EU、UCITS V草案について最終合意に至る

2014年 3月
FSO アラート
ルクセンブルグ
EU、UCITS V 草案について最終合意に至る
預託機関および報酬に関する UCITS 要件の改定
2014年 2月、欧州連合(EU)は UCITS V 草案について、折衷案を盛り込んだ合意に至りました。
UCITS V は、現行の UCITS 指令を改定するもので、特に預託機関、報酬方針および制裁措置に関する
要件を見直すものとなっています。これらの新要件は、多くの UCITS 管理会社やその預託機関に大き
な影響を及ぼすと見られています。ただし、委託を受けたポートフォリオマネージャーへの報酬要件
の適用可能性など、明確にすべき点はまだ残されています。
背景
2012年 7月、欧州委員会は預託機関の機能、報酬方針および制裁措置の面で、現行の UCITS 指令(Directive
2009/65/EU)を改定する新しい指令(通称「UCITS V」)を提案しました。
2014年 2月、欧州議会、EU 理事会および欧州委員会は 18カ月に及ぶ協議の末、UCITS V 草案の本文について
折衷案を盛り込んだ合意に至りました。
預託機関および報酬要件に関する今回の改定案は、オルタナティブ投資ファンド運用者指令(Alternative
Investment Fund Managers Directive、以下「AIFMD」)の規定と、ほぼ整合するものとなっています。
報酬要件
管理会社は、以下の要件を満たす報酬方針・慣行の確立と実施を義務付けられます。
• 健全で効率的なリスク管理と整合しており、かつこれを促進するもの。管理する UCITS のリスク特性や組織の
規定と一致しないリスクテイクを奨励してはならない。
• UCITS の利益を最優先にして行動する管理会社の義務に反しないもの。
UCITS V 草案は、以下の項目に関する要件を規定しています。
• 報酬方針および報酬慣行
• ファンドマネージャーが遵守すべき報酬原則
• 報酬委員会の設置(管理会社自体または管理する UCITS の規模、内部組織とその性質、事業活動の範囲と複雑
性の観点から重要と判断される管理会社に適用)
• 目論見書、投資家向けの重要事項説明書(Key Investor Information、以下「KII」
)およびアニュアルレポート
における報酬情報の開示
UCITS V の報酬に関する主な規定
対象となる従業員の
カテゴリー
報酬方針・慣行の対象となるのは、上級管理者、リスクテイカー、管理部門の職員およ
び「管理会社または管理会社が管理する UCITS のリスク特性に重大な影響を及ぼす専
門的活動に従事している上級管理者およびリスクテイカーへの報酬」に分類される総
報酬を受け取っているすべての従業員である。
取締役会による監視
取締役会は報酬方針を採用し、少なくとも年1回は見直しを行うとともに、当該方針
の実施に責任を負う。ただし経営管理に携わる取締役は、この役割から除外される。
業績連動報酬
報酬が業績に基づいている場合は、財務・非財務基準を考慮した上で、個人、各事業ユ
ニット、関連する UCITS の業績およびそのリスク、ならびに管理会社の全体的な業績
を総合的に評価して、報酬の総額を決定する。
UCITS の受益権または
変動報酬の少なくとも 50% は、管理する UCITS の受益権、ユニット、またはこれらに
ユニットによる変動報酬 相当する持分、またはこれらに相当する同等のインセンティブを有する株式連動金融
商品または非現金金融商品で支払われる。
変動報酬の繰延べ
変動報酬の少なくとも 40% は、当該 UCITS の投資家に推奨される保有期間に照らして
妥当であり、かつ当該 UCITS のリスクの性質を適切に反映した期間(最低 3年間)繰り
延べる。変動報酬が特に高額である場合は、少なくとも 60% を繰り延べる。
投資前の情報開示
目論見書には報酬方針の概要を記載する。目論見書および KII には、以下の情報がウェ
ブサイトで入手可能である旨の文言を盛り込み、該当箇所へのリンクを記載する。
• 最新の報酬方針の詳細
• 報酬および手当の計算方法の詳細
• 報酬の支給者の詳細
最新の報酬方針の詳細など、上記の情報は目論見書の中で開示してもよい。
年次情報開示
UCITS のアニュアルレポートには以下の情報を記載する。
• 各事業年度において管理会社・投資会社が従業員に支払う固定報酬および変動報
酬の総額、受益者の数、
(該当する場合は)UCITS が直接支払う運用報酬等の金額
• 報酬の総額(従業員やその他のスタッフのカテゴリーごとに分類して記載)
• 報酬および手当の計算方法の詳細
• 外部評価の結果(問題が指摘された場合はその内容)
• 採用している報酬方針に対する重大な変更
「ESMA」
)は、UCITS V に基づく報酬方針
欧州証券市場監督局(European Securities and Markets Authority、
のガイドラインを発表する予定です。このガイドラインでは、特に委託を受けるポートフォリオマネージャーへの
報酬要件の適用可能性が明確に規定される見込みです。
預託機関制度
UCITS V 草案は、以下について規定しています。
• 預託機関の指名(契約の内容を含む)
• 対象企業
• 預託機関の義務
• 金融商品などの資産の保護預かり(資産の再利用に関する規定を含む)
• キャッシュフロー・モニタリング
• モニタリングおよび監視
• 監督官庁への情報提供
• 預託機関の責任
• 保管している金融商品の損失
• その他の損失
• 保護預かり業務の委託
• 委託条件
• 委託および責任
UCITS V の預託機関に関する主な規定
キャッシュフロー・
預託機関は、UCITS のキャッシュフローを適正にモニタリングする義務を負う。特に、
モニタリング
UCITS の募集時に投資家が支払う、または投資家の代理で支払われるすべての金額が
受領されていること、および UCITS が保有するすべての現金が必要最小限の条件を満
たした現金勘定に計上されていることを確認しなければならない。
金融商品の保護預かり
預託機関は、帳簿上に開設した分別管理口座に登録できる金融商品および預託機関に
物理的に引き渡すことのできる金融商品を保管する義務を負う。
資産の再利用
預託機関は、以下の場合に限って保管する資産を再利用することができる。
• 資産の再利用が預託機関の負担で行われる場合
• 預託機関が UCITS の代理として管理会社の指示を実行する場合
• 再利用が UCITS とユニット保有者の利益のために行われ、かつ当該取引が権限移
転の取決めに基づいて、UCITS が差し入れた質の高い、流動性のある担保でカバー
されている場合
• 担保の市場価値が、再利用する資産の市場価値にプレミアムをつけた金額を下回ら
ない場合
保護預かり業務の委託
預託機関が委託できるのは保護預かり業務のみである。委託を行う場合は、その客観
的理由を開示するとともに、委託先に関して適切な初期デューデリジェンスと継続的
なモニタリングを行う。
証券集中保管機関
(CSD)
UCITS が CSD(Central securities depositaries)に証券の保管を委託する場合、CSD
が当該証券の発行体となる場合を除いて、保管業務の委託とみなされる。
サブカストディアンが
預託機関は、UCITS の資産を保管している第三者が破綻した場合、当該第三者の債権
破綻した場合の資産の
者が当該資産を分配または売却することがないように、あらゆる必要な措置を講じな
保護
ければならない。
預託機関の責任
預託機関は、UCITS および UCITS のユニット保有者に対し、自己の責または金融資産
の保管を委託した第三者の責に帰する損失について責任を負う。
資産目録
預託機関は、管理会社・投資会社に対し、すべての UCITS が保有する資産を記載した
リストを定期的に提供しなければならない。
制裁措置
UCITS V 草案は、EU 加盟国が UCITS、管理会社および預託機関に制裁措置をとるべき状況を定めて
います。以下は、適用される罰則の例です。
• 違反を行った者および違反の内容に関する公式声明
• 営業停止または免許の取消し
• 違反を行った個人が、これらの企業の経営に関与することの禁止
• 個人または法人に対する最低 500万ユーロまたは相当額の罰金、または違反によって得た利益の
2倍以上の金額の支払い
UCITS V の実施
今回合意された UCITS V の本文については、さらに欧州議会での採決と EU 理事会の承認が必要で
す。欧州議会での採決は、2014年 5月の欧州議会選挙の前に行われる予定です。EU 加盟国は UCITS
指令の発効日から 18カ月以内に、当該指令を国内法に導入することを義務付けられています。
EY が提供するサポート
EY は、報酬ガイドラインの実務への適用をサポートするために、管理会社に以下のようなサービス
をご提供しています。
• 報酬要件や将来の修正提案が管理会社およびグループ全体に及ぼす影響の診断
• UCITS V の要件に基づく主要スタッフの特定、報酬方針・慣行(業績連動報酬を含む)の見直しお
よび改定のサポート
• 個々の報酬パッケージの見直し
• 報酬情報の開示のサポート
EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
EY について
EY は、アシュアランス、税務、トランザクションお
よびアドバイザリーなどの分野における世界的な
リーダーです。私たちの深い洞察と高品質なサー
ビスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をも
たらします。私たちはさまざまなステークホルダー
の期待に応えるチームを率いるリーダーを生み出
していきます。そうすることで、構成員、クライア
ント、そして地域社会のために、より良い社会の構
築に貢献します。
EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッ
ドのグローバル・ネットワークであり、単体、もしくは複数
のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に
独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・
リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サー
ビスは提供していません。詳しくは、ey.com をご覧くだ
さい。
EY FSO(日本エリア)について
EY フィナンシャル・サービス・オフィス(FSO)は、
競争激化と規制強化の流れの中で様々な要望に
応えることが求められている銀行業、証券業、保
険業、アセットマネジメントなどの金融サービス業
に特化するため、それぞれの業務に精通した職業
的専門家をグローバルに有しています。また、各
業界の規制動向を予測し、潜在的な課題に対する
見解を提示するため、業種別にグローバル・ナレッ
ジ・センターを設け、規制動向の収集や業界分析
を行っています。EY FSO(日本エリア)は、グロー
EY は、UCITS V に準拠した効果的な業務モデルの実現をサポートするために、預託機関およびサブ
カストディアンに以下のようなサービスをご提供しています。
バル・ネットワークと連携して、金融サービス業に
精通した職業的専門家が一貫して高品質なサービ
スを提供しています。
• UCITS V への準備状況の評価、主な事業機会と課題の特定、利用可能な選択肢と必要なタスクの
分析
• UCITS V の要件を満たすために必要な主な戦略的機会と業務上の課題の詳細なギャップ分析
• リスク管理プロセス、委託手続き、サブカストディアン・ネットワークの管理および再担保手続
きの妥当性評価
• 業務変更プログラムの開発と実施
• 方針・手続きの改定
• ビジネス要件の明確化
• 機能・IT要件の特定
• プライシング・ストラクチャーのレビュー
• UCITS V と AIFMD が預託機関にもたらす課題に関する研修
Contacts
Michael Ferguson
+352 42 124 8714
[email protected]
Bernd Henninger
+352 42 124 8272
[email protected]
Olivier Sibille
+352 42 124 8837
[email protected]
本案件に関するお問い合わせ
伊藤 志保(Shiho Ito)
新日本有限責任監査法人|金融部|
シニアパートナー
+81 3 3503 1885
[email protected]
稲葉 宏和(Hirokazu Inaba)
新日本有限責任監査法人|金融部|
マネージャー
+81 3 3503 1885
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