革靴と新聞その 2 中川浩二(臨床トンネル工学研究所理事長) 昨年 10 月の仙台での講演会において「革靴と新聞」と題して施工環境、安全に 関する私見を述べさせていただいた。今回はさらにそれらのアドバンスドコー スとして路面の管理と照明のあり方に関する方向性に関する提言を行う。 (1) 路面管理 施工中のトンネルにおける路面管理は作業の安全、品質の確保、さらには作 業の効率を考える上でも重要なことである。しかしながら路面の状況はトンネ ル内湧水に大きく支配されるところがあり、また作業水の処理をはじめとする 施工の気配りなどにより大きく異なる。一方路面管理に要する経費に関しては 共通仮設費との扱いを受けることもあり、施工業者の責任とされることも多い。 しかしながら路面の状況に影響を与える地山条件は千差万別であり、その状 況は現場ごとに異なる。しかしながら作業の安全、効率、品質を考えるとき良 好な環境で作業を行うことはすべてのトンネルにとって本来あるべき方向と思 われる。 そこで劣悪とされる路面状況の幾つかの現場における路面改善のビフォーア フターを例として示し、それらに関して経費負担の考え方までを含めた実態例 を示す。その上で今後のあり方に関して話題提供を行う。 (2) 照明 施工中のトンネル坑内照明に関しては最近における LED の発達もあり、著し い改善がなされていると思われる。土木学会標準示方書によれば切羽部で 70Lx、 通路部で 20Lx 以上の照度が求められている。一方,専門協によれば切羽での照 明は 150Lx 以上とされている。現実に,トンネルによって切羽照明は 300Lx を 越すような明るい状況での施工が行われているところも幾つか見られると同時 にさまざまの試みも実施されている。 一方家庭の室内、工場さらには供用中のトンネルにおいては照度のみならず 色、影などといった照明における他の要素にも大きな配慮がなされている。施 工中トンネル照明の今後を考えるにおいてこれらの要素を考慮することは重要 であると考える。そのことから「照度」、「色温度」、「均斉度」、「演色性」とい った照明工学において用いられる基礎的な用語とその意味、方向性から現実の 施工中のトンネル内照明の実態を概観し、今後の方向に関して方向性を示唆す るものである。 肌落ち災害の実態と対策 吉川直孝(独立行政法人労働安全衛生総合研究所) 山岳トンネル建設工事中の労働災害は, 「建設機械等」による災害が最も多く, 次いで「肌落ち」による災害,「墜落」による災害と続く。「建設機械等」によ る災害は,一般的な土木工事における対策が同トンネル工事でも有効と思われ る。しかしながら, 「肌落ち」による災害は,同トンネル工事に特有の災害であ り,山岳トンネルに特化した肌落ち防止策が必要だと考えられる。 近年の「肌落ち」による労働災害を概観すると,「切羽」において,「装薬」 や「支保工建て込み」といった作業中に発生している。 弊所では,発破後の地山の応力状態を把握するため,トンネル発破掘削模擬 実験やそれらの個別要素法(DEM)シミュレーションを実施している。同実験・ シミュレーション結果は,発破後の地山に引張応力が残存する可能性を示唆し ている。したがって, 「肌落ち」を防止するためには,切羽に発生する引張応力 を圧縮応力に変えるような働きかけが必要である。例えば, 「鏡吹付け」であり, もう少しコストをかけてもらえるようであれば,「鏡ボルト」も有効である。 「鏡吹付け」は,切羽を完全に安定化させるためのものではないため, 「十分 な照度」下での「切羽監視員」による切羽変状の監視, 「切羽変位計測」等も併 用することが望まれる。これらの対策を併用し,総合的に「肌落ち」による労 働災害のリスクを低減させることが最も重要である。
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