報道解禁日時 テレビ・ラジオ・WEB 新聞 平成 27 年 2 月 12 日午前 4 時以降 平成 27 年 2 月 12 日朝刊以降 (米国東部時間 2 月 11 日午後 2 時以降) 平成 27 年 2 月 6 日 名古屋教育医療記者会 各位 名古屋市立大学大学院薬学研究科 平成26年6月6日朝刊以降 分子生物薬学分野教授 今川 正良 電話: 052-836-3455 [email protected] 新聞 名古屋市立大学薬学部事務室 事務長 渡邉 一紀 電話: 052-836-3401 [email protected] (文部科学記者会・名古屋市政記者クラブと同時発表) がん細胞の浸潤・転移を抑える新たな因子を発見 〈要 旨〉 がんは日本人の死亡原因の第1位であり、がんの予防・治療などがん克服は解決すべき最 重要課題です。がん克服のためには、早期発見、外科的治療の進展、新規抗がん剤の開発、 がん発生の分子機構の解明など様々な方面からの研究が必須ですが、がん細胞の浸潤・転移 の機構解明が最も重要と考えられています。がん転移を抑えることができればがんは怖くな いとも言われています。しかしながら、がん細胞の浸潤・転移がどのように起こるのか、未 だ十分に解明されているとはいえないのが現状です。 名古屋市立大学大学院薬学研究科の加藤大輝(大学院生)と今川正良教授の研究グループ は、がん細胞の浸潤と転移を抑える新しい因子を発見しました。この因子は、これまで浸潤・ 転移で研究されてきた因子群とは全く異なるものであり、今回の成果により、がん細胞の浸 潤・転移の分子機構の理解がさらに進むと共に新たながん治療薬の創薬につながることが期 待されます。 以上の成果は、米国学術誌プロス・ワン電子版に 2 月 11 日午後 2 時(米国東部時間)に掲 載されます。 1 〈内容の詳細〉 研究の背景 日本人の死亡原因の圧倒的第1位はがん(悪性新生物)です。がんの予防・早期発見・効 果的な治療・治療後のケアなどすべてが重要で、様々な分野で研究が続けられています。新 規腫瘍マーカーの開発、新規抗がん剤の開発、より先端的な外科的手術の開発、がん発生の メカニズムの解明などはその一例です。一方、がん研究で最も重要なのは、がん細胞の浸潤 と転移の機構解明であるといわれています。実際、転移がなければがんは怖くないという医 師・研究者もたくさんいます。悪性腫瘍(がん)と良性腫瘍(がんではない)の分かれ目は 浸潤・転移の有無が決めているとも言われています。しかしながら、このように重要な浸潤・ 転移の機構は未だ十分に解明されたとは言い難い状況です。従って、がんの浸潤・転移に関 与する新たな因子を見出すことは極めて重要な課題と考えられています。 研究成果 名古屋市立大学大学院薬学研究科の今川正良教授のグループは、以前から脂肪細胞を作る のに重要な新規因子を探索し、数種類の重要遺伝子を単離しました。これらは、単離当時に は未知の新規遺伝子であったため、fad (factor for adipocyte differentiation、脂肪細胞の分 化に関わる因子)に単離番号を付けて因子名としました。それらの中の一つである fad104 は、 1)脂肪細胞の分化を正に制御する 2)逆に骨の分化を抑制する 3)肺の形成に重要な役割を果たす 4)細胞の移動・接着に重要な役割を果たす など多様な機能を持つことをこれまで明らかにしてきました。 その過程で、特に上記4)の結果に着目し、がん細胞の浸潤や転移にも関わっているので はないかと考えました。大学院生の加藤大輝は、皮膚がんの一種であるヒトメラノーマ(悪 性黒色腫)細胞を用いて、がん細胞における fad104 の機能を検討しました。その結果、驚く べきことに、メラノーマ細胞の浸潤・転移能を fad104 が抑えることを明らかとしました。以 下の二つの図で説明します。 図 1 は、がん細胞の浸潤実験の結果です。低転移性のがん細胞と高転移性のがん細胞の 2 種 類を使用しました。低転移性のがん細胞を用いた場合、対照として用いたコントロールがん 細胞では浸潤したがん細胞は少ない(紫色の細胞=濃く見える部分=が少ない)のに対して、 このがん細胞に fad104 の働きを抑える処理をすると、図 1A 右のように紫色の細胞(濃く見 える部分)が増える、すなわち浸潤しやすくなることがわかりました。一方、図 1B のよう に、高転移性のがん細胞では、コントロールがん細胞の浸潤能は非常に高いですが、このが 2 ん細胞で fad104 の働きを強めると、浸潤の程度が明らかに低くなっていることがわかります。 以上のことから、fad104 はがん細胞の浸潤を抑えることが明らかとなりました。またヒト乳 がん細胞を用いた場合も全く同様の結果が得られました。 A 低転移性のがん細胞 fad104 の働きを 抑えたがん細胞 コントロール がん細胞 fad104 の働きを抑えると、浸潤しやすくなる (右の図で紫色の細胞が増える) B 高転移性のがん細胞 fad104 の働きを 強めたがん細胞 コントロール がん細胞 Parental fad104 の働きを強めると、浸潤しにくくなる Control adfad104 (右の図で紫色の細胞が減る) (LacZ) 図 1. がん細胞の浸潤実験 次に高転移性のがん細胞をマウスの尾静脈に注射した時、実際にどのような頻度で転移す るか検討しました。図 2 の左側の図はコントロールの結果を示していますが、肺に多数のが ん細胞(図の中の黒い細胞)の転移が観察されました。しかし、この高転移性のがん細胞に fad104 の働きを強める処理をした後、この細胞をマウスの尾静脈に注射すると、図 2 の右側 の図のように、転移したがん細胞の数が激減していることがわかりました。 以上のように、fad104 は、がん細胞の浸潤および転移能を抑制することが明らかとなりま した。さらにその分子機構を検討したところ、がん細胞の浸潤・転移に重要な JAK-STAT 経 路とよばれる経路を fad104 が阻害することも明らかにしました。 3 コントロールがん細胞 fad104 の働きを強めたがん細胞 fad104 の働きを強めたがん細胞は、転移しにくくなる (右図) 図 2. がん細胞の転移実験 コントロールがん細胞または、fad104 の働きを強めたがん細胞をマウスの静脈に注 射し、15 日後に肺への転移の様子を観察した。 (黒い細胞が転移したがん細胞) 研究成果の意義および今後の展開 本論文は、がん細胞の浸潤・転移を抑制する新たな因子を発見したものであり、今後の浸 潤・転移研究に大きく貢献するものと期待されます。本研究はヒトがん細胞を用いています が、肺への転移実験ではマウスを使用しました。しかし、ヒト fad104 遺伝子は、マウスと極 めて類似した構造であるため、本研究成果はヒトでも同様の効果が期待されます。 fad104 は、これまで浸潤・転移で研究されてきた因子群とは全く異なるものであり、今回 の成果により、がん細胞の浸潤・転移の分子機構の理解がさらに進むと共に、新たながん治 療薬の創薬につながることが期待されます。 fad104 は、脂肪細胞形成、肺形成、骨形成、がんの浸潤・転移に関わっており、生体内に おいて多種多様な役割を担っていると思われます。ヒトゲノムプロジェクトは終了しました が、個々の遺伝子の持つ機能の多様性までは研究が進んでいません。このように、遺伝子の 持つ多彩さを明らかにしたという点ももう一つの大きな発見と思われます。 〈掲載される論文の詳細〉 掲載誌:PLOS ONE(プロス・ワン)誌 電子版 題 目:Fad104, a positive regulator of adipocyte differentiation, suppresses invasion and metastasis of melanoma cells by inhibition of STAT3 activity. (訳:脂肪細胞分化を正に制御する因子 fad104 は、STAT3 活性を阻害することに よりメラノーマ細胞の浸潤と転移を抑制する) 著 者:加藤大輝(大学院生)、西塚誠(講師)、長田茂宏(准教授)、今川正良(教授) (所属は全て名古屋市立大学大学院薬学研究科) 以 4 上
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