『戦国姫~水の章~』 CV ●岩付御前・侍女 ●村人4・侍女 ●ナレーション・侍女 ●長親 ●氏長・村人2 ●甲斐姫 ●泰季・村人1 ●丹波 ●家来1 ●家来2 ●家来3・敵2 ●村人3・敵1 ■花見の席にて(過去の回想) 岩付御前: 「本当に綺麗な桜ですこと。 」 丹波: 「雪と見間違いそうなくらいですな。 」 長親: 「すごいなぁー…」 氏長: 「そうかそうか。わざわざ城の外へ連れてきた甲斐があったな。」 丹波: 「さ、御屋形様、お酒を召されませ。花見の席での一献はまた格別ですぞ。 」 氏長: 「おお、丹波、すまぬな。時に姫は、甲斐姫はいかがした? 先程から姿がみえないが。」 岩付御前「ああ、甲斐姫でしたら…」 丹波: 「あれではございませんでしょうか。 」 SE:遠くから馬の早い樋爪の音が近づく。 甲斐姫: 「父上―!母上―!」 氏長: 「馬じゃとっ!?」 丹波: 「はい。先刻、馬と、柵の準備を仰せ仕りまして…」 甲斐姫「見ていてくださいっ!今からあの柵を越えてごらんにいれまする!はっ…!」 SE:馬の樋爪の音と嘶きと土を蹴る音。 岩付御前: 「まぁ!」 氏長: 「なんと…!」 長親: 「すごいなぁー…」 家来1: 「ははははは!甲斐姫様の騎馬術は男衆顔負けですな!」 家来2: 「全くだ!これも岩付御前様のご指導の賜物!」 岩付御前: 「いいえ、甲斐姫は武勇で名を成した妙印尼様の血を引く者。これくらい出来ねば、あの世で 見守っておいでの方々に面目が立ちませんわ。 」 氏長「いや、しかし甲斐は女子(おなご)であってだな…」 SE:遠くから再び聞こえるゆっくりとした樋爪の音 甲斐姫「父上―!母上―!見ていてくださいましたかー!?」 岩付御前「はいはい、とても素晴らしい出来でしたよ。 」 丹波「なかなか様になっておりましたぞ、姫様!」 氏長「う、うむ、武芸に秀でておるのは良いとして…しかしな、お前ももう19なのだから…」 長親(台詞を被せるように)「すごいなぁー…」 氏長「それしか言えんのか!? 長親!!」 長親「でも、すごいよ? 僕なんか、この前乗ったら落ちちゃったもん!」 氏長「堂々と言うな!ああもう…これではどちらが次期当主だかわからんではないか。」 長親「僕はどっちでもいいと思うよ?」 甲斐姫「私も構いませんが。」 氏長「儂が構うは!!!」 丹波・家来2: 「あっはははははははは」 岩付御前: 「ふふふふ」 氏長: 「はぁ…」 SE:エコー&フェイドアウト ■城内 SE:炎の爆ぜる音・戦いの開始を知らせる法螺貝の音 ナレ: 「1590 年、天正 18 年、秀吉の命により北条氏方の城が一斉攻撃を受ける。 」 ナレ: 「同年6月4日、北条方に着く甲斐姫達の住む忍城も戦火に巻き込まれることとあいなった。」 丹波: 「申し上げます!敵の数、およそ 2 万!」 泰季: 「なんと!」 家来1: 「氏長様は!?」 丹波: 「御屋形様は現在、北条の館に詰められておる!」 家来2: 「氏長様より伝令っ!!後の事は我が後継者である泰季に預けるとの仰せ!」 泰季: 「儂に、か…ゲホゲホッ!」 長親: 「父上!!」 甲斐姫: 「泰季様!!!」 岩付御前: 「いけません、泰季様っ!床にお戻りください!!」 泰季: 「よい…自身の病の事は儂が一番熟知しておる。儂はもう長くはない。ゴホッ!」 岩付御前: 「何を申されます!」 泰季: 「儂では城を、民を守る事はできん。長親!」 長親: 「は!」 泰季: 「儂は全てをお前に託そうと思う。」 長親: 「私に…?」 泰季: 「そうじゃ。開戦するも降伏するも、そなたの自由。 」 甲斐姫: 「待ってくださいませ!ここまで守り抜いてきた城を易々と明け渡すなど…!」 泰季: 「黙れ!!…儂とて悔しいのは同じ。けれど、ここで戦えば幾千幾万の民を戦に巻き込むことにな るのじゃぞ!」 甲斐姫: 「ですが…!」 長親: 「私は戦います。」 甲斐姫: 「長親…!」 長親: 「民と共に築いてきた城、見事、民と共に守ってみせます。」 泰季: 「 (驚いたような間があって)…ククク、そうか。では、任せたぞ。 」 長親: 「は!」 丹波: 「ならばこの丹波、今後は長親様を戦の総大将として盛り立ててゆきたいと…」 長親: 「 (台詞を遮るように)いや、それに関しては、ちと姫に相談がある。」 甲斐姫: 「私に…?」 ■城下町 SE:バックに人々の騒めき 村人1: 「おい!聞いたか?氏長様は留守だそうだ!」 村人4: 「泰季様が亡くなられたとか…」 村人2: 「ならば戦はなんとするっ!?」 村人1: 「わからん!!わからんが…泰季様の息子、長親殿が指揮すると聞いたぞ!?」 村人3: 「長親殿が…?」 村人4: 「それは本当なの? そりゃあ長親様は子供達の面倒をよく見てくれてたけどさ。 」 村人2: 「ありゃあ、面倒見てたとは言わねぇえよ。一緒に走り回ってただけじゃねぇか!」 村人3: 「この先、儂らはどうなるんじゃ…」 SE:馬の樋爪の音が近づく。 丹波: 「聞けぇ!落ち着けぇ!!我が名は正木丹波守利英!長親様の意向により参上つかまつった!」 村人2「なにが長親様じゃ、この前まで子供らと一緒に遊んでおった者が!」 村人1: 「そうだ、そうだ!」 村人3: 「長親様は儂らはどうするつもりなんじゃ…!?」 丹波: 「落ち着けというのが分からんか!この戦、率いるは長親様ではない!!」 村人2: 「何を言うておる!今、貴殿が長親様の命令で来たと申したではないか!」 村人4: 「まさか…丹波殿が指揮を取られるのですか!?」 丹波: 「違う!!!」 村人3: 「ならば誰が…?」 丹波: 「姫だ!」 村人1: 「は…? 今、なんと!?」 丹波: 「この戦、当主、長親様の命により、甲斐姫様が指揮を取られる!!!(ヤケクソ気味に) 」 ■城内 SE:紙を広げる音 甲斐姫: 「良いか者ども!良く聞け!」 家来全員: 「 「 「「はっ!」」 」 」 甲斐姫: 「これが我が忍城の見取り図だ!門は全部で7つ。ここを全力で守り切る!」 家来1: 「しかし打って出ねば勝てはしませんぞ!?」 甲斐姫:「馬鹿者!!相手は2万!対して、こちらは民百姓あわせて3千!守りに徹せねば落ちるは必 定!!」 家来2: 「しかし姫様、どの道この人数では持ちません!相手方との戦力差が大きすぎます!」 甲斐姫: 「何を腑抜けた事を申しておる!我が祖母、妙印尼様は高齢であらせられたにも拘らず、女だて らに籠城戦を敷き、城を見事守り抜いたと聞く!男のお主等がそのような弱気でどうする!!」 家来3: 「とはいえ、こちらの兵力は実質3百余り!後は民百姓の烏合の衆となりましょう。 」 SE:甲冑の音 丹波: 「正木丹波守利英、只今戻りました!」 甲斐姫: 「うむ。ご苦労。して…?(面白そうに) 」 丹波: 「それが、その…(言いにくそうに)この戦の指揮が姫様であると伝えた途端、何故か民百姓が勢 いづきまして…」 家来3: 「それは真か…?」 丹波: 「どうやら、姫の武芸が秀でておるのが尾鰭を付けて噂となっていたようで。必ず勝てると息巻い ております。 」 甲斐姫: 「あははははははっ!!」 家来1: 「姫様はこの事をご存じで??」 甲斐姫: 「知るわけなかろうっ!? だが、一人私の美談を知っておった者がおるらしい。なぁ、長親?」 長親: 「なんだ??」 甲斐姫: 「知っておったのだろう? …私の噂を利用したな。 」 長親: 「利用したとは人聞きが悪い。ただ、私は常日頃、子供たちと遊んでおって気が付いたことがあっ ただけだ。」 甲斐姫: 「ほぅ。それは何だ?」 長親: 「遊びに誘う最初の一人が人気者であればあるほど、人は集まる!」 甲斐姫: 「あはははははははっ!!!確かにな!見事な人心掌握術の心得だ!」 長親: 「姫が言うと難しくなるな。 」 甲斐姫: 「難しくなどない。ようは皆で力を合わせて7つの門を守り切れば済む話!」 家来1: 「しかし姫様、いかようにして?」 甲斐姫: 「簡単なこと。我が城は元々沼地に守られておる。それを弓矢で射かける。抜けてくるものは門 にて数を搾られるはず。そこを叩く!!」 丹波・家来全員: 「「 「 「はっ!」 」 」」 甲斐姫: 「我が城の名は、別名〝浮城〟!苦境の中でも必ずや浮き出て見せる。」 ■城内 ガヤ:(戦い息巻く声) SE:甲冑の音・刀の音 甲斐姫: 「者共!!遠慮をするな!全力で当たれ!」 村人1・2・3: 「「 「おぉう!!!」 」」 敵1「うらぁあああああああああ!!!」 甲斐姫: 「はぁ!!!退けっ!!我が名刀〝浪切〟の敵ではないわ!下がれ!!」 敵2「ふざえるな!女ふぜいが!」 甲斐姫: 「女も男も関係あるかぁああああああああ!!!」 SE:甲冑の音・刀の音 甲斐姫: 「ふっ!!!」 SE:弓矢の飛ぶ音と刺さる音 敵2「ぐっ…!」 村人3: 「おおっ、あの距離から射止められるとは…!!」 村人1: 「さすがは我らが姫様!!」 家来1「姫!」 甲斐姫: 「何だ!!」 家来1: 「報告ですっ!!敵方、沼地にて足を取られ攻めあぐねている様子です!」 甲斐姫: 「うむ、了解した!…はぁっ、てい!!!」 SE:刀の音・甲冑の音 家来2: 「報告っ!!東門では弓だけでは応戦できず、農民どもの策により石礫を使い、敵を退けておる とのこと!!」 SE:刀の音・甲冑の音 甲斐姫: 「くぅ…ほぅ。面白い。その策、すべての門に伝えよ!(息を切らしながら)」 家来2: 「はは!!」 SE:刀の音・甲冑の音 甲斐姫: 「たぁああ!!!」 SE:刀の音・甲冑の音 家来3: 「姫っ!!北門付近にて丹波殿、善戦!!南門にて門の内側に泥を引き入れ、相手を足止めとの 報あり!!」 甲斐姫: 「皆の者に伝えよ。わざわざ私に確認を取る必要はない!臨機応変に自らの才を活かせとな!」 家来3: 「はっ!」 SE:刀の音・甲冑の音 正木丹波守利英: 「甲斐姫様!」 甲斐姫: 「丹波か!どうした!?先程、そなたの武勇を聞いた所だぞ!?」 丹波: 「それどころではありません、姫! 一旦、中へ。 」 SE:甲冑の音(移動) 甲斐姫: 「何だ!?どこかの門が破られたのか!?」 丹波: 「いえ、門はいずれも善戦!相手を一歩たりとも踏み入れさせてはおりません。それどころか敵方 の兵が引き揚げ出しております。」 甲斐姫: 「何!?もう諦めたというのか?」 丹波: 「いえ、それにしては早過ぎます。内々に入ってきた情報によりますと、遥か彼方に堤防を作るた め銭を周辺の農民どもへ撒いておるとか。 」 甲斐姫: 「堤防だと!?まさか…」 丹波: 「おそらく。…水責めにございます。 」 ■天守閣 SE:濁流の音 SE:床を踏む軋む音 長親: 「うわぁ。すごいな。四方に壁を気づいて水を引き入れる、か。まるで池みたいだ。」 丹波: 「長親様、何を呑気な!姫、いかがされますか?」 SE:床を踏む軋む音 甲斐姫: 「くっ…不覚。我が城は森林に囲まれておるゆえ油断した。これが秀吉めが備中高松城の戦いで 用いたとされる水責めか。 」 丹波: 「正確には、先の戦いより、より大きな堤防のように見受けられますが。」 SE:床を踏みしめ軋む音 長親: 「大丈夫だよ。 」 甲斐姫: 「ほう!?」 丹波: 「何か策でもあるのか!?」 長親: 「ここは浮城。周りが池でも浮くさ。 」 丹波: 「貴様は!!ふざけている場合か!」 SE:床を踏みしめ軋む音 丹波: 「すでに村は水に沈み、農民達は城に避難させているが、それとて水が入り込んできている始末な のだぞ!」 長親: 「ふーん。相手はまだ水を引き入れてるの?」 丹波: 「見れば分かるだろう!!完全に沈むまで水を止めてくれはせん!!」 長親: 「なるほど。相手は誰なのかな。 」 丹波: 「貴様は聞いておらんだのか!!」 SE:床を踏みしめ軋む音 甲斐姫: 「秀吉の参謀にして忠臣、石田三成だ。」 長親: 「その人、頭がいいのに、知らないんだね。 」 甲斐姫: 「何の話だ?」 SE:濁流の音が大きくなる 長親: 「稲は水気のある時期に植えるんだよ。 」 正木丹波守利英: 「それがどうしたっ!?」 甲斐姫: 「ああ、確かに!…そういう事か!!」 丹波: 「失礼ながら…どういうことでしょうか?」 SE:床を踏みしめ軋む音 甲斐姫: 「空を見よ、丹波。雨雲が立ち込めておる。大雨になるぞ。この時期の雨はそう簡単には止んで はくれぬ。」 長親: 「川や池は増水した時が一番怖いんだ。 」 甲斐姫: 「そうだな…丹波、家来共を数人呼べ。一つ、お前たちに頼みがある。」 SE:濁流の音がフェイドアウト ■天守閣 SE:水の唸る音 ガヤ:遠くに響く雄叫び。 長親: 「あぁ、敵兵が勝手に水に流されていくね。自分たちの作った池の水で。それで?何をしたの?」 甲斐姫: 「何、溢れた水は導を求める。ゆえに道を作っておいた。一部の堤を薄くするよう命じただけだ。」 長親: 「ふーん。石田さんって人も一緒に流されちゃったのかな。」 甲斐姫: 「ふっ、どうせ分かっていたんだろう?」 長親: 「何の話だい?」 甲斐姫: 「雨水を引き寄せ増水したところを決壊させる。増水した折によく使う手だからな、これは。 」 長親: 「まぁ、田んぼはそうやって水を引き入れてるわけだからね。 」 甲斐姫: 「食えない奴だ。最初からお前が命じればよいかったではないか。」 長親: 「言っただろ? 姫が思い付いて姫がやるから、皆がついてくるんだよ。 」 甲斐姫: 「飽くまで裏方に徹するか。して、お前は、この後どうする?」 長親: 「どうするも何も、さすがに総崩れ。向こうは戦えないよ。私たちの勝ちだ。 」 甲斐姫: 「そうではなくてだな、」 長親: 「平気だよ。これ以上の死人もそうは出ない。各地の間者から通達が来ていてね。殆どの城が争う ことなく降参したらしいんだ。まだ多少の小競り合いはあるかもしれないけど心配ないよ。きっと火種 が先に消える…」 甲斐姫:「(台詞に被せるように)そうではない!!私は…お前の事を聞いておるのだ。お前はこの後、 どうする?」 長親:「姫…。 (口調を軽くして)何も望まない。望めないよ。よく考えてみなよ。これは秀吉と北条方 の大きな戦いの一つなんだ。ここで勝ったって大局で見れば、きっと負けてるさ。幾ら兵を指揮して先 人に立ったのが姫でも、この城の当主は私だよ。」 甲斐姫: 「な…!」 長親: 「わかるだろ? 私は最後まで秀吉公に逆らった城主なんだ。なるようにしかならないさ。」 甲斐姫: 「ならば…ならばお前は何のために戦ったのだ!?真に民のためかっ!?それとも、亡き父上の 遺志を継ぐためかっ!?」 長親: 「ああ、私か…。私はね…」 SE:水音で会話を掻き消す。 ■城外 SE:鳥の囀り 丹波: 「開門―!!!」 SE:扉が開く音 丹波: 「甲斐姫様の旅路だー!道を開けよ!!」 SE:甲冑の音・馬の樋爪の音 SE:人々の騒めき 村人1: 「あれがこの戦いを勝利に導いてくださった甲斐姫様か!なんと雄々しいお姿か。」 村人4: 「何でもこの度の戦の才を気に入られて秀吉公に輿入れされるんだとか…」 村人2: 「しかし凄いな。侍女まで甲冑を着てなさる。なんとも立派な開城よ。」 SE:甲冑の音・馬の樋爪の音 SE:人々の騒めきがフェイドアウト 甲斐姫: 「これが…これがお前の本当の望みか、長親。 」 長親: (回想)「私はね、姫のために戦ったんだよ。 」 ナレ: 「天正 18 年7月6日、北条側の総大将の北条氏直が豊臣側に降伏。唯一残っていた城、忍城も協 定の末、開城。甲斐姫はその勇猛振りを讃えられ秀吉の側室として迎えられる。成田長親は下野国烏山 へと移り住むも、後に出家したと文献では伝えられている。 」 甲斐姫: 「ゆくぞ!!」 全員(侍女・家来)「 「 「はっ!!!」 」」 SE:甲冑の音・馬の樋爪の音 ※SEは最低限で書き入れましたが、MIX師様に全てお任せ致します。 ※内容は歴史を基に多少改変して書いておりますので、史実とは異なります。 参考文献 ◆『のぼうの城』 (和田竜/著)出版:小学館 ◆HP『ウィキペディア』 (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2%E6%96%90%E5%A7%AB) ◆『戦国姫1~花の巻~』 (藤咲 あゆな/作)出版:集英社 ◆『完全図説戦国姫君列伝』(榎本 秋/著)出版:朝日新聞出版
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