L 字型を示唆する消費税増税後の回復過程

2014 年 7 月 17 日
片岡剛士コラム
L 字型を示唆する消費税増税後の回復過程
経済・社会政策部
主任研究員
片岡剛士
筆者は 5 月 7 日公表のコラム(
「消費落ち込み『想定内』
」がもたらすもの)にて、各種指標を前回消
費税増税時と比較した。また 6 月に入り、2014 年 4 月時点の統計資料を整理してコラム(
「増税後の落
ち込みは『想定内』ではない」
)を執筆した。
報道によれば、7 月に入り「2014 年 5 月時点の統計指標が期待外れに終わった」「回復ペースが思っ
たほど強くない」との見通しが広がりつつあるとの指摘もでてきているようだ1。ESP フォーキャスト調
査(2014 年 7 月 10 日、回答期間 6 月 26 日~7 月 3 日)における 2014 年 4-6 月期実質 GDP 成長率(前
期比年率)の予測値総平均はマイナス 4.9%となり、6 月調査の予測値総平均マイナス 4.18%から悪化し
た。
本稿では、5 月・6 月のコラムに引き続き 2014 年 5 月時点までの統計指標を整理して現状を把握する
とともに、直近時点の統計指標から消費税増税後の回復過程をどのように判断できるのかという点につ
いて検討することにしたい。
■前回消費税増税時と比較して堅調な動きを示す株価・為替レート
まず株価(日経 225 月末値)の推移についてみていくと、今回増税時の株価は 2013 年 4 月から 12 月
にかけて上昇し、14 年 1 月以降下落傾向にあったが、5 月、6 月はやや上昇した(図 1)
。2013 年 12 月
末に 2013 年 4 月末と比較して 17.5%割高であった株価は 14 年 4 月末に 13 年 4 月末値を 3.2%上回る水
準まで低下していたが、14 年 6 月末には 13 年 4 月末値を 9.4%上回る水準まで回復している。
1997 年 6 月末の株価は 96 年 4 月末の値を 6.5%下回っていた。前回増税時の場合、株価は 1996 年 4
月以降上昇と下落を繰り返しつつ全体として低下傾向で推移していたが、今回の場合は上昇傾向で推移
している。株価の堅調な動きの背景には、海外要因に加えて 2014 年 1~3 月期の企業業績が堅調である
ことも影響している。今のところは堅調な動きであると言えよう。
1
例えば「焦点:4-6 月期GDP-7%予想も、消費など夏場の回復ペースが不透明」(ロイター、2014 年 7
月 8 日)
。
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
1
図 1 株価(日経 225 月末値)の推移
(増税から1年前の値=100)
140
今回増税時
130
120
110
100
1997年4月増税時
90
80
70
消費税率引き上げ
60
-12 -11 -10 -9
-8
2013年4月
1996年4月
-7
-6
-5
-4
-3
-2
2013年10月
1996年10月
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2014年4月
1997年4月
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
2014年10月
1997年10月
(出所)日経NEEDSより作成。
為替レート(ドル/円レート)の動きをみると、前回増税時には増税前まで円安が進み、増税後 2 カ
月間は円高となってその後再び円安が進んだ。今回の場合、為替レートの動きは前回増税時と比較して
マイルドであり、2 月以降、為替レートは 1 ドル=101 円~102 円台の水準で推移している(図 2)。
図 2 為替レート(ドル/円レート)の推移
(増税から1年前の値=100)
140
130
1997年4月増税時
120
110
円安
100
今回増税時
円高
90
消費税率引き上げ
80
-12 -11 -10 -9
-8
2013年4月
1996年4月
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)日本銀行。
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2
■前回消費税増税時と比較して悪化が進む景気動向指数
次に景気動向指数についてみよう。図 3 は先行きの景気変動を把握する CI 先行指数の 6 カ月前比を
計算の上で比較を行った結果である。
図をみると、前回増税時の CI 先行指数 6 ヵ月前比は増税の 1 年前(1996 年 4 月)から緩やかに低下
し、増税の 1 カ月前(1997 年 3 月)にマイナスとなって、その後低下幅が拡大した。今回の場合も 2013
年 12 月、2014 年 1 月はやや改善したものの、2014 年 2 月の値(0.5%増)は前回増税時(0.2%増)と
ほぼ同じであり、そして 2014 年 3 月の値は 2.8%減と前回増税時(1.2%減)と比較して大きく下落した。
4 月の値は 3.7%減と前回増税時(3.8%減)とほぼ同じだったが、5 月の値は 5.5%減と前回増税時(1.4%
減)と比較して大きく下落している。前回増税時では 5 月に一旦下落率の拡大が止まったが、今回増税
時における 5 月の値は下落率の拡大が止まっていない状況だ。
14 年 5 月の CI 先行指数を構成する各指標の動きをみると、4 月と比較して 5 月の値が悪化した(も
しくは 6 カ月前比の伸びが低下した)のは最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新設住宅
着工床面積、新規求人数、日経商品指数、長短金利差、長期国債(10 年)新発債流通利回り、東証株価
指数、の 8 指標であり、4 月から改善したのは消費者態度指数と中小企業売上げ見通し DI の 2 指標であ
る。特に後でも紹介する在庫率の高まり(図 11)が CI 先行指数の悪化に寄与している。なお図 3 にお
ける 2014 年 5 月の景気動向指数は速報値であり、5 月実質機械受注(船舶・電力を除く民需)の動きが
反映されていない。7 月 22 日に公表される改訂値は下方修正される可能性が高いだろう。
図 3 CI 先行指数 6 ヵ月前比の比較
(6ヶ月前比、%)
15
今回増税時
10
5
1997年4月増税時
0
-5
-10
消 費 税 率 引 き上 げ
-15
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
(月)
10 11 12
2015年4月
1998年4月
(出所)内閣府「景気動向指数」
図 4 は景気の波及度合いを示す DI 一致指数の推移をみている。前回増税時の DI 一致指数の動きをみ
ると、増税一カ月前(1997 年 3 月)までは 50 を上回っていたが、増税が始まると 50 を下回って上下し
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3
ながら推移して、増税から 4 カ月後の 97 年 8 月以降、安定的に 50 を下回った。2014 年 3 月の DI 一致
指数は 95.5 と前回増税時と同じ値であったが、14 年 4 月は 20 と大幅に低下し、5 月も同じ値で推移し
ている。CI 先行指数 6 ヵ月前比の動きと同じく 5 月にリバウンドすることなく悪化のまま推移している
ことが特徴だ。
14 年 6 月の DI 一致指数はどのような動きとなるのだろうか。DI 一致指数の動きは DI 先行指数から
判断することが可能である。DI 先行指数の動きをみると、2014 年 2 月以降 50 割れが続いており、かつ
低下が続いている。2014 年 5 月の値は 11.1 となり、4 月の 20 からさらに悪化した。2014 年 6 月の DI
一致指数は引き続き 50 を下回る可能性が濃厚といえよう。
図 4 DI 一致指数の比較
100
90
80
70
今回増税時
60
50
40
1997年4月増税時
30
20
10
消 費 税 率 引 き上 げ
0
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
8
9
2014年10月
1997年10月
10
11
12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)内閣府「景気動向指数」
■前回消費税増税時と比較して悪化が進む家計消費
次に家計消費についてみていこう。図 5 は総務省「家計調査報告」から消費水準指数(季調済、実質
値、世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済、二人以上の世帯)につき比較を行っている。消費水準指数
を取り上げているのは、世帯あたりの消費動向を把握する際に世帯人員や世帯主の年齢分布に起因する
バイアスを排除することでより実勢に近い家計消費の動向を把握可能なためである。
2014 年 3 月及び 4 月の消費水準指数の動きからは、駆け込み需要とその反動減は前回増税時と比較し
て大きくなった(消費水準指数 3 月前月比 10.6%増、同 4 月前月比 12.1%減)
。そして 5 月の動きは 4
月と比較してややマイルドになったとは言え、前回増税時の落ち込みを遥かに超える深刻な低下となっ
た(5 月前月比 5.7%減)
。
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4
図 5 消費水準指数(総合)の比較(月次)
110
(増税から1年前の値=100)
今回増税時
105
1997年4月増税時
100
95
90
-12 -11 -10 -9
-8
2013年4月
1996年4月
-7
-6
-5
-4
-3
-2
2013年10月
1996年10月
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
2014年10月
1997年10月
2014年4月
1997年4月
(出所)総務省「家計調査」より、消費水準指数(季調済、実質値、 世帯人 員及 び世帯 主の
年齢分布調整済、二人以上の世帯) を掲載して いる。
こうした消費水準指数の低下にはどのような特徴があるのだろうか。消費の変化が顕著な品目を確認
しておこう。図 6 は品目別にみた消費水準指数の前月比伸び率を比較している。教育を除き 2014 年 3
月にかけて実質家計消費は大きく増加し、2014 年 4 月には大幅に減少した。減少率の大きいのは家具・
家事製品、諸雑費、交通・通信、保健医療といった品目であり、全体的に 1997 年 4 月と比較して減少
率は大きい。5 月の動きをみると食料、家具・家事製品、被服及び履物といった生活必需品に近い品目
の伸び率は増加に転じたものの、住居、光熱・水道、教育といった品目の下落率は拡大しており、これ
らの品目の低下が消費水準指数全体の低下につながっている。
図 6 消費水準指数(品目別)伸び率
<2013 年 4 月~2014 年 5 月>
(前月比伸び率、%)
年
2013
2014
月
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
食
料
-1.4
-0.5
1.0
-1.8
0.2
-0.1
-1.5
1.2
-0.2
0.4
-0.2
6.4
-11.1
4.0
住
居
-9.0
1.7
-10.1
5.2
0.3
2.4
2.3
-1.2
0.4
6.3
-1.4
17.9
-11.8
-29.9
光 熱 ・ 水 道
-2.2
-1.1
0.7
2.8
0.0
2.5
-6.8
5.8
-0.5
-0.7
2.1
0.0
-4.7
-8.6
家具・ 家事用品 被 服 及 び 履 物
5.0
-3.3
1.3
2.7
0.4
-2.3
0.9
-3.0
1.7
2.9
19.7
43.2
-53.3
2.1
-3.1
2.2
0.8
-6.1
2.0
4.1
-4.7
3.6
-0.4
12.3
-18.4
26.0
-19.6
4.1
保 健 医 療
交 通 ・ 通 信
-3.5
5.7
0.5
-6.6
2.2
2.7
-7.1
5.4
0.2
-1.9
5.3
8.4
-17.9
-0.9
-5.6
-6.0
1.3
5.2
-6.0
11.1
5.0
-7.2
6.5
-6.0
0.2
17.6
-18.2
-11.4
教
育
-1.1
6.7
-6.1
0.3
4.2
26.8
-20.8
-14.3
10.5
0.5
1.2
-9.5
21.3
-14.2
教 養 娯 楽
3.3
-3.2
1.2
1.0
-2.2
-0.7
-2.6
2.1
-1.9
7.4
-12.9
22.9
-9.1
-6.1
諸
雑
費
2.8
-3.7
-1.3
2.5
-4.2
8.8
-5.2
-3.7
0.8
4.4
1.2
12.7
-23.2
-3.2
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5
<1996 年 4 月~1997 年 5 月>
(前月比伸び率、%)
年
1996
月
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
1997
食
料
0.0
-1.0
2.5
-3.6
-0.1
1.3
0.4
0.7
0.0
0.4
0.0
4.0
-6.3
1.3
住
居
光 熱 ・ 水 道
15.1
-4.5
0.9
-6.7
7.5
-19.4
14.2
-0.1
1.9
4.2
2.2
1.9
-0.9
-7.4
家具・ 家事用品 被 服 及 び 履 物
3.2
-1.9
-0.1
-2.9
1.8
-3.0
2.1
1.7
1.9
0.1
0.1
-3.0
-2.1
-0.5
-9.4
11.6
2.1
-7.4
5.1
-13.3
16.4
-9.5
10.4
-1.1
12.0
25.4
-34.2
-1.5
保 健 医 療
交 通 ・ 通 信
-0.5
8.5
3.1
-9.6
9.2
-6.8
2.8
0.9
-1.5
5.0
-6.4
14.3
-16.6
2.9
9.3
1.3
5.2
-2.6
-1.5
-0.6
5.5
1.5
2.6
-10.5
5.4
1.9
-2.6
-1.5
-7.3
0.3
15.0
-14.8
1.7
1.5
-2.1
1.1
0.4
-1.7
8.0
11.3
-14.8
-3.7
教
育
13.1
-10.9
-3.9
7.4
-3.8
6.3
-14.4
35.3
-8.2
-6.1
-3.0
-7.5
10.1
5.8
教 養 娯 楽
諸
6.1
-0.7
4.3
-6.0
2.5
1.8
-4.8
4.7
-0.8
3.0
2.1
3.5
-8.2
-2.2
雑
費
-3.9
1.4
0.8
-11.4
14.6
-8.8
3.7
-8.0
4.2
8.0
-6.0
-0.4
2.7
-12.0
(出所)総務省「家計調査」より、消費水準指数(二人以上の世帯、世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済、
季節調整済実質指数)に基づき筆者作成。
なお、図 5 における消費水準指数には、振れの大きい住居・自動車等購入費や、概念上 GDP 統計の
個人消費に含まれない贈与金や仕送り金が含まれている。図 7 はこうした品目を除いたベースで消費水
準指数を比較している。結果をみると、今回増税時の 3 月の消費水準指数は前回増税時よりも大きく増
加し、
4 月の落ち込みも前回増税時よりも深刻であった。
5 月は前月比 1.6%減と前回増税時
(前月比 1.7%
減)と比較してわずかにマイルドな落ち込みとなったが、深刻な低下が続いていることには変わりがな
い。
図 7 消費水準指数(除く住居等)の比較(月次)
110
(増税から1年前の値=100)
今回増税時
105
1997年4月増税時
100
95
90
-12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1
2013年4月
1996年4月
2013年10月
1996年10月
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
8
2014年10月
1997年10月
9 10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(注)「住居」、「自動車等購入」、「贈与金」及び「仕送り金」を除いたもの
(出所)総務省「家計調査」より、消費水準指数(総合、季調済、実質値、世帯人員及び世帯主の年齢
分布調整済、二人以上の世帯)を掲載している。
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6
さて、家計調査に関しては従来から統計としての信頼性に対する疑問が指摘されていた。統計として
の信頼性の観点から、家計調査における 2014 年 4 月・5 月の大幅な落ち込みを鵜呑みにすべきではない
との指摘もあるようだ。個人消費の動向を判断する際には、家計調査のように買い手側の統計(需要側
統計)から把握する方法と、商業販売統計や第三次産業活動指数といった売り手側の統計(供給側統計)
から把握する方法の二つがある。内閣府では個人消費の基調判断に際して四半期別 GDP 速報(QE)の
作成方法を参考にしながら、需要側統計・供給側統計の両者を統合して個人消費の動向を総合的に捉え
られるよう消費総合指数を毎月作成・公表している。
図 8 は消費総合指数での比較を行っているが、前回増税時と比較して 2 月から 3 月にかけての消費の
増加は大きく、4 月の落ち込みも大きくなっている。5 月の前月比(1.3%増)は前回増税時(0.5%増)
と比較して高まっており、かつ家計調査とは異なる動きを示しているが、前回増税時よりも今回の方が
落ち込みは大きく、増税後はマイルドな回復であることには変わりがない。6 月も 5 月と同じ前月比伸
びとなると仮定して、6 月の消費総合指数を計算し、2014 年 1~3 月期の平均値と同 4~6 月期の平均値
との変化率を計算すると 4.3%減となる。これは同じ方法で計算した 97 年 1~3 月期と同 4~6 月期の変
化率 3.5%減を上回る下落だ。内閣府が毎週公表している「消費税率引上げ後の消費動向等について」2に
よれば、新車販売台数、家電販売金額、飲食料品販売金額、百貨店売上高は 5 月に 4 月の落ち込みから
やや持ち直した後、6 月にはほぼ横ばいで推移している。こうした情報から判断する限り、6 月も 5 月
と同じ前月比伸び率で消費が回復すると考えるのは楽観的なのかもしれない。4~6 月期の消費落ち込み
は前回増税時以上となる可能性が高いと言えるのではないか。
図 8 消費総合指数の比較(月次)
(増税より1年前の値=100)
108
107
106
105
1997年4月増税時
104
103
102
101
100
今回増税時
99
98
97
消費税率引き上げ
96
95
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)内閣府「消費総合指数」
2
http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/shuji/index.html
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7
いずれにせよ、総務省「家計調査」から得られる消費水準指数(総合及び除く住居等)
、消費総合指数
の推移から判断する限り、今回増税時における家計消費の落ち込みは前回増税を上回り、かつ落ち込み
からの回復も緩慢であると言えよう。
■前回消費税増税時と同程度で推移する着工新設住宅戸数
家計消費と並び駆け込み需要の影響が顕著となると考えられるのが住宅投資である。図 9 は着工新設
住宅戸数全体の推移を比較した結果である。今回の場合は 2013 年 12 月まで増加したが、2014 年 1 月以
降減少に転じており、4 月に一旦上昇したものの再び 5 月に減少している。増税から 1 年前の値を基準
にして戸数の動きを比較すると、今回増税時の落ち込み度合いは前回とほぼ同じである。5 月時点の動
きは前回増税並みと言えよう。
図 9 着工新設住宅戸数の比較
(増税から1年前の値=100)
115
110
今回増税時
105
100
1997年4月増税時
95
90
85
80
消 費 税 率 引 き上 げ
75
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
-3
2013年10月
1996年10月
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)国土交通省「住宅着工統計」
■前回消費税増税時よりも増減が明確となった出荷・在庫
5 月 7 日公表のコラム(
「消費落ち込み『想定内』
」がもたらすもの)では、
「97 年 7 月頃までの楽観
的な判断に従って企業による増産が続けられた結果、意図せざる在庫増が生じ、その後の在庫調整につ
ながった」という点が重要な教訓であると指摘した。出荷や在庫の動きはどうなっているのだろうか。
図 10 は出荷(鉱工業)につき、増税開始から 1 年前の値を 100 とした指数の形で比較している。前
回増税時の出荷額の動きをみると、増税開始から 3 カ月前の 1997 年 1 月に出荷額は大幅に伸び、同 4
月に大きく落ち込んだ。その後 8 月まで緩やかに増加するものの、8 月以降再び低下している。今回増
税の場合も増税開始から 3 カ月前の 2014 年 1 月に大幅に増加した。ただし 2014 年 2 月以降、出荷額は
減少を続けて 4 月には前回増税時以上の落ち込みとなり、そして 5 月の出荷も引き続き落ち込んでいる。
つまり 5 月時点ではまだ下げ止まりの状況になく、前回増税時と比較して状況は悪いということだ。
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
8
図 11 は図 10 と同様に在庫(鉱工業)につき、増税開始から 1 年前の値を 100 とした指数の形で比較
している。前回増税時には在庫は増税開始から 2 カ月前の 1997 年 2 月まで緩やかに、そして 3 月に大
きく低下して 4 月以降増加に転じている。今回の場合、増税開始から 2 カ月前までの推移は前回増税時
とほぼ共通しているが、増税開始 1 カ月前の 2014 年 3 月に在庫は増加に転じている。2014 年 4 月の在
庫は 3 月からやや低下したものの、出荷の低下をうけて 5 月に再び増加した。前々節でみた大幅な消費
の落ち込みが生じているという事実や、2014 年 5 月の在庫率の高まりが生産財ではなく消費財や投資財
といった最終需要財において主に生じているという事実を対応付けて考えれば、今後の生産のための前
向きな在庫増ではなく需要低下に起因した意図せざる在庫増が生じていると言える。こうした動きが続
けば、在庫調整局面入りも遠からず視野に入ってくる可能性が高いだろう。
図 10 出荷の比較
(増税より1年前の値=100)
110
108
106
1997年4月増税時
104
102
今回増税時
100
消 費 税 率 引 き上 げ
98
-12 -11 -10 -9
-8
2013年4月
1996年4月
-7
-6
-5
-4
-3
-2
2013年10月
1996年10月
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
2014年10月
1997年10月
2014年4月
1997年4月
(出所)経済産業省「鉱工業生産」
図 11 在庫の比較
(増税より1年前の値=100)
105
103
今回増税時
101
99
1997年4月増税時
97
消 費 税 率 引 き上 げ
95
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)経済産業省「鉱工業生産」
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
9
■前回消費税増税時と比較して悪化が進む賃金
賃金の動きをみよう。図 12 は雇用者一人あたり名目賃金(現金給与総額)
、雇用者一人あたり実質賃
金(実質現金給与総額)の前年比を比較している。2014 年 5 月(速報値)における雇用者一人あたり名
目賃金の前年比伸び率は 0.8%、雇用者一人あたり実質賃金の前年比伸び率はマイナス 3.6%となった。
前回増税時の動きをみると、消費税増税前までは雇用者一人あたり名目賃金・実質賃金はともに前年比
で増加を続けたが、増税後の物価上昇を反映してまず雇用者一人あたり実質賃金が前年比マイナスとな
り、その後失業率の悪化を伴いつつ名目賃金も下落していくという経緯を辿った。
今回の場合、増税前の雇用者一人あたり名目賃金の伸びは前年比で 1%を下回る程度であり、物価上
昇率が高まっていることもあって前回増税後と同程度の雇用者一人あたり実質賃金の低下が既に生じ
ていた。雇用者一人あたり名目賃金の伸びが高まらない中で増税後に物価上昇率が高まったために一人
あたり実質賃金は前回を超えるマイナス 3%超で推移している。こうした動きは雇用者一人あたり名目
賃金がさらに上昇しない限り続く可能性が高い。
図 12 雇用者一人あたり名目賃金、同実質賃金の比較
7.0
5.0
(前年比、%)
名目賃金
(今回増税時)
名目賃金
(前回増税時)
3.0
物価上昇
1.0
0.8
-1.0
-3.0
実質賃金
(今回増税時)
-3.6
実質賃金
(前回増税時)
-5.0
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
(月)
10 11 12
2015年4月
1998年4月
(出所)厚生労働省「毎月勤労統計」
先行きの雇用者一人あたり賃金の動きについては、春闘の結果が参考となる。連合の 2014 春季生活
闘争(春闘)の最終回答集計結果3によれば、2014 年春闘の賃上げ率は 2.07%となったとのことである。
ただし賃上げ率には定期昇給や賃金制度を維持するための賃金引き上げ分も含まれるため、2.07%とい
う賃上げ率がそのまま雇用者一人あたり名目賃金の伸びに直結しない。雇用者一人あたり名目賃金の伸
びに近いのは特定労働者の賃金が新年度にいくら引き上げられるのかを示す個別賃金方式(A 方式)の
3
http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/shuntou/2014/yokyu_kaito/kaito_no8_pressrelease20140703.pdf?07031415
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
10
引上げ率である。A 方式にはモデルケースとして 30 歳・35 歳の労働者の引上げ率がまとめられている
が、それぞれ 0.67%、0.53%であること(ちなみに 2013 年春闘における個別賃金方式(A 方式)の引上
げ率は 30 歳 0.29%、35 歳 0.17%である)から判断すれば、名目賃金の伸びが今後大きく高まるとは考
えにくい。6 月ないし 7 月の雇用者一人あたり名目賃金には一時金の増加が反映されることで前年比伸
び率は高まることが期待されるが、それはあくまでボーナス月のみの動きに留まる公算が大である。
そして一国全体の消費に直結するのは、雇用者一人あたり名目賃金・実質賃金に雇用者数の変化を加
味した雇用者報酬全体の動きである。図 13 は名目雇用者報酬(雇用者数×一人あたり名目賃金(現金
給与総額)
)
、実質雇用者報酬(名目雇用者報酬÷物価指数)を計算の上で、雇用者報酬の前年比と雇用
者数、雇用者一人あたり名目賃金、物価の寄与を比較した結果である。結果をみると、2013 年 5 月の名
目雇用者報酬前年比は 1.4%増、実質雇用者報酬前年比は 1.9%減であるのに対し、1997 年 5 月の名目雇
用者報酬前年比は 3.1%増、実質雇用者報酬前年比は 1.0%増である。前回増税時と比較して雇用者報酬
全体でみても前年比は低く、かつ実質雇用者報酬では 4 月以降前年比 2%程度の減少が続いている。雇
用者数及び一人あたり名目賃金の寄与においても今回の方が小さく、雇用者報酬全体でみても前回増税
時よりも今回の方が悪いと言えるだろう。
図 13 名目雇用者報酬・実質雇用者報酬前年比と一人あたり名目賃金・雇用者数・物価の寄与
<2013 年 1 月~2014 年 5 月>
(前年比、寄与度、%)
10.0
物価の寄与
雇用者数の寄与
8.0
一人あたり名目賃金の寄与
実質雇用者報酬((雇用者数×一人あたり名目賃金)÷物価)前年比
6.0
名目雇用者報酬(雇用者数×一人あたり名目賃金)前年比
4.0
2.0
1.4
0.0
-1.9
-2.0
-4.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
2013
2014
(注)名目雇用者報酬=雇用者数×一人あたり名目賃金(現金給与総額)、実質雇用者報酬=名目雇用者報酬÷物価指数として、
雇用者報酬前年比と物価、雇用者数、一人あたり名目賃金の寄与度を計算したもの。物価は消費者物価指数(コア)を使用。
(出所)総務省「労働力調査」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「消費者物価指数」
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
11
<1996 年 1 月~1997 年 5 月>
(前年比、寄与度、%)
10.0
物価の寄与
雇用者数の寄与
8.0
一人あたり名目賃金の寄与
実質雇用者報酬((雇用者数×一人あたり名目賃金)÷物価)前年比
6.0
名目雇用者報酬(雇用者数×一人あたり名目賃金)前年比
4.0
3.1
2.0
1.0
0.0
-2.0
-4.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1996
1
2
3
4
5
1997
(注)名目雇用者報酬=雇用者数×一人あたり名目賃金(現金給与総額)、実質雇用者報酬=名目雇用者報酬÷物価指数として、
雇用者報酬前年比と物価、雇用者数、一人あたり名目賃金の寄与度を計算したもの。物価は消費者物価指数(コア)を使用。
(出所)総務省「労働力調査」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「消費者物価指数」
■前回消費税増税時よりも高まる物価上昇率
図 14 は消費者物価指数(生鮮食品除く総合、食料及びエネルギーを除く総合)の前年比を比較して
いる。前回増税時の物価上昇率の動きをみると、生鮮食品を除く総合指数・食料及びエネルギーを除く
総合指数はともに前年比 0.5%程度で増税前まで推移して、増税時に生鮮食品を除く総合指数の場合は
1.5 ポイント、食料及びエネルギーを除く総合指数の場合は 1.1 ポイント物価上昇率が高まっている。そ
して物価上昇率の高まりは増税から 1 年後の 98 年 4 月に剥落している。
今回増税時の消費者物価指数の動きをみると、物価上昇率がマイナスからプラスへと転じながら高ま
っている事が特徴だ。2014 年 5 月の結果は消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)前年比 3.4%、
同(食料及びエネルギーを除く総合指数)前年比 2.2%となった。前回増税時と比較して消費税の影響
を含む物価の伸びは高まっている。
生鮮食品を除く総合指数、食料及びエネルギーを除く総合指数それぞれについて消費税増税に伴う物
価上昇率への影響を除いて物価上昇率をみると 5 月前年比は 1.4%増、0.5%増となり、前年比は 4 月か
ら低下した。日銀は消費税増税の影響を除く消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)の伸びが目先
1%程度まで低下すると見通しているが、反動減を反映して物価上昇率が鈍化する可能性が高い。
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12
図 14 消費者物価指数の比較
<生鮮食品を除く総合>
4.0
(前年比、%)
3.5
1997年4月増税時
3.4
3.2
3.0
今回増税時
2.5
2.1
2.0
2.0
1.3
1.5
1.4
1.0
0.5
0.5
0.0
-0.5
消費税率引き上げ
-1.0
-12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2013年4月
2013年10月
2014年10月
2014年4月
1996年4月
1996年10月
1997年10月
1997年4月
(注)2013年4月以降の破線部の値は消費税増税の影響を除いた結果である。
(出所)総務省「消費者物価指数」
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
<食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合>
3.0
(前年比、%)
2.5
2.3
2.2
2.0
1.6
1.5
1.6
今回増税時
1.0
1997年4月増税時
0.7
0.5
0.5
0.5
0.0
-0.5
消費税率引き上げ
-1.0
-12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1
0
2013年4月
1996年4月
1
2
3
4
5
6
7
8
2013年10月
2014年10月
2014年4月
1996年10月
1997年10月
1997年4月
(注)2013年4月以降の破線部の値は消費税増税の影響を除いた結果である。
(出所)総務省「消費者物価指数」
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
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13
■前回消費税増税時よりも改善が進む有効求人倍率・完全失業率
図 17 は有効求人倍率と完全失業率の推移を比較しているが、前回増税時の有効求人倍率、完全失業
率はほぼ横ばいで推移して、増税から 5 カ月が経過した 1997 年 9 月以降に有効求人倍率の低下と完全
失業率の悪化が生じている。今回増税時の場合は有効求人倍率と完全失業率の改善が進んでいることが
特徴だが、前回増税時と同様の推移を辿るとすれば、有効求人倍率と完全失業率の悪化が顕在化するの
は増税から 5 カ月程度経過した後(2014 年 9 月以降)とも言えるだろう。
図 15 有効求人倍率・完全失業率の比較
<有効求人倍率>
1.2
(倍)
1.1
1
1997年4月増税時
今回増税時
0.9
0.8
0.7
0.6
消 費 税 率 引 き上 げ
0.5
-12 -11 -10 -9
-8
2013年4月
1996年4月
-7
-6
-5
-4
-3
-2
2013年10月
1996年10月
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2014年4月
1997年4月
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
2014年10月
1997年10月
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況(平成26年5月分)」
<完全失業率>
(%)
4.2
4
3.8
今回増税時
3.6
3.6
3.5
3.4
3.3
3.2
3.2
1997年4月増税時
消 費 税 率 引 き上 げ
3
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)総務省「労働力調査」
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14
■前回消費税増税時よりも悪化が進む資本財出荷・機械受注
前回増税時(1997 年度)の日本経済は、家計消費や住宅投資は落ち込んだものの、設備投資と輸出が
家計消費と住宅投資の落ち込みを打ち消す形で作用することでかろうじてマイナス成長を逃れた。日本
経済の先行きを考える際には設備投資と輸出の動向が気になるところである。図 16 及び図 17 は資本財
出荷(輸送機械除く)の推移と機械受注(船舶・電力除く民需)の動きを比較している。
前回増税時の資本財出荷(輸送機械除く)の動きをみると、1997 年 1 月に増加が加速した後に 2 月以
降減少に転じ、増税が始まった 1997 年 4 月から 8 月にかけて増加基調で推移している。今回増税時の
動きをみると、2014 年 1 月に大きく増加した後、2013 年 3 月以降減少が続いており、増税から 1 カ月
が経過した 5 月の段階でも下落が続いていることが前回増税時との違いである。5 月の水準をみると
2013 年 12 月の水準とほぼ同じところまで落ち込んでおり、駆け込み需要に対応した資本財出荷はほぼ
一巡したともみることができるだろう。
図 16 資本財出荷(輸送機械除く)の比較
125
(増税から1年前の値=100)
120
今回増税時
1997年4月増税時
115
110
105
100
95
90
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
8
2014年10月
1997年10月
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)経済産業省「鉱工業生産」
先行きの設備投資の動向を考えるにあたっては機械受注の動きが参考になる。図 17 は機械受注(船
舶・電力除く民需)の推移を比較している。機械受注は毎月の振れが大きいため 6 カ月後方移動平均値
(点線部)も合わせて掲載しているが、前回増税時は増税前まで緩やかに上昇基調で推移した後、増税
後 6 カ月目までは横ばい、低下が進むのは増税から 6 カ月目以降(1997 年 10 月以降)であったことが
わかる。今回の場合は前回増税時と比較して増税前までの機械受注は堅調に推移していた。しかし 2014
年 5 月の機械受注は前月比 19.5%減と大幅な落ち込みとなり、6 カ月後方移動平均値でみても 4 月以降
のトレンドはやや低下という結果になっている。5 月の結果を踏まえると、機械受注の動きは今後やや
弱めで推移する可能性が高まっているとも言えるだろう。
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
15
図 17 機械受注額(船舶・電力除く民需)の比較
(増税から1年前の値=100)
130
125
今回増税時
120
1997年4月増税時
115
110
105
100
95
90
85
80
75
70
-12 -11 -10 -9
-8
2013年4月
1996年4月
-7
-6
-5
-4
-3
-2
2013年10月
1996年10月
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2015年4月
1998年4月
2014年10月
1997年10月
2014年4月
1997年4月
(月)
10 11 12
(注)破線は6カ月後方移動平均値
(出所)内閣府「機械受注統計」
■横ばいで推移する輸出・反動減の影響で低下する輸入
実質輸出と実質輸入の推移を整理しておこう。図 18 は前回増税時と今回増税時の動きを比較してい
る。前回増税時の実質輸出入の動きをみると、増税前まで実質輸出は堅調に増加する一方で、実質輸入
はほぼ横ばいで推移していた。増税後の実質輸出はやや増加基調~横ばいで推移するが、実質輸入は緩
やかに低下する。結果として純輸出(実質輸出マイナス実質輸入)は増加して、実質 GDP の下支えと
して作用したというわけである。
図 18 実質輸出入の比較
(増税から1年前の値=100)
120
115
110
実質輸入
(今回増税時)
実質輸出
(1997年4月増税時)
105
100
95
90
85
80
実質輸入
(1997年4月増税時)
実質輸出
(今回増税時)
消 費 税 率 引 き上 げ
75
-12 -11 -10 -9
2013年4月
1996年4月
-8
-7
-6
-5
-4
2013年10月
1996年10月
-3
-2
-1
0
1
2014年4月
1997年4月
2
3
4
5
6
7
2014年10月
1997年10月
8
9
10 11 12(月)
2015年4月
1998年4月
(出所)日本銀行「実質輸出入」
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
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今回増税時の実質輸出入をみると、前回増税時とは異なり実質輸出は横ばいで推移している。また実
質輸入は駆け込み需要も相まって 2014 年 1 月以降大幅に増加したが、4 月に前月比 9.9%減となり、引
き続き 5 月も 2.6%減となっている。2014 年 5 月の実質輸出入は 2013 年 4 月とほぼ同じ水準である。以
上からは実質輸入の大幅減により純輸出の回復が進んでいるのが現状と言えるだろう。
■大幅落ち込みの可能性が高い 2014 年 4~6 月期の日本経済
これまで 2014 年 5 月時点までの統計データをアップデートしつつ、前回消費税増税時の動きとの比
較を行ってきた。図 19 はこれまでみた指標の動きをまとめている。
再度概観すると次のようになる。株価や為替レートといった資産価格は前回増税時と比較すると堅調
に推移しており、また完全失業率や有効求人倍率といった雇用指標は前回増税時と比較して良い。ただ
し、消費税増税後の反動減が予想された民間消費の落ち込みは前回を上回る形で推移しており、落ち込
みからの持ち直しが期待された 5 月の指標の動きも芳しくはない。6 月に駆け込み需要前の消費水準に
戻る可能性は極めて低く、Ⅴ字型回復というよりは L 字型回復に近い形で今後推移する可能性が高い。
着工新設住宅戸数も下落が続いており、まだ底が見えない状況である。こうした民間消費や住宅投資の
落ち込みを反映して、出荷の下落が続き、在庫も増加を続けている。在庫率の高まりは最終需要財が主
であり、意図せざる在庫の増加が進んでいる。失業率は低下を続け、雇用者数は増加を続けているが、
名目雇用者報酬の伸びは消費税増税後の物価上昇に追い付いておらず、実質雇用者報酬の低下が進んで
いる。実質雇用者報酬の低下は反動減が一服した後の民間消費の動きを制約する可能性が高い。そして
増加が期待されている設備投資や輸出も悪化ないしは横ばいで今のところ推移している。純輸出の増加
は輸出増ではなく輸入の大幅減少によって生じている。
図 19 指標のまとめ(2014 年 5 月)
株価
前回増税時と比較して
コメント
○(良い)
5月、6月と上昇を続けており、増税1年前と比較しても株価は高い。
為替レート(ドル/円レート)
○(良い)
ほぼ横ばいで推移しており、前回増税時のように円高が進んでいない
CI先行指数6か月前比
×(悪い)
5月減少幅は前回増税時よりも大。下げ止まりの兆候は見えない。
DI一致指数
×(悪い)
5月に入っても50を上回らず、4月から状況は変化していない。
実質家計消費(総合)
×(悪い)
3月の増加、4月・5月の減少ともに前回増税時よりも大
実質家計消費(除く住居等)
×(悪い)
3月の増加、4月の減少ともに前回増税時よりも大
消費総合指数
×(悪い)
3月の増加、4月の減少ともに前回増税時よりも大。
着工新設住宅戸数
△(同じ)
増税から1年前の値を基準に比較すると落ち込みは同程度。
出荷
×(悪い)
3月から4月にかけての落ち込みは前回増税時よりも大。5月も引き続き落ち込みが続く。
在庫
×(悪い)
4月在庫はやや減少したが、5月在庫は大幅増。
雇用者一人当たり名目賃金
×(悪い)
前年比伸び率は高まったが、前回増税時の伸び率には及ばず
雇用者一人当たり実質賃金
×(悪い)
物価上昇率を反映して大幅に落ち込み
名目雇用者報酬
×(悪い)
名目雇用者報酬前年比は前回増税時よりも低い
実質雇用者報酬
×(悪い)
実質雇用者報酬前年比は前回増税時よりも低い。14年4月以降前年比2%程度の下落が続いている。
物価上昇率
×(悪い)
前回増税時と比較して増税による物価押し上げの影響は深刻
完全失業率・有効求人倍率
○(良い)
完全失業率・有効求人倍率は改善が続く
資本財出荷
×(悪い)
4月・5月と連続して悪化が進んでいる。
機械受注(船舶・電力除く民需)
×(悪い)
4月・5月と連続して悪化が進んでいる。2014年5月の落ち込みは過去最大。
実質輸出入
×(悪い)
輸出は横ばいが続き、輸入は大きく低下
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こうした点を念頭におけば、2014 年 4~6 月期の民間消費、民間住宅投資、民間企業設備投資は総崩
れの様相を呈すものと見込まれる。唯一期待できそうなのは政府が行っている経済対策(
「好循環実現
のための経済対策」
:国費 5.5 兆円)による公共投資の効果である。図 20 は名目公共投資前期比と公共
投資請負金額の前期比(1 四半期先行)とを比較しているが、公共投資の先行指標である公共工事請負
金額の動きをみる限り経済対策の効果が GDP に主に作用するのは 2014 年 7~9 月期以降であると考え
られる。7 月 ESP フォーキャスト調査の予測値総平均 4.9%減を超える実質 GDP 成長率の落ち込みが生
じる可能性が高まっていると言えるだろう。
図 20 公共工事請負金額前期比と名目公共投資前期比
20
(前期比%)
15
10
5
0
-5
名目公共投資前期比
-10
公共工事請負金額前期比(1四半期先行)
-15
1
2
3
2010
4
1
2
3
2011
4
1
2
3
4
2012
1
2
3
2013
4
1
2
3
4
2014
(注)公共工事請負金額については、推計期間2004年1月~2013年5月、regARIMAの次数は(011)(011)、異常値は自動
検出。曜日・閏年調整あり、でX-12-ARIMAによる季節調整を月次データで試算した上で四半期ベースに直し、前期比を計
算した結果。
(出所)東日本建設業保証株式会社、北海道建設業信用保証株式会社、西日本建設業保証株式会社統計、内閣府「国民
経済計算」
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