活発な意見が出るサービス担当者会議

失
失敗事例との対比で学ぶ ! サービス担当者会議で求められる
「段取り力」
「連携力」
「プレゼン力」
活発な意見が出ず沈黙が続く…。失敗事例で学ぶ
活発な意見が出るサービス担当者会議
介護保険法は,2000年4月に施行され,2015年
4月で15年となる。その理念に,「高齢者の尊厳
の保持」や「自立支援」がうたわれており,私た
ち介護支援専門員(以下,ケアマネジャー)がそ
の中心的な役割を担うと言われている。
また,可能な限り住み慣れた地域で,自分らし
介護療養型老人保健施設恵愛荘
相談室室長兼ショートステイ部長
支援相談員
介護職として老人保健施設,通所リハビリテーションにて7年間,居
宅のケアマネジャーとして約5年間,高齢者の在宅生活を支える上で
「チームケア」の大切さを学んだ。2年前に介護療養型老人保健施
設の立ち上げにかかわり,現在,支援相談員として勤務している。資
格:介護福祉士,介護支援専門員,社会福祉士,認知症ケア専門士
い生活を続けるために「地域包括ケアシステム」
あくまで「原案」であり,その原案を基に,サー
の構築が進めてられている。これには,医療と介
ビス担当者会議において利用者やその家族を中心
護の連携や多職種協働が必要不可欠であり,その
とする「チーム全体」で作成するものが,正式な
調整やマネジメントもケアマネジャーの役割の一
ケアプランであると言い換えることができる。ま
つとして期待されている。
た,各サービス事業所が共通の目標を達成するた
その一方で,ここ数年,
「ケアマネジャーの質」
めに,具体的なサービスの内容として何が必要で
に対する風当たりが強くなってきており,利用者
あり,何ができるかを話し合う機会でもある。
や家族が求めるケアマネジャー像もさまざまであ
このように,サービス担当者会議は「チームケ
り,何が「良いケアマネジャー」なのか,日々,
ア」の方針を決め,ケアプランを完成させる重要
悩みながら業務に就いている人も少なくない。
な会議である。居宅ケアマネジャーの勤務実態を
そこで今回は,ケアマネジャーの「段取り力」
調査した報告書1) によると,負担に感じている
「調整力」「プレゼン力」を最も必要とするサービ
ス担当者会議において,ケアマネジャーとして何
が重要な役割であるかを考えていきたい。
サービス担当者会議の法的解釈
サービス担当者会議とは,運営基準に「利用者
の状況等に関する情報を担当者と共有するととも
に,当該居宅サービス計画の原案の内容について,
担当者から,専門的な見地からの意見を求めるも
のとする」と記載されている。基準解釈において
は,「効果的かつ実行可能な質の高い居宅サービ
ス計画を作成することが,サービス担当者会議の
目的」
(要約)とも言われている。要するに,ケ
アマネジャーが最初に作成するケアプランとは,
14
森 謙治 MORI_Kenji
達人ケアマネ vol.9 no.3
業務は次のとおりである。
◎ケアマネジャー業務における負担の大きさ
問:業務プロセスのうち負担感が大きいのは?
介護予防支援
1位 初回のケアプラン作成(41.4%)
2位 医療機関・主治医との連絡・調整
(25.3%)
3位 利用者の状態像等に関するアセスメン
ト(21.8%)
4位 サービス担当者会議の開催(21.4%)
居宅介護支援
1位 医療機関・主治医との連絡・調整
(39.9%)
2位 サービス担当者会議の開催(33.3%)
3位 初回のケアプラン作成(30.7%)
答えた人もいた。多くの利用者を担当し,それぞ
れの全く違う問題を抱えた利用者をマネジメント
し,生活を支えているケアマネジャーは,意外にも
このように,統計的にも2~3割のケアマネ
自信を持って仕事している人は少ないようである。
ジャーはサービス担当者会議の開催に対し,業務
しかしながら,自信はないが,誇りを持って利
負担が大きいと回答をしている。また,筆者の知
用者の望む暮らしを支えようと,懸命に支援して
人の居宅ケアマネジャー数人に対し,
「サービス
いるケアマネジャーをたくさん見てきた。そこ
担当者会議において,最も負担になっていること
で,筆者はケアプランの内容やケアマネジャーと
は何か」と質問したことがある。その中の意見と
しての自信よりも,利用者を支える「チーム力」
して「主治医との調整が難しい」
「主治医とコミュ
が大きな意味を持っていること,チーム力の土台
ニケーションをとること自体に苦手意識がある」
づくりが重要であり,その土台づくりこそケアマ
「進行が難しくて負担である」
「ケアプランを説明
することが苦手」などの答えが返ってきた。その
ほかにも,「ケアプランの作成自体に自信がなく,
ましてやそれをサービス担当者会議で,参加者に
ネジャーの実力となることを学んだ。
ケアマネジャーの仕事は
チームづくり(土台づくり)
説明し同意をもらうなんて…」と悲愴な面持ちで
ケアマネジャーは,利用者の望む暮らしを実現
話してくれたケアマネジャーもいた。
するために「ケアチーム」をつくり,そのケア
「自信がない」のは誰でも同じ?
チームの結束力を高めることが重要である。この
チームづくりをスポーツにたとえると,目的は対
1人のケアマネジャーが担当している利用者は,
戦チームに勝利することである。勝利とは,
「利
約30 ~40人であると思われる。また,通常,そ
用者の生活の質の向上」
「住み慣れた地域で生活
の担当の利用者に対し,ケアマネジメントを行う
を継続できる状態」であり,対戦チームとは,利
居宅ケアマネジャーは1人である。ただし,事業
用者が抱える問題や課題,ニーズである。その問
所によっては,利用者の状況に応じ,複数のケア
題や課題とは,病気の症状や後遺症,身体機能レ
マネジャーが担当しているという話も聞いたこと
ベル,家族や近隣の介護力やサポート力,経済力,
はあるが,割合的に前者が多いと思われる。
自宅の環境面段差(障害物など)と言える。
ここで,筆者の経験談を紹介したい。筆者が居
ケアマネジャーは,その対戦チームに勝つため
宅介護支援事業所のケアマネジャーとして配属さ
に,利用者の情報を収集して分析し(アセスメン
れた当初,お世話になった先輩ケアマネジャーた
ト)
,どこが長所(ストレングス)で,どこが弱
ちに対し,次の2つの質問をした。
点(支援が必要)かを十分見極める必要がある。
①自分が作成したケアプランに自信を持てるか?
それを基に,
「勝つチームをつくる」ことが,ケ
②ケアマネジャーとしての自信はあるか?
アマネジャーの仕事である。このチームづくり
その結果,2つの質問に対し,全員が「自信が
は,一度限りではなく,対戦チームが変わる(本
ない」との返答であった。中には,
「自信を持って
人の状態変化)たびに,見直し(モニタリング)
仕事しているケアマネジャーに出会ってみたい」と
編成し直すことが大切である。
達人ケアマネ vol.9 no.3
15
ケアマネジャーに決定権がある?
まり,利用者の生活を支えるためには,チームケ
先ほど,ケアマネジャーの仕事をスポーツのチー
アが大切であること,また,そのチーム力を高め
ムづくりにたとえて説明したが,まさに,ケアマネ
るためにケアマネジャーは調整役としての役割が
ジャーは,その利用者の生活を支援するチームを
重要であることを述べてきた。次に,現場でよく
つくり,そのチーム内の調整役の立場にある。いわ
耳にする「なかなか意見が出ない…」
「話がまと
ば「コーチ」の役割に近い。もちろん,そのチーム
まらない…」といった事例を基に,サービス担当
の中心にいるのは,利用者でありその家族である。
者会議の課題を整理し,活発な意見が出る充実し
ケアマネジャーは,その利用者や家族の代弁者で
た会議を開催するためのポイントを探る。
もあり,チームの方針を伝えて,そのニーズの実現
に向けて「チーム全体」で取り組むことが大切で
サービス担当者会議の失敗事例
ある。そのチームの方針を確認し,メンバーに周知
現状の在宅生活の状況を共有することが
する場が「サービス担当者会議」と言える。
できず(課題分析および抽出),チームケ
ここで,相談後から居宅サービス開始までの一
アの方向性が見いだせないまま会議が終
連の流れを整理する。
了してしまった失敗事例
①インテークを行う。
【事例概要】
②アセスメントを行い,ニーズを把握する。
A氏,女性。既往歴は,脳梗塞(右半身麻痺),
③情報を基に,支援の必要性と内容を検討する。
心不全,うつ病であり,要介護3。
④サービス事業所に相談し,サービス提供可能か
夫・長女と同居。長男とは音信不通。キー
を確認する。
⑤ケアプランの原案を作成する。
パーソンは長女。
【モニタリング時の様子】
⑥サービス担当者会議を開催する。チームの方針
A氏:回復期病院を退院後,自宅に帰ってきた。
(利用者の望む暮らし)を伝え,もれなく情報
しかし,精神的な落ち込みが激しく,意欲低下
を伝達し,ケアプランが完成する。
が見られ閉じこもり傾向にある。活動性の低下
⑦サービス提供を開始する。
が原因で,身体機能も低下している。食欲がな
利用者を支援する上で重要なことは,
「チーム
く,体重減少も見られる。
ケア」である。チームの一人ひとりに重要な役割
長女:就労しており,平日の介護力としてはほと
があり,ケアマネジャーにすべての決定権がある
んど期待できない。介護疲れあり。
わけではない。しかしながら,勘違いして自己中
夫:要介護1で,軽度の認知症あり。
心的な決定を行い,サービス事業所に対し一方的
【サービス担当者会議の参加者】
な指示をするケアマネジャーもいる。そのような
A氏,夫,デイサービス,ショートステイ,福
ケアマネジャーは,チームの結束力を弱め,結果
祉用具業者
的に利用者の望む暮らしへの支援を妨げかねな
【サービス担当者会議の様子】※CM=ケアマネジャー
い。つまり,ケアマネジャーがすべての責任を背
CM:最近のAさんですが,あまり元気がない様
負い込む必要はないのである。
16
ここまで,サービス担当者会議の法的解釈に始
達人ケアマネ vol.9 no.3
子で,デイサービスも休みがちとの報告を受け
ています。本人も気分が乗らないと言われてい
絡してくださいね。デイサービスもとりあえず,
ます。ただ,ご家族は,これからもデイサービ
いつもと同じ利用予定にしています。利用時は,
スやショートステイを利用してほしいというお
なるべく離床時間を確保できるよう声かけをお
気持ちが強いようです。それでは,各事業所の
願いします。では,最後にAさんから❸何かあ
方から利用中の様子などをご報告お願いしま
りますか?
す。では,❶時計回りにいきたいと思います。
【CMの左隣に座る事業所より現状報告】
福祉用具業者:現行のレンタル商品の継続を提案。
ショートステイ:5回中1回のみ利用あり。キャ
ンセルの時はA氏が連絡してきた。利用中,食
事量が少なかった。体重の減少が気になる。
デイサービス:休みが多く,あまり利用がなかっ
A氏:何もありません…。
CM:それでは,ご主人から❸何かありますか?
夫:ご飯を食べて,寝てばかりではなく家でも体
操とかをやってほしい。娘も困っているので,
休ませてあげたい。
CM:それでは,これでAさんのサービス担当者
会議を終わります。
た。利用時は元気がなく,ベッド臥床している
ケアプランへ同意のサインをいただき解散と
ことが多かった。
なった。
夫:いつも家にいて,寝てばかりいる。最近は,
ご飯も食べないし,トイレも自分で行かない。
また,トイレも失敗することが多くなった。
A氏:体がきつい。病院ではもう少し動けていた
A氏のサービス担当者会議における
問題点
この会議における進行について,どこに問題が
あったのだろうか。
のに,家に帰ってきたら動けなくなった。準備
ケアカンファレンスには「問題解決型」と「情
に時間がかかるので,外出が面倒…。
報共有型」があると言われている。更新申請後の
夫:娘は,デイサービスやショートステイに行っ
サービス担当者会議は,ケアマネジャーが会議の
てくれたら助かるのに…と言っていました。
開催前にアセスメント(情報収集)を行い,ケア
A氏:…(うつむいたまま,無言)
。
プランの原案を作成し,それを基にチームケアの
CM:それでは,ケアプランの内容を説明します。
方針を検討する会議であり,
「情報共有型」の会
居宅サービス計画書,第1表,第2表の記載
❷
議と考えられる。
内容を読み上げる。
しかしながら,事例では,事前のモニタリング
ケアプランの説明は以上ですが,❸何か質問は
の際に収集したA氏の状況を,チームとして共有
ありますか?
できていない。また,情報として,
「精神的な落
参加者一同:…(特に質問などはない)
。
【居宅サービス計画書第3表の記載内容の確認】
CM:ショートステイは,5回の予定ですが,よ
ろしいですか?
ち込み」
「身体機能の低下」
「体重減少」
「在宅サー
ビスの利用頻度」など,たくさん解決しなければ
ならない問題が発生している中,チームにおいて
専門的見地からの解決策などの検討がなされてい
ショートステイ:はい,大丈夫です!
ない。ケアマネジャーは,サービス担当者会議に
CM:Aさん,大丈夫ですか? もし,気分が乗ら
おいて司会・進行という役割があるが,これを苦
ない時は,いつでもキャンセルできますので,連
手としているケアマネジャーも少なくない。
➡続きは本誌をご覧ください
達人ケアマネ vol.9 no.3
17