シュプリンガー多様体の T ` -同変コホモロジー環 大阪市立大学 阿部 拓 Hiraku Abe Osaka City University 大阪市立大学 堀口 達也 Tatsuya Horiguchi Osaka City University 1 序文 本稿では, [1] の主結果とその証明の概略について述べる. A 型シュプリンガー多様体 Sλ (以下, A 型は省略 する) は旗多様体 F lags(Cn ) の部分多様体で, 対称群 Sn の表現と関係がある. ここに, λ = (λ1 , · · · , λ` ) は箱 の総数が n のヤング図形を表す. 実際, シュプリンガーはコホモロジー群 H ∗ (Sλ ; C) 上に対称群 Sn の表現を 構成し, この最高次数 H top (Sλ ; C) 上の表現が対称群 Sn の λ に対応する既約表現であることを見出した ([4], [5]). つまり, シュプリンガー多様体は表現論と関係がある興味深い対象である. そこで, シュプリンガー多様 体のトポロジーを研究することは自然なことであろう. 例えば, シュプリンガー多様体のコホモロジー環の表 示は多項式環を谷崎イデアルと呼ばれるイデアルで割った形で与えられる ([6]). 我々の目標はシュプリンガー 多様体の T ` -同変コホモロジー環の表示を多項式環を谷崎イデアルの同変版で割った形として与えることであ る ([1]). 我々の手法は [6] で扱われた手法を用いる. 2 シュプリンガー多様体のコホモロジー環 冪零作用素 N : Cn → Cn を与えると,シュプリンガー多様体 SN は旗多様体 F lags(Cn ) の代数的部分多 様体として次のように定義される. SN = {V• ∈ F lags(Cn ) | N Vi ⊆ Vi−1 for all 1 ≤ i ≤ n} ここに, V• は dimC Vi = i であるような旗多様体の元 0 ⊂ V1 ⊂ V2 ⊂ · · · ⊂ Vn−1 ⊂ Vn = Cn を表す.また, 任意の g ∈ GLn (C) に対して,次の代数多様体としての同型 (つまり同相) が成立: SN ∼ = SgN g−1 ; [x] 7→ [gx] ここに,[x] は F lags(Cn ) を GLn (C)/B (B は GLn (C) のボレル部分群) とみたときの x ∈ GLn (C) を代 表元とする同値類を表す.したがって,特に N がジョルダン標準形であるものとして考えてよい.そこで, 以 下ではシュプリンガー多様体を Sλ := {V• ∈ F lags(Cn ) | N0 Vi ⊆ Vi−1 for all 1 ≤ i ≤ n} 1 で表すことにする. ここに, 冪零行列 N0 はジョルダンブロックのサイズ (λ1 , . . . , λ` ) が広義単調減少である ようなジョルダン標準形であるとする. 次に, 旗多様体 F lags(Cn ) とシュプリンガー多様体 Sλ のコホモロジー環の表示について述べる. 以下, コ ホモロジーの係数は Z とする. 旗多様体 F lags(Cn ) のコホモロジー環の表示は次の Borel の表示が良く知ら れている: H ∗ (F lags(Cn )) ∼ = Z[x1 , . . . , xn ]/I. (1) ここに, I は d 次の基本対称式 ed (x1 , . . . , xn ) (1 ≤ d ≤ n) で生成されるイデアルである. 一方, 包含写像 Sλ ⊆ F lags(Cn ) が導く射影 ρλ : H ∗ (F lags(Cn )) → H ∗ (Sλ ) は [2] により全射であることが知られている. したがって, シュプリンガー多様体 Sλ のコホモロジー環の表示 は (1) の表示においてさらに関係式を加えて得られる. 定理 1 ([6]) 環として次の同型が成立: H ∗ (Sλ ) ∼ = Z[x1 , . . . , xn ]/Iλ (2) ここに, Iλ は変数を xi1 , . . . , xis とする d 次の基本対称式 ed (xi1 , . . . , xis ) で生成されるイデアルである. こ こで, 1 ≤ s ≤ n, 1 ≤ i1 < · · · < is ≤ n, d ≥ s + 1 − pλ (s) の範囲を動き, pλ (s) はヤング図形 λ の n − s + 1 列目以降にあるすべての箱の総数を表す. Iλ は谷崎イデアルと呼ばれる. 注意 1 I ⊆ Iλ である. 実際, s = n のとき, pλ (n) = n なので, 1 ≤ d ≤ n に対して ed (x1 , . . . , xn ) ∈ Iλ を 得る. 定理 1 の証明の概略を次の3つのステップで行う. ステップ 1: ed (x1 , . . . , xs ) ∈ Kerρλ を示す. 1 ≤ s ≤ n を1つ固定する. Grs (Cn ) は Cn の中の複素 s 次元部分空間全体を表すグラスマン多様体とする. 自然な射影 p : F lags(Cn ) → Grs (Cn ); V• 7→ Vs を考える. U• を (· · · ⊂ N02 Cn ⊂ N0 Cn ⊂ Cn ) に適当な Cn の部分空間を補うことにより得られる旗とする. 高々 s 個の行と高々 n − s 個の列をもつヤング図形 µ = (µ1 , . . . , µs ) に対し, シューベルト多様体を Xµ (U• ) = {V ∈ Grs (Cn ) | dim(V ∩ Un−s+i−µi ) ≥ i for all 1 ≤ i ≤ s} により定義する. このとき, p による Sλ の像は次のシューベルト多様体 Xµ0 (U• ) に含まれる. ここに, µ0 = (n − s, · · · , n − s, 0, · · · , 0) は pλ (s) 個の n − s と s − pλ (s) 個の 0 を並べたものを表す. よって, 次の 可換図式を得る. p∗ H ∗ (F lags(Cn )) ←−−−− H ∗ (Grs (Cn )) ∗ ρλ y yi H ∗ (Sλ ) (3) ←−−−− H ∗ (Xµ0 (U• )) シ ュ ー ベ ル ト 多 様 体 Xµ (U• ) に 対 し て, シ ュ ー ベ ル ト 類 σµ ∈ H ∗ (Grs (Cn )) を 基 本 類 [Xµ (U• )] ∈ H∗ (Grs (Cn )) のポアンカレ双対で定義する. ヤング図形 µs,d = (1, · · · , 1, 0, · · · , 0) を d 個の 1 と s − d 個の 2 0 を並べたものとする. d ≥ s + 1 − pλ (s) のとき, i∗ (σµs,d ) = 0 が成り立つ. また, p∗ (σµs,d ) = ed (x1 , . . . , xs ) なので, ed (x1 , . . . , xs ) ∈ Kerρλ を得る. ステップ 2: ed (xi1 , . . . , xis ) ∈ Kerρλ を示す. Sn は F lags(Cn ) に右から作用しているので, H ∗ (F lags(Cn )) ∼ = Z[x1 , . . . , xn ]/I 上の左作用を誘導する. 実際, w · xi = xw(i) (w ∈ Sn ) で与えられる. 一方, H ∗ (Sλ ) 上には Springer により Sn が作用している. こ れらの Sn 作用について ρλ は Sn -同変写像である (cf.[2]) ので, ステップ 1 より, ed (xi1 , . . . , xis ) ∈ Kerρλ を 得る. ステップ 3: H ∗ (Sλ ) ∼ = Z[x1 , . . . , xn ]/Iλ を示す. ステップ 2 より, 次の全射環準同型写像 ϕ : Z[x1 , . . . , xn ]/Iλ → H ∗ (Sλ ) を得る. これら両辺の Z 上の階数が一致することを示して, 結果を得る. 3 シュプリンガー多様体の同変コホモロジー環 この節では 2 節で議論したことを同変版に拡張する. n 次元トーラス T n を次のように定義する: g1 g2 Tn = .. . gn | gi ∈ C∗ (1 ≤ i ≤ n) (4) このとき, T n は F lags(Cn ) 上に自然に作用するが, 一般に T n は Sλ を保たない. そこで, Sλ を保つような部 分トーラス T ` を導入する. h1 Eλ1 T` = n ∗ ∈ T | hi ∈ C (1 ≤ i ≤ `) h2 Eλ2 .. . h` Eλ` (5) ここに, Ei はサイズ i の単位行列を表し, λ = (λ1 , λ2 , . . . , λ` ) とする. このとき, T ` は Sλ を保つ. 定理 2 ([1]) H ∗ (BT ` ) = Z[u1 , · · · , u` ] の同一視のもと, H ∗ (BT ` )-代数として次の同型が成立: HT∗ ` (Sλ ) ∼ = Z[x1 , · · · , xn , u1 , · · · , u` ]/Ieλ (6) ここに, Ieλ は変数を xi1 , . . . , xis とする r 次の基本対称式 er (xi1 , . . . , xis ) と変数を uφλ (1) , . . . , uφλ (s+1−d) と する d − r 次の完全対称式 hd−r (uφλ (1) , . . . , uφλ (s+1−d) ) の積和 d X (−1)d−r er (xi1 , . . . , xis )hd−r (uφλ (1) , . . . , uφλ (s+1−d) ) r=0 3 で生成されるイデアルである. ここで, 1 ≤ s ≤ n, 1 ≤ i1 < · · · < is ≤ n, d ≥ s + 1 − pλ (s) の範囲を動き, (uφλ (1) , . . . , uφλ (s+1−d) ) は次の列の最初の s + 1 − d 個を表す. (uφλ (1) , · · · , uφλ (n) ) = (u1 , · · · , u1 , u1 , u2 , · · · , u1 , u2 , · · · · · · , u1 , u2 , · · · , u` , · · · · · · , u1 , u2 , · · · , u` ) | {z } | {z } | {z } λ1 −λ2 2(λ2 −λ3 ) `(λ` −λ`+1 ) ただし, λ`+1 = 0 とする. 注意 2 イ デ ア ル Ieλ の 生 成 元 Pd r=0 (−1) d−r er (xi1 , . . . , xis )hd−r (uφλ (1) , . . . , uφλ (s+1−d) ) は ヤ ン グ 図 形 µs,d = (1, · · · , 1, 0, · · · , 0) に関する factorial Schur function と一致する. 注意 3 イデアル Ieλ の生成元 Pd d−r er (xi1 , . . . , xis )hd−r (uφλ (1) , . . . , uφλ (s+1−d) ) r=0 (−1) で u1 = · · · = u` = 0 とすると, 谷崎イデアル Iλ の生成元 ed (xi1 , . . . , xis ) と一致する. 定理 2 の証明の概略を述べる. 証明は 2 節の定理 1 の証明の手法を用いて行う. ステップ 1 とステップ 3 は同様に示される. ステップ 2 を行うために HT∗ ` (Sλ ) 上に Sn の作用を定義して, その作用について包含写像から導かれる射影 ρλ : HT∗ n (F lags(Cn )) → HT∗ ` (Sλ ) が Sn -同変写像であることを 示せばよい. 次の可換図式を考える. ι HT∗ n (F lags(Cn )) −−−1−→ HT∗ n (F lags(Cn )T ) = n ρλ y HT∗ ` (Sλ ) M Z[t1 , . . . , tn ] w∈Sn πy ι2 HT∗ ` (STλ ) = ` −−−−→ (7) M Z[u1 , . . . , u` ] ` w∈ST λ ⊆Sn こ こ に, す べ て の 写 像 は 包 含 写 像 か ら 導 か れ る . F lags(Cn ) と Sλ の 奇 数 次 の コ ホ モ ロ ジ ー は 消 え て Sn は F lags(Cn ) に 右 か ら 作 用 し て い る の で, L n 一 方, HT∗ n (F lags(Cn )T ) = w∈Sn Z[t1 , . . . , tn ] 上 に Sn い る (cf.[3]) の で, ι1 と ι2 は 単 射, ρλ は 全 射 で あ る. HT∗ n (F lags(Cn )) 上 の 左 作 用 を 誘 導 す る. の 左 作 用 が 座 標 の 入 れ 替 え に よ り 与 え ら れ る. つまり, HT∗ n (F lags(Cn )) n 上の Sn 作用は, HT∗ n (F lags(C )) に制限したものと思える. ` る. Sλ の T ` -固定点 ST λ は S n の S λ1 × · · · L ` w∈ST λ ⊆Sn こ れ ら の Sn 作 用 に つ い て ι 1 は Sn -同 変 写 像 で あ る . n HT∗ n (F lags(Cn )T ) = L この考察を逆手にとって w∈Sn Z[t1 , . . . , tn ] HT∗ ` (Sλ ) 上に Sn 上の Sn 作用を の作用を定義す × Sλ` による右剰余類全体と同一視できるので, HT∗ ` (STλ ) = ` Z[u1 , . . . , u` ] 上に Sn の左作用が座標の入れ替えにより定義できる. このとき, Sn は HT∗ ` (Sλ ) を保っている. つまり, HT∗ ` (Sλ ) 上に Sn の作用が定義される. また, これらの Sn 作用について ρλ が Sn -同 変写像であることが分かる. (一般に π は Sn -同変写像ではないことに注意. ) 以上の議論から結果を得る. 参考文献 [1] H. Abe and T. Horiguchi, The torus equivariant cohomology rings of Springer varieties, arXiv:1404.1217. [2] R. Hotta and T.A. Springer, A specialization theorem for certain Weyl group representations and an application to Green polynomials of unitary groups, Invent. Math. 41 (1977), 113-127. [3] N. Spaltenstein, The fixed point set of a unipotent transformation on the flag manifold, Nederl. Akad. Wetensch. Proc. Ser. A 79 (1976), 452-456. 4 [4] T. A. Springer, Trigonometric sums, Green functions of finite groups and representations of Weyl groups, Invent. Math. 36 (1976), 173-207. [5] T. A. Springer, A construction of representations of Weyl groups, Invent. Math. 44 (1978) 279-293. [6] T. Tanisaki, Defining ideals of the closures of the conjugacy classes and representations of the Weyl groups, Tˆohoku Math. J. 34 (1982), 575-585. 5
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