ制御に移行せずに開ループ動作
を維持したまま PI コントローラの再校正、初期遷移条
件の検証(開ループ時の設定角度と推定角度間の誤差、
電流スケール係数の実験的同定等 )、開ループの初期
加速パラメータの微調整等を行う場合に便利です。
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AN1292
定格速度を超える磁界弱め適用速度域では、システム
パラメータの非線形性のために、調整はより複雑です。
以上と式 6 から、式 9 に示すように、BEMF が一定で
あれば速度R と1/K の間には比例関係が成立します。
以下で説明する調整は、
供試モータを使って定格の 2 倍
の速度を無負荷で達成する事を目的とします。
式 9:
注意 :
通常、モータ製造者はモータが損傷する事
なく達成可能な最大速度を提示していま
す ( 通常、この速度は定格電流におけるブ
レークポイント速度よりも高い )。しかし、
そのような速度が提示されていない場合、
既に述べたように減磁または機械的損傷
の危険性が想定されるため、高速運転は短
期的 ( 間欠的 ) にだけ可能です。
定格値を超える高速域における磁界弱め
モードで FOC が無効になると、インバー
タが損傷する危険性が高くなります。その
理由は、BEMF が定格速度での値よりも大
きくなり、これによってインバータのパ
ワー半導体とDC結合コンデンサの耐圧に
対して DC バス電圧が過大となるためで
す。上記の調整では、最適な動作が得られ
るまで係数を繰り返し修正する必要があ
るため、高速域でストールした場合は、対
応する回路でインバータを確実に保護す
る必要があります。
調整の原理を説明するために、図 4 のベクトル図から
説明を始めます。インバータが供給可能な最大電圧に
おいて、最大トルク / 電流比を達成するために必要な
電流は、定格速度以下の速度域では q 成分 ( トルク生
成に必要な成分 ) だけを含みます。定格速度以下では
Iq = IS ですが、定格速度を超えて磁界弱めが働き始め
ると、ステータ電流 IS は d および q 成分の合成ベクト
ルとなります。ステータ電流 IS と入力電圧 US の絶対
値が一定であると想定した場合、ステータ抵抗による
電圧降下は一定ですが、誘導リアクタンスによる電圧
降下はモータ速度に比例して増加します。しかし、既
述のように表面実装永久磁石のインダクタンス値は他
のタイプに比べて非常に小さいため、誘導インダクタ
ンスの増加は無視可能です。これを考慮して、誘導リ
アクタ ンスに よる電圧 降下の 増加によ って生 じる
BEMF の小さな減少を許容すると、磁界弱め領域で
モータの速度が増加しても BEMF は一定であると見な
せます。
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BEMF =  R K 
従って、速度を 2 倍にする場合、誘導リアクタンスに
よる電圧降下の増加 ( 従って BEMF の低下 ) を無視す
れば、1/K も単純に 2 倍になります。BEMF の低下を
を考慮に入れた場合、1/K は 2 x 1.25 =2.5 倍程度に
なると見積もれます。速度に対する 1/K_NORM の変化
はルックアップ テーブルで定義されます。テーブルの
初期設定では、速度 R に対して 1/K_NORM はリニア
に変化します。しかしこのテーブルは、負荷プロファ
イルに応じて最良の効率が得られるよう、最終的に調
整できます。ルックアップ テーブルのインデックス
は、現在のロータ速度から磁界弱め開始速度を減算し
た値をスケール係数で除算する事で求まります。イン
デックス スケール係数によってルックアップ テーブ
ルの分解能が決まります。同一速度レンジに対して大
きなスケール係数を使うと、対象とする速度領域を表
現するためのルックアップ テーブル内のデータ点の
数は少なくなります。本書の供試モータの場合、最大
速度は 27500 unit (5000 unit が 1000 rpm に対応 ) で
す。スケール係数を 1024 unit、磁界弱め開始速度を
13000 unit とした場合、(27500 - 13000)  1024 = 14.1
です。つまり、目標とする速度レンジをカバーするに
は、テーブル内に 15 個のエントリがあれば十分です。
逆に、ルックアップ テーブル内に 17 個のエントリが
あれば、最大速度は 17 × 1024 + 13000 = 30408 unit (
約 6000 rpm) です。推定された現在速度にはノイズが
多く含まれるため、ソフトウェアが算出する速度イン
デックスが不安定になる可能性があります。このため、
インデックスの計算には推定速度の代わりに参照速度
を使います。参照速度の変化率は十分に小さいため、
推定速度は参照速度に正確に追従できます。
基本速度と最大速度の間で電圧定数の逆数が速度に対
してリニアに変化するよう設定されたルックアップ
テーブルの値を例 4 に示します。これらの値は実験結
果に基づいて調整できます。このテーブル内の最初の
値は、モータの基本速度における 1/K 値を表します。
これはサポートファイル (tuning_parameters.xls)
を使って求めた値です。
DS01292A_JP - p. 9
AN1292
例 4: 電圧定数の逆数の初期ルックアップ テー
ブル値
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
INVKFI_SPEED0
INVKFI_SPEED1
INVKFI_SPEED2
INVKFI_SPEED3
INVKFI_SPEED4
INVKFI_SPEED5
INVKFI_SPEED6
INVKFI_SPEED7
INVKFI_SPEED8
INVKFI_SPEED9
INVKFI_SPEED10
INVKFI_SPEED11
INVKFI_SPEED12
INVKFI_SPEED13
INVKFI_SPEED14
INVKFI_SPEED15
INVKFI_SPEED16
INVKFI_SPEED17
7900
8600
9300
10000
10700
11400
12100
12800
13500
14200
14900
15600
16300
17000
17700
18500
19200
19750
定格電流でモータを運転する場合、磁石の恒久的な減
磁は生じません。従って、エアギャップの正味磁束密
度の減少に影響する d 成分に対して定格電流を与えて
も、破壊的影響は生じません。定常状態の無負荷運転
( 緩やかな加速、負荷はベアリングとファンのフリク
ションのみ ) では、非常に小さな q 成分しか必要とし
ません。実際には、d 軸電流成分はルックアップ テー
ブルを使って設定されます ( インデックスは電圧定数
ルックアップ テーブル用と同じ )。初期状態のテーブ
ル ( 例 5 参照 ) では、速度  R に対して電流 Id はリニ
アに変化します。このテーブルの最初のエントリは、
基本速度における Idref 値を表し、最後のエントリは定
格電流値を表します。
例 5: 参照 d 軸電流の初期ルックアップ テーブ
ル値
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
IDREF_SPEED0 NORM_CURRENT(0)
IDREF_SPEED1 NORM_CURRENT(-0.09)
IDREF_SPEED2 NORM_CURRENT(-0.18)
IDREF_SPEED3 NORM_CURRENT(-0.27)
IDREF_SPEED4 NORM_CURRENT(-0.36)
IDREF_SPEED5 NORM_CURRENT(-0.45)
IDREF_SPEED6 NORM_CURRENT(-0.54)
IDREF_SPEED7 NORM_CURRENT(-0.63)
IDREF_SPEED8 NORM_CURRENT(-0.72)
IDREF_SPEED9 NORM_CURRENT(-0.81)
IDREF_SPEED10NORM_CURRENT(-0.9)
IDREF_SPEED11NORM_CURRENT(-0.99)
IDREF_SPEED12NORM_CURRENT(-1.08)
IDREF_SPEED13NORM_CURRENT(-1.17)
IDREF_SPEED14NORM_CURRENT(-1.26)
IDREF_SPEED15NORM_CURRENT(-1.35)
IDREF_SPEED16NORM_CURRENT(-1.44)
IDREF_SPEED17NORM_CURRENT(-1.53)
DS01292A_JP - p. 10
電流の負の d 成分は、電圧定数 K を減少させる効果
を持ちます ( 理想的な状態では比例 )。既に述べたよう
に、これによって最大達成可能速度を高める事ができ
ます。
また、磁界弱めモードでは、ステータの磁束鎖交数も
非線形に変化します。この影響に対応するため、上記
と同じインデックスを使って、もう 1 つのルックアッ
プ テーブルを参照します。このルックアップ テーブ
ル内の値は、インデックスが示す速度  におけるイン
ダクタンス Ls_norm()/dt を基本速度 0 におけるイン
ダクタンス Ls_norm/dt の 2 倍の値で除算した値です。
基本速度のインダクタンスは自身の 2 倍の値で除算さ
れるため、テーブル内の最初の値は常に 0.5 です。テー
ブル内のその他の速度には、基本速度インダクタンス
の 1/2 の値 (0.25) が設定されます ( 例 6 参照 )。
例 6: インダクタンス変化の初期ルックアップ
テーブル値
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
#define
LS_OVER2LS0_SPEED0Q15(0.5);
LS_OVER2LS0_SPEED1Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED2Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED3Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED4Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED5Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED6Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED7Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED8Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED9Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED10Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED11Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED12Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED13Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED14Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED15Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED16Q15(0.25);
LS_OVER2LS0_SPEED17Q15(0.25);
調整を行う場合、ソフトウェアで参照速度を緩やかに
変化させるために、例 7 の定義を使います。
例 7:
#define TUNING
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AN1292
これらの条件でソフトウェアを実行した時に、定格速
度よりも高い速度域でモータがストールする場合、そ
れはルックアップ テーブル内の初期設定値が一部の条
件において実際の非線形な特性に合致しない事を意味
します。モータがストールした場合、即座にプログラ
ム 実 行 を 停 止 し、キ ャ プ チ ャ し た イ ン デ ッ ク ス 値
(FdWeakParm.qIndex) をデバッガのウォッチ ウィン
ドウに表示します。このインデックスは、Idref の値が
有効ではなく変更が必要なデータ点を昇順に示しま
す。性能を改善するため、ルックアップ テーブル内の
現在のインデックスが指す値を、次のインデックス
(FdWeakParm.qIndex + 1) が指している値に置換
し、モータの挙動を再度確認する必要があります。こ
の手順を繰り返す事で、d 軸上の定格参照電流で達成
可能な速度を最大化します。定格電流で得られた最大
速度が目標 ( 本書の場合定格速度の 2 倍 ) に達さない場
合、d 軸参照電流の絶対値を定格値よりも増やす必要
があります。d 軸参照電流は、モータがストールした
条件でのインデックスが示す値を開始値として増加さ
せます。このインデックス値は、モータの実際の速度
( タコメータを使ってシャフトで計測した速度 ) に対応
させる必要があります。ルックアップ インデックスは
実際の推定速度ではなく参照速度を使って計算される
という事に注意してください。本書の供試モータには
定格の 1.5 倍の d 軸電流を印加でき、基本速度のほぼ
2 倍の最大速度を達成できました。以上から得られた
結果を図 8 に示します。d 軸電流を増やしても速度の
向上が得られない場合 ( 電流を増やし過ぎると一般的
にモータはストールする )、ストール時のインデックス
に対応するインダクタンス値を増減します。インダク
タンス変化のルックアップ テーブルは、最後に変更し
ます。
負荷をかけた試験の場合、トルク生成のために q 軸電
流が必要になるため、初期条件 ( 主に「磁界弱めにおい
て d 軸参照電流は定格電流値に等しい」という条件 ) は
成立しなくなります。磁界弱めに使われる電力とトル
ク生成に使われる電力の比は、負荷トルク - 速度特性に
よって決まります。
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AN1292
図 8: 速度に対する d 軸電流と 1/K の関係
SPEED [RPM]
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
0
D-AXIS CURRENT [RMS]
-0.5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
No load (init tuning)
0
1000
2000
No load (fine tuning)
SPEED [RPM]
3000
4000
5000
6000
7000
20000
18000
16000
14000
InvKfi [-]
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
No load (init tuning)
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No load (fine tuning)
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AN1292
磁界弱めモードの実行中は、インバータの電圧制限も
重要です。この電圧制限によって、d-q 電流成分の達成
可能最大値が決まります。両方の電流成分がそれらの
参照値に追従するとした場合、両成分の合成ベクトル
の絶対値は、インバータの最大電圧を超えます。従っ
て、磁界弱めに関与する電流 d 成分が優先され ( エア
ギャップ磁界弱めにはこちらの方が重要 )、その結果と
して q 成分 ( 電流のトルク成分 ) の最大許容値が決まり
ます。図 9 に、この動的な調整を電圧の d-q 成分に変換
して実行するブロック図を示します ( 電圧の d 成分を優
先 )。
推定器の性能にはモータパラメータが非常に強く影響
するため、実験結果には計測条件が影響します。とり
わけ、ロータの抵抗とモータの磁束定数は温度によっ
て変化します。高トルク生成時には大きな電流が流れ
るため、熱損失が増加し、モータ温度が上昇します。
これは、推定器出力の精度に悪影響を及ぼします。本
書では、推定器の温度依存性の補正または補償につい
て説明しません。パラメータの温度依存性を補償する
事は可能ですが、モータのタイプ、動作条件、動作モー
ドによって大きく異なります。表 2 に、推定器出力に
対する温度の影響がある程度制限された条件 ( 室温、
達成トルクでの連続運転を 1 分間に制限 ) で得られた
試験結果を示します。
表 2: 負荷をかけた状態での実験結果
参照速度
(rpm)
達成速度
(rpm)
トルク
(Nm)
500
500
1000
1500
相電流
(A RMS)
0.148
1.697
1000
0.111
1.556
1425
0.083
1.513
2000
1900
0.062
1.117
2500
2375
0.031
0.608
3000
2850
0.020
0.636
3500
3325
0.019
1.174
4000
3800
0.015
1.556
表 2 の 3500 rpm と 4000 rpm は磁界弱め動作域であ
り、それらの相電流は通常動作速度域の上限である
3000 rpm よりも大きくなっています。
図 9: 動的電圧調整のブロック図
V
Vdref

VSmax
V qmax =
2
2
V Smax – V dref
VQMAX
Vqref
Vqmax,Vqmax < Vqref
d,q
V
Vqref,Vqmax > Vqref
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AN1292
センサレスFOCアルゴリズムは、dsPIC33FJ32MC204
向けに開発されたソフトウェア内で下記のリソースを
消費します ( コンパイラの -O3 最適化レベルをリリー
スモードで使用した場合 )。
• プログラムメモリ ( フラッシュ): 5682 バイト ( 合計 )
- 612 バイト ( 磁界弱め用コード )
- 645 バイト ( メイン ユーザ インターフェイス用
コード )
- 4425 バイト ( 磁界弱めなしセンサレス FOC 用
コード )
• データメモリ (RAM):
- 444 バイト ( デバッグ データダンプ配列を除く合
計)
以下に示すアルゴリズムの実行時間は、コアクロック
周波数を 40 MHz、コンパイラの最適化レベルを -O3
とした場合の計測値です。
• センサレス FOC アルゴリズム ( 磁界弱めあり ) コー
ドを実行する ADC 割り込みの実行時間 :
- 最小 : 14.975 µs
- 平均 : 23.325 µs
- 最大 : 23.65 µs
• センサレス FOC アルゴリズム ( 磁界弱めなし ) コー
ドを実行する ADC 割り込みの実行時間 :
- 最小 : 14.725 µs
- 平均 :20.8 µs
- 最大 :21.4 µs
ADC 割り込みは 50 µs 周期で実行されます (PWM 周
波数 20 kHz で毎周期トリガ )。
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AN1292
まとめ
参考資料
本書では、永久磁石同期モータ (PMSM) 向けの磁束角
度 / 速度の推定方法について説明しました。この方法
を PMSM 磁界弱めモードに効果的に適用する事で、こ
の種のモータの適用範囲が大きく拡がります。
本書で参照した下記のアプリケーション ノートは、
Microchip 社のウェブサイト (www.microchip.com) か
らダウンロードできます。
本書では、推定器の主な理論的背景を説明すると共に、
非常に重要となる調整方法について解説しました。本
書に記載したアプリケーションは、サポートファイル
を使う事で、他のモータにも容易に適合できます。加
えて、本書に記載した Microchip 社製開発ハードウェ
ア プラットフォームを使う事で、アプリケーションの
開発期間を大幅に短縮できます。
 2014 Microchip Technology Inc.
• AN908 - Using the dsPIC30F for Vector Control of
an ACIM
• AN1078 - PMSM モーターのセンサレス FOC 制御
• AN1162 - AC 誘導モータ (ACIM) のセンサレス磁界
方向制御 (FOC)
DS01292A_JP - p. 15
AN1292
補遺 A:
ソースコード
ソフトウェア ライセンス使用許諾
Microchip Technology Incorporated ( 以下「弊社」) が提供するソフトウェアは、弊社製品との組み合わせでのみ使われる事を目的
として弊社のお客様に供給されます。
ソフトウェアの所有権は弊社および / またはソフトウェアのサプライヤに帰属し、適用著作権法のもとに保護されています。無断
複写、複製、転載は禁じられています。上記の制約に違反してソフトウェアを使った場合、使用者はライセンス使用許諾の侵害に
対して民事責任を問われ、適用法のもとに罰せられます。
本ソフトウェアは「無条件受け取り」を条件として提供されます。本ソフトウェアの商品性および特定目的に対する適合性の黙示
保証を含む ( ただし必ずしもこれらに限定されない ) 明示、暗示、法的な保証は一切いたしません。弊社は、いかなる場合も、特
殊、偶発的、必然的にかかわらず、いかなる理由があろうとも、一切の賠償責任を負いません。
本アプリケーション ノートに関連する全てのソフト
ウェアは、1 つの WinZip ファイルに収められていま
す。このファイルは下の Microchip 社ウェブサイトが
らダウンロードできます :
www.microchip.com
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 2014 Microchip Technology Inc.
AN1292
補遺 B:
改訂履歴
リビジョン A (2009 年 9 月 )
本書は初版です。
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NOTE:
DS01292A_JP - p. 18
 2014 Microchip Technology Inc.
Microchip 社製デバイスのコード保護機能に関して次の点にご注意ください。
•
Microchip 社製品は、該当する Microchip 社データシートに記載の仕様を満たしています。
•
Microchip 社では、通常の条件ならびに仕様に従って使用した場合、Microchip 社製品のセキュリティ レベルは、現在市場に流
通している同種製品の中でも最も高度であると考えています。
•
しかし、コード保護機能を解除するための不正かつ違法な方法が存在する事もまた事実です。弊社の理解ではこうした手法は、
Microchip 社データシートにある動作仕様書以外の方法で Microchip 社製品を使用する事になります。このような行為は知的所
有権の侵害に該当する可能性が非常に高いと言えます。
•
Microchip 社は、コードの保全性に懸念を抱くお客様と連携し、対応策に取り組んでいきます。
•
Microchip 社を含む全ての半導体メーカーで、自社のコードのセキュリティを完全に保証できる企業はありません。コード保護
機能とは、Microchip 社が製品を「解読不能」として保証するものではありません。
コード保護機能は常に進歩しています。Microchip 社では、常に製品のコード保護機能の改善に取り組んでいます。Microchip 社
のコード保護機能の侵害は、デジタル ミレニアム著作権法に違反します。そのような行為によってソフトウェアまたはその他の著
本書に記載されているデバイス アプリケーション等に関する
情報は、ユーザの便宜のためにのみ提供されているものであ
り、更新によって無効とされる事があります。お客様のアプ
リケーションが仕様を満たす事を保証する責任は、お客様に
あります。Microchip 社は、明示的、暗黙的、書面、口頭、法
定のいずれであるかを問わず、本書に記載されている情報に
関して、状態、品質、性能、商品性、特定目的への適合性を
は じ め と す る、い か な る 類 の 表 明 も 保 証 も 行 い ま せ ん。
Microchip 社は、本書の情報およびその使用に起因する一切の
責任を否認します。Microchip 社の明示的な書面による承認な
しに、生命維持装置あるいは生命安全用途に Microchip 社の製
品を使用する事は全て購入者のリスクとし、また購入者はこ
れによって発生したあらゆる損害、クレーム、訴訟、費用に
関して、Microchip 社は擁護され、免責され、損害をうけない
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渡されません。
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PIC32 ロゴ、rfPIC、SST、SST ロゴ、SuperFlash、UNI/O は、
米 国お よ びそ の 他の 国 にお け る Microchip
Technology
Incorporated の登録商標です。
FilterLab、Hampshire、HI-TECH C、Linear Active Thermistor、
MTP、SEEVAL、Embedded Control Solutions Company は、
米国における Microchip Technology Incorporated の登録商標
です。
Silicon Storage Technology は、
その他の国における Microchip
Technology Incorporated の登録商標です。
Analog-for-the-Digital Age、Application Maestro、BodyCom、
chipKIT、chipKIT ロゴ、CodeGuard、dsPICDEM、dsPICDEM.net、
dsPICworks、dsSPEAK、ECAN、ECONOMONITOR、FanSense、
HI-TIDE、In-Circuit Serial Programming、ICSP、Mindi、MiWi、
MPASM、MPF、MPLAB 認証ロゴ、MPLIB、MPLINK、mTouch、
Omniscient Code Generation、PICC、PICC-18、PICDEM、
PICDEM.net、PICkit、PICtail、REAL ICE、rfLAB、Select Mode、
SQI、Serial Quad I/O、Total Endurance、TSHARC、UniWinDriver、
WiperLock、ZENA、Z-Scale は、米国およびその他の国におけ
る Microchip Technology Incorporated の登録商標です。
SQTP は、米国における Microchip Technology Incorporated
のサービスマークです。
GestICとULPPは、その他の国におけるMicrochip Technology
Germany II GmbH & Co. & KG (Microchip Technology
Incorporated の子会社 ) の登録商標です。
その他、本書に記載されている商標は各社に帰属します。
©2013, Microchip Technology Incorporated, Printed in the
U.S.A., All Rights Reserved.
ISBN: 978-1-62077-738-1
QUALITY MANAGEMENT SYSTEM
CERTIFIED BY DNV
== ISO/TS 16949 ==
 2014 Microchip Technology Inc.
Microchip 社では、Chandler および Tempe ( アリゾナ州 )、Gresham
( オレゴン州 ) の本部、設計部およびウェハー製造工場そしてカリフォ
ルニア州とインドのデザインセンターが ISO/TS-16949:2009 認証を
取得しています。Microchip 社の品質システム プロセスおよび手順は、
PIC® MCU および dsPIC® DSC、KEELOQ® コード ホッピング デバイ
ス、シリアル EEPROM、マイクロペリフェラル、不揮発性メモリ、ア
ナログ製品に採用されています。さらに、開発システムの設計と製造
に関する Microchip 社の品質システムは ISO 9001:2000 認証を取得し
ています。
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アジア / 太平洋
アジア / 太平洋
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インド - ニューデリー
Tel:91-11-4160-8631
Fax:91-11-4160-8632
デンマーク - コペンハーゲン
Tel:45-4450-2828
Fax:45-4485-2829
インド - プネ
Tel:91-20-3019-1500
フランス - パリ
Tel:33-1-69-53-63-20
Fax:33-1-69-30-90-79
アトランタ
Duluth, GA
Tel:678-957-9614
Fax:678-957-1455
中国 - 北京
Tel:86-10-8569-7000
Fax:86-10-8528-2104
オーストラリア - シドニー
Tel:61-2-9868-6733
Fax:61-2-9868-6755
オースティン (TX)
Tel:512-257-3370
中国 - 成都
Tel:86-28-8665-5511
Fax:86-28-8665-7889
ボストン
Westborough, MA
Tel:774-760-0087
Fax:774-760-0088
中国 - 重慶
Tel:86-23-8980-9588
Fax:86-23-8980-9500
シカゴ
Itasca, IL
Tel:630-285-0071
Fax:630-285-0075
クリーブランド
Independence, OH
Tel:216-447-0464
Fax:216-447-0643
ダラス
Addison, TX
Tel:972-818-7423
Fax:972-818-2924
デトロイト
Novi, MI
Tel:248-848-4000
中国 - 杭州
Tel:86-571-8792-8115
Fax:86-571-8792-8116
中国 - 香港 SAR
Tel:852-2943-5100
Fax:852-2401-3431
中国 - 南京
Tel:86-25-8473-2460
Fax:86-25-8473-2470
中国 - 青島
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Fax:86-532-8502-7205
中国 - 上海
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Fax:86-21-5407-5066
ヒューストン (TX)
Tel:281-894-5983
中国 - 瀋陽
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Fax:86-24-2334-2393
インディアナポリス
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03/25/14
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